井出草平の研究ノート

AO入試はサイコパスばかりが通る試験なのでやめるべき

中野信子の主張である。

サイコパス (文春新書)

サイコパス (文春新書)

ビジネスマンにとって最大の興味は、「サイコパスは仕事ができるのか、できないのか?」ではないでしょうか。
アメリカの産業心理学者ポール・バビアクによれば、サイコパシー尺度のスコアはエグゼクティブ層の方が高く、世間一般の方が低いという結果が出ています。言いかえれば、「出世した人間にはサイコパスが多い」ことがわかっています。
ということは、サイコパスは仕事ができるのでは?と思うかもしれませんが、必ずしもそうではありません。(pp.182)

サイコパスが高いプレゼンテーション能力を持つことは確かです。
彼らは誠実さを欠き、批判されてもピンときません。だから平気で仕事を先延ばしにしたり、約束を破ったりしてしまいます。衝動性が高いため、凡帳面さを求められる仕事や、協調性や忍耐が求められるチームワークが苦手です。しゃべりは得意で存在感はあるのですが、よくよく精査してみると、意外と業績は低いことも少なくありません。
つまり口ばかりうまくて、地道な仕事はできないタイプが多いというわけです。バビアクによると、当初まわりが期待していたほどには仕事ができないということが、後になってわかる、というのです。(pp.183)

こうしたサイコパスの特性を考えると、面接ばかりを重視した採用試験や大学のAO入試には、問題があると言わざるをえません。過剰に魅力的で、確信をもって堂々とした話しぶりをするサイコパスばかりが通る試験になりかねないからです。
同様に、司法の素人に判断させる裁判員制度も、弁舌に長けたサイコパスの存在を考えると、危険きわまりない司法制度だと言えます。(pp.186)

ここでのサイコパスレクター博士やコーポレート・サイコパスのようなタイプのことであろう。
個人的には、サイコパスと言わずとも、AO入試が欠陥制度だと考えている。

社会科学の研究は論述を入試問題に含めることも不適格だとしている。理由は、論述の成績と入学後の成績に関連が低いためである。入試は、入学後に十分学べる素質があるか否かを計測するものだ。論述はその指標として機能していないとみなされているのである。

論述試験は、日本では2020年から導入される大学入学共通テストで導入され予定である。しかし、アメリカなどでは逆に廃止の方向に向かっている。ハーバード大学はSATやACTの中で小論文の得点を選考に使用しないように制度を変更している。

srad.jp

ベイジアンロジスティック回帰分析[Stata]

HardinとHilbeが書いたglmのStata本をちらちらと読んでいて少し気になったので、自分でも分析をしてみた。

Generalized Linear Models and Extensions: Fourth Edition

Generalized Linear Models and Extensions: Fourth Edition

この分析の出典はこの本の20章2節(20.2)である。

データ

rwm1984.dtaというデータを用いる。1984年のドイツの医療改革データである。下記の変数が含まれている。

変数 ラベル
docvis MD visits/year
hospvis Days in hospital/year
edlevel Level of education
age Ages 25-64
outwork 1=not working; 0=working
female 1=femaie; 0=male
married Married=1; Single=0
kids 1=have children; 0=no children
hhninc Household income (Marks,OECD wgt)
educ Highest years of education
self 1=Self employed; 0=other
edlevel1 edlevel==Not HS grad
edlevel2 edlevel==HS grad
edlevel3 edlevel==Coll/Univ
edlevel4 edlevel==Grad School

ロジスティック回帰分析

まずは普通のロジスティック回帰分析を行う。つまり頻度主義でP値が出力されるものである。

. use http://www.stata-press.com/data/hh4/rwm1984
. quietly summarize docvis, meanonly
. generate cdoc = docvis - r(mean)
. quietly summarize age, meanonly
. generate cage = age - r(mean)
. glm outwork female kids cdoc cage, family(binomial) link(logit) nolog

