井出草平の研究ノート

今学期のおすすめ学習アプリ

大阪大学でICT教育を取り上げる授業があり、毎回、学生たちに学習アプリのおすすめを聞くことにしている。 僕が知らないアプリを学生に教えてもらう機会でもあるので、楽しみにしている授業の一つだ。今学期話題に挙がったアプリをまとめておこうと思う。

僕のおすすめ

まずは僕のおすすめアプリから。

mikan

http://mikan.link/ f:id:iDES:20190208185658p:plain

実際にかなり利用しているアプリ。英単語を覚える、忘れないために使っているアプリ。1日に振り返ることのできる単語数が多いところが気に入っている。

Google翻訳

https://translate.google.co.jp/?hl=ja f:id:iDES:20190208185634p:plain

わざわざ言わなくてもよいアプリ。翻訳をする際に下訳的な使うのに便利。 Microsoft翻訳もそこそこおススメ。

 grammarly

https://app.grammarly.com/ f:id:iDES:20190208185639p:plain

英文校正ツール。アプリと言ってよいのかわからないが、スペリングののチェックをするアプリとしてはGingerと双璧。スペルミスには役立つが、表現の提案はいまいちな気がする。有料版で追加料金を払うと文章のネイティブチェックをしてもらえるのは便利かもしれない。本当はguruフリーランスの人を見つけるのがいいのだと思う。

Quizlet

https://quizlet.com/ja f:id:iDES:20190208185709p:plain こちらも超有名。単語帳的なものであればQuizlet便利。学生の中にも使用している人がいた。著作権的に問題がありそうな気がするが、Quizletを検索するとDuo3.0の例文があったりするので、文例暗記にも便利なのだと思う。

Flashcards Deluxe

こちらはQuizletとセットのようなところがあるが、非常に便利なアプリ。 https://itunes.apple.com/jp/app/flashcards-deluxe/id307840670?mt=8 f:id:iDES:20190208185631p:plain

学生のおすすめ

スタディサプリ

こちらも有名所。最近は予備校に行かなくても大学受験対策の授業を受けることができる。しかも低価格で、というアプリ。自分が受験生の頃にあったらよかったなと思う。 https://studysapuri.jp/ f:id:iDES:20190208185716p:plain

スタディサプリ ENGLISH

https://eigosapuri.jp/ f:id:iDES:20190208185721p:plain

こちらはTOEIC・英会話のスタディサプリ。大学受験だけではなく、大学生、社会人も対象にした英語のアプリ。

完全リスニング りすなん!

完全リスニング りすなん! f:id:iDES:20190208185650p:plain

様々な言語の数字のリスニングを鍛えられるアプリらしい。英語での数の数え方が下手なので、勉強してみたい。

英語の友

https://eigonotomo.com/

f:id:iDES:20190208185628p:plain

旺文社のリスニング対策アプリ。使ったことはないが、これはいいかもしれない。

abceed

https://www.globeejapan.com/

f:id:iDES:20190208185604p:plain

こちらも英語のリスニングアプリ。TOEIC向けのアプリらしい。

Citation Machine

http://www.citationmachine.net/ f:id:iDES:20190208185619p:plain

grammarly、gingerと同じく英語の校正アプリ。使ったことがないので、また使ってみたいと思う。

kahoot

https://kahoot.it/ f:id:iDES:20190208185642p:plain

クイズや投票機能などを備えたツール。教育で使えるし、おそらく企業内でもいろいろ使い道がありそうだ。有料なので、なかなか使いにくいとは思うが、似たようなシステムをつくるよりは安いかもしれない。

ロイロノート

https://n.loilo.tv/ja/ f:id:iDES:20190208185655p:plain

メモ程度のノートに関連性をつけて並べることとそれを共有できるソフトウェア。研究では、KJ法に少し近い気がした。 いろいろと使い道はありそうだ、有料だが、さほど高くないので、導入するのは簡単そうだ。

くずし字学習支援アプリKuLA

くずし字学習支援アプリKuLA f:id:iDES:20190208185647p:plain

くずし字のアプリらしい。大阪大学の文学研究科の飯倉洋一先生の科研で作成されたものらしい。実際に作成の中心になった人は橋本雄太先生という方のようだ。

とても素敵な科研費の使い方だと思う。

紹介:くずし字学習支援アプリ「KuLA」が公開開始。iOS版、Android版あり。

Adobe Scan

https://acrobat.adobe.com/jp/ja/mobile/scanner-app.html f:id:iDES:20190208185607p:plain

授業資料の電子化方法として出てきたアプリ。最近のレンズの良いスマホであれば、これで十分かもしれない。

Microsoft Office Lens|PDF Scan

f:id:iDES:20190208185701p:plain Microsoft Office Lens

個心的にはこちらを使っている。

Cam Scanner

f:id:iDES:20190208185614p:plain

Cam Scanner

他のスキャナ。使ったことはない。

Scan Snap

f:id:iDES:20190208185712p:plain http://scansnap.fujitsu.com/jp/

アプリではないがスキャナはScan Snapが最も良い。少し高いが大学生になったら持っていても損はないと思う。タブレットが2-1PCと合わせると非常に強力。Scan Snapの最新式は持ってないが、ix500を2台使っている。

