井出草平の研究ノート

インターネット依存のレビュー

www.ncbi.nlm.nih.gov

ナンシー・ペトリーによるレビュー。ナンシー・ペトリーはアメリカ精神医学会のDSM-5の物質使用と関連障害ワークグループの議長であった人物だ。インターネット依存・嗜癖DSM-5、ICD-11共に収録されていない。

インターネット依存は標準化されていない定義や、異なる症状や構成要素に対応する複数の尺度が使われており、Laconi et al. (2014)のレビューでは、45の異なる尺度が存在すると述べられている。

Facebookに特化したThe Bergen Facebook Addiction Scale(Andreassen et al. 2012)であったり、スマートフォン依存症(Kwon et al. 2013)などの尺度もある。

インターネットの用途はさまざまであり、異なるグループの人々を惹きつけている。例えば、ソーシャルネットワークを過度に利用する人々は、オンラインでポルノを問題視する人々とは異なる危険因子や共存症を持っている可能性があり、異なる問題を抱えるように見える。また、インターネット上のアプリケーションが時間の経過とともに変化していくため、新しいサイトや機能ごとに尺度を開発して評価することによって、問題は扱いにくなり、すぐに時代遅れになってしまう。

有病率

2016年までに実施された全国的に代表的な一般集団のサンプルから抽出された3,000人以上の回答者を対象とした調査をまとめた。これらの研究では、有病率は0.6%から22%以上の範囲であった。これら17の研究では、10種類の異なる尺度が使われており、このことが有病率を生み出していることは明らかである。

筆頭著者、年 N 年齢 計測尺度 %
Kim, 2016 韓国 6510 18-64 Internet Addiction Test 0.6
Bakken, 2009 ノルウェー 3399 16-74 Young Diagnostic Questionnaire 1.0
Rumpf, 2014 ドイツ 15023 14-64 Compulsive Internet Use Scale 1.0
Tsitsika, 2014 ヨーロッパ7か国 13284 14-17 Internet Addiction Test 1.2
Mak, 2014 アジア6カ国 5366 12-18 Internet Addiction Test 1.2-4.9
Johanssson, 2004 ノルウェー 3237 12-18 Young Diagnostic Questionnaire 2.0
Muller, 2017 ドイツ 9293 12-19 Assessment of Internet and Computer Game Addiction 2.6
Ha, 2014 韓国 56086 12-18 Korean-Internet addiction short form 2.8
Yoo, 2014 韓国 73328 12-19 Internet Addiction Self-Diagnosis Brief Scale 3.0
Macur, 2016 スロベニア 6282 18-95 Problematic Internet Use Questionnaire-Short Form 3.1
Durkee, 2012 主にヨーロッパ11か国*** 12395 Mean 15 Young Diagnostic Questionnaire 4.4
Li, 2014 中国 24013 7-15 Young Diagnostic Questionnaire 6.3
Wang, 2013 中国 95322 13-24 Diagnostic Questionnaire for Internet Addiction 7.5
Mihara, 2016 Japan 100050 12-19 Young Diagnostic Questionnaire 7.9
Cao, 2011 中国 17599 10-24 Young Internet Addiction Scale 8.1
Lin, 2011 台湾 3616 College Chen Internet Addiction Scale - Revised 15.3
Ahmadi, 2014 イラン 4342 Mean 16 Young Internet Addiction Scale 22.2

併存症

Carli et al. (2013)は、インターネット依存と他の精神障害との併存症に関して評価した研究は20があると報告している。ADHDの症状とインターネット依存を評価した研究の100%が2つの条件の間に有意な関連を発見した。うつ病は、75%の研究で関連が認められ、強迫性症状は60%、不安については57%であった。このレビューには物質使用障害は含まれていないが、インターネット依存と物質使用問題との関連も報告されている(Ko et al. 2008, Yen et al. 2009)。

  • Carli V, Durkee T, Wasserman D, Hadlaczky G, Despalins R, et al. The association between pathological internet use and comorbid psychopathology: A systematic review. Psychopathology. 2013;46(1):1-13. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22854219

リスク

男性と女性は一般的なインターネット依存症状を示す可能性が同じ程度である(Durkee et al. 2012)。ソーシャルネットワークサイトの問題に特化した研究では、女性の方が困難を抱える(Andreassen & Pallesen 2014)。また、年齢が若いこともリスクになる(Bakken et al. 2009; Kim et al. 2016; Macur et al. 2016; Rumpf et al. 2014)。

前方視野的研究では、うつ病ADHD社会恐怖症、敵意などの感情的な問題が、2年後までのインターネット依存問題の発症と関連していることがわかっている(Ko et al. 2009, Strittmatter et al. 2016)。親の葛藤やインターネット利用の規制不足などの家族要因は、思春期のインターネット依存も同様に予測した(Ko et al. 2015)。

神経画像研究と遺伝

インターネット依存者では、薬物使用者と同様に、より低い異方性比率、白質異常の指標(Lin et al. 2012) 、anterior and posterior cingulate cortex、 left insula、およびleft lingual gyrusにおける灰白質容積の低さ(Zhou et al. 2011)がある。これは報酬に対する感受性の増大を反映している可能性がある。

Lee et al.(2008)ではセロトニントランスポーター遺伝子がインターネット依存において何らかの関係がある可能性があると報告されており、他の研究(Li et al. 2014, Vink et al. 2016)では、遺伝的因子がインターネット依存の分散の48%から66%を説明していることが示されている。しかし、インターネット依存を分類する一貫しており、かつ、有効な方法がなければ、遺伝学的研究は時期尚早の可能性がある。

治療

25人以上の患者を対象としたインターネット依存の治療のランダム化試験は2件しか発表されていない。Zhong et al. (2011) は、グループベースの家族介入により、通常の治療と比較して治療後3ヵ月間の改善を報告したが、治療中の差は認められなかった Zhu et al. (2012)は、電気鍼治療がインターネット依存の症状を軽減しており、同時に認知行動療法が効果があることを指摘している。