井出草平の研究ノート

httpgd

httpgd は、R言語用のインタラクティブなグラフィックスデバイス(プロットビューア)であり、RのプロットをWebブラウザベースのインターフェイスで表示するためのパッケージである。

httpgd の特徴

  1. Webベースのプロット表示
    httpgd は、HTTPサーバーとして動作し、プロットをリアルタイムでブラウザに表示する。これにより、インタラクティブな操作やスムーズな表示が可能になる。

  2. インタラクティブな操作
    ズーム、パン、複数のプロットの切り替えなど、従来のRプロットデバイスにはない操作ができる。

  3. VSCodeとの統合
    Visual Studio Code の R拡張機能でサポートされており、プロットを VSCode 内で表示できる。

  4. 高いパフォーマンス
    プロットのレンダリングが高速で、大量のデータを扱う場合にも効率的。

  5. カスタマイズ可能
    カスタムCSSや設定を使って、プロットの見た目を変更できる。

httpgd の使用方法

1. パッケージのインストール

Rコンソールで以下のコマンドを実行し、httpgd をインストールする:

install.packages("httpgd")

2. プロットデバイスとして使用

httpgd をプロットデバイスとして有効化する:

library(httpgd)
hgd()
plot(1:10, 1:10)  # プロットを描画

これにより、httpgd のビューアでプロットが表示される。

3. VSCodeでの設定

VSCodeの設定で、以下の項目を有効にする:

"r.plot.useHttpgd": true

これにより、プロットが VSCode 内でインタラクティブに表示される。


メリット

  • RStudioの標準グラフィックスデバイスよりもモダンな操作性を提供。
  • VSCodeやブラウザで直接プロットを確認でき、作業フローがスムーズ。
  • プロットをファイルとして保存する際にも高品質な出力が可能。

制限事項

  • httpgd を利用するためには、ブラウザまたはVSCodeのような対応する環境が必要。
  • プロットデバイスhttpgd に切り替える必要があるため、従来のRグラフィックスデバイスとは動作が異なる。

公式リソース

VSCodeでRを使うための設定

VSCodeで無料でGitHub Copilotが使えるようになった(制限あり)。

www.itmedia.co.jp

gigazine.net

現在、月10ドルのGitHub Copilotを契約している。コードをたくさん書くからではなく、RStudioでの補完機能用のためだけである。せっかく無料でGitHub Copilotが使えるのだから、この月10ドルを節約するために、RのコードをVSCodeで書いてみることにした。「リアルタイムのコード補完は月間2000回まで、AIとのチャットは月間50回まで」ということなので、自分の用途的には十分な気がする。

結論からいうと、やや使いにくさは残るものの、RStudioっぽい使い方はだいたいできるので、VSCodeを使っても問題はなさそうである。ただ、設定がいろいろとややこしいのと、RStudioほどRに最適化されていないので、使いにくさは残る。

R Extensionのインストール

marketplace.visualstudio.com

VSCode拡張機能からインストールできる。

公式解説はこちらなど

code.visualstudio.com

marketplace.visualstudio.com

Rにインストールするパッケージ

Rにもパッケージのインストールする必要がある。 下記の2つである。

install.packages("languageserver")
install.packages("httpgd")

インストールしておくとよい拡張機能

拡張機能はまだ良いものがあるかもしれないが、あまり知らないので、これらの拡張機能はとりあえずのもの。

Rの場所指定・バージョンの指定

Rがもともとデフォルトの場所にインストールされていれば何も設定しなくても見つけてくれるようではあるが、見つけてくれなかった場合や、Rのバージョンを変えたい場合には下記から設定する。

一つはR Extensionの張機能の設定(GUI)から書き込む方法である。

CUIの場合はコマンドパレット(Ctrl + Shift + P)にsettings.jsonと打ち、VSCodeの設定を編集する。
settings.jsonに下記を追加する。

    "r.rterm.windows": "C:\\\\Program Files\\\\R\\\\R-4.4.1\\\\bin\\\\R.exe",

OSごとの設定例:
Windows:

"C:\\Program Files\\R\\R-4.4.1\\bin\\R.exe"

以下のように書かない。

"C:\Program Files\R\R-4.4.1\bin\R.exe"

Linux:

"/usr/bin/R"

Mac

"/Library/Frameworks/R.framework/Resources/bin/R"

R Extensionの他の設定

Rの場所以外に設定しておくとよいものが4つあるようだ。

コマンドパレット(Ctrl + Shift + P)にsettings.jsonと打ち、VSCodeの設定をするsettings.jsonを編集する。
R Extension関係の設定下記の4つを入れておく。

    "r.sessionWatcher": true,
    "r.plot.useHttpgd": true,
    "r.workspaceViewer.showObjectSize": true,
    "r.workspaceViewer.removeHiddenItems": false,
    "r.rmarkdown.knit.openOutputFile": true,

"r.sessionWatcher": true Rセッションウォッチャー機能を有効化。この機能を有効にすると、Rセッションの状態(現在のワークスペース、オブジェクト、プロットなど)をリアルタイムで監視し、VSCode内で表示・管理できるようになる。ワークスペースビューアが使用可能になる。オブジェクトの一覧表示やデータフレームのプレビューがVSCode内で可能になる。

"r.plot.useHttpgd": true プロットの表示に、httpgd パッケージを使用する。httpgd は、Rで生成したグラフをブラウザベースで表示できるプロットデバイスで、VSCodeのビューアと統合されている。グラフやプロットがVSCode内でインタラクティブに表示される。

"r.workspaceViewer.showObjectSize": true ワークスペースビューアで、各オブジェクトのサイズを表示する。Rセッションのワークスペースビューアに、各オブジェクト(データフレーム、ベクトル、リストなど)のメモリ使用量(バイト数)が表示される。

"r.workspaceViewer.removeHiddenItems": false ワークスペースビューアで、Rセッション内の「隠しオブジェクト」(名前が.で始まるオブジェクト)を表示するかどうかを設定する。falseの設定で隠しオブジェクトもワークスペースビューアに表示する。

"r.rmarkdown.knit.openOutputFile": true
R MarkdownのKnit(ニット)プロセス完了後に、生成された出力ファイル(HTML、PDFなど)を自動的に開く機能を有効化。この機能を有効にすると、Knitコマンド実行後に、VSCodeや既定のブラウザで生成物が自動的に表示される。出力結果を即座に確認できるため、編集・デバッグの効率が向上する。

リガチャ可能なフォントにする

コマンドパレット(Ctrl + Shift + P)にsettings.jsonと打ち、VSCodeの設定をするsettings.jsonを編集する。

Rでは<-を多用するのでフォントが合体してくれると可読性は上がる。
私はCascadia Code PLを使ってているので、GitHubからダウンロードしてWindowsにインストールしておく https://github.com/microsoft/cascadia-code

settings.jsonは下記を追加。

    "editor.fontFamily": "'Cascadia Code', 'メイリオ', 'Arial', Consolas, 'Courier New', monospace",
    "editor.fontLigatures": true,

editor.fontLigatures": trueリガチャをするという設定。

ちなみに、この設定は日本語もメイリオにしてある。 最近はデフォルトの日本語フォントであるAptosが太字で見にくいので、メイリオに変更している。

括弧の色分け

数年前まで、括弧の色分けは「Bracket Pair Colorizer 2」という拡張機能が広く使われていたが、ネイティブの機能となった。

コマンドパレット(Ctrl + Shift + P)にsettings.jsonと打ち、VSCodeの設定をするsettings.jsonを編集する。

"workbench.colorCustomizations": {
  "editorBracketHighlight.foreground1": "#FF0000",  // 赤
  "editorBracketHighlight.foreground2": "#00FF00",  // 緑
  "editorBracketHighlight.foreground3": "#0000FF",  // 青
  "editorBracketHighlight.foreground4": "#FF00FF",  // 紫
  "editorBracketHighlight.foreground5": "#00FFFF",  // シアン
  "editorBracketHighlight.foreground6": "#FFFF00"   // 黄色

チャンク記号{R}を挿入する設定

.Rmdファイルを開いているときに、rchunkというスニペットがデフォルトで使える。基本、これで問題はない。

しかし、RStudioでは[ctrl]+[alt]+[I]でチャンク記号の生成ができていたので、これを再現するには、VSCodekeybindings.jsonへ設定を追加すればよい。

コマンドパレット(Ctrl + Shift + P)に「Preferences: Open Keyboard Shortcuts (JSON)」といれると、keybindings.jsonの編集ができる。下記をコピペ。

    {
        "key": "ctrl+alt+i", 
        "command": "editor.action.insertSnippet",
        "when": "resourceLangId == 'rmd'",
        "args": {
            "snippet": "```{R}\n$0\n```"
        }
    }

whenの設定は"resourceLangId == 'rmd'"としておく。同じキーバインドに他のショートカットもふられているので、.Rmdの編集をしている時だけ、Rのチャンクを出せるようにと限定をつけておくと混乱が起きない。

RStudioと同様に使うには

ファイルの拡張子は.Rmd

VSCodeで編集するときも、RStudioと同じ拡張子である。共通化できるのは大変良い点である。

左メニュー

左メニューからRのメニューを開くとR関連の情報が確認できる。

パッケージのインストール

アップデートのあるパッケージをインストールする機能もある。

パッケージの更新

環境のクリーンナップ

読み込んだデータフレームなど

オブジェクトを確認する

下記の場所からオブジェクトは確認できる。

ちなみにデータの場合Viewをクリックするとタブが開き、データの確認ができる。

コードでもコンソール(ターミナル)に表示させて確認できる。

ls()  # 現在の環境にあるオブジェクトを一覧表示
objects()  # 同様にオブジェクトを確認

読み込んだパッケージを確認する

下記の場所から確認できる。

RStudioの方もたいしてわかりやすいわけではないので大差はないだろう。

コードを走らせる

Run Chunkをクリックする。RStudioでは▶だったものである。

コンソール(ターミナル)の表示を消す

RやRStudioでは[ctrl]+[L]でコンソールのクリアができた。 VSCodeのR Extensionでは作動しないので、問題なければそのまま、是非ほしい場合は、keybindings.jsonに追加する

