AD/HDは他人へ迷惑をかけることはあまりない。本人が困るということはあっても、回りが迷惑だということは稀かもしれない。そういう意味では、AD/HDは問題なのではなく、AD/HDに並存する反抗挑戦性障害(ODD)が問題なのだという見方はできるだろう。
原仁,2005 「思春期の行動の問題:Asperger症候群とADHD」 『小児科診療』 68(6) (803) pp.1087〜1092
ADHDの問題はODDの症状
ADHDの診断基準を精読するとわかるが,ADHDの症状は周囲への迷惑にはなるけれども,危害にまでは及ばない場合がほとんどである.たとえば,勝手にしゃべってうるさいかもしれないが,それを注意して言い争いになっていつも喧嘩になる訳ではない.勝手に動き回って危険であるが,ケガをするのは本人であるなど.ADHDのある子どもでも,一定の距離を取って上手に付き合えば,決して嫌になる訳ではない.むしろ,愛嬌があって愛らしい場合すらある.
一方,ODDが合併すると状況は一変する.表のような特徴がADHDの子どもに認められたなら,やはり自分のクラスにはいてほしくない,自分の子どもでいてほしくない気持ちになるのももっともである*1.表 反抗挑戦性障害(DSM-IV)の特徴
- かんしゃく
- おとなと口論
- おとなの要求や規則どおりへの反抗
- 故意にいらだだせる
- すべて他人のせいにする
- 過敏
- 怒り
- 意地悪
注:上記特徴を4項目以上満たす場合に診断する
症例Bは,就学前からおもちゃとお菓子を執拗にほしがった.年長時代には万引きまがいの出来事もあった.就学直後は目立たなかったが,小学3年ころよりお金に執着して,母親の財布からいくぶんかの金を抜き取る「事件」もおこしている.幸いにして,学校生活の中では同様の事件発生の報告はなかった.
元来,外遊びは嫌いな症例Bであったが,小学4年から親しくなった友人の父親が釣りを楽しんでいたので,誘われて釣りに出かけるようになった.母親の報告によると,釣り上げた魚を持ち帰って,足で踏みつけて内臓が飛び出るのを見て楽しむ,というようなぞっとするような態度を示したこともあった.
症例Bは,りタリン著効例であるが,薬剤の効果が期待できなかった点に,(1)整理整頓が全くうまくならなかった(忘れ物が多く,学校のロッカーは学期末までいつも未整理のままであった),(2)高学年になるにつれて,表立った喧嘩はなくなったが,いわゆる弱いものいじめの中心となった.しつこく,陰惨な手口となっていった,(3)注意するとその場では「分った」と言うが,同じことを繰り返していて,決して反省することがなかった,などがあげられた.ODDへの薬効はほとんど期待できなかったと結論できる.
以前にAD/HDの非行についてエントリーを入れた(参照)が、AD/HDの症状が直接、非行に結びつくとは少し考えづらい。原のいうように、騒がしいことや、注意散漫で周りも多少は困ったりするかもしれないが、基本的には人に迷惑はかけない。AD/HDと非行を結びつけるのは反抗挑戦性障害である。
両者はどの程度重なるかというとAD/HDの中の30〜45%に反抗挑戦性障害(ODD)は併存する。逆に、反抗挑戦性障害(ODD)の61〜67%がAD/HDの診断を受けているという。
- Spitzer RL, Davies M, Barkley RA, 1990, The DSM-III-R field trial of disruptive behavior disorders. Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry 29: 690-697.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/2228920 - Walker JL et al., 1991, Anxiety, inhibition, and conduct disorder in children: I. Relations to social impairment. Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 30(2):187-91.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/2016220 - Faraone S. V., Biederman J., Keenan K. et al., Separation of DSM-III attention deficit disorder and conduct disorder: evidence from a family-genetic study of American child psychiatric patients. Psychological medicine, 21:109-21, 1991.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/2047486 - Pelham W. E., Gnagy E. M., Greenslade K. E. et al., 1992, Teacher ratings of DSM-III-R symptoms for the disruptive behavior disorders. Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 31, 210-218.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/1564021
AD/HDの中の4割程度は反抗的な状態を示す反抗挑戦性障害を持つ。原の報告によるとメチルフェニデート(リタリン/コンサータ)は反抗挑戦性障害へあまり効かないようである(あくまでも実験例・症例報告の範囲でだが)。
「非行」は精神医学的表現では「行為障害」にあたる。上記の海外の研究では、AD/HDの中でその「行為障害」に移行するのは、18〜23%だと報告されている。およそ2割程度のAD/HDが非行に移行している。逆に「行為障害」(非行)にどのくらいAD/HDが含まれるかというのは、55〜85%という範囲で報告されている。高く取れば8割くらいになるので、 岡田尊司氏の「男子の初等少年院などでは八割がADHDに該当する」という発言は方向性として大きく外れているわけではない。ただし、非行行為を行ったとしても、すべてが少年院に入所するわけではなく、むしろほとんどの非行少年は少年院には行かないので、上記の研究は8割の根拠にはならないように思われる。とはいえ、それなりに高いリスクを持っていることは(海外の研究では)確認されている。
AD/HD単体では他人には迷惑はかけないし6〜7割程度に対してはメチルフェニデートが効く。ただし、AD/HDの症状にメチルフェニデートが効いたからといって、反抗挑戦性障害(ODD)の症状にも効くとは限らない。このような報告を見ていると、ADHDの問題は反抗挑戦性障害の症状なのだという原の主張には納得のいくところが多いように思う。もちろん「問題」というのは、本人にとってというよりも、親やクラス担任や友人たちにとって、どれくらいの負担がかかるかという意味でである。