おまけ

スマホをやめれば魚が育つ

f:id:iDES:20190208185706p:plain スマホをやめれば魚が育つ

こちらは学習アプリではなく、スマホ依存を止めるアプリ。スマホを触らなければ触らないほど、魚が育つというコンセプト。 スマホを使いすぎているという学生からの情報提供。

Rで基礎分析(クロス集計表、相関係数、分散分析)

このエントリーは統計学勉強会用の下書きである。

ここでは、Rでクロス集計表、相関係数、分散分析をする方法を述べる。 どんな難しい分析をするときにも、最初は記述統計、そして、この3つの分析をして、多変量解析に進む。 その意味で、基礎分析と言っても、初学者にとってのもの、という意味ではなく、すべての分析の基礎にあるという意味で捉えた方が適当である。

また、初学者にとっても、この3つの分析は重要である。 統計解析を普段しない人と話すときに、「統計学が苦手」「やろうとは思っているが難しい」といったことがでてくるのだが、びっくりするほど、難しいものではないように思う。難しいものは難しいし、簡単なものは簡単だ、というくらいであって、他のことと大差はない。基礎的な3つの分析であれば、たれでも十分にできるはずである。

おそらく、統計学の授業で最初に手計算をする先生にあたるのが、ほとんどの場合、統計学嫌いになる原因である。 うまく、授業をすれば、嫌いになるほど大変なものではないはずだ。

分析の決め方

変数は尺度水準によっていくつかに分かれる。 細分化された尺度水準を考慮する分析は存在するが、その分析をする頃には尺度水準についても詳しくなっているはずである。 とりあえず、分析をしたいという人であれば、2つの水準に分けるのがよいし、多くの場合2つの水準で十分である。

  1. 連続変数 2つの値の間の無限の数を持つ数値型の変数
    例:身長、体重、車の走行距離、年齢、年収など。

  2. カテゴリカル変数 有限な数のカテゴリーによって構成される変数 例:生物学的性(男女)、人種、職種、大卒など。

2つの変数をみて、連続なのかカテゴリカルなのかを判断し、下の表で分析を選択する。

連続変数 カテゴリカル変数
連続変数 連続変数 分散分析
カテゴリカル変数 分散分析 クロス集計表

今回はAERパッケージのCPS1985というデータを例にして説明したい。

library(AER) #パッケージの呼び出し。CPS1985というデータがこのパッケージに含まれている
head(CPS1985) #CPS1985データの行頭のみ表示
?CPS1985 #データについて説明の表示
data(CPS1985) #データの呼び出し

クロス集計表

データの説明を読むとどのような変数があるかがわかる。クロス集計表はカテゴリカル変数である、gender(性別, 1=Female, 0=Male)とMARR(婚姻状態, 0=Unmarried, 1=Married)の2つの変数の関連について調べてみよう。

スクリプト

ct1<-table(CPS1985$gender,CPS1985$married)
ct1
res1<- chisq.test(ct1)
res1

変数名は「データ名$変数名」とドルマークを挟んで指定する。

結果

    no yes
male   101 188
female  83 162
X-squared = 0.028233, df = 1, p-value = 0.8666

有意差があるか否かは、カイ二乗検定の結果で判断する。 結果はp-valueと表示されている値である。

フィッシャーの正確確率検定

セルのケース数が一桁になる場合は、フィッシャーの正確確率検定を使った方がよい場合がある。Rではカイ二乗検定をしたときにフィッシャーテストをした方がよいというメッセージが出るので、そのメッセージを参考にするとよいだろう。

スクリプト

fisher.test(ct1)

chisq.testの頭の部分をfisherに変えればよい。 ちなみにchiはカイs、qは二乗のsquareの頭2文字である。testは検定のことである。

結果

p-value = 0.8551
alternative hypothesis: true odds ratio is not equal to 1
95 percent confidence interval:
 0.7213704 1.5258105
sample estimates:
odds ratio
  1.048508

フィッシャーテストの方は95%信頼区間、オッズ比まで出してくれるので便利である。

調整済み標準化残差

調整済み標準化残差を調べたいときにはカイ二乗検定のあとに下記のスクリプトを追加する。

スクリプト

res1$stdres

結果

    no       yes
male    0.259397 -0.259397
female -0.259397  0.259397

調整済み標準化残差は絶対値で、1%水準は2.58、0.1%水準は3.29、0.01%水準は3.89以上になる。 2×2のクロス集計表であれば、カイ二乗検定の結果と調整済み標準化残差の結果はほとんどの場合同一であるが、一つ変数に3カテゴリ以上ある場合には、調整済み標準化残差だけが有意を示す場合がある。このようなケースでは、リコードをどこで行えばよいかがわかるため、クロス集計表の分析をするときには、調整済み標準化残差の値は出しておいた方がよいだろう。

オッズ比

オッズ比の計算はRの標準のスクリプトにはない(ただし、フィッシャーテストをすれば出力できる)。 epitoolsパッケージを使うのが最も簡単であろう。

スクリプト

library(epitools) #epitoolsパッケージの読み込み
oddsratio.wald(ct1)$measure

結果

        odds ratio with 95% C.I.
         estimate     lower   upper
  male   1.000000        NA      NA
  female 1.048577 0.7327264 1.50058

