井出草平の研究ノート

ヒステリー性パーソナリティ障害

時折、ヒステリーの話であったり、ヒステリック・パーソナリティ障害の話をするのだが、いまいち伝わらないことが多いので、ヒステリー性パーソナリティ障害にいついてまとめておきたい。

ヒステリー性パーソナリティ障害とは古典的ヒステリーの特徴を持った一群を指した用語である。

もちろん自分で作った概念ではない。出所はマイケル・ストーンである。

たとえばヒステリー性パーソナリティを抱えた患者は,神経症的パーソナリティ構造あるいは境界パーソナリティ構造と関連づけられていようと,演技性パーソナリテイ障害の患者が示すほど「劇的」属性を示さない。少なくともDSM-III-Rに列挙されている属性(新奇性追求,自己中心性,要求の多い傾向,怒りの爆発)に関しては,少ないといえるのだ。
DSM-IV(American Psychiatric Association 1994) とDSM-IV-TRではこういった項目が強調されなくなったので,演技性パーソナリティ障害のプロフイールは,精神分析の伝統でいうヒステリー性パーソナリティのプロフィールと非常に近いものになった。
古典的なヒステリー性患者は外面的にはいくぶん誘惑的であっても,性的に抑制されていて,どちらかと言えば臆病であり,癇癪を起こすよりは機嫌取りをする傾向にあり,衝動的というよりもより不安が強く,安心感を欠いていると描写されていた。(79ページ)

これは非常にわかる話で、演技性(histrionic) の場合は、性的に誘惑的、例えば露出の多い服などを着たりするが、古典的ヒステリーの場合には、そういった傾向がみられない。機嫌取り、不安が強いというのもわかりやすい特徴。性的な抑圧というのは見てすぐにわかる特徴ではないが確かにストーンの言うように古典的なヒステリーでよくみられる。

境界性パーソナリティー障害は30歳、40歳になると症状が緩和していく。境界性パーソナリティー障害の症状を弱化したものがヒステリー性パーソナリティ障害になるわけではないが、ややヒステリー性パーソナリティ障害に似てくる気がする。境界性は社会参加の阻害要因になるが、ヒステリー性は社会参加の阻害要因にならない。逆に、機嫌取りの性質を生かして世の中をうまく渡っていけるかもしれない。30歳を超えて社会参加を続けられるかは、どれくらいヒステリー性を持っているかというのが関係しているかもしれない(仮説)。

私はかつてヒステリ一性格(hysteric character) と呼ばれていたものに対して意図的にヒステリー性パーソナリティ(hysteric personality) という用語を使っている。またヒステリー性パーソナリティという用語は,この障害といとこ関係にあるが明らかに健康度の低いII軸の演技性(histrionic) パーソナリテイ障害とを区別するためにも使われる。なぜなら,後者を具現する患者の大半は. Kernberg (1967) の疾病分類でいうと境界例水準(ボーダライン・レベル)の精神構造で、機能するからだ。対照的にヒステリー性パーソナリテイの患者は, しばしば自己同一性の感覚が健康に発達しているので,神経症水準の精神構造で機能する。ヒステリー性パーソナリティの患者たちは通常様態においても程度においても不安群障害の患者と似たような不安を持っているので,仮にヒステリー性パーソナリテイがII軸に含められるとしたらC群に入るであろう。(125ページ)

ちなみにヒステリ一性格というのはカーンバーグの用語である。
例えばこちらの本など。

この本の主題は治療可能か否かであるため、C群に入るかB群に入るかということをストーンは非常に熱心に議論をしている。

しかし、純粋に分類学的に考えるならば、議論の余地なくB群である。この点についてストーンは本のテーマに拘泥しすぎたのではないかと思われる。

hysteric(ヒステリー性)は、Borderline(境界性)、histrionic(演技性)と近縁であり、それらの寛解後の診断にもなりうる。また、治療反応性の観点から、ヒステリーの不安には、不安症に有効なSSRIが効かないことも、根拠になるであろう。つまりC群であれば不安スペクトラムの一部であるから、SSRIが有効である。一方で、ヒステリー性格による不安にはSSRIが有効ではないため、不安のメカニズムが不安症・不安スペクトラム、C群パーソナリティー障害とは異なるものだとみなすべきであろう。