Generalized linear models                         Number of obs   =      3,874
Optimization     : ML                             Residual df     =      3,869
                                                  Scale parameter =          1
Deviance         =   3918.21514                   (1/df) Deviance =    1.01272
Pearson          =  4205.000001                   (1/df) Pearson  =   1.086844

Variance function: V(u) = u*(1-u)                 [Bernoulli]
Link function    : g(u) = ln(u/(1-u))             [Logit]

                                                  AIC             =   1.013995
Log likelihood   =  -1959.10757                   BIC             =  -28047.63

------------------------------------------------------------------------------
             |                 OIM
     outwork |      Coef.   Std. Err.      z    P>|z|     [95% Conf. Interval]
-------------+----------------------------------------------------------------
      female |   2.256804   .0827624    27.27   0.000     2.094593    2.419016
        kids |   .3579762   .0899639     3.98   0.000     .1816503    .5343022
        cdoc |   .0244323   .0062628     3.90   0.000     .0121574    .0367071
        cage |   .0543791   .0041591    13.07   0.000     .0462274    .0625308
       _cons |  -2.010276   .0810901   -24.79   0.000     -2.16921   -1.851342
------------------------------------------------------------------------------

glmの前に変数を加工している行が4行入っている。quietlyは出力抑止のコマンドで、- r(mean)はセンタリングをするコマンドである。centeringのcがついたcdocとcageがglmの独立変数になっている。この処理はベイジアンのために行っており、通常のglmには不要である。結果の比較のために通常のglmでも変数を利用している。

ベイジアンロジスティック回帰分析

次にベイジアンでの分析である。変数はさきほど作ったものと同一である。bayesを接頭語にした場合、nologをつけるとエラーがでるので削除するようだ。デフォルトでは無情報事前分布、一様分布と一様分布と分散normal(0、10000)に設定されている。デフォルトで特に問題がないので、そのまま実行する。シードは2017というおそらく執筆時点の年数を入れていて、別の値でも構わない。

. bayes, rseed (2017): glm outwork female kids cdoc cage, family(binomial)


Model summary
------------------------------------------------------------------------------
Likelihood:
  outwork ~ glm(xb_outwork)

Prior:
  {outwork:female kids cdoc cage _cons} ~ normal(0,10000)                  (1)
------------------------------------------------------------------------------
(1) Parameters are elements of the linear form xb_outwork.

Bayesian generalized linear models               MCMC iterations  =     12,500
Random-walk Metropolis-Hastings sampling         Burn-in          =      2,500
                                                 MCMC sample size =     10,000
Family : Bernoulli                               Number of obs    =      3,874
Link   : logit                                   Scale parameter  =          1
                                                 Acceptance rate  =      .2363
                                                 Efficiency:  min =     .02665
                                                              avg =     .05244
Log marginal-likelihood = -2001.0895                          max =       .101

------------------------------------------------------------------------------
             |                                                Equal-tailed
     outwork |      Mean   Std. Dev.     MCSE     Median  [95% Cred. Interval]
-------------+----------------------------------------------------------------
      female |  2.260566   .0803699   .002529    2.25819   2.103102   2.421029
        kids |  .3562706   .0893508   .004221   .3583318   .1783027   .5281715
        cdoc |   .024483   .0061758   .000329   .0244374   .0130205   .0369231
        cage |  .0545722   .0040688   .000174   .0547603   .0464829   .0622289
       _cons |  -2.01027    .082349   .005044   -2.00927  -2.172552  -1.852391
------------------------------------------------------------------------------
Note: Default priors are used for model parameters.

結果は基本的には変わらない。

逸脱度情報量規準(DIC)と限界対数尤度値(marginal log-likelihood value)

他のモデルと比較する際はicコマンドが使える。

. bayesstats ic

Bayesian information criteria

----------------------------------------------
             |       DIC    log(ML)    log(BF)
-------------+--------------------------------
      active |  3928.038   -2001.09          .
----------------------------------------------
Note: Marginal likelihood (ML) is computed
      using Laplace-Metropolis approximation.