参照:Rでオッズ比と調整済み残差を出す

クロス集計表が見にくいとき

データが数値の場合(CPS1985はカテゴリカル変数は文字列で入っているので問題ない)はexpressパッケージを使うとわかりやすくなるかもしない。

スクリプト

library("expss") #expssパッケージの呼び出し
cro(CPS1985$gender,CPS1985$married)

croの中に入れるのはtableの中に入れるものと同じ。 結果

|                |              | CPS1985$married |     |
|                |              |              no | yes |
| -------------- | ------------ | --------------- | --- |
| CPS1985$gender |         male |             101 | 188 |
|                |       female |              83 | 162 |
|                | #Total cases |             184 | 350 |

この表は見やすくなっている以上に、Markdown形式であることがおそらく重要である。

Markdown形式では次のように表示される。

CPS1985$married
no yes
CPS1985$gender male 101 188
female 83 162
#Total cases 184 350

例えば、Atomエディタに貼り付けて、Markdown preview / Markdown preview Enhancedで表示させて、プレビューされた内容をコピーしてExcelに張り付けるといった作業も可能である。 memiscパッケージを使うのが王道だが、手数が少ない分、このルートも使いどころはあるかもしれない。

相関係数

相関係数は連続変数同士の関連を調べる分析である。 age年齢とwage賃金について検討してみよう。

スクリプト

cor(CPS1985$age,CPS1985$wage)

corは相関のcorrelationの頭3文字である。 オプションを何も指定しないとピアソンの積率相関係数が求められる。 オプションは以下のようにつける。

 cor(CPS1985$age,CPS1985$wage, , method="pearson") # ピアソンの積率相関係数
 cor(CPS1985$age,CPS1985$wage, , method="kendall") # ケンドールの順位相関係数
 cor(CPS1985$age,CPS1985$wage, , method="spearman") # スピアマンの順位相関係数

無相関か否か(関連が統計学的に有意か否か)を求めるには、testと打てばよい。

 cor.test(CPS1985$age,CPS1985$wage)

結果

Pearson's product-moment correlation

data:  CPS1985$age and CPS1985$wage
t = 4.1472, df = 532, p-value = 3.917e-05
alternative hypothesis: true correlation is not equal to 0
95 percent confidence interval:
0.09352049 0.25794433
sample estimates:
cor
0.1769669

こちらもp-valueをみて有意か否かを判断する。

分散分析

カテゴリカル変数と連続変数の分析をする場合、分散分析を行うことになる。ここでは、エスニシティethnicityと賃金wageの関係について検討する。 エスニシティはカテゴリカル変数であり、賃金は連続変数である。

コマンド

res<- aov(wage ~ ethnicity, data =CPS1985) # 分散分析
summary(res) # 結果表示
with(CPS1985, tapply(wage, ethnicity, mean, na.rm=TRUE)) # 平均値の計算

aovは分散分析の英語であるAnalysis of Varianceの頭文字をとったコマンドである。ANOVAと略すことが多いがRではaovである。

連続変数 ~ カテゴリカル変数, データの順番で記述する。

aovコマンドでは平均値の比較ができない。 そこで、withから始まる計算式を使う。 meanは平均値、na.rm=TRUEは欠損値を含むケースを除外するコマンドである。

結果

             Df Sum Sq Mean Sq F value Pr(>F)  
ethnicity     2    173   86.33   3.297 0.0378 *
Residuals   531  13904   26.18     

cauc hispanic    other
9.277932 7.283333 8.058358

Pr(>F) がp-valueと同じものである。 下2段は平均値の比較であり、白人を意味するcauc(Caucasian)が最も賃金が高いという結果になっている。

追記:psychパッケージを利用する

library(psych)
describe.by(CPS1985$wage, list(CPS1985$ethnicity))

パネル調査は社会学にとって必要か

社会学はどこから来てどこへ行くのか

社会学はどこから来てどこへ行くのか

シノドスで書評するために読んでみた。
非常に面白い。
想定された読者は社会学者だろうが、社会学に興味があって多少知識がある人であれば、おもしろく読めるのではないかと思った。

全体的に勉強になるのだが、個人的には岸さんと筒井さんのパートが最も興味深かった。それは僕が社会調査をしているからだ。加えて、質的調査、量的調査を両方行っているため、質と量の考え方には非常に興味がある。

いくつもある議論の中から、社会学におけるパネル調査について筒井さんが必要性を感じていないところについて少し書いてみたい。筒井さんはパネル調査は一過性のブームだと考えている。

そもそもパネルデータは要らない。必要ないんですよ。社会学者からすると必要はないんだけれども、時代の要請におされるのか、なんかやらなきゃという感じになっている。

とくに計量経済学者には。経済学者にとっては基本的に因果がすべてなので。でも、社会学者は多少の迷いを持ちながらやっている。その迷いながらというのは、これはちょっと上から目線になってしまうんですけれども、計量社会学はまだ自己認識が足りていないと思うんですよね。つまり、自分たちが何をやってきたのかをちゃんと今まで考えてきていなかったので、迷っているだけだろうと思っているんです。開き直ればいいのに。

どう開き直るかというと、自分たちは異質なもの同士を比べるんだ、と。そう開き直ればいいのに、なぜか迷いが出てきて、「いいのかな、いいのかな」みたいなことになってしまう。

