井出草平の研究ノート

「不登校も児童虐待防止法で定義された児童虐待に含まれる」という主張

ci.nii.ac.jp

過激な主張がされている論文である。

虐待は実母によるものが半数

虐待死の加害者は,一般には継父であることが多いと考えられている。しかしながら,継父が加害者であった例は全体の10.0%,実母・継父の組み合わせでも2.2%で,合計12.2%である。これに対し,実の親が加害者であったケースは,実母が49.2%,実父が15.9%,実母・実父の組み合わせが9.6%で,合計で74.7%であることから,実母・継父の家庭はリスク・ファクターのひとつであるという予見は誤りであると言わざるを得ない。

山形県の調査でも似たような結果が出ている。 https://www.pref.yamagata.jp/documents/2583/25houkoku4.pdf

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一般的には継父による虐待が多いとイメージされがちだが、実母によるものが多いというのが実態である。 ただ、あくまで、これは虐待ケースの中で集計した場合の話である。

日本の継父の数

統計がないらしい。

note.com

日本の年間の婚姻数は53万件で、「ステップファミリー(子連れ再婚家庭)は年間 約2.2万件(世帯) 誕生している」ということで、養子縁組だけで数えられないので、すべてカウントされていないだろうが、継父はやはり珍しい。

一般人口との比較でオッズ比を出すと、継父による虐待率がかなり高くなるはずである。「実母・継父の家庭はリスク・ファクターのひとつであるという予見は誤り」というのは、間違いなく誤りである。

ハッサル小体の石灰化

少し横道。

また,本屍の胸腺は萎縮し,ハッサル小体の石灰化が認められた。このII旬腺の萎縮は被虐待児の特徴的な所見の一つであり2、そのメカニズムは,ストレスに対する生理的反応として分泌される副腎皮質ホルモンである糖質コルチコイドが胸腺細胞のアポトーシスを誘導するためであると考えられている3, 6。すなわち,本屍は長期にわたる虐待を受けていたことが示唆された。

ja.wikipedia.org

  • 2.Fukunaga T, Mizoi Y, Yamashita A, et al : Thymus of abused/neglected children. Forensic Science International, 53; 69 -79, 1992.
  • 3 Gruber J, Sgonc R, Hu YH, et al : Thymocyte apoptosis inducing by elevated endogeneous corticosterone levels. European Journal of Immunology, 24; 1115-1121, 1994.
  • 6.Tarcic N, Ovadia H, Weiss DW, et al : Restraint stress-induced thymic involution and cell apoptosis are dependent on endogeneous glucocorticoids. Journal of Neuroimmunology, 82 ; 40-46, 1998.

不登校児童虐待防止法で定義された児童虐待に含まれる

しかしながらネグレクトを「子どもの健全な育成にとって適切な行為を行わないこと,あるいは子どもの健全な育成にとって不適切な行為を行うこと」と認識すると「不登校」も児童虐待防止法で定義された児童虐待に含まれる。特に,保護者が正当な理由もなく頑なに,面会を拒絶する場合には,児相と協同して早期介入の必要性を検討するとともに,児童の安全を現認すべきであり,学校教職員は,児童虐待防止法第五条において児童虐待の早期発見義務が課せられていることを再認識し,教育現場においても養護教諭を中心とした児童虐待に関する研修の実施が必須である。

不登校児童虐待防止法で定義された児童虐待に含まれる」というのは興味深い見解だが、法的には誤りである。なぜなら「子どもの健全な育成」というのは必ずしも学校に登校することを意味しないからである。

不登校から虐待を発見すべし

本件発生後に大阪府において,同種の事例,すなわち,児童・生徒の安全を現認,「不登校」の背景に隠された児童虐待を見落としてしまい悲惨な結末を招いてしまった事例が平成14年8月(平成16年4月16日毎日新聞)と平成15年11月(平成16年1月26日読売新聞)に発生している。わが国の教育現場が本件を教育界の全国的な問題として積極的に検証していれば,これらの2事例の発生を防ぎ得たものと考えられる。 この事件の後に,この教育委員会が管轄するある小学校に入学予定だった女児が入学式に出席しないまま母親と共に姿を消した。約半年後にその女児は,近隣の町のスーパーマーケットで顔面に複数の変色斑があるのに気付いた女性客に声をかけられ,母親と同居の男性により身体的虐待を受けていたことが判明し保護された(平成16年11月2日中日新聞)。教育委員会は「不就学児」として区役所に届け出ただけであったというが,「不就学児」とは子どもの教育を受ける権利を侵害する行為でネグレクトに他ならないという認識が欠けていたと言わざるを得ない。

不就学児をチェックすると、虐待を防止できるが、放置しているぞ!という話。
全国的な話なのか、大阪という要因が大きいのかは判断しにくい。大阪というよりも大都市の都心部にある貧困地域といった方が正確だろう。同様の地域は東京や神奈川はじめ大都市には存在している。

大都市の都心部にある貧困地域では、家庭環境に起因した不登校は多く、そのた福祉関連の問題が多すぎて、行政の手が回っていない。そういうところでは起こってもおかしくないだろう。

他国の法体系

やや余談。
日本国憲法の3大義務は、義務教育、勤労、納税であるが、教育の義務は親や保護者に課せられたものである。この考え方は世界共通かというと、そうではない。教育を受ける本人(子ども)の権利として教育を位置付けている国もある。例えば、ドイツでは教育は「権利」として規定されている。

さて、なぜドイツがこのように登校に厳格なのか。その理由は、「教育の義務」ではなく「就学の義務」が課されているからだ。そのため、「教育の義務」を最優先とし、学校に通わないホームスクーリングを認めているアメリカとは根本的に異なる。義務を果たさない怠慢な行為と判断すれば、生徒には即座に登校を命じ、親には罰金を科す。基本的にドイツでは、現行の学校教育を拒否する権利が認められていないのである。
端的な例を紹介しよう。2007年2月、ドイツ東部のザクセン州グルリッツで学校を約1ヵ月間無断欠席していた15歳の女子生徒に対し、裁判所は2週間の収監を言い渡した。このニュースにはドイツ国民ですら驚いたが、裁判所は親が罰金を払わず、当の女子生徒も釘時間の地元奉仕活動を拒否したことを判決理由としている。(p.149)

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