DICは3928.038、 log(ML)が限界対数尤度値であり、-2001.09である。DICはAICと基本的に同じようなものであるが、事後分布がおおむね多変量正規分布である時に有効な指標となるので、少し注意が必要かもしれない。

余談

このエントリのタイトルはベイジアンロジスティック回帰分析だが、これはBayesian Logistic Regressionを翻訳したものだ。日本語の定訳を探してみたが見つからなかった。Bayesianは翻訳がしにくい用語である。そのままベイジアンであったり(例えばベイジアン・ネットワーク)、ベイズ的であったり(ベイズ的アプローチ)、ベイズ式であったり(ベイズ式分類法)、訳がころころと変わる。

このデータを用いた分析は著者のHilbeの別の本で言及があるそうだ。

Modeling Count Data (English Edition)

Modeling Count Data (English Edition)

日本醤油の輸出と世界への浸透

日本の味 醤油の歴史 (歴史文化ライブラリー)

日本の味 醤油の歴史 (歴史文化ライブラリー)

今回は世界への影響について。

まずは、醤油は江戸時代から主要な輸出品であったことから触れていこう。

輸出の開始

オランダ東インド会社が日本醤油をはじめて輸出したのは1647年だった。10樽(1斗6升入り)を台湾商館に送ったという。そしてそこから東南アジア諸地方に運ばれたようだ。まだ日本での生産が少なかった時代だが、輸出はその後もずっとつづけられたらしい。田中氏の調査によると、1)タイワン、2)トンキン、3)シャム、4)バタビア、5)マラッカ・カンボジア、6)コロマンデル・ベンガル、7)セイロン、8)スラッタ(インド西海岸)、9)アンボイナ・テルナテ(モルッカ諸島)・マカッサル(セレベル島)などに販売されたという。

17世紀半ばに既に輸出が開始されている。初期なので、まだ量は少なく、輸出先は醤油が買えなかった中国外に住む中国人であったようだ。

輸出量の増大

時代により瓶も変化したと思うが、現在まで残っているのは「コンプラ」とよばれる長崎県波佐見産の物である。近世初頭にポルトガル人貿易商が長崎出島に移住させられた時、オランダ人に日用品を売りこむ特権を与えられたのがコンプラ仲間であった。株が認められ、その売買もなされたようだ。このコンプラ仲間の最大の取引は醤油だったそうで、海外輸出もかれらの手をへたのかもしれない。
こういう由来を持つコンプラの名称は会社名となったらしく、幕末にコンプラ会社と特約を結んだ日本商人が輸出商品容器として陶製瓶を扱った。最盛期には1カ年40万本ぐらい取引されたという。1本には3合つめられたから、輸出量が推算できるだろう。

コンプラというのは次のような瓶。

toukinoegara.com

醤油の輸出量が増えたのは、国内のシェア競争が関係していたという。日本の近代化を支えた波佐見がここでも登場するのは興味深い。

関東醤油は19世紀に生産量が伸び、江戸・東京の需要に応えたが、幕末には生産過剰となる。醤油という商品は一定以上の個人消費量が望めない性格を持っており、一方で、 蔵造りは生産量の調整を簡単にはできない。しかも野田・銚子をはじめ、遠隔地市場を対象とする醸造業者の増加や、一軒あたりの生産高の増大がみられた。このため、大手業者は輸出高を伸ばすことに努力を払うようになる。

キッコーマンに代表される野田、ヤマサ醤油に代表される銚子が関東での販路開拓には成功するものの、関西への販路開拓にはまだ成功しておらず、シェアを取り崩せないままであった。もちろん、関西では淡口醤油が好まれるという好みの違いもあった。関東の醤油が余剰気味になり、そこから新たな販路の開拓として、海外への輸出がされたようである。