社会学では異質性(heterogeneity)に興味を持つことが多い。例えば、階層を規定する要因として大卒と非大卒があるのではないか、であったり、男女差があるかのではないかといったものだ。同一時点に存在する差異について興味を持つのである。

賃金に男女差があれば、それをさらに詳細にデータを取り、賃金格差を生み出している要因を探し出して、制度的に改善できないかと考える。それが社会学の典型的な社会政策の提言の方法である。

こういった考え方をする学問ばかりではない。例えば、薬の効果を確かめる場合のことを考えてみよう。

薬の効果を計測するときには、薬を飲んだ群(A)とプラセボを飲んだ群(B)を比較する。ここで重要なのは、経時的に起こる変化である。しばらく経ってBよりAの症状が改善していれば、その薬は有効だという結論が得られる。

経時的にデータをとって、変化を期待し投入する変数=薬があり、その効果をみる。経済学であれば、子ども手当という政策をしたら、少子化が改善したいった分析がこのモデルにあたる*1

この経時的なモデルの場合、薬を飲む群の中にどのような人が含まれるかということにはあまり興味を持たない。高血圧であれば、高血圧の診断を満たしていれば、OKである。男性か、女性かということはあまり問われないのである。サンプルの異質性ではなく、経時的な変化に興味があるのである。

このように興味を持つところが学問によって異なる。社会学のもともとの興味関心が異質性にあるのだから、経時的な変化には興味を持たなくてもいい場合がほとんどではないか、ということだ。

少し言い回しは違うが、だいたいこのような理由で筒井さんは、社会学におけるパネル調査は必須ではないと考えており、パネル調査のブームはそのうち下火になると予想している。

社会学が興味を持つ異質性についてもう少し考えてみたい。

筒井さんの指摘以外にも社会学にパネル調査があまり寄与しない理由がある。それは、社会学が計測するものは、数年では変化が起きないものが多いという点である。

長期追跡調査でみる日本人の意識変容―高度経済成長世代の仕事・家族・エイジング

27年経って同じ項目を調査したデータを基にかかれた本だが、ここでの成果を大まかに要約すると、長期間経っても人はあまり変わっていなかったということである。この調査で指摘されているのは、意識項目である。

パラサイト・シングルの時代 (ちくま新書)

パラサイト・シングルの時代 (ちくま新書)

流行語を生み出した本であり、しばしば批判の対象にもなるが、この本は社会学の重要な論点を指摘している。それは、実態は変わっても人々の意識はそう簡単に変わらないということだ。高度経済成長期は、結婚をすると生活レベルがあがることが多かった。しかし、高度経済成長期以降、特に、バブル経済以降が顕著なのだろうが、結婚をすると実家にいるときよりも、生活レベルが落ちることが多い(実態)。しかし、結婚感(意識)は依然として、結婚すると、現在の生活レベルかそれ以上の生活レベルの上昇を伴うものと考えられている。その結果、実家にとどまり続ける「パラサイト」が増えたという。

これらの研究から予想できるのは、数年間追跡調査をしても、社会学が興味を持っているものほとんどの項目には変化が起こらないことである。パネル調査とは、計量モデルに「時間」という要素を加えることだが、変化がないのであれば、新しい発見や成果は期待できない。

一方で、経時的なモデルを研究している人たちの方は、この20年くらいのあいだに、異質性に興味を持つようになってきているのではないかと思う。

最初にあげた薬の例であれば、男女で薬の効き方が異なるのではないかという研究がこの20年くらいで書かれている。僕がよく読んでいる精神医学の分野だと、抗うつ薬の聞き方には異質性が関係しているという研究が2010年代初頭から盛んにされ、現在私たちは誰(男女・年齢・並存症の違いよって)どの薬を入れれば効きやすいかという標準的投薬法が確立されている。

例えば、SSRIという最も使用される抗うつ薬は女性に効きやすいことがわかっている。SSRIの有効性を確かめる試験では、女性サンプルの方が多い論文がほとんどだった。女性比率が高くなれば、効果があるという結果を出しやすいからだ。薬の有効性を明らかにする精神医学や薬理学では、もともと、異質性にあまり興味を持ってこなかったため、有意差を出すために、異質性を利用する裏技が使われてきた。

ただ、最近は研究者レベルでは、異質性によって結果が大きく左右されることが知られるようになったため、裏技は使いにくくなっている。それよりも、誰にどの薬が効くのかという異質性の研究へ方向性が変化した。

性別の他にも年齢によって抗うつ薬の効き方に違いがあることがわかっている。女性の場合は閉経以後はSSRIがあまり効かなくなる。高齢者のうつ病には、パロキセチン以外のSSRIは有効ではないことが判明している*2

もう少し野心的な研究では、ゲノム情報を採取して、どのようなゲノムの人にはどのような薬が効くかといった研究も始まっている。

同じような理由で、経済学の人たちの一部には異質性に興味を持ち始めたのではないかと思う。筒井さんは、社会学者がパネル調査をすることに賛成をしてくれると述べているが、それはある意味当然のようにも思える。しかし、それは社会学に、あまり有益な結果をもたらさないようにも思う。

