井出草平の研究ノート

2009-01-01から1年間の記事一覧

告知

αシノドス年末号「00年代とはどのような10年間だったのか?」に短文を載せていただきました。 00年代に発達障害という概念が普及したこと、特別支援教育が開始されたことなどを振り返り、00年代に「脳」の時代が始まったということについて概説をしました。 …

香山リカ『うつで困ったときに開く本』のQ17に間違いがある

うつで困ったときに開く本 (朝日新書)作者: 香山リカ出版社/メーカー: 朝日新聞出版発売日: 2009/12/11メディア: 新書購入: 3人 クリック: 15回この商品を含むブログ (9件) を見る Q&A形式でうつの疑問に答える本。とても良い本だと思ったが「Q17「セ…

家族を超える社会学

家族を超える社会学―新たな生の基盤を求めて作者: 牟田和恵出版社/メーカー: 新曜社発売日: 2009/12/10メディア: 単行本購入: 4人 クリック: 37回この商品を含むブログ (9件) を見る 少しだけ書かせて頂いています。 家族を超える社会学 目次 序 家族のオル…

難治性うつ病への治療法

イギリスでの投薬ガイドラインモーズレイの最新版(10版)での指針。オーソドックスな方法で治らない、難治性うつ病への治療法の提案の箇所を翻訳した。日本語で出ている2001年度版(asin:4791104528)にも該当ページがあるが、かなり顔ぶれが変わっている。抗精…

WMH日本調査におけるひきこもりの疫学調査

WHOの世界精神保健(WMH)の一環として行われたひきこもりの疫学調査。 小山明日香,三宅由子ほか「地域疫学調査による「ひきこもり」の実態と精神医学的診断について−平成14年度〜平成17年度のまとめ−」 『平成18年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健…

最近のお仕事と告知

最近のお仕事と告知です。 まずは告知です。 《シンポジウム「ひきこもりは予防できるのか」「ニートは就職できるのか」》 シンポジウム「ひきこもりは予防できるのか」「ニートは就職できるのか」 <11月28日(土)>13:30〜16:30(※13:0…

戸塚ヨットスクール 18歳入所者、飛び降り自殺か

また戸塚ヨットスクールで自殺者がでたようだ。 戸塚ヨットスクール:18歳入所者、飛び降り自殺か 毎日新聞 2009年10月19日 12時39分 19日午前9時40分ごろ、愛知県美浜町北方の「戸塚ヨットスクール」の男性コーチから「人が3階から飛び降りた」と1…

ロストジェネレーションは計量的に支持されない

ロストジェネレーションというのは1973〜1982年生まれの世代のことを指す*1。景気の悪かった、いわゆる「失われた十年」に就職をしなければならなかった世代である。彼らは不景気により、正規雇用を得ることができず、割を食ったということである。2005年に…

アスペルガーが記述したアスペルガー症候群の暴力性

アスペルガー症候群の最初の報告者であるハンス・アスペルガー自身はアスペルガー症候群のネガティブな面かなり詳細に記述している。このエントリではそこに焦点を当ててみたい。 自閉症とアスペルガー症候群作者: ウタ・フリス,冨田真紀出版社/メーカー: 東…

アスペルガー症候群の予後は明るいと考えていたアスペルガー

アスペルガー症候群を発見したアスペルガー自身は当初、この症候群の予後は明るいと考えていた。いろいろな論文で指摘されていることだが、メモとしてその部分を1944年の論文から抜き出し。 自閉症とアスペルガー症候群作者: ウタ・フリス,冨田真紀出版社/メ…

鈴木謙介『サブカル・ニッポンの新自由主義』の仮説を量的実証するためのメモ書き

サブカル・ニッポンの新自由主義―既得権批判が若者を追い込む (ちくま新書)作者: 鈴木謙介出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2008/10メディア: 新書購入: 11人 クリック: 185回この商品を含むブログ (99件) を見る このエントリでは『サブカル・ニッポンの新…

早期教育を受けた子はAD/HDや発達障害になる?

「パパ、ママたちへの警鐘 早期教育で病んだ子どもたちが増えている」 『週刊朝日』2009年09月18日号 (記者:中釜由起子) http://news.nifty.com/cs/magazine/detail/asahi-20090909-02/1.htm 『週刊朝日』に元北海道大学教授の澤口俊之氏の発言として以下の…

吉川徹『大卒と非大卒で二分する日本 格差の正体は「学差」にある』

吉川徹『大卒と非大卒で二分する日本 格差の正体は「学差」にある』 http://www.gakuryoku.gakken.co.jp/pdf/articles/2009/10/p2-5.pdf ネットで読めるようなので記事紹介まで。 大阪大学の吉川徹准教授は、今の格差社会の主成分は学歴だと主張する。そして…

AD/HDは境界性パーソナリティー障害のリスクファクターなのかもしれない

田中聡「境界性パーソナリティ障害の形成メカニズム」『精神治療学』24(8)にAD/HDと境界性パーソナリティー障害の関係についての文献障害紹介があった。両者は関係があるという報告があるとのこと。 成人のAD/HDの37%に境界性パーソナリティー障害…