ヨーロッパと醤油

長崎ではオランダ人や欧州各国の人びとが商館に勤務していたので、醤油がヨーロッパ各国に浸透してくると、その製法や味などについての記述が文献にみられるようになる。フランスのディドロが編纂した『百科全書』(1765年刊)に醤油の項があり、日本産の一種のソースで、オランダからフランスにもたらされ、よい味で中国産よりはるかにすぐれているなどと書かれていた。そのほかにもいくつかの書物に記述されており、19世紀に入ると日本醤油はヨーロッパでは相当有名になったらしい。ただし、窓口がオランダだったため、現在でも欧米でソイとかソイ・ソースといわれている醤油の訳語の語源はオランダ語だ。オランダ語のsoya(ソヤ)が英語のソイ(soy)、フランス語のソヤ(soya)になったという。もっとも、このソヤは醤油原料の大豆を同時に意味したようだ。当時のヨーロッパには大豆がなかったからだという。

大豆のsoyが醤油からきているという話は有名かもしれない。正確に言えば、現在の長崎県にあたる肥前で醤油をソヤと呼んでおり、オランダにソヤと伝わり、各国言語に変換されていった。

中国の醤油

醤油は中国で作られ日本に持ち込まれたというのは間違いない。醤油が日本のオリジナルなわけではない。

中国では明の時代に大豆、小麦を原料とする醤油の製法が確立し、醤油という名称もこのころから一般化したのではないかとされている。日明貿易によって、中国南部の浙江省福建省の沿岸から日本の堺などに中国醤油が渡来し、その製法も伝えられ推測されている。もっとも、中国の伝統的な醤油は濃厚なうま味をもつが、色はそれほど澄んでおらず、日本の醤油とはおのずから距離があり、日本の醤油にはその後の工夫と改んでおらず、日本の醤油にはその後の工夫と改良のあとがうかがえる。

中国醤油の代表は老抽王だろう。

珠江橋牌 老抽王 500ml 濃口【中国醤油】

珠江橋牌 老抽王 500ml 濃口【中国醤油】

中国醤油は老抽王の他、あと何種類か日本に輸入されている。日本に輸入されている醤油しか知らないが、いずれもドロッとしていて不透明でありコクがある。

中国全体で言うとこの種の醤油が多いようだが、広東省や香港においてのトップブランドである李錦記は日本式の醤油を採用している。

李錦記は中国のみならず、世界の中国調味料のトップブランドである。日本で進化した本醸造醤油が、世界に移り住んだ中国人を通して広まっているのである。

東南アジアの醤油

また、タイやベトナムといった東南アジアの醤油も日本式の醤油がベースになっている。

タイを例にとろう。タイの醤油というと日本では、魚醤のナンプラーが有名だが、シーユーカオ、シーユーダム、シーズニングソースがある。ナンプラーも日常的に使うが、味のベースになるのはシーユーカオである。

シーユーカオは日本式の醤油である。

薄口醤油とも言われるが、シーユーダムに比べて薄いだけであり、日本でいう濃口醤油である。

シーユーダムは老抽王に似ている。ドロッとしていて不透明な醤油である。ブラックスイートソースと呼ばれることもあり、老抽王にはない甘さがある。ちなみに甘さは醤油の製造工程で生まれるのではなく、事後的に砂糖を入れてつけている。

シーズニングソースはシーユーカオに砂糖などを混ぜたミックスソースである。余談だが、シーズニングソースはタイ料理以外にもいろいろと使えるので家に置いておくと非常に便利だ。

ゴールデンマウンテン シーズニングソース 110ml

ゴールデンマウンテン シーズニングソース 110ml

こちらも余談だが、タイではオイスターソースもよく使う。中国文化圏の影響も強いことがうかがえる。

ここでは例としてタイの代表的な調味料を見たが、中国南部含め、東アジアで日本式の醤油が広がっていることが確認できたと思う。

日本の味 醤油の歴史

日本の味 醤油の歴史 (歴史文化ライブラリー)

日本の味 醤油の歴史 (歴史文化ライブラリー)