コマンドパレット(Ctrl + Shift + P)に「Preferences: Open Keyboard Shortcuts (JSON)」といれると、keybindings.jsonの編集ができる。下記をコピペ。

    {
        "key": "ctrl+l",
        "command": "workbench.action.terminal.clear",
        "when": "terminalFocus"
    }

ファイルの場所を作業ディレクトリに設定

設定では変えられなようだ。 都度都度、Rmdに直接書き込む必要がある。コードは下記。

current_file <- normalizePath(rstudioapi::getSourceEditorContext()$path)
setwd(dirname(current_file))

VSCodeのR Extensionのオプションの設定

code.visualstudio.com

R: Always Use Active Terminal

  • 説明:
    この設定を有効にすると、新しいRターミナルを作成せずに、すでに開いているターミナルを再利用する。これにより、ターミナルが複数開くことを防ぐことができる。

  • 推奨設定:
    通常は有効にしておく(true)のが望ましい。ただし、複数のセッションを同時に使用したい場合は無効にすることも可能である。


R: Bracketed Paste

  • 説明:
    ターミナルにコードを送信する際に「Bracketed Paste Mode」を有効にする。このモードは、コードを安全に貼り付けるのに役立つ。特に radian コンソールを使用する場合に推奨される。

  • 推奨設定:
    有効にする(true)ことで、ターミナルへのコード貼り付け時に発生する問題を防ぐことができる。


R: Help Panel: Cache Index Files

  • 説明:
    ヘルプパネルでパースされたヘルプインデックスを、セッション間でどこに保存するかを設定する。

  • 選択肢:

    1. None(default): キャッシュを保存しない(デフォルト設定)。
    2. Workspace: 現在の作業スペース(プロジェクト)内にキャッシュを保存する。
    3. Global: グローバルな設定としてキャッシュを保存し、全プロジェクトで利用可能にする。
  • 推奨設定:

    • ヘルプ読み込みの高速化を求める場合、Workspace または Global を選択するのがよい。
    • キャッシュが不要で、毎回最新の情報を読み込みたい場合は、None または Do not store anything を選択するとよい。

R: Help Panel: Click Code Examples

  • 説明:

    ヘルプページ内のコード例をクリックしたときの動作を設定する。

    • Click: コードをコピーする。
    • Ctrl+Click: コードをターミナルで直接実行する。
    • Shift+Click: コードを無視する(クリックしても何も起きない)。
  • 推奨設定:

    デフォルト設定が実用的であるが、コード例をクリックして即座に実行したい場合は Ctrl+Click を覚えておくと便利である。


R: Help Panel: Enable Hover Links

  • 説明:

    VSCodeエディター上で関数やオブジェクトにマウスをホバーした際に、対応するヘルプリンクを表示する。

  • 推奨設定:

    有効にする(true)ことで、ヘルプ情報へのアクセスが簡単になり、効率的に作業を進めることができる。


R: Help Panel: Preview Local Packages

  • 説明:

    ヘルプパネルでローカルパッケージのヘルプページをプレビューするためのローカルディレクトリを指定する。空のリスト([])を設定することで、この機能を無効化する。

  • 推奨設定:

    ローカルパッケージのヘルプを頻繁に参照する場合は、適切なディレクトリを追加する。不要な場合は無効化([])する。


R: Lib Paths

  • 説明:

    Rのバックグラウンドプロセス(言語サーバー、ヘルプサーバーなど)を起動する際に使用する追加のライブラリパスを指定する。このパスは、プロセス起動時に .libPaths() に追加される。renv を使用しているプロジェクトで役立つ。

  • 推奨設定:

    特定のパッケージが必要な場合は、該当パスを追加する。それ以外の場合はデフォルトのままで問題ない。


R: Live Share: Defaults: Command Forward

  • 説明:

    Live Shareセッションでゲストにコマンドを転送するかどうかを指定するデフォルト値を設定する。

  • 推奨設定:

    セッション中にゲストがコマンドを実行する必要がある場合に有効にする。それ以外ではオフ(false)にしておくとよい。


R: Live Share: Defaults: Share Browser

  • 説明:

    Live ShareセッションでRのブラウザーポート(プロットやシャイニーページなど)を自動的にゲストと共有するかを指定するデフォルト値を設定する。

  • 推奨設定:

    ゲストにプロットやアプリケーションを共有する場合は有効化(true)する。共有の必要がない場合は無効化(false)でよい。


R: Live Share: Defaults: Share Workspace

  • 説明:

    Live ShareセッションでRのワークスペース(現在のオブジェクトや変数)をゲストと共有するかどうかを指定するデフォルト値を設定する。

  • 推奨設定:

    ゲストにワークスペースの内容を見せる必要がある場合は有効化する。セッション中のデータを保護したい場合は無効化する。


R: Lsp: Args

  • 説明:

    R Language Server を起動するときに使用するコマンドライン引数を指定する。必要なオプションがあれば、ここに追加する。

  • 推奨設定:

    特定の引数を使用する必要がない場合は、デフォルトのまま空欄で問題ない。


R: Lsp: Debug

  • 説明:

    R Language Server のデバッグモードを有効にする。この設定を有効にすると、詳細なログが生成される。

  • 推奨設定:

    問題が発生した際にデバッグのため有効にする。それ以外では無効のままでよい。


R: Lsp: Diagnostics

  • 説明:

    Rコードの診断機能(文法エラーや警告の検出など)を有効にする。これにより、コード内の問題がリアルタイムで指摘される。

  • 推奨設定:

    有効(true)にしておくことで、開発効率が向上する。


R: Lsp: Enabled

  • 説明:

    R Language Server を有効化する。この設定を有効にすると、コード補完、シグネチャヘルプ、定義の表示、診断機能などのコード解析機能が使用可能になる。

  • 推奨設定:

    有効(true)にしておくことが基本。


R: Lsp: Lang

  • 説明:

    デフォルトの LANG 環境変数を上書きする。この設定を使うことで、特定のロケール設定を指定できる。

  • 推奨設定:

    特定のロケールを必要としない場合は空欄のままで問題ない。


R: Lsp: Multi Server

  • 説明:

    マルチルートワークスペース(複数のプロジェクトを同時に開いている状態)で複数の R Language Server を使用するかどうかを設定する。無効にすると、単一のサーバーがすべてのワークスペースを処理する。

  • 推奨設定:

    マルチルートワークスペースを利用する場合は有効(true)にする。それ以外では無効でも問題ない。


R: Lsp: Prompt To Install

  • 説明:

    R Language Server がインストールされていない場合に、インストールを促すプロンプトを表示する設定である。

  • 推奨設定:

    有効(true)にしておくことで、必要な場合にすぐにインストールできるため便利である。


R: Lsp: Use_stdio

  • 説明:

    TCP の代わりに STDIO 接続を使用する。これは主に Unix/macOS ユーザー向けの設定である。

  • 推奨設定:

    Unix/macOS ユーザーが TCP に問題がある場合に有効にする。それ以外では無効(false)のままで問題ない。


R: Plot: Custom Style Overwrites

  • 説明:

    カスタム CSS ファイルのパスを指定する。R > Plot > Defaults: Color Themevscode に設定されている場合に、このCSSがデフォルトのスタイルを上書きする。

  • 推奨設定:

    デフォルトの見た目を変更したい場合に、カスタムCSSのパスを指定する。それ以外では空欄でよい。


R: Plot > Defaults: Color Theme

  • 説明:

    httpgd プロットビューワーのカラーテーマを選択する。

    • 選択肢:

      • original: デフォルトのテーマ。
      • vscode: Visual Studio Code のテーマに合わせた表示。
  • 推奨設定:

    VSCodeの配色に合わせたい場合は vscode を選択する。特にこだわりがなければ original を使用する。


R: Plot > Defaults: Full Window Mode

  • 説明:

    httpgd プロットビューワーを起動する際に、全画面モードを使用するかどうかを設定する。

  • 推奨設定:

    プロットを大きな画面で見たい場合に有効(true)にする。それ以外では無効のままでよい。


R: Plot > Defaults: Plot Preview Layout

  • 説明:

    プロットを複数行表示する場合のレイアウトを設定する。

    • 選択肢:
      • multirow: 複数行で表示。
      • その他のカスタムレイアウトも可能。
  • 推奨設定:

    複数のプロットを管理しやすくしたい場合は multirow を使用する。


R: Plot: Dev Args

  • 説明:

    PNGバイスでグラフィックを再生する際の引数を指定する。この設定はVSCode内でプロットを表示するために使用される。設定はRオプション vsc.dev.args に変更を加える。R > Plot: Use Httpgdfalse に設定されている必要がある。

  • 項目例:

    • width: プロット画像の幅(単位: ピクセル)。
    • height: プロット画像の高さ(単位: ピクセル)。
  • 推奨設定:

    デフォルト(例: width = 800, height = 1200)で十分な場合が多い。特定の用途で画像サイズを調整したい場合に変更する。


R: Plot > Timing: Refresh Interval

  • 説明:

    プロットの更新間隔をミリ秒単位で指定する。プロットが連続して更新される場合の待ち時間を設定する。

  • デフォルト値: 10ms

  • 推奨設定:

    通常はデフォルトのままで問題ない。頻繁な更新が不要な場合は値を大きくするとよい。


R: Plot > Timing: Resize Interval

  • 説明:

    プロットのリサイズ間隔をミリ秒単位で指定する。リサイズの頻度を制御する。

  • デフォルト値: 100ms

  • 推奨設定:

    デフォルトのままで十分であるが、リサイズが頻繁に発生する場合は値を調整して負荷を軽減する。


R: Plot: Use Httpgd

  • 説明:

    標準のVSCode-Rプロットビューアの代わりに、httpgd を使用するかどうかを設定する。この設定はRオプション vsc.use_httpgd を変更する。httpgd パッケージのバージョン1.2.0以上が必要である。