AD/HD自体は問題ではなく、AD/HDに併存する反抗挑戦性障害が問題なのである

AD/HDは他人へ迷惑をかけることはあまりない。本人が困るということはあっても、回りが迷惑だということは稀かもしれない。そういう意味では、AD/HDは問題なのではなく、AD/HDに並存する反抗挑戦性障害(ODD)が問題なのだという見方はできるだろう。 原仁,20…

パスポートは特性理解

ノンラベルの田井さんが本を出されたようです。 パスポートは特性理解作者: NPO法人ノンラベル・田井みゆき出版社/メーカー: クリエイツかもがわ発売日: 2009/08/26メディア: 単行本(ソフトカバー)購入: 1人 クリック: 9回この商品を含むブログ (1件) を見…

文部科学省「子どもの自殺予防」

「教師が知っておきたい子どもの自殺予防」のマニュアル及びリーフレットの作成について 平成21年3月27日 児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議 児童生徒の自殺予防については、平成18年6月に成立した自殺対策基本法等の趣旨を踏まえ、平成19年3月…

初等少年院の男子の8割がAD/HD

悲しみの子どもたち―罪と病を背負って (集英社新書)作者: 岡田尊司出版社/メーカー: 集英社発売日: 2005/05メディア: 新書購入: 5人 クリック: 59回この商品を含むブログ (16件) を見る このタイプは男子に多く、男子の初等少年院などでは八割がADHDに該当す…

スウェーデンでの自閉症の研究

スウェーデンのユーテボリ(Göteborg)で行われた研究。発表は1997年。調査は1994年から開始されたもの。 T. Arvidsson, B. Danielsson, P. Forsberg, C. Gillberg, M. Johansson, G. Kjellgren, 1997 Autism in 3-6-Year-Old Children in a Suburb of Gotebor…

不登校の統計(平成20年度)

平成20年度の文科省の学校基本調査の速報が出たので、不登校の統計のアップデートをしておこうと思う。 長期欠席者数 (参考図表3,参考図表4参照) 平成20年度間の長期欠席者(30日以上の欠席者)のうち,「不登校」を理由とする児童生徒数は12万7千人(2千人…

根來秀樹「不登校・ひきこもり考える」

根來秀樹,2009, 「不登校・ひきこもり考える」『こころの科学』146:114-9 ここ数年、不登校やひきこもりの子どもや青年が外来を訪れるたびに、その背景にある疾患を診断することにかなりの比重を置いてきたように思う。 その一番大きな理由は、社会不安障害…

豊田市での広汎性発達障害の疫学調査

豊田市で行われた広汎性発達障害の発生率の調査。広汎性発達障害の発生率は1.81%。 この数字はイギリス・サウステムズで行われたBaird et al.(2006)の有病率1.161%よりも大きな値である。しかも後述するように、広汎性発達障害全体ではなく、ほぼ自閉性障害…

発達障害を持った子どもたちのメンタルヘルスと特別支援教育についての感想

『こころの科学』LD・AD/HD特集号から品川裕香の論文。 LD・AD/HDなどの診断を受けた子どもたちのその後について取材をして、特別支援教育への提言を行っている。 リストカット、うつ、不登校、ひきこもりと言ったものの背後に発達障害があるということから…

「子ども・若者育成支援推進法」の成立

少し前の話になるが、「子ども・若者育成支援推進法」という法律が成立している。文面を呼んでもニートやひきこもりといったものは出てこないが、岸本周平によれば、ニートや引きこもりの若者の支援の基礎的な法律になるようである。 この法律は、ニートや引…

江戸時代の精神障害

精神障害者をどう裁くか (光文社新書)作者: 岩波明出版社/メーカー: 光文社発売日: 2009/04/17メディア: 新書購入: 3人 クリック: 169回この商品を含むブログ (37件) を見る 本の本筋の記述ではないが江戸時代の精神障害についての記述が面白かった。江戸時…

面白い話が聞きたいならば、難波花月にでも行けばよい

若年非正規雇用の社会学‐階層・ジェンダー・グローバル化 (大阪大学新世紀レクチャー)作者: 太郎丸博出版社/メーカー: 大阪大学出版会発売日: 2009/06/04メディア: 単行本(ソフトカバー)購入: 3人 クリック: 36回この商品を含むブログ (12件) を見る 太郎…

抗うつ薬マン

「ためしてガッテン」でうつ病についてやっていた うつ病よサラバ!脳が変わる最新治療 http://cgi2.nhk.or.jp/gatten/archive/program.cgi?p_id=P20090617 妙なキャラクターが出てきていた。 さすがNHK。なんのためにキャラ作りまでしたのかぜんぜんわか…

3匹の鳥

こちらは私信みたいなもの。 3匹の鳥がいます。ロナセンはD2受容体の遮断作用と5HT2受容体遮断作用を併せ持つのでSDAに分類されるとのこと。

寛解と回復と反応率

今回は授業へのフィードバックのエントリ。今週の授業でうつ病について喋っていたのだが、寛解と回復の違いを説明しなかったせいか、どうも混乱したようなので、授業プリントを作るついでにこちらにも書いておこうと思う。内容自体は授業に密着したものでは…

大学生が1人退学すると大学はいくら損をするか

大学生が1人退学すると大学はいくら損をするかということを少し計算しなければならないので、メモ程度にエントリ。正確な答えとしては、各大学によって違うということになるので、いちいちやっていても意味がないので、ざっくりと計算をすることにする*1。 …