ナンシー・ペトリーのレビューからエクササイズ依存症について。
運動依存症、運動嗜癖・エクササイズ嗜癖(Exercise Addiction) などの呼び方がある。
過度の運動の結果、体に害があることが当初は想定されていなかったため、「積極的な依存症」(Glasser 1976)として指定されていた。
- Glasser W. Positive Addiction. New York: Harper & Row; (1976).
運動依存症が一次的なものか、二次的なものかということで区別されている。一次的なものは運動そのものが目的である一方で、二次的なものは体重減少が目的であり、運動はその目的を達成するための手段とされている(Berczik et al. 2012)。
- Berczik K, Szabó A, Griffiths MD, Kurimay T, Kun B, Urbán R, et al. Exercise addiction: symptoms, diagnosis, epidemiology, and etiology. Subst Use Misuse (2012) 47(4):403–17.10.3109/10826084.2011.639120 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22216780
ただ、一次的なエクササイズ依存症の人も体重やダイエット、ボディイメージに気を取られていることが多く、両者の区別は容易ではない。
運動依存症は摂食障害、特に神経過食症と強い関係がある(Lejoyeux et al. 2008)
- Lejoyeux M, Avril M, Richoux C, Embouazza H, Nivoli F. Prevalence of exercise dependence and other behavioral addictions among clients of a Parisian fitness room. Compr Psychiatry (2008) 49(4):353–8.10.1016/j.comppsych.2007.12.005 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18555055
二次的なエクササイズ依存症は実際には摂食障害の症状であると考えるのが適切である。また、摂食障害だけではなく筋醜形恐怖症(muscle dysmorphia)とも重なっている。筋醜形恐怖症は、自分の体が実際にはたくましいのに貧弱なのではないかと慢性的に不安に思ってしまうもので、醜形恐怖の一種である。
エクササイズ依存症は強迫性スペクトラム障害と考えられてきたが(Berczik et al. 2012)、不安や抑うつの症状とも関連があり、反復的な運動や強迫的な運動は、不安や抑うつを和らげる必要性(Weinstein & Weinstein 2015)や苦痛や不快な感情状態を回避する必要性(Szabo 2010)によって駆り立てられることがある。しかし、これらの関係は十分に調査されておらず、そのインプリケーションも明らかではない。
Weinstein A, Maayan G, Weinstein Y. A study on the relationship between compulsive exercise, depression and anxiety. J Behav Addict (2015) 4(4):315–8.10.1556/2006.4.2015.034
Szabo A. Addiction to Exercise: A Symptom or a Disorder? New York: Nova Science Publishers; (2010).
雑感
醜形恐怖は整形手術を繰り返す群がいるが、筋肉に対して不十分であるという恐怖であれば、整形手術の代わりになるのはパンプアップなどの筋肉運動である。おそらく、整形手術よりも容易にできるため、筋肉を鍛えて強迫性や不安を打ち消す人は多くなるだろう。
下記記事ではLGBTでこの症状は起こりがちであると指摘されている。
Wikipediaをざっと読んだ感じでは、思ってる以上に研究がされているようだ。
筋醜形恐怖症は、DSM-5では身体醜形障害(Body. Dysmorphic Disorder; BDD)に分類される。