井出草平の研究ノート

インターネット・ゲーム障害のレビュー

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ナンシー・ペトリーによるレビュー。ナンシー・ペトリーはアメリカ精神医学会のDSM-5の物質使用と関連障害ワークグループの議長であった人物だ。ギャンブル障害に引き続いて、インターネット・ゲーム障害についてもみていこう。

DSM-5とインターネット・ゲーム障害

ワークグループは、さらなる研究を必要とする状態として、研究の付録であるセクション3にインターネットゲーム障害のみを含めることを推奨した(Petry et al. 2015)。ワークグループは、他の条件に関する既存のデータは、新しい精神障害としてのStein(2010)の基準に適合するには予備的すぎると結論付けた。

DSM-5では、よくある誤解を明確にするために、オフラインでのゲームやインターネットに接続していないデバイスでのゲームもこの状態を構成する可能性があると明記されている。インターネットを利用したビデオゲームのアプリケーションが最も問題と関連していることと、「ギャンブル障害」との区別をつけるために、「インターネット」という言葉を含んだ"Internet gaming disorder"という用語を用いている。

後半の記述はこれは知らなかった。そんな含意があったとは。

概念

ゲームは特に思春期の男子に人気のある娯楽であり、男子の 90%以上がビデオゲームをプレイしており、週に平均 12 時間プレイしていると推定されている(Gentile 2009)。ギャンブル障害や物質使用障害と同様に、時間や頻度の記述子は診断基準に含まれていない(Hasin et al. 2013)

使用量が依存・嗜癖を測る指標になるかは議論があるようだ。尺度の表面妥当性に重きを置く心理学系の人は使用時間が有用という傾向があり、臨床と密接な精神医学、臨床心理学系の人は否定的な印象がある。

Koo et al. (2017)は、現在ゲーミング問題を抱えている人、過去にゲーミング問題を抱えていたが現在は抱えていない人、対照群の3つのグループ(N = 75/各グループ)に対して、DSM-5基準に基づいた臨床面接を実施した。ほとんどの基準は分類状態に大きく寄与し、5つの基準のカットポイントは、正常なレベルのプレイをしている人と臨床的に重大な問題を経験している人を区別する上で最大の感度と特異性を持っていた。Koo et al. (2017)は236人の青年に構造化評価を実施し、1ヶ月間のテスト-再テストの信頼性、臨床的印象との良好な一致、および十分な識別妥当性を見出した。有望ではあるが、一般集団、ハイリスク群、臨床群にまたがるより大きな異文化サンプルで基準を評価するためには、さらなる研究が必要である。

DSM-5の基準の妥当性にはいろいろな意見がある。そちらはまた別稿で。

疫学

2016年までに学校または一般集団を対象に実施された回答者3,000人以上を含む大規模研究から得られたIGDの推定有病率の概要である。有病率は0.3%から4.9%までの幅があり、半数以上の研究では2.0%未満となっている。有病率は研究によって異なるが、その理由の一部には、サンプル、測定方法、基準の違いがある。分類に関する懸念を考慮すると、これらの有病率は慎重に解釈すべきである。

筆頭著者、年 N 年齢 尺度 %
Wittek, 2016 ノルウェー 10,081 16-74 Game Addiction Scale 0.3 – 0.5
Rehbein, 2015 ドイツ 11,003 13-18 Video Game Dependency Scale 1.2
Van Rooij, 2011 オランダ 4,559 13-16 Compulsive Internet Use Scale 1.5
Muller, 2015 ヨーロッパ 12,938 14-17 Assessment of Internet and Computer Game Addiction 1.6
Rehbein, 2010 ドイツ 15,168 平均15 Video Game Dependency Scale 1.7
Johansson, 2004 ノルウェー 3,237 12-18 Young Internet Addiction scale- revised for gaming 2.7
Festl, 2013 ドイツ 4,382 14-90 Game Addiction Scale 3.7
Papay, 2013 ハンガリー 5,045 平均16 Problematic Online Gaming Questionnaire 4.6
Desai, 2010 米国 4,028 14-18 Impulse Control Disorder- Revised for Gaming Scale 4.9

いずれも尺度による疫学であることに注意。実際の有病率はもっと少ない。

併存症

うつ病とインターネットゲーム障害は複数の研究で併存する(Desai et al. 2010, Gentile et al. 2011, van Rooij et al. 2011)。

インターネットゲーム障害を有する患者はまた、不安、特に社会不安の高率を示す(Gentile et al. 2011, van Rooij et al. 2014)。

衝動性および注意欠陥多動性障害ADHD)もIGDでは高い割合で現れる(Choo et al. 2010, Gentile 2009, Walther et al. 2012)

Chan and Rabinowitz (2006) ではゲームとADHDの関連は見いだしたが、ADHDと他のメディア使用は対照群と違いはなかったようだ。ADHDとの結びつきにはゲームに固有の可能性がある。

