井出草平の研究ノート

平日のネットの使いすぎは成績にマイナスだが、週末の利用はプラスになり、平日の適度なゲーム利用は成績にプラス、週末はゲームを多少やり過ぎる方が成績にはプラスに働く

吉川徹先生経由で知った論文。
平日/週末、ネット/ゲームと分けて、成績との関連をとると、興味深い関係が見られるようだ。

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私たちはネットもゲームも一緒くたにし、プレイしているのが平日なのか休日なのかといったことにあまり気を配らずに、教育上よくないだとか、関係がないといった議論をしがちだが、細かくわけて考えなくてはならないらしい。

調査対象とデータ

第2回オーストラリア児童・青少年精神保健・健康調査-Young Minds Matter(YMM)の全国代表データを用いて、11歳から17歳のオーストラリアの青年を対象とした学力標準化テストNAPLAN(The National Assessment Program-The National Assessment Program-Literacy and Numeracy)におけるインターネット利用と電子ゲームの関連を調査。

結果

NAPLANテストの3つ科目である読解(reading)、作文(writing)、基礎数学(numeracy)について分析している。

  • 平日に4時間以上ネットを利用する群は、読解と基礎数学のスコアが低い(勉強ではない用途)。
  • 週末に2時間以上ネットを利用する群は、読解と作文のスコアが高い(勉強ではない用途)。
  • 平日に1~2時間ゲーム利用する群は読解のスコアが高い。
  • 週末に2時間以上ゲームをしている群は読解のスコアが高い。
  • ネット・ゲームへの依存傾向がある群はスコアは低い傾向にあったが、必ずしも統計学的に有意ではなかった。

考察

インターネット利用のタイミング(平日か週末か)は考慮すべき要素である。 特に、平日のインターネットを4時間以上すると成績が低いが、平日にゲームを1~2時間する群は成績が良いという相反する結果になった。ゲームとインターネットを同一視するべきではないようだ。

この結果は、平日はネットをどの程度に収めておくべきか、ゲームは何時間くらいするべきか、といった実際のルール作りに役立つはずである。また、ゲームよりもネットの利用の方が成績低下につながる可能性があるというのも興味深い内容だと思う。


先行研究との兼ね合い

ゲームと高校生の教育成績との間に負の相関関係があると報告されている先行研究1),13),19),27)と矛盾しているが、米国、欧州などで行われた行われた研究では正の関連があるとされており28),29)、子の研究はその結果を支持することになった。

1 Wang, C. -W., Chan, C. L., Mak, K. -K., Ho, S. -Y., Wong, P. W. & Ho, R. T. Prevalence and correlates of video and Internet gaming addiction among Hong Kong adolescents: a pilot study. Sci. World J. 2014 (2014).

13 Jackson, L. A., Von Eye, A., Witt, E. A., Zhao, Y. & Fitzgerald, H. E. A longitudinal study of the effects of Internet use and videogame playing on academic performance and the roles of gender, race and income in these relationships. Comput. Hum. Behav. 27, 228–239 (2011).

19 Wright, J. The effects of video game play on academic performance. Mod. Psychol. Stud. 17, 6 (2011).

27 Jackson, L. A., Von Eye, A., Fitzgerald, H. E., Witt, E. A. & Zhao, Y. Internet use, videogame playing and cell phone use as predictors of children’s body mass index (BMI), body weight, academic performance, and social and overall self-esteem. Comput. Hum. Behav. 27, 599–604 (2011).

28 Bowers, A. J. & Berland, M. Does recreational computer use affect high school achievement?. Educ. Technol. Res. Dev. 61, 51–69 (2013).

29 Wittwer, J. & Senkbeil, M. Is students’ computer use at home related to their mathematical performance at school?. Comput. Educ. 50, 1558–1571 (2008).

ほとんどのゲームではテキストを多用しており、謎を解く必要があるということに関連しているのではないかとこの論文は類推している9),30)。

9 Posso, A. Internet usage and educational outcomes among 15-year old Australian students. Int J Commun 10, 26 (2016).

30 Jackson, L. A. et al. Does home internet use influence the academic performance of low-income children?. Dev. Psychol. 42, 429 (2006).

平日のインターネット利用

平日に4時間以上、勉強ではない用途でインターネット利用をしていることと、学業成績と負の関連がみられるた。平日のインターネット利用については、3つのモデルすべてで、インターネット利用時間とNAPLANの読解力・数字力スコアとの間に有意な負の関連が認められた。例えば、モデル1では、平日のインターネット利用時間が4時間以上の青年は、利用時間が2時間未満の青年と比較して、それぞれ15%と17%も読解力と基礎数学のスコアが低い。インターネットへの依存傾向という変数は、NAPLANの結果と負の関連がある。インターネット依存症を持っていた青年は、一般群に比べて読解力と基礎数学のスコアがそれぞれ17%と14%低かった。

週末のインターネット利用

週末のインターネット利用は、学業成績と正の関連性を示した。週末のインターネット利用は、読解力、作文力、全国標準得点に有意な関係がある。週末にインターネットを利用する時間が2~4時間程度、4時間以上の若者は、2時間未満の若者と比較して、それぞれ21%、15%高い読解力の点数が高い。(モデル1、表4)。同様に、青年のインターネット依存を調整したモデル3では、2~4時間をインターネットに費やした青年は、国の基準以上の得点を1.59倍獲得する確率高かった。表4の3つのモデルはすべて、週末に2~4時間インターネットを利用した青年は、2時間未満のインターネット利用者と比較して、読み書きのスコアが向上し、国の基準以上のスコアを獲得する可能性が高いことを確認した。