もちろん、時間によって変化があるものもあるはずなので、その場合には、パネル調査は非常に意義があると言えよう。

個人的に参加している研究では、ひきこもりの介入結果の測定だけはパネル調査で設計をしている。介入と結果という変化を期待する研究なので、パネル調査で行う必要がある。逆にいえば、パネル調査でしか結果が得られない調査以外は、クロスセクショナル(一時点)の社会調査でよいのだろうと思う。

*1:本当に改善するかは知らない

*2:ちなみにSSRIではミルナシプランとベンラファキシンは効かず、デュロキセチンのみにエビデンスがあり、高齢者への標準的介入はデュロキセチンとされている

Rのlavaanパッケージでパス解析を行う

SEMはMplusを使ってきたので、lavaanパッケージについてはほとんど知らないのだが、使う必要性が出てきたので、勉強がてらにメモ。

いわゆるパス解析をこのエントリーではやってみようと思う。 lavaanパッケージを使用するのでインストールをする。

lavaanパッケージのインストール

install.packages("lavaan")
install.packages("semPlot")

ついでに自動でSEMを描画してくれるsemPlotパッケージもインストールしておく。

サンプルデータとしてAERパッケージに含まれている、CPS1985というデータを使う。下処理として以下のコマンドを走らせておく。

library(lavaan) #lavaanパッケージの読み込み
library(AER) #AERパッケージの読み込み。
data(CPS1985) #データCPS1985の読み込み

AERパッケージがインストールされていなければインストールする。

変数名と値ラベルを確認しておこう。

データの確認

head(CPS1985)

賃金に対する効果をみたいので賃金("wage")に関係のありそうな、年齢("age"), 性別("gender"), 教育年数("education")の関連をみてみたい。 "gender"は"male"と"female"いう形でデータ化されているので、ダミー変数に変えておく。

ダミー変数に変更する

library(memisc) # memisicパッケージの読み込み。
CPS1985$gender <- recode(CPS1985$gender, "1" <- "male", "2"<-"female") #リコード
as.factor(CPS1985$gender) #Factor型への変換

memiscパッケージがインストールされていなければインストールしておく。

1を男性、2を女性にリコードした。 このままだと、Rはカテゴリカル変数だと認識してくれないので、as.factor()を使ってFactor型へ変換した。

モデルの構築

model1 <- 'wage ~ age' # モデル式
fit1 <- sem(model1, data=CPS1985, estimator = "GLS")  # 分析の実行
summary(fit1, standardized=T,fit.measure=T ) #結果の表示

このモデルは年齢(age)が賃金(wage)に影響を及ぼすというモデルである。 ここでやっているのは、単回帰とほぼ同様のことだと捉えて問題ない。

SEMの描画をする。 semPlotライブラリを読み込む。whatLabelsで"est"を指定すると共変量、"std"を指定すると標準化した値を出力する。

library("semPlot")
semPaths (fit1, whatLabels = "est",
layout = "tree", style = "lisrel", nCharNodes = 0, 
sizeMan = 10, edge.label.cex = 2.0)

f:id:iDES:20181118210752p:plain

さて、もう少し複雑なモデルを構築してみよう。 賃金(wage)と年齢(age)、性別(gender)、教育年数(education)すべての関連をみるモデルである。

モデルはクォーテーションで前後を囲うのが決まりである。 また、一つの従属変数に対しての式を1行で書いて、別の従属変数への効果をみる際には、改行をする。 カテゴリカル変数が含まれているので、ロバスト最尤法(MLR)に推定法を変更する。

model2 <- 'wage ~ age + gender + education
               age ~ gender + education
               education ~ gender'
fit2 <- sem(model2, data=CPS1985,estimator = "MLR")
summary(fit2, standardized=T,fit.measure=T )

共変量の部分は以下のような結果となる。

Regressions:
                   Estimate  Std.Err  z-value  P(>|z|)   Std.lv  Std.all
  wage ~                                                                
    age               0.113    0.018    6.310    0.000    0.113    0.258
    gender           -2.335    0.392   -5.953    0.000   -2.335   -0.227
    education         0.827    0.080   10.283    0.000    0.827    0.421
  age ~                                                                 
    gender            1.869    1.006    1.858    0.063    1.869    0.079
    education        -0.673    0.209   -3.222    0.001   -0.673   -0.150
  education ~                                                           
    gender            0.011    0.224    0.047    0.962    0.011    0.002

"age"と"gender"、"education"と"gender"は関連がないようである。関連の無いパスは取り除いたてモデルを作成し、それをfit3に格納し、それを描画したのが以下の図である。

semPaths (fit3, whatLabels = "est",
layout = "tree", style = "lisrel", nCharNodes = 0, 
sizeMan = 10, edge.label.cex = 2.0)

f:id:iDES:20181118213947p:plain

重回帰分析の結果も見ておこう。

lm <- lm(wage ~ age + factor(gender) + education , data=CPS1985)
summary(lm)

結果は以下のようになる。

Coefficients:
             Estimate Std. Error t value Pr(>|t|)    
(Intercept)  -4.84275    1.24425  -3.892 0.000112 ***
age           0.11310    0.01669   6.775 3.32e-11 ***
genderfemale -2.33542    0.38807  -6.018 3.30e-09 ***
education     0.82744    0.07462  11.089  < 2e-16 ***
---
Signif. codes:  0 ‘***’ 0.001 ‘**’ 0.01 ‘*’ 0.05 ‘.’ 0.1 ‘ ’ 1```