アメリカの高校生では、ゲームに問題がある生徒は喫煙率が高く、ある種の違法薬物の使用率が高かった(Desai et al. 2010)。

オランダの学生では、過度のオンラインゲームは喫煙、飲酒、マリファナの使用と関連していた(van Rooij et al. 2014)

ドイツの学生を対象とした研究でも、マリファナの使用と問題のあるゲームとの関連性が指摘されている(Walther et al. 2012)。

リスク

ほとんどの有病率調査では、男性の方が女性よりもインターネットゲーム障害を発症する可能性が高く、思春期の若者の発症率は成人よりも高い((Weng et al. 2013, Yuan et al. 2013)。

Swing et al. (2010) は、1年間にゲームの量を増やした子どもは、ゲームをしなかった子どもよりも注意力に問題があることを明らかにしている。

Gentile et al. (2011)は、衝動性、社会的能力の低さ、感情の調節能力の低さが、インターネットゲーム障害の発症を予測しているとしている。

Rehbein and Baier (2013)は、学校での仲間づくりがうまくいっていない片親家庭の10歳の子どもを追跡したところ、以後5年間にゲームの問題を発症する可能性が高いと指摘している。

神経生物学と遺伝学

Weng et al. (2013)や Yuan et al. (2013)ではorbitofrontal cortex (OFC)と bilateral insulaとsupplemental motor areaの灰白質に変化が見られると報告している。Weng et al. (2013)はright OFCとbilateral insulaの灰白質萎縮とゲーム障害の重症度との間に逆の関係があるとしている。

Lin et al.(2015) ではinferior frontalとcingulate gyrus, lingual, hippocampusとprecuneusでの灰白質の減少、inferior frontalとlingual gyrusとinsulaとprecuneusとanterior cingulateとamygdalaでの白質の減少を報告している。

Dong et al. (2012)はthalamus とposterior cingulate cortexの白質の増加がゲーム障害の重症度と関連していると指摘している。

このように一貫した知見が得られているわけではない。

Ko et al. (2013)ではPFCやanterior cingulate cortexとinsulaの活性化が高いことが示されている。

  • Ko CH, Liu GC, Yen JY, Chen CY, Yen CF, Chen CS. Brain correlates of craving for online gaming under cue exposure in subjects with Internet gaming addiction and in remitted subjects. Addict Biol. 2013;18(3):559–69. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22026537

インターネットゲーム障害の安静時(Dong et al. 2012b)には、感覚-運動協調に関連する領域である小脳と下頭頂葉の異常が報告されている。

これらの領域でのパターンは物質使用障害の素因と関連している可能性がある(Moulton et al. 2014)。

インターネットゲーム障害の遺伝学に関するデータはほとんどない。

Han et al. (2007)では、対照群と比較して、IGDを有する青少年はDRD2遺伝子のTaq1A1対立遺伝子およびドーパミンを調節するカテコラミン-O-メチルトランスフェラーゼ遺伝子の低活性対立遺伝子Val158Metを有する可能性が高いことが報告されている。

  • Han DH, Lee YS, Yang KC, Kim EY, Lyoo IK, Renshaw PF. Dopamine genes and reward dependence in adolescents with excessive internet video game play. J Addict Med. 2007;1(3):133–8. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21768948

治療

2件の薬物療法試験(Han & Renshaw 2012, Song et al. 2016)では、それぞれ抗うつ薬であるブプロピオンがプラセボまたは無治療対照と比較して有益であることが示された。しかし、そのうちの1つ(Han & Renshaw 2012)では、共存するインターネットゲーム障害と大うつ病性障害の患者のみを対象としていたため、薬物療法が主にうつ病に影響を与え、間接的にゲーム性を改善しただけであった可能性もある。別の研究では、ブプロピオンにCBTを追加すると、ブプロピオン単独と比較して転帰が改善することが明らかになった(Kim et al. 2012)。インターネットゲーム障害を有する青年期のADHDに対する2つの薬物療法の間では、ゲーミングの転帰に差は認められなかった(Park et al. 2016)。

First author, year Treatments N Weeks Sessions Gaming outcomes Significant effects relative to control or other conditions
Pharmacotherapies
Park, 2016 アトモキセチン 42 12 Young Internet Addiction Scale No differences.
メチルフェニデート 44 12
Han, 2012 プラセボ+教育 25 8 Young Internet Addiction Scale, time gambling Benefits of bupropion on both indices.
ブプロピオン+教育 25 8
Song, 2016 治療管理なし 33 6 Young Internet Addiction Scale Benefits of both medications compared to control. Benefits of bupropion compared to escitalopram.
ブプロピオン 44 6
エスシタロプラム 42 6
心理療法
Kim, 2012 ブプロピオン 33 8 Young Internet Addiction Scale, time gaming Benefit of added CBT on both indices.
ブプロピオン+認知行動療法(CBT) 32 8 8
Kim, 2013 一般教育コース 32 8 21 Time gaming No differences.
大規模マルチプレーヤーオンラインロールプレイングゲームのスピーキングおよびライティングコース 27 8 21