井出草平の研究ノート

ソーシャルメディアは精神衛生上よくないとよく言われますが、本当にそれを裏付ける証拠はあるのでしょうか?(BBC Science Focus Magazine, アンドリュー・シュービルスキー)

山根信二さんからの情報。

www.sciencefocus.com

Andrew Przybylski教授へのインタビュー
2021年4月15日
何十年も前から、漫画やビデオゲームなどのテクノロジーにはパニックの波がありました。それが今はソーシャルメディアになっています。このようなパニックの中で子供を育てようとしている親や教師は、政府から有意義なアドバイスを受けることができないというのが実情です。
ソーシャルメディアが人にとって良いか悪いかということではありません。ソーシャルメディアメンタルヘルスに関する科学は、まだ解明されていないのです。私たちは研究を行う必要がありますが、世界は破滅に向かっているという観点から研究に取り組むべきではありません。好奇心を持って、ポジティブなものもネガティブなものも含めて、その影響の可能性に目を向ける必要があるのです。
例えば、近年では、暴力的なビデオゲームが現実の攻撃性を引き起こすことはないということが、かなり決定的な形で分かってきました。世界的に見ても、青少年の犯罪と暴力的なビデオゲームの販売には、ほぼ完全な負の相関関係があります。また、2000年代初頭に規制の理由として広められた、いくつかの研究を再検討してみても、その結果が再現されませんでした。
ソーシャルメディアに関しては、ソーシャルメディア企業がデータを管理しているため、調査が非常に困難であることと、現在のパニックの焦点となっていることが、事態を難しくしています。この国の若者にとって、対面でのいじめはネット上のいじめよりもはるかに深刻であることはわかっています。しかし、思春期の被害について語るとき、ネットいじめがすべての原因かのように理解されてしまいます。
1980年にいじめを調査しようと思ったら、学校、遊び場、地元のボーリング場などに行って、思春期の生活のスナップショットを撮影することができますよね。2021年のいじめを調査しようと思っても、ソーシャルメディア企業がすべてのデータを保有しているため、何が起きているのかを完全に把握することはできません。ネット上のいじめは、面と向かって行われるいじめよりも悪くないかもしれませんが、それが密室で行われている場合、私はそれを研究したり理解したりすることができません。
だからといって、ネットいじめが自殺の原因だと主張する人がいますが、それを証明する証拠はありません。若者が命を絶つ理由を調べてみると、テストの点数や試験、身近な人が命を絶つこと、薬物やアルコールに関連することなどが挙げられます。この3つが主な原因となっています。ソーシャルメディアがこれらの原因の一つであるという証拠はありません。
ここで、私は、何の根拠もないにもかかわらず、ソーシャルメディアが問題であるかもしれないと言うかもしれません。インパクトを与えるために「かもしれない」という言葉を削ったり、実際にそのように発言している人はいますが、正直に、私たちのような科学者はソーシャルメディア企業が持っているデータを見ることができないので、「わからない」としか言えないでしょう。
政策立案者や保護者にとって危険なのは、証拠もないのにソーシャルメディアが問題であるかのように装い、規制に踏み切った場合、その介入が若者にとって本当に悪い結果をもたらす可能性があるということです。弱い立場にある子どもたちからライフラインを奪ったり、遊ぶ権利を奪ったりすることになるかもしれません。これは、パンデミックの時はもちろんのこと、どんな時でも道徳的に非難されるべきことです。だからこそ、私は「ソーシャルメディアが悪い」とは言いません。
親や教師がソーシャルメディアに懸念を抱くのは至極当然のことですが、ソーシャルメディアは世の中に存在し、避けて通れないものであり、若者は遅かれ早かれそれに遭遇することになります。しかし、ソーシャルメディアは世の中に存在し、避けられないものであり、若者は遅かれ早かれ遭遇することになります。では、どちらを選ぶべきでしょうか?
これは、自転車の乗り方に似ています。子供に自転車とヘルメットを与えて、幸運を祈るだけではなく、自転車の乗り方を学ばせるのです。
同様に、ソーシャルメディアにおいても、コミュニケーションのラインをオープンにしておく必要があります。14歳の娘に、怖い人がメッセージを送ってきたことを伝えるか、携帯電話をなくすか、どちらかを選べということはありません。ソーシャルメディアは、自分を傷つけることもあれば、自分をつなぐこともある他のものと同じように扱わなければなりません。
人でも子供でも、なぜソーシャルメディアを使っているのかを考えてみてください。使いたいからなのか、使わなければならないからなのか。ツイッターで「ドゥームスクローリング(参照 https://wired.jp/2020/08/05/stop-doomscrolling/)」をしたり、TikTokで踊ったりする時間は必ずしも重要ではありませんが、必要だと思ってやっていて、それが自分を不幸にしているのなら、やめてみてはいかがでしょうか。
取材:ロブ・バニーノRob Banino