今回は重回帰とSEMの結果に違いはなかった。 SEMにすることによって、有意でなくなるパスがあるなど場合に、SEMにする価値が生まれる。 したがって、今回はSEMを使う意義はあまりないことがわかる。

もう一つのSEM(パス解析)の使い道は、多重共線性があった場合である。 多重共線性がある場合には、多重共線性を示す変数を取り除くことになるが、どうしても変数を取り除きたくないといった場合には、SEMが一つの解決策となるだろう。

多重共線性のチェックの指標として使われているのはVIFである。carパッケージが簡単に計算できる。

library(car)
vif(lm)

      age    gender education 
 1.029679  1.006509  1.023228 

多重共線性の指標であるVIFは2ないし5以上の値をとると多重共線性があると判断するといわれることが多いが、実際のところ基準というのはあってないようなものである。 独立変数に関連が高い変数があった場合に、どちらかを入れた時と、入れなかった時、他方を入れた場合の推定をして、標準誤差や推定値が不安定であるなどなければ、VIFはが高くても特に問題はない。VIFの統計量は一つの参考資料ととらえるのがおそらく正しい。

今回の分析の場合、VIFの統計量をみても、SEMで独立変数間の関連を含めた推定モデルをみても、重回帰での推定結果と大差がないので、重回帰が最適な分析法になると言っていいだろう。

ヒステリー性パーソナリティ障害

時折、ヒステリーの話であったり、ヒステリック・パーソナリティ障害の話をするのだが、いまいち伝わらないことが多いので、ヒステリー性パーソナリティ障害にいついてまとめておきたい。

ヒステリー性パーソナリティ障害とは古典的ヒステリーの特徴を持った一群を指した用語である。

もちろん自分で作った概念ではない。出所はマイケル・ストーンである。

たとえばヒステリー性パーソナリティを抱えた患者は,神経症的パーソナリティ構造あるいは境界パーソナリティ構造と関連づけられていようと,演技性パーソナリテイ障害の患者が示すほど「劇的」属性を示さない。少なくともDSM-III-Rに列挙されている属性(新奇性追求,自己中心性,要求の多い傾向,怒りの爆発)に関しては,少ないといえるのだ。
DSM-IV(American Psychiatric Association 1994) とDSM-IV-TRではこういった項目が強調されなくなったので,演技性パーソナリティ障害のプロフイールは,精神分析の伝統でいうヒステリー性パーソナリティのプロフィールと非常に近いものになった。
古典的なヒステリー性患者は外面的にはいくぶん誘惑的であっても,性的に抑制されていて,どちらかと言えば臆病であり,癇癪を起こすよりは機嫌取りをする傾向にあり,衝動的というよりもより不安が強く,安心感を欠いていると描写されていた。(79ページ)

これは非常にわかる話で、演技性(histrionic) の場合は、性的に誘惑的、例えば露出の多い服などを着たりするが、古典的ヒステリーの場合には、そういった傾向がみられない。機嫌取り、不安が強いというのもわかりやすい特徴。性的な抑圧というのは見てすぐにわかる特徴ではないが確かにストーンの言うように古典的なヒステリーでよくみられる。

境界性パーソナリティー障害は30歳、40歳になると症状が緩和していく。境界性パーソナリティー障害の症状を弱化したものがヒステリー性パーソナリティ障害になるわけではないが、ややヒステリー性パーソナリティ障害に似てくる気がする。境界性は社会参加の阻害要因になるが、ヒステリー性は社会参加の阻害要因にならない。逆に、機嫌取りの性質を生かして世の中をうまく渡っていけるかもしれない。30歳を超えて社会参加を続けられるかは、どれくらいヒステリー性を持っているかというのが関係しているかもしれない(仮説)。

私はかつてヒステリ一性格(hysteric character) と呼ばれていたものに対して意図的にヒステリー性パーソナリティ(hysteric personality) という用語を使っている。またヒステリー性パーソナリティという用語は,この障害といとこ関係にあるが明らかに健康度の低いII軸の演技性(histrionic) パーソナリテイ障害とを区別するためにも使われる。なぜなら,後者を具現する患者の大半は. Kernberg (1967) の疾病分類でいうと境界例水準(ボーダライン・レベル)の精神構造で、機能するからだ。対照的にヒステリー性パーソナリテイの患者は, しばしば自己同一性の感覚が健康に発達しているので,神経症水準の精神構造で機能する。ヒステリー性パーソナリティの患者たちは通常様態においても程度においても不安群障害の患者と似たような不安を持っているので,仮にヒステリー性パーソナリテイがII軸に含められるとしたらC群に入るであろう。(125ページ)

ちなみにヒステリ一性格というのはカーンバーグの用語である。
例えばこちらの本など。

この本の主題は治療可能か否かであるため、C群に入るかB群に入るかということをストーンは非常に熱心に議論をしている。

しかし、純粋に分類学的に考えるならば、議論の余地なくB群である。この点についてストーンは本のテーマに拘泥しすぎたのではないかと思われる。

hysteric(ヒステリー性)は、Borderline(境界性)、histrionic(演技性)と近縁であり、それらの寛解後の診断にもなりうる。また、治療反応性の観点から、ヒステリーの不安には、不安症に有効なSSRIが効かないことも、根拠になるであろう。つまりC群であれば不安スペクトラムの一部であるから、SSRIが有効である。一方で、ヒステリー性格による不安にはSSRIが有効ではないため、不安のメカニズムが不安症・不安スペクトラム、C群パーソナリティー障害とは異なるものだとみなすべきであろう。