  • 推奨設定:

    httpgd をインストールしている場合、有効(true)にすることでインタラクティブなプロット表示が可能になる。httpgd を使用しない場合は無効(false)にする。

R: Remove Leading Comments

  • 説明:

    コードをターミナルに送信する際に、先頭のコメント行を削除する設定である。コメント行が多いスクリプトで、不要なコメントをターミナルに送信したくない場合に便利である。

  • 推奨設定:

    必要に応じて有効化する。コメントを残したい場合は無効化(false)にしておく。


R > Rmarkdown: Chunk Background Color

  • 説明:

    RMarkdownのコードチャンクの背景色をRGBAまたはRGB値で指定する。設定を空欄にすると、デフォルトのエディタ背景色が使用される。

  • 値の例:

    • rgba(128, 128, 128, 0.1): 薄い灰色の半透明。
    • rgba(255, 165, 0, 0.1): 薄いオレンジ色の半透明。
  • 注意:

    設定を変更した後に、VSCodeをリロードする必要がある。

  • 推奨設定:

    エディタの視認性や好みに合わせて調整する。チャンクを目立たせたい場合は、適度な背景色を選ぶ。


R > Rmarkdown: Code Lens Commands

  • 説明:

    RMarkdownでのCodeLensコマンド(各コードチャンクの先頭に表示される「Run Chunk」などのボタン)をカスタマイズする。

  • カスタマイズ可能なコマンド:

    • r.runCurrentChunk: 現在のチャンクを実行する。
    • r.runAboveChunks: 現在のチャンクまでの全てのチャンクを実行する。
  • 推奨設定:

    デフォルトで十分な場合が多いが、特定の順序や機能を追加したい場合にカスタマイズする。


R > Rmarkdown > Knit: Command

  • 説明:

    R Markdownファイル(.Rmd)をKnit(レンダリング)する際に使用されるデフォルトのコマンドを指定する。デフォルトでは rmarkdown::render が使用される。

  • 推奨設定:

    特別な要件がない限り、デフォルトの rmarkdown::render を使用する。


R > Rmarkdown > Knit > Defaults: Knit Working Directory

  • 説明:

    R Markdownのチャンクが実行される際の作業ディレクトリを指定する。デフォルトではドキュメントのディレクトリが使用される。

  • オプション:

  • 推奨設定:

    通常はデフォルトの document directory で問題ないが、特定の作業ディレクトリを使用したい場合にカスタマイズする。


R > Rmarkdown > Knit: Focus Output Channel

  • 説明:

    R MarkdownをKnitする際に、出力チャンネル(ターミナルや出力ウィンドウ)にフォーカスするかどうかを設定する。この設定には、バックグラウンドプロセスの使用(Use Background Process)が有効である必要がある。

  • 推奨設定:

    フォーカスを必要とする場合にチェックを入れる(true)。作業中にフォーカスを移動させたくない場合は無効にする。


R > Rmarkdown > Knit: Open Output File

  • 説明:

    Knitプロセスが完了した後に、生成された出力ファイル(HTMLやPDFなど)を自動的に開くかどうかを設定する。この設定にもバックグラウンドプロセスの使用が必要。

  • 推奨設定:

    出力ファイルをすぐに確認したい場合は有効化(true)する。それ以外の場合は無効のままでよい。


R > Rmarkdown > Knit: Use Background Process

  • 説明:

    R MarkdownのKnit処理をバックグラウンドプロセスで実行するかどうかを設定する。バックグラウンドプロセスでは、進行状況バーやエラー検出などの追加機能が利用可能になる。

  • 推奨設定:

    有効化(true)することでKnitの操作性が向上する。特別な理由がない限り、この設定を有効にしておくのが望ましい。


R > Rmarkdown > Preview: Auto Refresh

  • 説明:

    ファイルが更新されるたびに、R Markdownのプレビューを自動的にリフレッシュする設定である。

  • 推奨設定:

    有効化(true)することで、作業中のR Markdownファイルが常に最新の状態でプレビューされるため便利である。


R > Rmarkdown > Preview: Zoom

  • 説明:

    R Markdownプレビューのズームレベルを制御する。数値を設定することで、プレビューの拡大縮小を調整できる。

  • 推奨設定:

    デフォルト値(1)で問題ないが、プレビューが小さく見える場合は値を大きく(例: 1.5)、逆に大きすぎる場合は小さく(例: 0.8)調整する。


R > Rpath: Linux / Mac / Windows

  • 説明:

    Rのバックグラウンドプロセスを起動する際に使用するR実行ファイルのパスを指定する。ここで指定するのは「標準的なR(vanilla)」である必要があり、radianなどのカスタムシェルは利用不可である。

  • 設定例(Windowsの場合):

  "C:\\Program Files\\R\\R-4.4.1\\bin\\R.exe"

このように書かない

  "C:\Program Files\R\R-4.4.1\bin\R.exe"

Linux: "/usr/bin/R"  

Mac "/Library/Frameworks/R.framework/Resources/bin/R"

  • 推奨設定:

    OSに合わせて正しいRのパスを指定する必要がある。Rのインストールディレクトリを確認して設定する。


R > Rterm: Linux / Mac / Windows

  • 説明:

    インタラクティブなターミナルで使用するRのパスを指定する。radian や標準のR実行ファイルを指定可能である。

  • 設定例(Windowsの場合):

  "C:\\Program Files\\R\\R-4.4.1\\bin\\R.exe"  
  • 推奨設定:

    使用している環境に合わせて、正しいRのパスを設定する。


R > Rterm: Option

  • 説明:

    Rターミナルの起動時に使用するコマンドラインオプションを設定する。

  • デフォルト値:

    • --no-save: セッション終了時に作業スペースを保存しない。
    • --no-restore: 起動時に作業スペースを復元しない。
  • 推奨設定:

    デフォルトのままで問題ないが、作業スペースの復元や保存を有効にしたい場合はオプションを変更する。

R > Rterm Send Delay

  • 説明:

    コードをターミナルに送信する際の遅延をミリ秒単位で指定する。遅延を設定することでターミナルの処理安定性を向上させる場合がある。

  • 推奨設定:

    デフォルト値(8ms)で問題ないが、遅延が不要な場合は値を小さくする。


R > Session > Data: Page Size

  • 説明:

    データビューアで1ページに表示する行数の最大値を指定する。値が0の場合、ページネーションが無効になる。

  • 推奨設定:

    デフォルトの500が一般的に適切だが、より多くのデータを1ページで表示したい場合は値を大きくする。


R > Session > Data: Row Limit

  • 説明:

    データビューアに表示する行数の最大値を設定する。値が0の場合、制限が無効化される。

  • 推奨設定:

    必要な場合のみ値を設定し、通常はデフォルト(0)のままにする。


R > Session > Emulate RStudio API

  • 説明:

    RStudioのAPIをエミュレートし、rstudioapiを使用したアドインや関数をサポートする設定。

  • 推奨設定:

    有効化(チェックを入れる)することで、RStudio依存のコードやアドインを使用可能にする。


R > Session > Level Of Object Detail

  • 説明:

    オブジェクトをホバーした際や補完時に表示される詳細情報のレベルを指定する。

  • 推奨設定:

    デフォルトのMinimalで十分だが、詳細な情報が必要な場合はModerateDetailedを選択する。


R > Session > Object Length Limit

  • 説明:

    ワークスペースビューアや補完機能で表示されるオブジェクトの最大長を制限する設定。大きなオブジェクトが原因で遅延する場合に効果的。

  • 推奨設定:

    デフォルトの2000を維持し、パフォーマンス問題がある場合は値を減らす。


R > Session > Object Timeout

  • 説明:

    グローバル環境内の単一オブジェクト情報取得のタイムアウトをミリ秒単位で指定する。

  • 推奨設定:

    デフォルトの50msを維持する。パフォーマンス問題がある場合は値を小さくする。


R > Session > Use Web Server

  • 説明:

    拡張機能でセッションリクエストを処理するためにウェブサーバーを使用する実験的な設定。httpgdパッケージが必要。

  • 推奨設定:

    必要に応じて有効化(チェックを入れる)。


R > Session > Viewers: View Column

  • 説明:

    R関連のWebビュー(プロット、ブラウザ、ビューアなど)をどの列に表示するかを指定する。

  • 推奨設定:

    デフォルト設定(例:plot: Two)を維持する。


R > Session > Watch Global Environment

  • 説明:

    グローバル環境を監視し、補完やワークスペースビューアの情報を提供する設定。

  • 推奨設定:

    有効化(チェックを入れる)することで作業効率を向上させる。


R > Session Watcher

  • 説明:

    セッションウォッチャーを有効化する設定。ワークスペースビューアなどの多くの機能に必要となる。

  • 推奨設定:

    有効化(チェックを入れる)し、VSCodeを再起動して反映させる。


R > Source: Echo

  • 説明:

    ファイルを実行する際、コードをターミナルに出力するかどうかを設定する。

  • 推奨設定:

    必要に応じて有効化する。通常は無効のままで問題ない。


R > Source: Encoding

  • 説明:

    ファイルをRで実行する際の文字エンコーディングを指定する。

  • 推奨設定:

    デフォルトのUTF-8を使用する。


R > Source: Focus

  • 説明:

    ターミナルにコードを送信した後、どこにフォーカスを移すかを指定する。

  • 推奨設定:

    デフォルトのeditorを維持する。


R > Use Renv Lib Path

  • 説明:

    renvライブラリパスを使用してバックグラウンドプロセスを起動する設定。

  • 推奨設定:

    必要な場合のみ有効化する。


R > Workspace Viewer: Clear Prompt

  • 説明:

    ワークスペースをクリアする際に確認プロンプトを表示する設定。

  • 推奨設定:

    有効化(チェックを入れる)して、誤操作を防ぐ。


R > Workspace Viewer: Remove Hidden Items

  • 説明:

    ワークスペースをクリアする際に隠しアイテムを削除する設定。

  • 推奨設定:

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グリンパティック・システムと睡眠薬の簡単な説明

https://www.facebook.com/photo/?fbid=9058389887587869&set=a.171097882983825

マイスリーなどの睡眠薬が脳に悪影響があるというデマを見つけた。
この種のデマが流れると、不眠症の人が必要な薬を忌避してしまうので、ちゃんと説明しておいた方がよいだろう。

