渡邉亜矢子「東京都公立中学校における「学校ぎらい」出現率の学校差および地域差」

渡邉亜矢子,1992,
「東京都公立中学校における「学校ぎらい」出現率の学校差および地域差」
『生活指導研究』第9巻,143-162.


渡邉亜矢子氏の現在の姓は伊藤に変わっているようだ。(参照)


不登校統計やそれを扱ったものを読んでて釈然としなかった部分が、この論文を読んでやっと理解できた。非常に勉強になった。
不登校統計で何か建設的なことを言うのはやはり非常に難しい。自分の研究の中でも、このことはネックになるし、理論の要求するデータを自身でとっていくしかないように思った。少なくとも不登校統計は自身の研究の中では、参考値にしかならないようだ。


この論文では、不登校を2つに分けて分析をしている。
理由は、不登校と一口に言っても、神経症的な不登校の典型的なイメージの当事者と、非行や怠学傾向の不登校があって、それらを同じものとして扱うことに問題があるからだ。両者は質的にも異なるし、発生地域も異なるし、発生階層も異なる。両者には学校に馴染んでいないという共通点しかないのにもかかわらず、不登校統計は両者を同じものとして扱っているのである。。

分類は、「どちらかというと『心身症的』『神経症的』なもの」(以下A群)、「『非行』あるいは生活の乱れなど『怠学的』なもの」(以下B群)、「その他」の3分類とした。A群は、小泉の分類の「神経症的登校拒否」「精神障害によるもの」「一過性の登校拒否」にあたり、B群は「怠学傾向」 にあたる。学校現場では、A群は非社会的な行動、B群は反社会的な行動と受け取られやすく、比較的明確に区別され実際的と予備調査から判断した。


A群……いわゆる「不登校
B群……非行・怠学系

小泉の分類とは以下の本にあるもの。

  • 小泉英二,1973,『登校拒否 その心理と治療』学事出版.


「ひきこもり」になるのは、不登校の中でA群の属する当事者が主である。加えて、怠学傾向にありつつ、非行的な価値観にコミットしない者も含まれる(要するに学校にも馴染めなかったが、非行グループや学外のサブカルチャーグループにも属するせなかった者)。「ひきこもり」と「不登校」は現象として密接な繋がりがあると言っても、「不登校」のすべてが「ひきこもり」になるわけでもない。「不登校」の中でも特定のタイプと「ひきこもり」は親和性が高いと言った方が正確である。

 「学校ぎらい」全体とA群では、全校で12学級未満の小規模校で出現率が高かった。B群では、学校規模との関連がみられなかった。


 「学校ぎらい」全体では、服装・頭髪検査を行なっている学校のうち、定期的に検査を行なっている学校で出現率が高かった。また、他校よりも養護教諭の負担が大きい学校で出現率が高かった。


拘束的な環境でA群の不登校は発生しやすいようだ。

 A群では反対に異装着が少数(全校で2人未満)の学校で出現率が高く、B群では授業中徘徊者(授業を抜け出して校内外を俳御している生徒)のいる学校で出現率が高かった。
 「学校ぎらい」全体とB群では、大学進学率が2割未満の学校で出現率が高かった。A群では、塾に通ったり家庭教師についたりしている生徒の比率(以下塾・家庭教師の比率)が6割以上の学校で出現率が高かった。


不良の多い学校では徘徊者が多い。ある意味、教育現場での常識的なことが確認されている一方で、異装着(髪を染めているもの、変形の学生服を着ている者)が少ない学校でA群(真面目タイプの不登校)が多いということである。また、家庭教師や塾に通わせる学校でA群は多い。つまり、教育投資をする階層がいるところから、A群の不登校は生まれているということであろう。

 A群では、地域環境との有意な関連がなかった。
 B群では、「学校ぎらい」全体と同様に、市部よりも区部、区部の中でも特に下町地区、最近10年間に地域環境の変化が大きかった地域、工場がある地域の学校で出現率が高かった。特に、工場がある地域の学校では、工場がない地域に比べ約2倍の出現率を示していた。


工場が多いところでは、B群(非行型)が多い。これも納得のいく結果である。先行研究で、「不登校」の家庭の環境が悪いということを示したものがあるが、それは、この部分が効いていたのであろう。実感にそぐわないと思っていたところだったので、非常に納得がいった。

心身症的」「神経症的」なA群では、塾・家庭教師の比率が多く異装者の少ない学校で出現率が高かった。成績など学力を中心とした学校の「価値基準」へのこだわりの強さが、A群の機制の一つと言われている。


 更にA群は、保健室に「息抜き」に来室する生徒のいない学校で出現率が高かった。


 以上に加えて、養護教諭と他の教師間で情報交換や話し合いが出来ない学校でもA群の出現率が高かったことを考え合わせると、A群の出現率を高めないためには、教師の協力体制をよくすることや、校内の「息抜き」の場の確保、大人が積極的に規制を緩め、様々な価値観を示して、学力中心的な価値観だけを強めない工夫をすることが有効と考えられる。


「ひきこもり」と親和性を持つのはA群であるので、A群だけに注目すると、家族の階層が高く、塾や家庭教師などの教育投資をしており、本人は真面目で、拘束力の強い学校というような性質を見出すことができる。


過去の先行研究について。

 他方、地域環境と「学校ぎらい」については、学校基本調査報告や国勢調査報告など公表されている既存の資料を基に、「学校ぎらい」の出現率と、人口密度・所得などの社会指標との関連を検討した研究がいくつかある。その結果、「学校ぎらい」出現率に地域差があり、出現率が高い地域は、経済的・家庭的要因ないしは住居環境が相対的に悪く*1、都市化が進行し*2、人口密度が高い等の特徴がある*3と報告されている。また、臨床的経験から、「高級」な住宅地に「登校拒否」が多く、公立中学校の「登校拒否」は高級住宅地型・新興住宅地型・団地型に分類できるという指摘*4もある。


対象は都内20区市内の全公立中学校、計376校の養護教諭

  1990年5月、7月に予備調査として養護教諭対象の聞き取り調査を行い、小・中・高等学校、計10枚(内申学校4校)を訪問した。この結果に基づいて調査票を作成し、同年9月に対象地区の全公立中学校に、養護教諭宛ての調査票を郵送。10月末日までに回収した。有効回収率は46.8%。

*1:古川八郎・菱山洋子 1980 学校ぎらいの統計研究1----束京都における出現率の推移と社会的要因の考察----児童精神医学とその近接領域,21(5),300−309.

*2:菱山洋子・古川八郎 1982 学校ぎらいの絃計研究2----全国における出現率の推移と社会的要因の考察----児童精神医学とその近接領域,23(4),223−234.

*3:栗栖瑛子・藤井賢一郎 1987 いわゆる「学校ぎらい」による長期欠席の経年的推移と社会的諸要因の関連について 社会精神医学,10,319−328.

*4:井上敏明 1985 登校拒否の深層 世界思想社