CP換算計算シート

抗精神病薬クロルプロマジン換算のシートを作る機会があったので、以下にリンクを貼っておく。エクセル形式(.xlsx)で、凡例として架空のサンプルデータが10ほど入力してある。

http://www.idesohei.net/files/CPEquivalents.xlsx

アルコール使用障害と併存症

アルコール使用障害(AUD)と併存症についてまとめてみた。

アルコール使用障害の概観

  • アルコール使用障害(AUD)は、医療費の4%を占める慢性疾患および再発性疾患である(Margolese et al., 2004 ; Rehm et al., 2009)。
  • 12ヶ月と生涯AUD(DSM-5)の有病率はそれぞれ13.9%と29.1%であると報告されている(Grant et al.,2016)。
  • AUDは、傷害、疾病、死亡(Barbosa et al.,2010 ; Dawson and Grant, 2011)、および相当な財務コスト(Joshua, 2017)を含む多くの有害な結果のリスクを増加させる。
  • 初期の生活ストレスやストレスの多い生活状況(例えば、愛する人の死、離婚)を含む不利な生活環境(Holgate and Bartlett, 2015)。
  • ストレスと同様に、生活習慣の満足度はアルコール使用および飲酒に関連している(Peltzer and Pengpid,2016)。
  • 精神障害を有する個人は、しばしばAUDとの併存疾患を示す(Sher,2006)。
  • 統合失調症気分障害人格障害などの精神障害とAUDとの密接な関係は、精神障害がアルコールへの暴露のリスクを増加させ、AUDの早期生命リスク要因を悪化させる可能性があることを示唆している(Fink et al., 2016)。

統合失調症

  • 精神分裂病患者の3分の1以上がAUD診断基準を満たしており、人口全体の3倍以上の罹患率(Regier et al., 1990 ; Green and Brown, 2006)。
  • 統合失調症の患者における併存症AUDの重要な予測因子は男性、陰性症状の重症度、うつ病の重症度(Meszaros et al., 2011)、低学歴、以前の暴力的犯罪、物質使用障害の家族歴(Apantaku-Olajide et al., 2014)である。
  • 統合失調症患者のAUDの併存率は、精神病理のより大きな重症度(Margolese et al., 2004)および神経認知機能障害(Manning et al.,2009)と関連している。いくつかの研究は、統合失調症とAUDが併存する個人が、作業記憶(Bowie et al., 2005 ; Potvin et. al., 2008)、エピソード記憶(Smith et al.,2011)、および言語学習を含む記憶障害を悪化させることを示唆している(Manning et al., 2009)。
  • 認知機能障害、特に遂行機能障害は、AAUDを併存する統合失調症患者の主要な症状の一つである(Manning et al., 2009)。これは、遂行機能不全がAUDのリスク要因であることを示唆している。アルコール中毒以外の研究において、大麻関連障害のある遂行機能を有する人は、回復に成功するために必要なスキルを学び、適用することが困難であることが判明し、大麻使用への再発リスクが高まることが判明している(Crean et al., 2011)。同様に、これは、行動療法から恩恵を受ける個人の能力を妨げ、アルコール使用への再発のリスクを増加させる(Aharonovich et al., 2008)。

うつ病

  • アルコール使用障害およびMDDの併存症は高い(Boschloo et al.,2011)。一般集団における研究は、うつ病性障害を有する人々がAUDのリスクの2〜3倍の増加を示すことを示している(Hasin et al.,2007)。アルコール依存症と診断された被験者の12ヶ月の合併症に関して、29%の回答者が少なくとも1つの情動障害を有しており、最も一般的なものは大うつ病(28%)であった(Burns and Teesson, 2002)。MDDはAUDを誘発する病原因子である可能性が示唆されている。

パーソナリティ障害

  • パーソナリティ障害はアルコール依存症と併存する(Trull et al., 2000)。特にB群パーソナリティ障害と併存する(Mccarter et al.,2016)。
  • 外面化する病理(反社会的パーソナリティ障害[ASPD]と境界性パーソナリティ障害[BPD])とAUDに密接なつながりがある (Jahng et al., 2011)。BPDを有する精神医学入院患者の約50〜70%も、物質使用障害、通常はアルコール使用障害の診断基準を満たす(Zanarini et al., 2004)
  • ASPDのDSM基準を満たした患者は、ASPDをではない人々よりも、アルコール乱用および依存症を発症する可能性が21倍高い(Regier et al., 1990)。
  • 認知機能に関する研究は、パーソナリティ障害におけるアルコール探索が衝動性と関連する可能性があることを示唆している(Trull et al., 2000)。
  • 初期の衝動性の自己報告尺度は、B群パーソナリティ障害とアルコール依存症の併存例では、パーソナリティ障害なしのアルコール依存症よりも高かった(Dom et al. 2006)。
  • の衝動性は、将来のアルコール依存のリスクが高いことに関連しており、衝動性スコアの高い成人はアルコール依存症と診断される可能性が高い(Prince van Leeuwen et al, 2011)。衝動性とは、負の感情(Shin et al.,2015)、悪化した認知能力(Haaland et al., 2009)、および遂行機能の障害(Stevens et al., 2003)のこと。
  • 失業率、学校の成績不良、乱雑さ(Gregory et al., 2008)、神経学的負の感情(Trull et al., 2004)によりBPDとAUDに相関がなくなるとしている。