細かいことだが、グリンパティックではなくグリンパティックである。湿布みたいな呼び方からして適当な書き込みである。

グリンパティック・システムとは

グリンパティック・システム(glymphatic system)は、脳内の老廃物を効率的に除去するための仕組みである。脳脊髄液(CSF)が動脈周囲の経路を通って脳内へと流入し、間質液と混ざり合うことで老廃物を取り込みながら静脈周囲を通じて排出される。このプロセスは、アクアポリン4(AQP4)という水チャネルタンパク質の働きに依存しており、特に深いノンレム睡眠中に最も活性化されることが知られている(Benveniste et al., 2018; Xie et al., 2013)。このシステムは、アルツハイマー病やパーキンソン病といった神経変性疾患の進行にも関与すると考えられており、近年、重要な研究対象となっている。

グリンパティック・システムとノルエピネフリン

グリンパティック・システムは脳脊髄液を介して脳内の老廃物を除去する仕組みであり、特に深いノンレム睡眠中に活性化されることが知られている(Benveniste et al., 2018; Xie et al., 2013)。ノルエピネフリンは、この過程に影響を与える神経伝達物質であり、睡眠中にノルエピネフリンのレベルが低下すると、血管の振動や脳脊髄液の流動性が増加し、グリンパティック・システムの効率が向上する(Benveniste et al., 2018)。

グリンパティック・システムへの影響

ノルエピネフリンはグリンパティック・システムの活動を抑制する作用を持つ。睡眠中にノルエピネフリンのレベルが低下することで、グリンパティック・システムが活性化し、脳内の老廃物が効果的に除去される(Xie et al., 2013; Benveniste et al., 2018)。GABA作動薬がノルエピネフリンの抑制を強化する場合、これがグリンパティック・システムの機能に好影響を与える可能性がある。ただし、睡眠構造の変化など他の要因も関与するため、効果は複雑である。

GABA受容体に作用する薬剤とグリンパティック・システム

GABA受容体に作用する薬剤は、GABA_A受容体を介して中枢神経系における抑制性シグナルを増強することで知られている。この種の薬剤には、ベンゾジアゼピン系薬剤やゾルピデムマイスリー)などが含まれる。

ベンゾジアゼピン系薬剤:

ベンゾジアゼピンはGABA_A受容体に結合し、その活性を増強することで不安の軽減や睡眠の促進をもたらす。この作用により、間接的にノルエピネフリンの抑制を強化し、グリンパティック系に好影響を与える可能性がある。しかし、これらの薬剤は睡眠構造にも影響を与え、深いノンレム睡眠の減少が報告されている。深いノンレム睡眠の減少はグリンパティック系の機能低下につながる可能性があるため、この点についてはさらなる研究が必要である。

ゾルピデムなどの非ベンゾジアゼピン系薬剤:

ゾルピデムはGABA_A受容体に特異的に作用し、睡眠を促進する薬剤である。一方で、ベンゾジアゼピン系薬剤と同様、睡眠構造の変化を引き起こす可能性が指摘されている。この影響がグリンパティック系に及ぼす具体的な効果は未解明の部分が多い。

GABA受容体に作用する薬剤とノンレム睡眠

ベンゾジアゼピン系薬剤はGABA_A受容体の機能を増強することで知られている。このことから、理論的にはベンゾジアゼピンがGABA_A受容体を介してアクアポリン4(AQP4)依存的な間質液のクリアランスを促進し、グリンパティック・システムの機能を向上させる可能性が示唆される(Xue et al., 2023)。しかし、これらの薬剤は睡眠構造に影響を与えることが報告されており、深いノンレム睡眠の時間が短縮される場合がある。深いノンレム睡眠の減少はグリンパティック・システムの機能を抑制する可能性があり、この点についてはさらなる研究が必要である(Xie et al., 2013)。

引用文献

  1. Benveniste, H., Liu, X., Koundal, S., Sanggaard, S., Lee, H., & Wardlaw, J. (2018). The glymphatic system and waste clearance with brain aging. Gerontology, 65(2), 106?119. DOI:10.1159/000490349
  2. Xie, L., Kang, H., Xu, Q., Chen, M. J., Liao, Y., Thiyagarajan, M., ... & Nedergaard, M. (2013). Sleep drives metabolite clearance from the adult brain. Science, 342(6156), 373-377.
  3. Xue, Y., Zhang, H., Xie, M., Chen, L., Jiang, Q., & Shen, Y. (2023). GABA promotes interstitial fluid clearance in an AQP4-dependent manner by activating the GABA_A receptor. Neurobiology Reports.

「オンライン・ブレイン」から「オンライン生活」へ:心理的、認知的、社会的側面からインターネット利用の個別的影響を理解する

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/wps.21188

  • Firth, J., Torous, J., López‐Gil, J. F., Linardon, J., Milton, A., Lambert, J., Smith, L., Jarić, I., Fabian, H., Vancampfort, D., Onyeaka, H., Schuch, F. B., & Firth, J. A. (2024). From “online brains” to “online lives”: Understanding the individualized impacts of Internet use across psychological, cognitive and social dimensions. World Psychiatry, 23(2), 176–190. https://doi.org/10.1002/wps.21188

要旨

世界中でインターネット対応デバイスの普及と広範な利用が進む中、本誌に2019年に掲載された主要なレビューでは、「オンライン・ブレイン」という概念とアイデアを議論し、インターネットが人間の認知に与える影響を検討した。それ以来、オンラインの世界は社会の構造とさらに密接に結びつき、このような技術の利用範囲は拡大し続けている。さらに、インターネット利用が人間の精神に及ぼす影響についての研究証拠も著しく進展している。

本稿では、大規模な疫学研究や系統的レビューの最新データに加え、このトピックに関するランダム化比較試験や質的研究を活用し、インターネット利用が心理的、認知的、社会的な結果に与える影響を多面的に概観することを試みた。この中で、年齢、性別、利用形態などの要因によって影響がどのように異なるかについての実証的証拠を詳述する。また、個人のオンライン体験の具体的な側面を研究した新たな研究を引用し、インターネットとの相互作用の詳細や生活への影響が、オンライン時間の利点や欠点をどのように決定するかを理解する。

加えて、カルチュロミクス、人工知能、仮想現実、拡張現実といった新興でありながら興味深い分野が、インターネットが脳や行動とどのように相互作用するかについての理解をどのように変化させているかを探る。全体として、インターネットが精神的健康、認知機能、社会的機能に与える影響について、個別的かつ多面的なアプローチを取る重要性が明らかである。また、本稿で提示した神経科学的、行動的、社会的レベルの研究から得られた証拠を十分に活用するための指針、政策、取り組みの必要性を強調する。

以下AIによる要約


デジタル革命は私たちの日常生活のほぼすべてを変革してきた。娯楽、仕事、社会的な交流に至るまで、インターネットは現代のライフスタイルの中核に深く根付いている。ただし、この技術の普及が人間の心にどのような影響を及ぼすかについては、依然として明確ではない。2019年に本誌で発表された論文では、インターネットが注意力、記憶、社会的認知にどのような影響を与えるかを検討した。

その後、インターネットの社会的統合はさらに進展し、スマートフォン所有率の増加や若者の「常時オンライン」の割合が2023年には50%近くに達していることが報告されている。特にCOVID-19パンデミックによって、仕事や社会的な交流でデジタル技術への依存が強まり、日常生活におけるその位置づけが一層確立された。

また、オンライン活動の内容にも変化が見られる。従来の放送型メディアから音楽ストリーミングやポッドキャスト、動画プラットフォームへの移行が進み、TikTokの短編動画の台頭を契機に、InstagramYouTubeなども同様の短編動画機能を導入した。このような変化は、オンライン動画の制作・消費のあり方に大きな影響を与えている。さらに、オンラインエンターテインメントの社会的価値も変化し、アイルランドではコンテンツ制作やインフルエンサー育成を目的とした学士課程が設置されている。

2023年のデータによれば、ソーシャルメディアは依然としてインターネット利用の最大の割合を占めており、労働年齢層のユーザーは日々2.5時間以上をソーシャルメディアに費やしている。この傾向に伴い、インターネットが心理的・社会的な影響を及ぼす可能性について、国の健康政策や臨床ガイドラインの整備が進み、多くの学術研究が発表されている。

本稿は、2019年のレビューを更新し、インターネットが精神的、認知的、社会的健康に与える影響に関する最新の仮説を拡張するものである。定量的および質的研究の最新データを活用し、インターネット利用が個人の精神状態にどのような影響を及ぼすかを経験的に分析するとともに、影響を媒介する可能性のある社会人口学的、心理的、行動的要因を解明することを目指している。

インターネット利用の心理的影響:個別的視点から

インターネット利用が精神的健康に与える影響は、特にソーシャルメディアと若者に関して、主流メディアや世間の注目を集め続けている。例えば、2021年にアメリカの公衆衛生局長が発表した声明では、ソーシャルメディアが若者の自殺率や自傷行為の増加に関与している可能性が指摘され、大きな議論を巻き起こした。また、Meta(Facebookの親会社)に対する米国各州の訴訟では、若年ユーザーに心理的に操作的な機能を提供し、有害な影響を与えたとして非難されている。

一方で、米国の主要なメンタルヘルス支援団体(NAMI)などは、ソーシャルメディアが精神的健康にリスクをもたらす一方で、スティグマを減らし、理解を深め、ピアサポートを提供するという利点もあると指摘している。このような議論を踏まえ、実証的な証拠を定期的に見直し、公衆衛生政策や指針に反映させる必要がある。

近年の研究によれば、インターネット利用(特にソーシャルメディア)のネガティブな影響は、利用時間そのものよりも他の要因に起因する可能性が示唆されている。大規模な疫学研究やメタ分析では、利用時間と精神的健康(うつや不安)との間に強い因果関係が見られないことが多い。一方で、インターネット利用と幸福感の間にU字型の関係があることを示す研究もあり、1~2時間程度の適度な利用が最も心理社会的に良好な結果をもたらすとされる。

