井出草平の研究ノート

高齢者の携帯電話嗜癖と睡眠の質:抑うつと孤独感の媒介的役割

pmc.ncbi.nlm.nih.gov

  • Tian, H., & Wang, Y. (2023). Mobile Phone Addiction and Sleep Quality among Older People: The Mediating Roles of Depression and Loneliness. Behavioral Sciences, 13(2), 153. https://doi.org/10.3390/bs13020153

研究の背景と目的

スマートフォンは高齢者の日常生活に欠かせない存在となっている一方、過度の依存は睡眠の質を低下させる懸念がある。本研究は、中国の高齢者459名を対象に、モバイル依存と睡眠の質の関係を調査し、その背後にある抑うつと孤独感の媒介効果を明らかにすることを目的とした。

方法

  • 対象: 江蘇省のコミュニティで60歳以上の高齢者を募集(平均年齢63.4歳、男女比ほぼ均等)。
  • 尺度:

    • モバイル依存:Mobile Phone Addiction Scale–Short Version (SAS-SV)
    • 睡眠の質:Pittsburgh Sleep Quality Index (PSQI)
    • 孤独感:UCLA Loneliness Scale (ULS-8)
    • 抑うつ:Geriatric Depression Scale (GDS-15)
  • 分析: SPSSとPROCESS(ブートストラップ法、サンプル5000)を用いて媒介分析。

主な結果

  1. 直接効果

    • モバイル依存は高齢者の睡眠の質を有意に悪化させた(β = 0.22, p < 0.001)。
  2. 媒介効果

    • 抑うつ(β = 0.243, p < 0.001)と孤独感(β = 0.223, p < 0.001)が、依存と睡眠の質の関係を部分的に媒介。
    • 直接効果は総効果の49.3%、抑うつを介した間接効果が18.6%、孤独感を介した間接効果が32.1%を占めた。
  3. 全体像

議論

  • スマホの過剰使用は認知・行動・生理的覚醒を高め、睡眠リズムを阻害する。
  • 抑うつは注意力低下や日中の眠気を引き起こし、睡眠をさらに乱す。
  • 孤独感は現実の対人交流の不足から生じ、過度のオンライン交流依存によって増幅され、睡眠の悪化につながる。
  • 文化的背景(中国の高齢者コミュニティ)に依存する側面もあるため、他国での再検証が必要とされる。

結論

  • 高齢者のスマホ依存は直接的に睡眠の質を低下させるだけでなく、抑うつと孤独感を介して間接的にも悪影響を与えることが確認された。
  • 適度な利用は交流促進などの利点がある可能性を残しつつも、過度な使用は「心身の悪循環」を生み出す。
  • これは「デジタル・ゴルディロックス仮説」を支持する結果であり、適度な利用は望ましいが、過剰な使用は睡眠と精神健康に有害であることを示している。

要約

  • 研究デザイン: 中国の高齢者459人を対象とした横断研究。モバイル依存と睡眠の質の関連を調査し、抑うつと孤独感の媒介効果を検討。
  • 主要知見: スマホ依存は睡眠の質を悪化させ、その影響の約半分は抑うつと孤独感を介した間接効果による。
  • 結論: スマホ過剰使用は高齢者の睡眠を悪化させ、精神的健康(抑うつ・孤独感)を通じても悪影響を及ぼす。適度な利用であれば問題は少ないが、過度の依存は有害であるという「ゴルディロックス仮説」を支持する。