耳塚寛明「生徒文化の分化に関する研究」

耳塚寛明,1980,
「生徒文化の分化に関する研究」
『教育社会学研究』35,111-122.

本稿では,生徒文化の向学校的(pro-school)----反学校的(anti-school)下位文化への分化に焦点づけて,まず,それを説明するためのモデルを理念型的に識別する。


この用語使いはLaceyによるものを継承しているようだ。

Laceyにならいpro-school subcultureを「学校と教師のもつ価値への肯定的なオリエンテーションを示す文化」 anti-school subcultureを「否定的なオリエンテーションを示す文化」とする。明らかに前者は, good pupil roleと適合的であり,後者は非適合的である。

地位欲求不満(Status Frustration)

 このモデルは,生徒が報酬分配尺度上で占める地位の高低によって生徒文化の分化が生じると説明する。反学校的下位文化は,その尺度上で低い地位に自らを見い出す生徒の欲求不満, 反動形成の結末である。この説明方法の典型ほ, Merton,Cohenの影響を受けたHargreaves, Lacey等によるManchester Projectにみることができる。
 Hargreavesはストリーミング実施下のLumley Secondary Scnoolにおいて,上位ストリームにAcademic Subcultureを,下位ストリームにdelinquescent subcultureを見い出した。一方, Laceyは、Hightown Grammar Schoolにおいて,生徒のコーホートが学年の上昇に伴いpro-school subcultureとanti-school subcutureに分化していく過程を,分離化(differentiation)と分極化(polarization)というタームを用いて描いている。分離化とは,学校の持つ「価値システムによって生徒を分離し,瞬位づけること」を指す。地方,分極化とは生徒の例の過程であり,向学校-反学校的下位文化-と分かれていくことを意味する。
 Hargreavesが描き出してみせたdelinquescent subcultureは,生徒が二重の失敗(グラマースクールに入学できず,さらにセカンダリーモダンでも上位ストリームへ入れなかったこと)を経験しているが故に, Hightownにおけるanti-schoolsubcultureより非行的な性格を強めている。しかし,生徒文化の分化を地位欲求不満説によって説明する点では,二つのモノグラフは一致している。Laceyは次のように言う。
 「成績上位者はグラマースクールの価値システムを受容し易く,したがって良い行動をとる。学校システムが故に高いプレステイッジの地位を与えるからである。……一方,成績下位者は,学校を批判し,サボることもある。学校が彼を低い地位におくからである。」


HargreavesとLaceyの該当書は以下。

  • Hargreaves, D. H., Social Relations in Secondary School , Routledge & Regan Paul, 1967.  ISBN:0415177758
  • Lacey, C., Hightown Grammar, Manchester University Press, 1970. ISBN:0719004853


この論文に書いてあるHargreavesの書名が違っているようだ。high schoolではなくSecondary School。

Millerの非行文化論も文化衝突説を代表しているが, Cloward, Ohlinによる激しい批判がある。公教育の普及とマスコミの浸透により,文化環境が階層によりはっきりと独立して存在しているとはいえぬ以上,単に非行下位文化を階層下位文化に帰すことはできないというものである。

  • Miller, W., "Lower Class Culture as a Generating Milieu of Gang Delinquency", Journal of Social Issues Vol.14, 1958, pp. 5-19.
  • Cloward, R. A., and Onlin, L. E,, Delinquency and Opportunity, The Free Press, 1960, pp. 68-69. ASIN:B000KEJ2XC


ウィリス『ハマータウンの野郎ども』では階層分化の対立と生徒文化の対立が完全に一致しているかのように書いてあったが、英米の文脈でもその見方に対する批判があるらしい。Millerはウィリスと同じ立場、Cloward&Onlinはそれを批判する立場。


以下結論。

 二調査へのモデルの適用から得られた以上の知見は,限られた分析でほあるが,向学校−反学校的下位文化の分化を地位欲求不満説が説明する可能性を強く支持している。学業成績,進路志望,組織文脈という三本の尺度上での地位により,向学校−反学校的下位文化の分化がもたらされる。とりわけ「名門」−「非名門」,普通科−職業科といった組織文脈は,この分化ともっとも関連が大きい。反学校的下位文化は,そうした尺度上で低い地位を占める生徒の欲求不満,反動形成の結末であると説明し得る可能性がある。

参考メモ

「生徒文化」を「上位学校システムの要求する生徒役割という観点からみた時の,生徒の意識・行動の様式」と定義しておく.この定義はSugarman, B.のそれに近い(Sugarman, B., " Involvement in Youth Culture, Academic Achievementand Conformity in School", British Journal of Sociology, Vol. 18, 1967)。


「生徒文化」概念は,その定義の方法により有効性と限界を持つ。例えば白石義郎は「学校文化論的アプローチ」と「青少年の下位文化論的アプローチ」の特質と限界を検討している(白石義郎「“生徒のサブ・カルチャー”再考」,『教育社会学研究』第31集,東洋館出版社,1976年).(未入手)

  • 野村哲也,1967,「都市高校生の生活態度と価値観−その分化と学校差−」『教育社会学研究』第22集,1967年.(入手)
  • 武内清,1978,「学校規模と生徒文化」清水義弘他『地域類型別にみた高等学枚の適正規模に関する総合的研究』東京大学教育学部紀要第17巻.(不明)
  • 米川英樹,1978,「高校における生徒下位文化の諸類型」『大阪大学人間科学部紀要』第4巻.(見入手)
  • 白石義郎,1978,「高等学校における生徒文化の形態と検能に関する調査研究(1)−生徒文化の類型を中心として−」『九州大学教育学部紀要』教育学部門)第24集.(未入手)


Cusick, P. A., Inside High School, Holt, Rinehart and Winston, 1973.