井出草平の研究ノート

ゲーム障害は他の精神障害を引き起こすのではなく、共通の要因によって生じる

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

https://acamh.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/jcpp.13289

インターネットゲーム障害(IGD)の症状が高い子どもや青年は、他の子供や青年よりも一般的には精神疾患の症状が多い。一時点の研究=横断的研究では、IGDが原因なのか、他の精神障害が原因なのか、別の要因が共通の原因なのかはわからないため、縦断的研究を行ったのがこの研究である。

インターネットゲーム障害の症状と他の精神障害との関連は見られなかった。ゲームに熱中して依存症になると、うつ病などの精神障害になると(根拠なく)言われることがあるが、この言説が反証がされている。つまり以下のようなことである。

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逆に、10歳と12歳でのインターネットゲーム障害の症状の増大は2年後の不安症状の減少を予測しており、むしろ精神障害を弱める作用が確認されている。この論文では、インターネットゲーム障害と他の精神障害が共起するのは共通の原因によるもので、遺伝的要因が大きいのではないかと推測されている。

データと診断・評価

ノルウェーの子どもたちのコミュニティサンプル(n = 702)のコホート研究。2つの出生コホート(2003/2004)を調査。10歳、12歳、14歳の時点でDSM-5で定義されているIGDの症状を評価するために、インターネット・ゲーミング障害面接(IGDI)を完了した。

IGDI(Wichstrøm et al., 2019)というのは下記の文献。

  • Wichstrøm, L., Stenseng, F., Belsky, J., von Soest, T., & Hygen, B.W. (2019). Symptoms of internet gaming disorder in youth: Predictors and comorbidity. Journal of Abnormal Child Psychology, 47, 71–83. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29623484/

児童・思春期精神医学的評価Child and Adolescent Psychiatric Assessment (CAPA; Angold and Costello, 2000) を用いて精神症状を評価。抑うつ性障害、不安(社会恐怖、特定の恐怖症、分離不安障害、全般的不安障害)、注意欠陥多動性障害ADHD)、反抗的障害(ODD)、行動障害(CD)の症状を同時期に評価。

分析

A Random Intercept Cross‐lagged Panel Model (RI‐CLPM)で分析されている (Hamaker et al., 2015)。

  • Hamaker, E.L., Kuiper, R.M., & Grasman, R. (2015). A critique of the cross‐lagged panel model. Psychological Methods, 20, 102–116.

知らない分析法だが、ざっと説明を読む限りは、パネルデータでマルチレベル(within‐ and between‐person effects)を想定する分析のようだ。Mplus 7.4が使われている。

結果

IGDの症状は、10歳、12歳、14歳のうつ病、不安、ADHD、およびODD/CDの症状と中程度ではあるが正の有意な相関を示した(範囲r = 0.09-0.19)。

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between‐person (or group) レベルでは、IGD症状が多いほど不安(r = 0.53、p = 0.028)、ODD/CD(r = 0.36、p = 0.048)、およびADHD(r = 0.23、p = 0.028)の症状と関連していたが、うつ病(r = 0.26、p = 0.14)の症状とは関連していなかった。IGD症状と精神病理学の症状との現在の相関(表S3)とは対照的に、IGD症状と障害の症状との間の有意な同時相関は、between‐personレベルでは出現しなかった(図2、図S1-S3)。さらに、個人内レベルでの前向きな関連に関しては、10-12歳(β=-.17、p=0.015)および12-14歳(β=-.16、p=0.010)では、IGDの症状の増加が2年後の不安の症状の減少を予測するという、統計的に有意な関係が1組だけ見られた。

先行研究

IGDが実際にメンタルヘルス問題を予測しているかどうかを調査した先行研究は1件のみ(Wartberg, Kriston, Zieglmeier, Lincoln, & Kammerl, 2019)

  • Wartberg, L., Kriston, L., Zieglmeier, M., Lincoln, T., & Kammerl, R. (2019). A longitudinal study on psychosocial causes and consequences of Internet gaming disorder in adolescence. Psychological Medicine, 49, 287–294. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29622057/

IGDのDSM-5基準が発表される前では、大規模なゲームと精神衛生上の問題との関連性を文書化した前向きな研究がいくつかある(Brunborg, Mentzoni, & Frøyland, 2014; Lemmens, Valkenburg, & Peter, 2011)

  • Brunborg, G.S., Mentzoni, R.A., & Frøyland, L.R. (2014). Is video gaming, or video game addiction, associated with depression, academic achievement, heavy episodic drinking, or conduct problems? Journal of Behavioral Addictions, 3, 27–32. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25215212/

思春期の孤独感は、後に病的なゲーム性を予測する(Lemmens et al., 2011)。

Russoniello et al. (2013)によるRCT無作為化比較試験では、ゲームの増加がうつ病の症状を減少させたという結果が出ている。

  • Russoniello, C.V., Fish, M., & O'Brien, K. (2013). The efficacy of casual videogame play in reducing clinical depression: a randomized controlled study. Games for Health: Research, Development, and Clinical Applications, 2, 341–346. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26197075/

ADHDの子どもたちは、遅延したものよりも即時の報酬を強く好むため、ゲームは、ADHDの症状を持つ子供たちのための魅力的な活動になる(Stenseng, Hygen, & Wichstrøm, 2019)

家族研究からの予備的なエビデンスからは、問題のあるインターネットの使用が部分的に遺伝的影響下にあることが示唆されている(Deryakulu & Ursavaş, 2014)

小児期および青年期のほとんどの精神病理学に強い共通項があることが明らかになっており(McElroy, Belsky, Carragher, Fearon, & Patalay, 2018)、共有された遺伝的影響がこの併存性を部分的に説明していることを考えると(Caspi & Moffitt, 2018)、経験的な調査で明らかになっている範囲では、IGDと他の障害(または症状)との共起の一部も遺伝学が説明していると予想される。