井出草平の研究ノート

インターネットゲーム障害の構造化面接SCI-IGD

www.ncbi.nlm.nih.gov

  • Hoon Jung Koo, Doug Hyun Han, Sung-Yong Park, and Jung-Hye, 2017, The Structured Clinical Interview for DSM-5 Internet Gaming Disorder: Development and Validation for Diagnosing IGD in Adolescents. Psychiatry Investig. 14(1): 21-29. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5240456/

過去6ヶ月間の発生についてDSM-5 Internet Gaming Disorderの評価を行うことができる面接。半構造化ではなく完全な構造化面接である。

インタビュアーの特徴とトレーニン

参加した2人の精神科医は、大学病院の精神科に併設されていたインターネットゲーム中毒カウンセリングセンターでIGDの評価と治療に豊富な経験を持っている。精神科医の診断の信頼性を評価するためのカッパ値は0.89以上であった。 少なくとも5年間の訓練を受けた臨床経験を持つ4人の博士レベルの臨床心理士と、博士レベルの臨床心理士の指導を受けた6人の大学院生がそれぞれのSCI-IGDを実施した。参加者に会う前に、すべての面接官は60分間のSCI-IGD教育訓練を受けた。面接官間の一致度はほとんどが0.89以上であった。

社会人口学的結果

表1は、現在のサンプルの関連するすべての社会統計学的情報をまとめたものである。24時間の中で最も長く遊んだ時間が12時間以上と回答したのは23人(11.0%、n=26)。また、74人(31.4%)が「毎日ゲームをしている」と回答した。さらに、ほとんどのゲーマーがゲームを始めたのは非常に早い年齢で、典型的には6歳以前(15.3%、n=36)、7歳から12歳の間(69.9%、n=165)であった。

表2は、DSM-5の基準および診断レベルにおけるSCI-IGDの感度(Sen)、特異度(Spe)、正の尤度比(LRP)および負の尤度比(LRN)の推定値である。

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111名の参加者のうち、SCI-IGDによりIGDと診断されたのは12名(10.8%)であった。SCI-IGDと診断された12人のうち、8人(66.7%)は、IGDのDSM-5に基づく精神科医の臨床面接でもIGDと診断された。SCI-IGDの最終診断におけるLRPとLRNの推定値はそれぞれ10.93と0.35であった。 「withdrawal離脱」および「コントロールの試みの失敗(unsuccessful attempt to control)」項目のLRNは0.5を超えており、信頼性は高くない。「逃避(escape)」のLRPとLRNはそれぞれ2以下、0.5以上であり、「逃避」を計測することはほとんどできていない。

議論

ほとんどの思春期の若者がゲームを減らしたり止めたりしようとしなかったため、「離脱withdrawal」や「コントロールの喪失(unsuccessful attempt to control)」の症状を評価する質問に答えるのが困難だったという可能性がある。

今までの研究のまとめ

DSM-5の診断の検討はいくつかの研究でされている。

Ko et al. 2014

全体的には許容できるが、「だますdeceiving」と「逃避escape」の診断精度が低い。

  • Ko CH, Yen JY, Chen SH, Wang PW, Chen CS, Yen CF. Evaluation of the diagnostic criteria of internet gaming disorder in the DSM-5 among young adults in Taiwan. J Psychiatr Res. 2014;53:103–110. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24581573

Lemmens et al. 2014

全体的には許容できるが「逃避escape」では特異性が低下。この研究では「だますdeceiving/deception」はKo et al. (2014)とは違い、精度は高かった。

Rehbein et al. 2015

「コントロールしようとする試みの失敗unsuccessful attempts to control」、「既知の問題にもかかわらず使用を継続することcontinued use despite known problems」、「ネガティブな気分から逃れるためにゲームをすることgaming to escape negative mood」、「友人関係/教育/仕事を危険にさらすことand jeopardizing friendships/education/jobs」の項目で診断精度が低い。

  • Rehbein F, Kliem S, Baier D, Mossle T, Petry NM. Prevalence of internet gaming disorder in German adolescents: diagnostic contribution of the nine DSM-5 criteria in a state-wide representative sample. Addiction. 2015;110(5):842–851. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25598040

Koo et al. 2017

本論文。Ko et al. (2014)に比べて全体的に感度が低い。「離脱Withdrawal」や「コントロールの喪失unsuccessful attempt to control」は信頼性が低く、「逃避Escape」はほとんど計測できない。

「離脱」と「コントロールの喪失」は、ほとんどの思春期の若者がゲームを減らしたり止めたりしようとしなかったため、面接では否定されている。DSM-5のインターネットゲーム障害の基準は他の依存症の基準を流用して作成されているが、他の依存症で現れるエピソードが存在しないこともあるようだ。この2つの診断基準は「やめなければならない」と本人が思っていないと、出てこないエピソードである。

児童・思春期の子どもたちは就労をしておらず、不登校になっても、ゲームに没頭できる環境である場合もあり、成人を想定して作成された依存症の基準には必ずしも合致しないようだ。

Wichstrøm et al. 2019

「離脱Withdrawal」、「Jeopardized or lost relationship or educational career opportunity(人間関係や教育的キャリアの機会が損なわれたり、失われたりした)」の感度が低く、「没入Preoccupation」は特異性がない。

  • Wichstrøm, L., Stenseng, F., Belsky, J., von Soest, T., & Hygen, B.W. (2019). Symptoms of internet gaming disorder in youth: Predictors and comorbidity. Journal of Abnormal Child Psychology, 47, 71–83.

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まとめ

離脱Withdrawal、だますことdeceiving、コントロールの喪失unsuccessful attempt to controlは児童・思春期という時期を考えると、発現しないこともある。逃避Escapeや没入Preoccupationは一般の児童でもよく起こるエピソードである。