井出草平の研究ノート

インターネット依存の遺伝率

www.ncbi.nlm.nih.gov

オランダの双子登録に登録された一卵性双生児(MZ)と二卵性双生児(DZ)の5247人の思春期双生児から、強迫的なインターネット使用に関するデータを分析。18歳未満が対象。使用されている尺度はCompulsive Internet Use Scale (CIUS)であり、論文では、CIUSの内部一貫性は高く、サブサンプル(n = 902)の1.6年間のテスト-再テストの相関は0.55だと書かれてある。CIUSの平均値は男子と女子で同じだったが、男子はゲームに費やす時間が多く、女子はSNSやチャットに費やす時間が多いという違いがあった。

CIUSスコアの個人差の48%は遺伝的要因の影響を受けていました。残りの分散(52%)は、固有の環境影響だった。双子に共有された環境的影響(家族の社会経済的背景、子育てスタイル、近隣の特性など)の寄与は観察されなかった。よって、家族間で共有されていない環境的な影響によるものと考えられる。固有の環境影響には、社会的要因だけではなく、個人の遺伝以外の生得的リスクも含まれる。

論文の結論は下記のようになっている。

強迫的なインターネット利用を減らすことに関心のある政策立案者やカウンセラーは、家族の環境を共有することはおそらく重要ではなく、強迫的なインターネット利用の傾向は遺伝的要因によって大きく左右されることを認識すべきである。
Policy makers and counselors interested in reducing compulsive Internet use should be aware that shared family environment is probably not important, and liability to compulsive Internet use is largely driven by genetic factors.

この論文に対しては、Petry et al. (2018)がインターネット依存の計測が専門家の間で一致していないとして計測の問題を指摘している。Petryらが言うようにインターネット依存は精神障害だという一致はされておらず、診断基準も作成されていない。一方で、CIUSを使った遺伝率が高いというのは興味深い内容のように感じる。CIUSで計測される者はそれほど病理性が高くない者も含まれる。おそらく、使いすぎ程度の者が大半だろう。しかし、そういった計測方法でも、双子に共有された環境的影響の影響がみられなかったというのは、病理性の高い依存症のコア群は生物学的要因が高く、それよりもマイルドな閾値以下の群では社会的要因が高いといった説明モデルを支持しない(否定ではない)。計測されているのは、SESや子育てスタイル程度であり、これらの項目だけの計測だけで、社会的影響の影響が無いとは言えない。他の社会的因子が影響している可能性は高いが、計測の難易度の高さについて考えさせられる論文である。

先行研究

インターネット使用の分散の58%(女子)から66%(男子)までを遺伝的要因が説明していると報告されている(Li et al. 2014)。

疫学

男子はゲームに費やす時間が多く、女子はSNSやチャットに費やす時間が多かった。

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遺伝率

ADEモデルを使って分析している。ADEモデルは、3つの要素である相加的遺伝因子 (A) 、遺伝的優性 (D) 、および固有の環境因子 (E) による遺伝率の推定方法である(Falconer & Mackay 1996)。強迫的インターネット使用のために、 DZ相関がMZ相関の2倍以下であると仮定して、共有環境はモデルに含めていない。

  • Falconer DS, Mackay TFC (1996) Quantitative Genetics. Essex: Longman Group Ltd.

Introduction to Quantitative Genetics

Introduction to Quantitative Genetics

MZの相関は0.49と非常に高く、DZの相関の0.21よりもかなり大きい。相関のこのパターンは、共有された環境的影響がないことを示しており、遺伝的非加法性(D)を含むADEモデルをデータに適合させた。D成分は、モデルを有意に悪化させることなく削除するしている(P = 0.180)。

−2LL d.f. versus Δd.f. χ2 P
1. Saturated model 37 408.512 5237
2. as 1, standard deviation males = females 37 410.574 5238 1 1 2.062
3. as 2, and no sex effect on mean 37 411.992 5239 2 1 1.417 0.234
4. as 3, and no age effect on mean 37 421.349 5240 3 1 10.774 0.005
5. as 3, and r (MZM) = r (MZF), r (DZM) = r (DZF) = r (DOS) 37 421.644 5243 3 3 0.652 0.884

monozygotic male (MZM) twin pairs, dizygotic male (DZM) twin pairs, monozygotic female (MZF) twin pairs, dizygotic female (DZF) twin pairs, dizygotic opposite sex (DOS) twin pairs

CIUSスコアの個人差の遺伝性は48%であったが、残りの分散(52%)は固有の環境影響によるものであった。

Full model Best Model
Saturated model
r (MZM) (95 percent CI) 0.45 (0.36–0.55) 0.49 (0.44–0.54)
r (MZF)(95 percent CI) 0.51 (0.44–0.56)
r (DZM)(95 percent CI) 0.20 (0.07–0.31) 0.21 (0.15–0.26)
r (DZF) (95 percent CI) 0.21 (0.12–0.30)
r (DOS) (95 percent CI) 0.21 (0.13–0.28)
ß1 (effect of sex on CIUS) 0.31
ß2 (effect of age on CIUS) 0.30 0.30
CIUS a males age 16 10.76 10.54 a
CIUS a females at age 16 10.45
Standard deviation males 8.61 8.76
Standard deviation females 8.86
Genetic model (ADE) model
Proportion of variance explained by Additive genetic factors (95 percent CI) 0.33 (0.32–0.50) 0.48 (0.43–0.52)
Proportion of variance explained by Dominant genetic factors (95 percent CI) 0.16 (0.16–0.16)
Proportion of variance explained by Environmental factors (95 percent CI) 0.51 (0.46–0.56) 0.52 (0.48–0.57)