井出草平の研究ノート

取っ手のないドア--韓国のひきこもりについて書かれたBBCの記事

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保健福祉部が全国1万5000人の青年(19歳~34歳)を対象に実施した「2023年孤立・引きこもり青年実態調査」によると、回答者の5%以上が孤立・引きこもり状態にある。 全青年人口に換算すると、約54万人が他人と交流せずに過ごしていることになる。 彼らが孤立・引きこもりに陥った主な理由は、就職の失敗が24.1%で最も多く、対人関係の問題(23.5%)、家族問題(12.4%)、健康問題(12.4%)が続いた。

就職の失敗というところは日本とはかなり違う事情がありそうだ。 2025年1月時点での15~29歳青年層の雇用率は44.8%とかなり低い。

高等教育機関(専門大学、4年制大学、大学院等を含む)卒業者の就職率は69.6%(2022年12月31日)である。高卒の全体就職率は55.7%(2023年卒業者)であり、大卒者よりかなり低い。ただ、正規職・非正規職を含めてである。

経済活動人口調査(EAPS)とその付加調査によれば下記の結果になっている。

学歴 正規職 (%) 非正規職 (%)
高校卒業 57.0 43.0
大学卒業以上 62.0 38.0

キョンヒョン大学社会学科のチョン・ゴウン教授は、韓国社会の一断面が引きこもり問題を悪化させていると説明した。
「韓国では、学業、就職、結婚など、特定の時期に特定の成就を成し遂げる標準的な生活が望ましいと考えられています。いわゆる正解社会です。経済的な低成長と低雇用の時代に、この標準的な軌跡から外れると、不安感はさらに大きくなります」。 また、子供の成就が親の成就とみなされる社会的雰囲気は、家族全体を引きこもりの沼に陥らせる。 両親は育児の失敗とみなし、罪悪感を感じながら一緒に沈没することが多いからだ。

儒教的な価値観と受験システムの影響は日本で指摘されることがある。
ただ、子どもが就職せず行くところがなければ、実家に居続けるというのは日本や韓国に限ったことではなく、欧米でも同様のようなので、この特徴は日韓に限ったものではないようには思う。

政府が今年から孤立した若者のための「ワンストップ窓口」を設置し、若者と家族を支援すると発表したが、彼らはまだ混乱しているという。 ジン氏は「政策が発表され、様々な支援策が用意されているが、地域によってばらばらだ」とし、「情報を管理する統合されたコントロールタワーがあり、苦労して探し回ることなく、誰でも簡単に支援方法を知ることができればいい」と話した。

若者のための「ワンストップ窓口」については知らないので調べないといけない。 そもそも、韓国の保健福祉の体制などは日本と比べて違いはあるのだろうか。

青いクジラリカバリーセンターのキム・オクランセンター長は、孤立・引きこもりの子供がいる家庭の状況を「取っ手のないドア」に例えた。
「引きこもりである子供は、一人で外に出る勇気も持てず、親は外からドアを開けることもできない状況だ。双方にドアノブがないため、出られないし、入れない状況だ」と説明している。
これを「家庭の問題」と捉える社会風潮も、彼らをさらに萎縮させる要因となっている。そのため、親も人間関係を断ち切ってしまう場合が多い。

これは日本でも同じ。「取っ手のないドア」というのは秀逸な比喩に思える。