不安障害

  • 不安障害は、男性(19.2%)と比較して女性(30.5%)においてより高い生涯有病率を有する(Kessler et al., 1994)。メタアナリシスでは、不安障害とアルコール乱用(オッズ比1.636)とアルコール依存(オッズ比2.532)の間に強い関連性がある明らかになった(Lai et al., 2015)。
  • 様々なタイプの不安障害の中で、社交不安が比較的よく研究されている。National Co-morbidity Studyから得られた結果は、社交社会不安障害におけるアルコール依存症の生涯有病率が約24%であることを示している。この値は社交不安障害のない患者よりも10%多い。
  • Grantらは、社交不安障害の患者の13%、生涯にわたって社交不安障害の48%以上がAUDの基準を満たしているとしている(Grant et al., 2005)。
  • 社交不安障害を有する患者は、社交不安障害ではない人に比べリスクが2〜3倍高い(Morris et al., 2005)。一方、AUDを有する患者は、AUDを伴わない人に比べて社交不安障害を発症するリスクが10倍に増加する(Kessler et al, 1997)。
  • 外傷後ストレス障害(PTSDs)は一般有病率が3〜7%であり、PTSD患者のうち10〜61%がAUDである(Debell et al., 2014)。

自殺

  • 最近の韓国の研究では、AUDITスコアが20以上の場合、自殺念慮(オッズ比1.68)と自殺企図(オッズ比2.64)との有意な関連性が明らかにされている(Bae et al., 2015)
  • 1週間あたりの高頻度の飲酒(4回以上)が自殺企図と有意に関連している(オッズ比2.85)(Bae et al., 2015)。

双極性障害

  • 双極性障害の患者のAUDの障害有病率は46%である(Regier, 1990)
  • Merikangasら(2007)は、National Comorbidity Survey Replicationに含まれる9000人以上の患者から、アルコール乱用およびアルコール依存のそれぞれ39.1および23.2%生涯有病率を報告している。
  • 一般的な躁病、双極性II型障害(軽度の躁病、介入されたうつ病)は、生涯にわたるアルコール乱用およびアルコール依存症の強力な予測因子である(Merikangas et al., 2008)
  • ブラジルでは、双極性障害と診断された患者におけるAUDの有病率は約23%(Nery et al., 2014)。

青年期のアルコール摂取

  • 青年のアルコールに対する特定の脆弱性は、行動の抑制制御に関与する前頭前野などの特定の脳領域の成熟の遅れにある。
  • この前頭脳領域の成熟の遅延は、感情、状態調節、および恐怖に関与する扁桃体の活性化と関連していることが示されている(Gierski et al., 2014)。
  • 正常な青年期発達は、このバランスを逆転させて、扁桃体の減少とともに前頭皮質領域の高活性を回復させる(Gierski et al., 2006)。しかし、早期のアルコール消費は、アルコールを誤用する青少年が抑止課題および精神的柔軟性に乏しくなり、成熟プロセスを崩壊させる可能性がある(Winward et al., 2014)。
  • 若者の無茶呑み(Binge Drink)、若年中等度飲酒、禁酒の若い成人、健康な高齢者(平均年齢69歳)の4つの異なるグループの神経心理学的パフォーマンスを比較した。無茶呑み群は中等度の飲酒者または禁酒主体よりも劣っていた。高齢者と同程度のパフォーマンスであった(Petit et al., 2014)。これは若年の過度な飲酒が早期老化を引き起こしている可能性を示唆している。

青年期のアルコール使用障害の予後

  • 予想するほど明確なエビデンスは出ていない。
  • 青年期のアルコール消費が、成人における不安障害(オッズ比1.30)および反社会的人格障害(オッズ比1.36)の診断の確率を高めるという縦断的研究(Brooks et al., 1998)
  • McCambridgeら(2011)のレビューでは、10の異なるコホートからの35の報告と、個々のコホートからの19の他の報告を基に結果をまとめている。早期アルコール摂取とAUD以外の精神障害の予後の関連を調査したのは5つであった。これらの5つの研究は、抑うつ障害、不安障害、および自殺念慮/試みに特に焦点を当てていた。研究のほとんどは、青年期のアルコール消費量と成人(または若年成人)とうつ病や不安障害の診断の間に強い関連性を検証していた(Andreasson et al., 1991; Rohde et al., 2001; Wells et al. 2004; Mason et al., 2008)。
  • 2つの研究では、早期/思春期のアルコール消費量とうつ病性障害や不安障害との間の関連を確かめることはできなかった(Wells et al., 2004; Kandel et al., 1986)。
  • 思春期の問題(AUDの診断はないものの、1~2つのアルコール依存の症状がある)は反社会的パーソナリティ障害へ発展するリスクが高い(Rohde et al., 2001)ことが判明している。

アルコール使用障害のレビューをもとに併存症をまとめた。

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