井出草平の研究ノート

セルフィー・アディクション

自撮りをアディクションつまり嗜癖として捉える人たちがいるようだ。"selfie addiction"という用語ではなく、"Selfitis"という言葉を使うようだ。
嗜癖(Addiction)という捉え方は、ゲーム、インターネット、SNS、携帯電話、買い物に留まらず、日焼け、占い、学習、タンゴダンスなどの例があるが、自撮りも嗜癖その一つというわけである。

アメリカ精神医学会DSM-5に掲載されるというデマ

このデマは2014年に流れたようである。

adobochronicles.com

3つの類型が提案されている。

APAによると、この障害には3つのレベルがあるという。
境界型セルフィティス:少なくとも1日3回は自分の写真を撮るが、それをソーシャルメディアに投稿しない
急性のセルフィティス:少なくとも1日に3回は自分の写真を撮り、それぞれの写真をソーシャルメディアに投稿する
慢性的なセルフィティス:24時間体制で自分の写真を撮り、1日に6回以上ソーシャルメディアに投稿したいという抑えきれない衝動

日本におけるセルフィー・アディクション

日本で、実例がないかというとそうでもないだろう。若年女性の間では自撮りはプリクラや「写ルンです」の時代から重要なコミュニケーション・ツールであり、pathologyと表現できそうなケースはいくらでもありそうだ。最も有名なのは、自撮りで自己プロデュースをすることに全振りしてしまったために1000万円の借金を抱えたGENKINGさんのケースではないだろうか。

sirabee.com

ネット依存も最初はデマから始まった

インターネット嗜癖に関してもデマから生じたという歴史がある。1995年にアイヴァン・ゴールドバーグ(Ivan Goldberg)が「インターネット嗜癖障害」というデマの基準を発表した。その後「インターネット中毒」に関する実証的な研究が始まったのだ(Widyanto and Griffiths 2010)。

  • Widyanto, L., & Griffiths, M. D. (2010). Unravelling the web: adolescents and internet addiction. In R. Zheng, J. Burrow-Sanchez, & C. Drew (Eds.), Adolescent online social communication and behavior: Relationship formation on the internet (pp. 29–49). Hershey: Idea Publishing.

セルフィー・アディクションの研究

link.springer.com

境界型、急性、慢性の3つ類型もったthe Selfitis Behavior Scale(SBS)を作成。探索的因子分析では、環境強化、社会的競争、注意喚起、気分転換、自信、社会的適合の6つの因子が同定された。

この論文では3類型の表面的妥当性が高いと書いてあるが、頻度とSNS投稿だけで類型が構成されているので、誰でも分類できるため、驚くべきことではなく、当たり前のことである。

 自撮り棒とナルシシズム

自撮りは、ユーザーが自分の個性(Ehlin 2014)や自己インポータンス(Murray 2015)を確立することを可能にする自己中心的な行動である。いくつかの研究によると、自撮り行動はナルシシズムなどの形質とも関連している(Buffardi and Campbell 2008)。Bevan (2017)は、自撮り棒を使用するという観点から自撮り行動に対するナルシシズム、思いやり、社会的魅力の役割を調査し、自撮り棒使用者は、社会的魅力が低い、中程度にナルシシズム的、中程度に思いやりがないと認識されていることを明らかにした。Halpern et al. (2016)は、自撮りとナルシシズムは反射的な行動であると主張した。ナルシシズムが自撮りに対してポジティブな影響を与えるという議論はあるが(McCain et al. 2016)、他の研究者は自撮りとナルシシズムとの間には関係がないことを発見している(Re et al. 2016)。McCain et al. (2016)は、社会的魅力が自撮りを投稿する主な動機であると報告している。自撮りをする人は、自分のソーシャルメディア空間でより大きな魅力を他者に提供しようとする(Re et al. 2016)。Charoensukmongkol(2016)は、注目を求めること、孤独感、自己中心的な行動が自撮り好きと有意な関係があることを報告した。当初のメディア報道では、自撮りは流行るだろうと考えられていたが、その行動はより定着しているようで、思春期の若者やあたりしく成人になった者の間で非常に人気のある活動である(Albury 2015)。

なお、この論文が書かれたインドは、他のどの国よりも多くの自撮り死を占めており、世界では全世界で127件中76件の死亡が報告されているようだ(Lamba et al. 2016)。

方法

スケール開発を開始するために、インドの2つの大学経営学部の学生225名(平均年齢=20.93歳:SD=4.32)をプールし、ボーダーライン群(n=43、女性15名、男性28名)、急性群(n=72、女性38名、男性34名)、慢性群(n=33、女性22名、男性11名)の3つの条件群に分類した。残りの学生(n = 72)は、3つのカテゴリーのいずれにも該当するための閾値要件に合致しなかったため、どのグループにも分類されなかった。

データは講義の授業中に400人の回答者から収集され、回答はエクセルのスプレッドシートに入力され、外れ値を特定した。分析には IBM SPSS Statistics version 24 を使用し、主成分分析(PCA)を用いた次元削減法(因子分析)を行い、セルフィティスに寄与する因子を特定しました。回転した因子負荷を観察するためにバリマックス法を用いた。その後、多変量分散分析(MANOVA)検定を行い、因子がグループ間で異なっているかどうかを決定した。

Items Cronbach’s alpha
Factor 1: Environmental enhancement
 1.1 Taking selfies gives me a good feeling to better enjoy my environment
 1.2 I am able to express myself more in my environment through selfies
 1.3 Taking selfies provides better memories about the occasion and the experience
 1.4 I take selfies as trophies for future memories
0.838
Factor 2: Social competition
 2.1 Sharing my selfies creates healthy competition with my friends and colleagues
 2.2 Taking different selfie poses helps increase my social status
 2.3 I post frequent selfies to get more ‘likes’ and comments on social media
 2.4 I use photo editing tools to enhance my selfie to look better than others
0.826
Factor 3: Attention seeking
 3.1 I gain enormous attention by sharing my selfies on social media
 3.2 I feel more popular when I post my selfies on social media
 3.3 By posting selfies, I expect my friends to appraise me
0.812
Factor 4: Mood modification
 4.1 I am able to reduce my stress level by taking selfies
 4.2 Taking more selfies improves my mood and makes me feel happy
 4.3 Taking selfies instantly modifies my mood
0.821
Factor 5: Self-confidence
 5.1 I feel confident when I take a selfie
 5.2 I become more positive about myself when I take selfies
 5.3 I take more selfies and look at them privately to increase my confidence
0.793
Factor 6: Subjective conformity
 6.1 I gain more acceptance among my peer group when I take selfie and share it on social media
 6.2 I become a strong member of my peer group through posting selfies
6.3 When I don’t take selfies, I feel detached from my peer group.
0.752