また、ソーシャルメディアの利用を部分的または完全に控えることが精神的健康に与える影響を調査したランダム化比較試験(RCT)のメタ分析では、うつや不安の改善が中程度から大きな効果として報告される一方で、幸福感の向上については限定的な効果しか見られない場合もある。また、一部の研究では、ソーシャルメディアを控えることで孤独感や社会的つながりの低下を招き、逆に心理的な悪影響が生じることも報告されている。

さらに、年齢や性別が心理的影響にどのように関与するかについても研究が進んでいる。大規模なイギリスのコホート研究では、社会的満足感への悪影響が女性では11~13歳、男性では14~15歳に初めて現れることが示され、思春期後期の19歳でも両者に共通してリスクが高まることが確認された。また、家族機能不全や精神的問題、孤独感などの「オフライン」のリスク要因が、オンライン上での脆弱性にも影響を与えることが明らかになっている。

これらの知見は、インターネット利用が精神的健康に与える影響を理解するためには、個人の特性や状況要因を考慮した分析が不可欠であることを示している。今後は、オンラインでの生活を支える要因や、それが精神的、認知的、社会的な結果にどのように影響するかをより深く探る必要がある。

オンラインの世界での終わりなき関わり

デジタル技術の利用と精神的健康の関係は複雑である。一方で、若者における一般的な技術利用が悪影響を与えるという世間の懸念には、全体的な影響を裏付ける強固な証拠が乏しいため、過剰反応である可能性も指摘されている。しかし、インターネットが若者にとってサイバーブリングやポルノ、ギャンブル、自殺関連コンテンツへのアクセスなど、「オンラインでの危害」にさらされるプラットフォームを提供している点は否定できない。

インターネット利用に関する最も問題視される点は「インターネット依存」として知られている。この依存は、オンラインに費やす時間の長さではなく、特定のプラットフォームへの強迫的な関与が、個人的・社会的・職業的責任を犠牲にしてまで行われることを指す。離脱症状や耐性、現実の活動や対人関係との衝突といった兆候が特徴的である。最近のメタ分析では、ソーシャルメディア依存の厳密な基準を満たす人は全体の約5%であることが示されている。

質的研究によれば、一部の若者はオンライン世界への関与が非常に強い強迫性を持つと報告している。大学生を対象とした研究では、ソーシャルメディア利用が「スロットマシンのような感覚を引き起こし、満足感を得るためにチェックせずにはいられない」との述懐があった。親たちは、オンラインゲームが自己調整能力や基本的な生活習慣に深刻な影響を及ぼす場合があると指摘しており、ゲームに没頭するあまりトイレを失敗する例も報告されている。

また、ソーシャルメディアのプラットフォームは、アルゴリズムによるコンテンツ推奨や自動スクロール、プッシュ通知などの機能を通じて利用者の高頻度かつ長時間の利用を促進している。これらの機能は報酬を与える一方で依存性を高めており、特に若者や親、医療専門家からは通知が画面時間の延長に寄与しているとの意見が多い。

自己調整の困難さについては、若者や大学生の中にはソーシャルメディアの利用をやめることが困難であると感じ、外部からの介入が必要だと考える人もいる。自己調整のためにスマートフォンを手の届かない場所に移動する、通知をオフにする、アプリをアンインストールするなどの対策が試みられている。特に感情的に脆弱な時期には、より厳格な制限が必要だとの意見もある。

今後、インターネット利用が精神的健康に与える影響をより深く理解するためには、単に利用時間や頻度を測定するだけでなく、個人や状況に応じた詳細な要因を分析することが求められる。また、アルゴリズムやプラットフォームデザインがユーザーの行動や精神的健康にどのような影響を与えるかを詳しく探る必要がある。

「つながりの育成」から「取り残される不安」へ

インターネットと脳の関係性を解明する科学が進展する中で、インターネット利用の影響は単なる使用時間や、年齢や性別といった個人特性だけに依存しないことが明らかになりつつある。インターネット利用が精神的健康に与える影響を理解するには、「良い」から「悪い」という線形的な結果にとどまらず、多様な体験が同時にポジティブ・ネガティブ両方の心理的影響を及ぼし得ることを認識する必要がある。

近年の研究では、ソーシャルメディア活動の種類(例:自分の投稿をする vs. 他人の投稿にコメントや「いいね」をする、アクティブな利用 vs. パッシブな利用)を客観的に分類する試みが進んでいる。しかし、これらの活動のどれが精神的健康に特にポジティブまたはネガティブな影響を与えるかについては、未だ一貫した証拠が得られていない。一方で、若者のデジタルデバイス利用に関する体験的側面に焦点を当てた研究からは、多くの若者がインターネット利用のネガティブな影響を感じている一方で、仕事や教育、社会関係におけるポジティブな効果も認めているという結果が得られている。

ソーシャルメディアは、特に身体的な交流が制限される状況や、高齢者や移動が困難な人々にとって、社会的つながりを維持し強化する手段として役立つことが示されている。COVID-19パンデミック時には、ソーシャルメディアが若者の社会的孤立を和らげる役割を果たした一方で、コンピュータへのアクセスがなかった青少年は精神的健康が大幅に悪化したという研究もある。

しかし、ソーシャルメディアの社会的側面は、他人が楽しんでいる体験を逃しているのではないかという「取り残される不安」(FOMO)をもたらす可能性がある。このFOMOは、ソーシャルメディア利用の増加や精神的健康の悪化と関連している。

FOMOを対象にしたランダム化比較試験(RCT)では、7日間のソーシャルメディア休止によりFOMOが減少したという結果が得られた一方で、利用時間を1日10分に制限してもFOMOに変化が見られなかったという研究もある。さらに、ソーシャルメディアからの断絶が、オンラインでのつながりに依存しているユーザーにとってFOMOを悪化させる可能性も指摘されている。

質的研究では、コメントや「いいね」などのソーシャルメディア上の認識欲求が、習慣的かつ強迫的な利用を助長していることが明らかにされている。あるティーンエイジャーの発言として、「通知が来たら見ないでいるのは本当に難しい。特に友だちとの楽しいグループチャットだったら、取り残されたくない」との証言が報告されている。

このように、インターネット利用は社会的関係を維持するための有益なツールである一方で、切断されると「取り残される不安」を生むという二重性を持つ。この現象は、オンライン世界での健全なつながりを育むための教育と理解の必要性を浮き彫りにしている。

オンライン世界における社会的比較と自己認識

インターネット利用は、心理的幸福感にポジティブまたはネガティブな影響を与える主要なメカニズムとして、社会的比較を生じさせる。この影響について、Facebookの使用が若者の自己評価を低下させるというパキスタンの学生を対象とした研究や、ドイツでの調査でソーシャルメディア利用が上昇志向的な比較を通じて自己価値感を低下させることが確認されている。

一方で、ソーシャルメディア利用の制限が必ずしも自己評価を改善するとは限らず、影響は個人の利用状況や反応に依存することも示されている。オランダでの長期的な研究では、ソーシャルメディアが自己評価に与える影響が人によって大きく異なり、ポジティブな効果を報告する例もあった。

オンライン世界での社会的比較が心理的影響を与えるもう一つの重要な分野は、身体イメージである。インターネット上の非現実的な身体の表現や理想化された食事・運動プランは、摂食障害や体重の悩みを引き起こす要因とされている。さらに、写真編集ツールによる加工された画像や、インフルエンサーによる「自然体」と偽った身体の提示も、身体イメージへの過剰な関心を助長する。

これに加え、危険な体重管理行動を推奨するオンライングループやウェブサイト(例:プロ・アナサイト)は、特に若年女性の摂食行動や運動パターンに悪影響を及ぼす可能性が高い。

これらのリスク関係は、神経認知機能の低下によっても説明される可能性がある。抑制制御の欠如がソーシャルメディア利用と摂食障害の間のリンクとなっている可能性があり、過剰なソーシャルメディア利用者の脳領域(例:中帯状皮質)の活動が低下していることが示唆されている。

また、注意バイアスも関連している。視線追跡技術や情報処理タスクを使用した研究では、摂食障害を持つ人が外見や食べ物関連の刺激に選択的な注意を示すことが確認されている。このようなバイアスは、オンライン世界での外見や食品に関連するコンテンツへの曝露を通じて、摂食や体重への関心を高める可能性がある。

これらのリスクにもかかわらず、ソーシャルメディアは適切に活用されれば身体イメージを改善する可能性がある。例えば、TikTokで身体中立性を推進する動画を視聴した大学生グループでは、理想化された身体を描いた動画を見たグループに比べ、身体満足感が向上し、気分も改善したという研究結果がある。

これらの知見は、ソーシャルメディアの活用方法次第で、若者の身体イメージを改善する可能性を示している。同時に、オンライン世界における社会的比較の認知的メカニズム、特に注意バイアスの理解を深める研究が必要であることを強調している。

無意味な気晴らしとポジティブな刺激

インターネット利用が認知能力に与える影響についての研究は、近年大きく進展している。過去のレビューでは、デジタルコンテンツや通知が注意力に与える影響、またオンラインでの情報アクセスが記憶の保持と検索能力に与える影響が主な焦点だった。それ以来、多くの研究が発表され、注意力、記憶、その他の認知機能におけるインターネット利用の影響がさらに明らかになってきた。

注意力とデジタル機器利用

大規模観察研究では、特に子どもにおいてデジタル機器の使用が集中力に悪影響を与える可能性が示唆されている。例えば、親による報告データを基にした研究では、1日2時間以上スクリーンタイムを持つ幼児は、30分未満の子どもに比べて注意欠如・多動症ADHD)症状が著しく多いことが分かった。一方で、ソーシャルメディア利用を制限したランダム化比較試験(RCT)では、注意力に有意な改善が見られなかったため、因果関係の証明には至っていない。