平日のゲーム利用

平日のゲームに費やした時間は、作文と言語の学力には影響しなかったが、読解の得点は13%高くなった(全くゲームをしなかった子どもたちに比べ、平日に1~2時間ゲームをした青年)。 平日の電子ゲームは読解力にプラスの効果を示す傾向があるのに対し、平日のインターネット利用はマイナスの効果を示すという興味深い結果となった。

週末のゲーム利用

週末に2時間以上ゲームをしている群は読解力が高かった。例えば、モデル3(表6)の結果から、平日に2時間以上電子ゲームに費やした青年は、全くゲームをしなかった青年に比べて、読解力のスコアが16%高かった。筆記・基礎数学のスコアに関しては、全国標準のスコアより高かったが統計学的に有意ではなかった。

先行研究

最近の推計では、世界中の18歳未満の子供の3人に1人がインターネットを利用しており、先進国では75%の青少年が毎日電子ゲームをプレイしていることが示されている4),5),6)。米国の研究では、思春期の若者は、学校や友人と過ごす時間よりも多く、コンピュータ/インターネットや電子ゲームなどの現代的な電子メディアに1日11時間以上を費やしていることが報告されている7),8)。オーストラリアでは、15~17歳の子どもの約98%がインターネット利用者であり、思春期の子どもの98%が電子ゲームをプレイしていると報告されており、これはアメリカやヨーロッパと比較してもかなり高い9),10),11),12)

4 UNICEF. Children in a digital world. United Nations Children's Fund (UNICEF) (2017)

5 King, D. L. et al. The impact of prolonged violent video-gaming on adolescent sleep: an experimental study. J. Sleep Res. 22, 137–143 (2013).

6 Byrne, J. & Burton, P. Children as Internet users: how can evidence better inform policy debate?. J. Cyber Policy. 2, 39–52 (2017).

7 Council, O. Children, adolescents, and the media. Pediatrics 132, 958 (2013).

8 Paulus, F. W., Ohmann, S., Von Gontard, A. & Popow, C. Internet gaming disorder in children and adolescents: a systematic review. Dev. Med. Child Neurol. 60, 645–659 (2018).

9 Posso, A. Internet usage and educational outcomes among 15-year old Australian students. Int J Commun 10, 26 (2016).

10 ABS. 8146.0—Household Use of Information Technology, Australia, 2016–2017 (2018).

11 Brand, J. E. Digital Australia 2018 (Interactive Games & Entertainment Association (IGEA), Eveleigh, 2017).

12 Rikkers, W., Lawrence, D., Hafekost, J. & Zubrick, S. R. Internet use and electronic gaming by children and adolescents with emotional and behavioural problems in Australia–results from the second Child and Adolescent Survey of Mental Health and Wellbeing. BMC Public Health 16, 399 (2016).

米国の12~17歳の88%がインターネットを学校での学習を進めるための有用なメカニズムと考えている15)

15 Yu, M. & Baxter, J. Australian children’s screen time and participation in extracurricular activities. Ann. Stat. Rep. 2016, 99 (2015).

子供や青年期の電子ゲームは、意思決定、スマートシンキング、協調性などのスキルを開発するのに役立つ可能性がある3),15)。

3 Oliveira, M. P. MTd. et al. Use of internet and electronic games by adolescents at high social risk. Trends Psychol. 25, 1167–1183 (2017).

インターネットや電子ゲームの使用は、睡眠時間の短縮、行動問題(自尊心の低下、不安、抑うつなど)、注意力の問題、思春期の学業成績の低下などの有害な影響を与えることがわかっているという事実を指摘する証拠がある1),5),12),16)。

1 Wang, C. -W., Chan, C. L., Mak, K. -K., Ho, S. -Y., Wong, P. W. & Ho, R. T. Prevalence and correlates of video and Internet gaming addiction among Hong Kong adolescents: a pilot study. Sci. World J. 2014 (2014).

16 Drummond, A. & Sauer, J. D. Video-games do not negatively impact adolescent academic performance in science, mathematics or reading. PLoS ONE 9, e87943 (2014).

オーストラリアのキッズオンライン調査17)では、EUキッズオンライン調査18)で調査したヨーロッパ25カ国の子どもたち(29%)と比較して、オーストラリアの子どもたちの50%がインターネット利用に関連した行動問題を経験する可能性が高いことが報告されており、憂慮すべき結果となっている12)

17 Green, L., Olafsson, K., Brady, D. & Smahel, D. Excessive Internet use among Australian children (2012).

18 Livingstone, S. EU kids online. The international encyclopedia of media literacy. 1–17 (2019).

児童・青少年のインターネットや電子ゲームの使用と学業成績との関連性については既存の文献にはいくつかの体系的な限界が残っている13),16),19)

第一に、先行研究の大部分は、学校の成績または子どもの自己評価(評価者による生来の主観を含む)に頼っており、学力の標準化されたテストを考慮していない16),20),21),22)

20 Gentile, D. A., Lynch, P. J., Linder, J. R. & Walsh, D. A. The effects of violent video game habits on adolescent hostility, aggressive behaviors, and school performance. J. Adolesc. 27, 5–22 (2004).

21 Rosenthal, R. & Jacobson, L. Pygmalion in the classroom. Urban Rev. 3, 16–20 (1968).

22 Willoughby, T. A short-term longitudinal study of Internet and computer game use by adolescent boys and girls: prevalence, frequency of use, and psychosocial predictors. Dev. Psychol. 44, 195 (2008).

第二に、これまでのほとんどの研究では、地域社会全体を対象にした調査ではなく、学校を拠点とした調査で仮説を検証しているため、社会人口統計学的交絡因子9),16)を調整することができない。