Kenneth J. Gergen の著書「The Saturated Self: Dilemmas of Identity in Contemporary Life」についてのJeffrey P. Lindstromの評論。
1. 重要な貢献 Gergenの本は、心理学における自己の概念に関する重要な貢献をしている。彼の視点は広く、議論は説得力があり、影響は革命的である。この本は学術界だけでなく、広く一般にも影響を与える可能性がある。
2. ポストモダンの自己 Gergenは、技術の進歩により自己が多様な社会的および文化的な声にさらされ、伝統的な「本物の自己」が「飽和した自己」に置き換わりつつあると主張している。彼は、自己の歴史的進化を辿り、ロマン主義からモダニズムへの移行を説明している。
3. 社会的飽和 技術革新により、関係が急速に増加し、「社会的飽和」が進んでいる。これにより、自己が多くの声に分割され、ポストモダンなアイデンティティの瀬戸際に立たされる。この現象をGergenは「多重自己」と呼んでいる。
4. 客観的真実の崩壊 Gergenは、ポストモダンなアイデンティティの出現が自己を超えた影響を持つとし、「客観的真実の完全な放棄」を提唱する。社会的飽和の技術により、自己は多様な視点にさらされ、客観的真実は崩壊し、それに伴い権力と特権の制度化も崩れる。
5. ポストモダン文化の出現 Gergenは、客観的真実の崩壊が全ての真実の失敗を意味するとし、どの声も他の声に対して優位を主張できない状況を生み出すと述べる。彼は、真実は社会的構築物であり、異なる時代や文化における様々な人々のニーズに応じて変わると主張する。
6. 関連性への移行 Gergenは、自己が実際には社会的構築物であるとし、自己の責任はまず第一に社会性と関連性にあると述べる。ポストモダンな視点では、自己は様々なアイデンティティを状況や多様な声に応じて滑り込む「社会的カメレオン」となる。
7. ポストモダンライフのコラージュ Gergenは、ポストモダンの世界では、自己は様々な関係に自由に出入りし、特定の声に縛られることなく、知識と真実が「カーニバル」のようになると述べる。しかし、全ての真剣なプロジェクトが単なる風刺や遊びに還元されると、共同生活は損なわれる可能性があると警告する。
8. 自己更新と誠実さ Gergenは、モダニズムの限界を認識しつつも、多くの人々がポストモダンの相対主義に抵抗することを理解していると述べる。彼は、自己更新と誠実さの重要性を強調し、ポストモダンな視点からの理解が現代社会においていかに有益であるかを示す。
9. 評価と相対性 Gergenは、進歩の約束がモダニズムの持続力の基盤であったが、それには常にコストが伴うと指摘する。彼は、「存在の自由な遊び」を提唱し、自己、人生、世界を理解するアプローチはより開かれた多元的なものであるべきだと主張する。
これらの点を通じて、Gergenの著書は心理学における自己理解に対する深い洞察を提供し、ポストモダンの文脈での自己の再評価を促しているとLindstromは評価している。
リースマンを社会構築主義的に説明したという印象。