井出草平の研究ノート

ラトゥール『科学論の実在: パンドラの希望』第2章 覚書

読書会の覚書。

この章はアマゾンの森林での土壌サンプリングを題材に、科学的実践の詳細を観察し、その過程を描写している章。

「循環する参照」(circulating reference)

「循環する参照」(circulating reference)は、科学的な知識生成のプロセスを説明するために使われる概念。この概念は、科学者が現場での観察やサンプル収集から始まり、これらのデータがラボで分析され、結果が報告書や論文としてまとめられ、再びフィールドワークに戻るという、一連の連続したプロセスを指す。

このプロセスは信頼性の向上、新たな発見の促進、知識の体系化に貢献できる。

演繹的な参照元の不在

「循環する参照」は、科学的知識が単一の確固たる参照元から演繹されるのではなく、多様なデータポイント、観察、分析、解釈が相互に関連し合い、ネットワーク内で動的に生成されることを示している。これにより、科学的知識は固定的な基盤に依存せず、むしろ常に変化し続ける現象を反映する。

参照元のアップデート

循環する参照のプロセスでは、各段階で新たなデータや観察が追加され、それがフィードバックループを通じて既存の知識を更新する。つまり、参照元は固定されているわけではなく、絶えず新しい情報によってアップデートされるため、知識は動的であり、常に改訂可能な状態にある

絶対的参照の不在

この動的な知識生成プロセスは、形而上学的な確実さがないことを示唆する。科学的知識は、絶対的な真理として確立されるものではなく、常に新しい証拠や観察によって再評価され、更新される。これにより、科学的知識は柔軟性と適応性を持ちながらも、絶対的な確実性を持たないという特性を持つ。