神経科学研究では、脳の機能的接続性とデジタル機器利用との関連を調べた結果、スクリーンメディアの使用が脳のネットワーク動態に与える一貫した因果関係は確認されていない。一方で、特定のスクリーンメディア活動(例:ビデオ視聴やゲーム)が視覚システムの成熟や流動性知能の向上と関連していることが明らかになった。

行動研究では、スマートフォン利用がタスクからの注意散漫に与える影響をリアルタイムで調査した。結果は、動画視聴やインターネット閲覧など、利用目的によって個人ごとに注意散漫の程度が異なることを示した。また、SNS利用の習慣的な性質が注意力を脅かす要因として挙げられ、特に「無意識にスクロールする」行動が時間感覚の喪失を引き起こすことが報告されている。

インターネット利用は一律に悪影響を与えるわけではなく、状況や個人によってはポジティブな効果ももたらす。例えば、教育的コンテンツを含むデジタルデバイス利用は、記憶ゲームやパズルを通じて認知能力を高める可能性がある。また、ポッドキャストを聞きながら通勤するなどのマルチタスクは、認知的負荷を軽減しつつ効率を向上させるとの意見もある。

ゲーム利用に関しても賛否が分かれるが、適度なゲームは視空間スキルの向上や認知機能の改善に寄与するとの報告がある。

これらの知見を総合すると、認知への悪影響を軽減するためには、個人が自分のオンライン活動のどの部分が目標達成を妨げているかを認識し、それに対処するパーソナライズされた介入が有効である可能性がある。一律の利用制限プロトコルでは効果が限定的であることから、個別の習慣に基づくアプローチが今後の研究と実践において重要である。

オンライン世界が身体と脳に与えるオフラインの影響

インターネット利用が認知機能に与える影響の一因として、オンラインでの時間が身体活動や睡眠といった「認知を促進する」行動にどのような影響を与えるかが挙げられる。インターネットの利点は多いものの、人口全体で座りがちな行動(静的行動)の増加に寄与しており、これが注意力や記憶、その他の認知機能に悪影響を及ぼす可能性が指摘されている。この「代替仮説(displacement hypothesis)」を支持する証拠として、座りがちな行動と認知機能の関連を調査したメタ分析やレビューがあり、それらの結果は座りがちな行動の増加が認知機能の低下や障害リスクの上昇と結びついていることを示している。

身体活動が認知機能に及ぼすポジティブな影響については多くの証拠があり、身体活動が多い成人では認知機能低下の発生率が半分に抑えられることが報告されている。また、人生のどの時期においても身体活動を行うことは、将来の認知状態を高める要因となり得る。さらに、「精神的に能動的」な座りがちな行動(例:読書やビデオゲーム)は、「精神的に受動的」な行動(例:テレビ視聴)よりも認知機能への悪影響が少ない可能性が示唆されている。

英国バイオバンクの研究では、精神的に受動的な座りがちな行動(テレビ視聴)が認知スコアの低下と関連し、一方で精神的に能動的な行動(コンピュータ利用)が認知スコアの向上と関連していることが示された。

オンライン活動が増えることで睡眠に与える影響も重要な要素である。特に若者では、睡眠時間の減少、不規則な睡眠習慣、入眠や覚醒の困難といった問題が増加している。睡眠不足は注意力、記憶、実行機能に直接的な悪影響を及ぼし、学習や情報の記憶にも支障をきたす。さらに、デジタルスクリーンが発するブルーライトメラトニンの分泌を妨げ、睡眠覚醒リズムを乱すことで断片的で質の低い睡眠を引き起こし、認知機能に悪影響を与える可能性がある。

座りがちな行動、身体活動、睡眠を1日の中でどのように組み合わせるかを示す「24時間運動ガイドライン」が近年注目されている。このガイドラインを守ることで、子どもでは認知機能の向上や脳の灰白質量の増加、青年期では認知障害の発生率の低下が観察されている。また、幼児では座りがちな行動を中程度から強度の身体活動に置き換えることで抑制制御が向上するという結果も報告されている。

インターネット利用が座りがちな行動を増やし、身体活動や睡眠時間を減らしてしまう場合、その認知機能への悪影響を防ぐには、健康行動の改善が効果的な方法となり得る。例えば、オンラインでの活動が「精神的に受動的」なものから「精神的に能動的」なものにシフトするよう政策を整備することが重要である。また、インターネット利用が身体活動や睡眠時間に与える影響を軽減するための研究が必要である。

インターネット利用が座りがちな行動を通じて認知に与える負の影響を最小限に抑えるためには、健康的な行動を促進する政策や個別化された介入が必要である。特に、座りがちな行動の質を向上させることや、身体活動や睡眠の時間を確保することが、オンライン世界の影響を管理する上で重要である。

「カルチュロミクス」の登場

デジタル革命の進展に伴い、インターネット利用の拡大が社会全体で進む中、オンライン世界における興味、意見、行動の変化を研究する新たな機会が生まれている。膨大で急速に増加するオンラインデータは、人間の行動、日々のリズム、関心、態度、規範、価値観についての貴重な情報を提供しており、高い空間的・時間的解像度を持つ。これらは、大量のデジタルデータを定量的に分析することで人間文化を研究する新興分野「カルチュロミクス」の重要な研究テーマである。この分野は特に社会科学や人文学で広く利用されつつある。

カルチュロミクスの研究対象には、SNS検索エンジン(例:Google)の検索ボリューム、オンライン百科事典(例:Wikipedia)の閲覧数、画像・動画共有プラットフォーム(例:InstagramYouTube)、オンラインニュースプラットフォームなどが含まれる。これらは自然言語処理機械学習などの分析手法を用いて、精神衛生に関わる多様な問題の洞察を提供している。

例えば、フィンランドではインターネット上のうつ病関連情報検索の昼夜変化を分析した研究があり、うつ病関連の用語や支援を求める関心は夜間(午後11時から午前4時)にピークを迎えることが示された。また、Twitter投稿のテキスト分析を通じて、昼夜や季節ごとの気分リズム、および個人差(クロノタイプ)、文化、世界規模での違いが評価された。この研究では、ポジティブな感情(例:熱意や喜び)が朝と深夜にピークを迎える一方で、ネガティブな感情(例:不安や怒り)は夜間にピークを迎えることが示された。さらに、北半球の高緯度地域では、季節的なうつ病や不安のピークが主に日照時間の減少により引き起こされるポジティブな感情の低下によって説明されることも観察された。

ただし、オンラインデータを研究に利用する際には、インターネットの普及状況の不均一性、言語の壁や文化的な違い、データ共有の制約、データの時間的な利用可能性と劣化、所有権の問題、個人情報保護など、いくつかの課題が存在する。それでも適切に活用すれば、これらの手法は社会科学や心理学、精神医学の主要なツールになる可能性を秘めている。

さらに、カルチュロミクスは個人の認知的影響を超えて、インターネットが社会全体の注意力にどのような影響を与えているかについても新たな知見を提供しつつある。オンラインでの社会的相互作用や情報消費は、特定の問題や文化的な製品に対する公共の注意が減衰する「注意の短命性」に特徴づけられている。注意減衰は、限られた注意スパンや選択的注意、注意の飽和と疲労など、さまざまな心理的・認知的要因によって自然に生じるプロセスであり、時間とともに公共の関心が増減する周期的なパターンを形成する。

この注意減衰のプロセスは、情報やコンテンツの過剰生産と消費の中で加速しており、ますます競争的で過剰な情報環境が注意スパンを圧迫し、疲弊させている。例えば、デジタル化された書籍や雑誌(Google Books)、映画チケットの売上(Box Office Mojo)、インターネット検索ボリューム(Google Trends)、SNSTwitter)、フォーラム(Reddit)、百科事典(Wikipedia)など、さまざまなプラットフォームのデータを6年から100年にわたってモデル化した研究では、特定の問題に関する公共の注意の上昇と下降がますます急激になり、問題間での注意の移動頻度が増加していることが示された。また、環境問題に関するインターネット検索ボリュームを基にした研究では、公共の注意の持続期間が数日から数週間に限られていることが示された。この分野の研究は、精神衛生問題に関する情報の普及や反スティグマキャンペーンにとっても重要な意味を持つ。

メタバースにおけるメンタルヘルスの未来

技術の進展により、バーチャルリアリティVR)や拡張現実(AR)、人工知能(AI)技術のオンラインプラットフォームへの統合が、社会的交流の理解と実践を大きく変えようとしている。これらの技術は、現実に近い没入型体験を提供し、複雑な社会的シナリオをリアルかつ制御された環境で体験できるため、共感や社会的理解を向上させる可能性が示されている。

こうした技術を用いることで、社会的スキルを練習・向上させる新たな場が提供される一方で、現実世界の交流からの乖離や、これらの技術への依存といった問題も懸念される。特に「メタバース」という概念は、VRやAR技術を活用した広大な仮想空間を指し、高いインタラクティブ性とユーザー生成コンテンツ、さらにデジタル経済を備えている。現在のメタバースはまだ断片的で、完全に統合された形ではないが、その影響は娯楽やゲーム分野を超え、金融、教育、医療など多岐にわたる。

メンタルヘルス分野では、メタバースは患者との相互作用、データ収集、社会的シナリオのシミュレーションを通じ、新たな研究と治療の可能性を開くと期待されている。たとえば、VRを活用した「アバター療法」は、患者が仮想空間で自分自身や他者を模したアバターと対話することで、自己理解や共感の促進、特定の恐怖症への段階的な曝露などに利用される。こうした治療法は、個々のニーズに応じたカスタマイズが可能で、特に自己批判の強い患者への自己慈悲の醸成に効果があるとされる。

しかし、「プロテウス効果」と呼ばれる、アバターの特性が個人の行動や態度に影響を与える現象も課題として挙げられる。この効果を治療に役立てることは可能だが、逆効果を生むリスクもあり、患者が孤立感を深める可能性もあるため、さらなる研究が必要である。

一方で、AI技術は膨大なデータ解析を通じ、個別化された社会的支援や感情理解を提供する可能性がある。特に、高度な言語モデルの発展により、人間との対話がより正確で共感的なものとなり、メンタルヘルスケアや学習支援など多様なニーズに対応可能になりつつある。

