井出草平の研究ノート

小此木啓吾先生、理工系出身の技術者はコンピュータに取りつかれ、情緒的な関わり合いができず、インポテンツだ、と持論を展開する

小此木啓吾先生といえば『モラトリアム人間の時代』が有名な精神分析家である。一般的にはそれほど知名度はないかもしれないが、日本の精神分析会では大家である。小此木先生はデジタル技術批判も行っていた。その中の一冊から。

ある泌尿器科医の統計によると、この五年間に、新婚の際のインポテンス<性的不能>の男性が五倍くらい増えている。しかも、専門家同士が異口同音に言うのは、この種のタイプの男性のかなりの人々が、理工系出身の技術者タイプであるという事実である。つまり、物理、数学満点タイプなのだが、文科系の情緒的なものにはさっぱり関心がない。こうした傾向は、コンピュータ時代になってますます増えるのではないか、と危惧の念をもらす専門家も多い。
知的にはとても優秀で、すぐれた才能を発揮している彼らは、コンピュータとのかかわりが居心地よく、人と人、妻と自分といった一対一の情緒関係は、苦手でうとい。それだけに、結婚しても男女の情愛そのものにあまり関心がない。妻に対する性的な親密さもなかなか持つことができない。あたかもダッチマザーに育てられたおサルの坊やのようである。
このような未完成結婚型青年がテクノ依存症の徴候として今後ますます広がっていくのだろうか。(pp.34-5)


テクノ依存症とダッチワイフ
コンピュータに慣れてくると、コンピュータの作業基準を自分の内部に取り込んで、コンピュータにかなったような感じ方、考え方、反応の仕方、問題処理の仕方が身についたコンピュータ人聞ができ上がる。たとえば物事を処理する時聞をできるだけ短縮し、できるだけ失敗のないようにいつも完全を望む。イエスかノーかのデジタル的な二者択一思考が身についてしまう。このようにしてコンピュータに順応する結果、これらの人々の創造性は減退し、人との温かいふれあい能力が低下する。そして、むしろ人間そのものが機械じみ、人々から隔ってしまう。
この心理傾向が極端になるとテクノ依存症とよばれる。コンピュータに取りつかれ、コンピュータが行なうようにいつもすべてをコントロールしたいという強迫観念に駆られ、人との共感を失い、情緒の豊かさと柔軟性がなくなって、機械人開化する。未完成結婚型の男性のなかには、このテクノ依存症にかかっていることが疑われる人々が目立つ。(p.35-6)

精神分析とインポテンス

このような文脈でインポテンス(独:インポテンツ)が出てくるのかというと、精神分析の重要なテーマ一つだからである。

精神分析とインポテンスについてはこちらによくまとめられている。

quod.lib.umich.edu

かの、キンゼイレポートでも、若年では精神的なインポテンスは稀であり、加齢によるものであることがによって明らかにされている(Kinsey 1948 :237)

  • Kinsey, Alfred C. 1948 Sexual Behavior in the Human Male. Philadelphia: W.B. Saunders Company.

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