メタバースとAIの組み合わせは、社会的認知や技能向上を目指す治療や訓練に新たな道を開くと考えられる。しかし、プライバシー、データの透明性、オンライン安全性の確保といった課題は依然として重要であり、特に子どもへの影響や社会的孤立への懸念が親から寄せられている。

これらの技術の進化が、社会的相互作用のあり方をより共感的で包摂的なものへと変える可能性がある一方、オンライン活動に伴うリスクも同様に拡大する。技術の進歩と課題を見据えながら、これらをどのように活用するかが今後の課題である。

結論

本レビューが提示する証拠と洞察は、インターネットがメンタルヘルス、認知、社会性に与える影響の理解を大きく進展させるものである。これにより、「オンライン・ブレイン」という二元的な見方を超えて、個々人の「オンライン生活」の特性がインターネットと脳の相互作用に与える影響を詳細に探求する道が開かれる。神経科学、行動科学、社会学の革新的な定量・定性研究を統合することで、デジタルな相互作用が日常的または一時的、さらに長期的に精神状態にどのように影響を及ぼすかについて新たな視点を提供する。最新の知見は、インターネットと脳の相互作用が多様な社会的、心理的、行動的要因に依存する複雑なものであり、インターネット利用が一様な体験ではなく、個人の特性や文脈により大きく異なることを強調している。

これに伴い、インターネットやその利用を「良い」または「悪い」といった二極的な観点で捉える従来のアプローチから、ほとんどのオンライン活動がもたらす同時的な肯定的・否定的影響の可能性を詳細に分析する方向へと研究がシフトしている。このため、今後の研究では、個人のオンライン生活の詳細がメンタルヘルス、自己認識、認知、ライフスタイル、社会性にどのように影響するかを精緻に検討し、インターネット利用が日常生活にどのように織り込まれているかを考慮したアプローチが求められる。

さらに、新興分野であるカルチュロミクスは、インターネットとそのデータを活用し、習慣、態度、能力、さらにはオフライン世界との関わりの変化を動的に理解する手段を提供する。また、バーチャルリアリティや拡張現実、人工知能といった技術がオンラインおよびオフラインでの相互作用の在り方をさらに変革する可能性が示唆されており、これらの新技術がもたらす神経心理社会的影響を厳密に評価し続ける必要性が指摘されている。これにより、次世代のデジタル活用に向けた指針を形成することが求められる。

総じて、本レビューの知見は、インターネットが心理的、認知的、社会的機能に与える影響を個別化し、精緻に理解する方向へと進む助けとなるものである。これに基づき、今後の研究、ガイドライン、施策では、神経科学、行動科学、社会科学の学際的知見を考慮し、証拠に基づく多面的アプローチを採用して、オンライン世界との関わりの利点と欠点に対応することを提唱する。

MDMAとMDMAアシストセラピー

psychiatryonline.org

  • Wolfgang, A. S., Fonzo, G. A., Gray, J. C., Krystal, J. H., Grzenda, A., Widge, A. S., Kraguljac, N. V., McDonald, W. M., Rodriguez, C. I., & Nemeroff, C. B. (2025). MDMA and MDMA-Assisted Therapy. American Journal of Psychiatry, 182(1), 79–103. https://doi.org/10.1176/appi.ajp.20230681

要旨
MDMA(すなわち、3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン)は、一般に「エクスタシー」または「モリー」として知られ、1970年代からレクリエーションと治療の両方の場面で使用されてきた。食品医薬品局(FDA)は2017年、MDMA-Assisted Therapy(MDMA-AT)を心的外傷後ストレス障害PTSD)に対する画期的治療薬に指定したが、FDAは2024年に最初の新薬申請を却下した後、追加の第3相試験を要求している。他のサイケデリックとは異なり、MDMAは自我機能と認知・知覚の明晰さを維持しながら、信頼と自己憐憫の高まりという向社会的主観的効果を独自に誘発する。非医療的環境における娯楽的使用は、特に不純物や適切な予防措置なしに使用された場合に、依然として害を引き起こす可能性があるが、娯楽的使用の研究から導き出される結論は、多くの交絡によって制限されている。このため、レクリエーションでの使用に関連するエビデンスを治療での使用に外挿できる範囲は特に限定される。かなりの数の予備的証拠が、管理された臨床環境で投与されたMDMA-ATがPTSDの安全かつ有効な治療法であることを示唆している。心理療法に支えられた3回のMDMA投与を含むMDMA-ATのコースの後、PTSD患者の67%~71%がMDMA-AT後に診断基準を満たさなくなったのに対し、プラセボ支援療法では32%~48%であり、その効果は長期追跡調査でも持続している。本総説の主な目的は、非臨床環境におけるレクリエーション的使用の証拠と、管理された臨床環境における医薬品グレードのMDMAを用いたMDMA-ATとを区別することである。本総説ではさらに、治療効果の基礎となるMDMAの推定される神経生物学的メカニズム、MDMA-ATの臨床的エビデンス、公衆衛生と政策のレベルでの考察、および今後の研究の方向性について述べる。

MDMA-ATの研究とその背景

MDMA(3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン)は、通称「エクスタシー」や「モリー」として知られるが、近年では主に心的外傷後ストレス障害PTSD)の心理療法を補助する治療法(MDMA-AT)として研究されている。75–125mgのMDMAを投与するランダム化臨床試験8件では、プラセボ群や40mg以下の低用量MDMAを投与された群と比較して、中等度から大きな効果量(Cohen's d=0.70–0.91)を示した。FDAは2017年にMDMA-ATを「画期的治療」に指定し、2022年からは臨床試験外でもFDA規制下での治療が可能となった。しかし、2024年初頭の新薬申請は、第3相試験の設計上の限界を理由に承認されなかったため、改訂版の試験が求められている。

MDMAに関する証拠は、非臨床環境での潜在的な害と、臨床環境でのMDMA-ATの有効性とリスク低減の2つの側面に分かれる。これらを混同することは、非臨床環境でのリスク過小評価や臨床環境での効果過大評価につながる恐れがある。MDMA-ATの有効性を評価するには、非臨床環境での使用と臨床環境での使用の違いを明確に区別する必要がある。

MDMAは1912年に化学者アントン・ケリッシュにより合成されたが、その精神活性特性が注目されるのは1970年代以降である。1960年代には類似物質であるMDAが精神療法の補助として使用されていたが、MDAが規制対象となった後、MDMAが非公式に使用されるようになった。アレクサンダー・シュルギンが1976年にMDMAの試験を開始し、心理療法に導入した。1985年には初めて臨床での使用報告がなされ、MDMAは感情表現の促進やトラウマの記憶回復に有効とされたが、同年に規制物質スケジュールIに指定された。

この決定を受け、1986年に非営利団体MAPSが設立され、MDMA-ATの科学的基盤を構築する努力が続けられている。MAPSはPTSD治療のためのすべてのランダム化試験を支援し、2024年には新薬申請を目指す形で活動を続けている。今後の課題として、MDMA-ATの科学的基盤の強化、公衆衛生や政策レベルでの議論、さらなる臨床研究が挙げられる。

MDMAの特性と臨床的特徴

分類と主観的効果

MDMAは一般に「古典的幻覚剤」ではなく、「非古典的幻覚剤」に分類される。古典的幻覚剤(LSDやシロシビン)は、強い視覚的変化、霊的体験、自我の喪失、一体感などを引き起こすが、MDMAはこれらの効果を示さない。MDMAの主な効果は、ポジティブな気分、高揚感、外向性の増加であり、これらは古典的幻覚剤の作用機序である5HT2A受容体アゴニズムに依存しない。また、MDMAは自己慈悲を高め、共感や社会的つながりの感覚を増幅させる「エンパソジェン」または「エンタクトゲン」として特徴付けられる。

客観的効果

MDMAは急性の交感神経模倣効果を引き起こし、血圧、心拍数、体温の上昇、および瞳孔拡大をもたらす。これらの効果は用量依存的であり、MDMAの代謝を担うCYP2D6の活性により影響を受ける。ランダム化二重盲検試験では、MDMA、LSDアンフェタミンは同様の生理学的反応を示すが、心拍数と血圧の増加パターンには差異がある。

薬理学と神経科

MDMAは主にセロトニン再取り込みを阻害することで作用するが、ノルエピネフリンドーパミンにも影響を及ぼす。加えて、MDMAはオキシトシン分泌を4倍に増加させる特性を持ち、この効果は他の薬物では見られない。オキシトシンの作用により社会的報酬学習が一時的に強化され、信頼感やつながりの感覚が高まる。一方で、オキシトシンは肯定的および否定的な社会的結びつきを強める可能性があり、MDMAの効果を完全には説明できない。

恐怖反応の低減

MDMAは扁桃体の活動を抑制し、社会的脅威に対する恐怖反応を低下させる。また、恐怖条件付け後にMDMAを投与すると、安全記憶の強化や恐怖消去の保持が促進される。この特性はPTSD治療におけるMDMAの有効性に寄与していると考えられる。

MDMAは、その特異な神経生物学的作用を通じて、心理療法の補助としての可能性を示しており、共感や自己内省を促進する点で他の薬物とは一線を画す。

MDMAとMDMA補助療法の安全性

「エクスタシー」とMDMAの違い

MDMAは、非臨床環境で使用される「エクスタシー」とは明確に区別されるべきである。「エクスタシー」は純粋なMDMAを含まない場合が多く、混入物質(コカインやアンフェタミンなど)が原因で毒性リスクが高い。一方、臨床環境で使用される医薬品グレードのMDMAは、管理された条件下で安全に使用される。

神経毒性

MDMAが神経毒性を持つという主張の多くは、過去の誤った研究結果に基づくものである。動物実験では高用量で神経毒性が報告されているが、臨床的な治療用量(1.7mg/kg)は神経毒性を示さない。むしろ、新しい神経結合形成を促進する可能性がある。

死亡リスク

非臨床環境での「エクスタシー」使用による死亡リスクは稀であるが、高体温や低ナトリウム血症が主な原因である。これらのリスクは臨床環境で適切に管理される。臨床試験では500,000回以上の投与が行われ、死亡例は報告されていない。

心血管系への影響

MDMAの交感神経模倣効果により、心拍数や血圧が上昇する可能性がある。健康な被験者では、血圧は正常範囲内に収まることがほとんどであり、臨床環境では医療的監視とスクリーニングによりリスクが最小限に抑えられる。

精神的影響

非臨床環境での「エクスタシー」使用は、不安や抑うつの増加と関連が指摘されるが、これらは多剤併用の影響が大きい。臨床試験では、MDMA補助療法中に不安反応や低気分が一部で報告されるが、全体的には抑うつの改善が見られる。

神経認知機能

「エクスタシー」の使用が神経認知機能に与える影響は一貫していないが、臨床試験でのMDMA補助療法では認知機能に悪影響がないことが確認されている。

依存性

MDMAの依存リスクは低く、動物および人間の研究ではコカインやメタンフェタミンほどの依存性が示されていない。臨床試験後に非承認環境での「エクスタシー」使用が報告されることがあるが、これらはほとんどが治療目的での自己投与であり、持続的な乱用には至らない。

セロトニン症候群

MDMAはセロトニン経路を活性化するが、単独ではセロトニン症候群を引き起こしにくい。ただし、モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI)との併用ではリスクがあるため、臨床試験では適切な薬剤洗浄期間が設けられている。

関係性の安全性

MDMA補助療法では、患者と治療者間の安全性が重視される。治療的接触(手や肩に触れるなど)は患者との事前合意のもとで行われるが、倫理的基準を守るための厳しい管理が求められる。依存傾向や暗示性の増加も潜在的なリスクとして挙げられるが、現在の臨床環境ではこれらのリスクを最小限に抑える体制が整っている。

「エクスタシー」と臨床環境で使用されるMDMAは明確に区別されるべきである。非臨床環境での「エクスタシー」使用はリスクがあるが、医薬品グレードのMDMAを適切な環境で使用する場合、安全性が高い。依存性や神経毒性のリスクは低く、主要な有害事象は臨床環境で適切に管理される。MDMA補助療法は、医療的および精神的に安全であると考えられる。

MDMA補助療法(MDMA-AT)の概要と課題

治療コース

MDMA-ATは3種類のセッションから構成される。準備セッション(90分×3回)は、患者への教育や治療目標の共有が目的である。その後、6~8時間のMDMAセッションが2~3回、約1か月間隔で実施される。各MDMAセッション後には3回の統合セッション(90分×3回)が行われ、治療全体で6~9回の統合セッションを含む。MDMAセッションでは、初回投与(75~125mg)から90~120分後に半量の追加投与が行われる。

治療法

MDMA-ATは患者中心かつ非指示的アプローチに基づき、信頼と自己発見を促進する。標準的には男女ペアのセラピストが担当するが、同姓ペアを用いる新しい試みも行われている。

PTSDに対する有効性

MDMA-ATは8つの無作為化試験で約300人のPTSD患者を対象に実施され、従来の治療法に抵抗性の高い患者が多かった。第3相試験では、MDMA群の67%~71%がPTSD診断基準を満たさなくなった(プラセボ群は32%~48%)。さらに、1年後のフォローアップでは、治療効果が持続し、74%がPTSD診断を満たさない状態を維持した。

他の治療法との比較

PTSDの既存の標準治療である持続エクスポージャー療法(PE)や認知処理療法(CPT)は、PTSD診断を満たさなくなる割合が28%~40%と低く、治療中断率も高い(13%~56%)。MDMA-ATは、治療効果や患者の継続率の面で優れているが、直接比較研究はまだ行われていない。

コモービッドな症状への効果

PTSDに併存する抑うつ不眠症状がMDMA-ATによって改善されることが示されている。また、治療後の「心的外傷後成長」も確認され、自己認識や対人関係、人生観のポジティブな変化が観察された。

他の疾患への応用

PTSD以外でも、アルコール使用障害、自閉スペクトラム症の社会的不安、生命の危機に関連する不安、耳鳴りに対するMDMA-ATの試験が行われている。特にアルコール使用障害では、MDMA-AT群の飲酒再発率が顕著に低下した。

制限と課題

MDMA-AT研究には以下の限界がある: 1. 盲検の限界: MDMAの特異な効果により、プラセボとの区別が容易である。 2. 期待バイアス: 被験者の約30%~46%が過去にMDMAを使用しており、効果に対する期待が結果に影響を与える可能性がある。 3. サンプルサイズ: 第2・3相試験で約300人が対象となったが、FDA承認のための一般的な薬物試験より少ない。 4. 長期データ不足: 治療効果の持続性について盲検化された長期データが不足している。 5. 投与量研究の不足: 中間投与量や追加投与の効果についての十分な検討が行われていない。

MDMA-ATはPTSD治療において有望な治療法であるが、限られたデータと方法論的制約が存在する。今後は、投与量や長期効果、他の治療法との比較を含むさらなる研究が求められる。

今後の方向性

薬理学: MDMAの誘導体と類似物質

MDMAの薬理特性を変化させる誘導体や類似物質の開発は、多くの可能性を秘めた研究分野である。R(−)-MDMAは、従来のラセミ混合物よりも副作用が少なく、治療効果が高い可能性がある。さらに、リシン結合型のMDMAやMDA誘導体は、作用の緩やかな発現を目指して開発中である。長時間作用型の現在の薬剤に代わる可能性を持つこれらの新しい物質は、さらなる研究が必要である。

治療メカニズムの解明

MDMA-ATの臨床的有効性は示されているが、その正確な神経生物学的メカニズムは未解明である。MDMAによる記憶再固定化や恐怖消去、神経可塑性の増加、オキシトシン放出などが治療効果に寄与している可能性があるが、これらの作用の詳細を明らかにする研究が必要である。また、治療同盟や信頼関係が治療効果にどの程度影響を与えるかも調査すべき重要な課題である。

治療モダリティの検討と発展

MDMA-ATは非指示的かつ人間中心のアプローチを採用しているが、このモダリティ自体の有効性を検証する試験は行われていない。MDMAを従来の心理療法と組み合わせた新しい治療法(例: PTSDのための認知行動共同療法)も今後の研究対象となるべきである。

新しい適応症の検討

MDMA-ATはPTSD以外の適応症(例: アルコール使用障害、自閉スペクトラム症の社会的不安、耳鳴り)にも研究されている。これらの疾患におけるMDMA-ATの有効性を確立するには、さらなる大規模な試験が必要である。

治療提供モデルの効率化

現在のMDMA-ATはリソース集約型であり、1コースの治療に約52~84時間のセラピスト時間が必要である。この効率を向上させるため、以下のような新しい提供モデルの研究が求められる: 1. 複数の患者を同時に治療する。 2. グループセッションを導入する。 3. 一部のセッションをオンラインや事前録画モジュールで実施する。

非医療利用の公的政策とアクセス

MDMAやその他の幻覚剤の非医療利用を合法化または非犯罪化する動きが進んでいる。オレゴン州では「サイロシビン・サービス」を提供するモデルが既に法制化されており、今後、MDMAを含む幻覚剤がこのモデルに組み込まれる可能性がある。一方、非犯罪化モデルや個人ライセンスモデルも提案されており、これらの進展は今後の議論の焦点となる。

研究資金の支援

NIH(米国国立衛生研究所)は長らくMDMA研究への資金提供を制限してきたが、最近ではサイロシビンを対象とした研究に資金提供を開始した。MDMA-ATに関する臨床試験データがサイロシビン以上に充実していることを踏まえると、今後、NIHによるMDMA-ATの研究支援が進む可能性が高い。

結論

古典的幻覚剤とMDMAの区別

MDMAは古典的幻覚剤とは異なり、「エンタクトゲン」として分類される独自の薬理学的特性と主観的効果を持つ。古典的幻覚剤が自我の喪失や認知・知覚の変容を伴うのに対し、MDMAは自我機能や認知の明晰性を保ちながら、深い感情的な治療的突破口を可能にする社会的に変容した意識状態をもたらす。この効果は、信頼、共感、自己慈悲、ストレスや恐怖への「耐性窓」の拡張によって媒介される可能性がある。

「エクスタシー」と医薬品グレードのMDMAの区別

非臨床環境で使用される「エクスタシー」は不純物を含む場合が多く、そのリスクの多くは未知の混入物質や安全でない環境に起因する。一方、医薬品グレードのMDMAは管理された臨床環境で安全に使用され、依存性や有害性のリスクが低い。MDMA-ATの研究は一部、特定の依存症治療への有効性を示唆している。

混同によるリスク

非臨床環境の「エクスタシー」と臨床環境でのMDMA-ATの研究結果を混同することは危険である。エクスタシーが医薬品グレードMDMAのデータを基に過小評価されると、安全性が誤って過信される可能性がある。一方、MDMA-ATがエクスタシーのリスクデータを基に過大評価されると、治療の遅延や患者への利益の機会を失う可能性がある。それぞれの証拠を適切に適用することが重要である。

MDMA-ATの有効性と安全性

8件のランダム化プラセボ対照試験は、MDMA-ATがPTSD治療において安全で有効である可能性を示している。治療を受けた患者の3分の2がPTSD診断基準を満たさなくなった。この結果に基づき、FDAは2017年にMDMA-ATを「画期的治療」に指定し、2022年には「拡大アクセス(compassionate use)」を許可した。

今後の課題

FDAが追加の第3相試験を求めているように、さらなる研究が必要である。具体的には以下が挙げられる: - 以前の試験設計の限界を克服する研究 - MDMAおよびその誘導体の薬理学の調査 - 治療モダリティの強化と改善 - 治療メカニズムや反応予測因子の解明 - PTSD以外の適応症の調査 - リソース効率を向上させつつ安全性と有効性を維持する治療提供モデルの改善 - データに基づいた患者中心の公共政策の設計

これらの方向性は、MDMA-ATが臨床的および政策的にさらなる発展を遂げるために不可欠である。