醤油が生まれたのは中国である。

中国では明の時代に大豆、小麦を原料とする醤油の製法が確立し、醤油という名称もこのころから一般化したのではないかとされている。日明貿易によって、中国南部の湘江省、福建省の沿岸から日本の堺などに中国醤油が渡来し、その製法も伝えられ推測されている。

中国から伝播した醤油は日本でさまざまな形に進化していく。

f:id:iDES:20191024183306p:plain

濃口醤油

この醤油の起源は明確ではないが、吉田ゆり子氏の研究によれば、こういった製法で造られる醤油の史料上の初見は中世末の『多聞院日記(たもんいんにっき)』だという。しかしこのような醤油造りが産業として成り立つのは近世に入った17世紀半ば以降で、現在の主要儂口醤油メーカーである関東のキッコーマン、ヤマサ、ヒゲタのもととなった造家はいずれもそのころに創業している。

『多聞院日記』の1565(永禄8)年7月の記述には「醤 大麦三斗、マメ九升、塩九升、水二斗四升入了」とある。『多聞院日記』は国立国会図書館のデジタルライブラリで読むことができる。

dl.ndl.go.jp

十六世紀中葉の南部では、醤油に相通ずる製法で唐味噌が作られており、その液成分を搾取した、事実上醤油に相当する唐味噌汁が使用されていたと考えられる

『多聞院日記』では醤油という言い回しは使われていない。唐味噌とは豆粒の形が残っているもの、鼓(くき)とも言われるものだ。鼓は私たちの食べる物のなかにはほとんどのこっていない。スーパーにあるものだと中国料理の調味料の豆鼓が鼓である。日本のものでいうと大徳寺納豆や浜納豆などになる。

豆鼓や大徳寺納豆はカラカラなので汁はでない。唐味噌はもっと水分があったのだろうと思われる。しょうゆがとれるのであれば、もろみに近かったと思われる。

1597(慶長2)年には『易林本 節用集』で「醤油」と漢字で書いて「シヤウユ」と読ませる用法が登場しているそうだ。

www.kikkoman.co.jp

淡口醤油

1666(寛文6)年、播州龍野の円尾孫右衛門によってはじめられたと言われる。近世後期の1809(文化6)年には甘酒を使用する製法も発明された。甘酒を用いるのは、京料理でよく用いる味醂と合うからだという。

溜醤油

おもに愛知・岐車・三重の東海三県で造られ、使用されている醤油で、日本国内の醤油生産量の約2%をしめている。

穀物原料としては基本的に大豆のみしか用いないのである。大豆という単一の穀物から造られるという意味で、原初的な「穀醤」から派生したことが想定され、醤油の原点ともいわれる。ただ、商品化されたのは1699(元禄12)年であるとする説もある。

白醤油

製法は溜醤油と正反対、すなわち穀物原料としては小麦のみ用いて造る。起源については、1802(享和2)年に三河国新川の現ヤマシン醤油からはじまったとする説、1811(文化8)年に尾張国愛知郡山崎村ではじまったとする説などあるが、いずれにしても19世紀初頭に現在の愛知県下ではじまったということになる。

再仕込醤油

主として西中国から北部九州にかけて生産、使用されている醤油で、別名「甘露醤油」とも言われる。その生産量は国内の醤油生産量の1%足らずである。ややどろっとして濃く、甘味を帯びているので、甘露煮や刺身・すしなどのつけ醤油として利用される。製法は、先に紹介した濃口醤油の製法の「塩」の部分が「醤油」に代わると考えればよい。すなわち、すでにできあがった醤油(濃口)を使って仕込むのである。

こうしてみるといろいろな醤油があるものだ。

最近「透明醤油」というものも発売されている。

tokubai.co.jp

ベイジアンP値

重回帰分析

Stataでデータwomenwageを読み込む。女性の就労のデータのようだ。

. use http://www.stata-press.com/data/r16/womenwage.dta, clear

回帰分析をする。初めて使うデータで詳しくないし、詳しくないし、分析内容はわりと適当。有意になる変数と有意にならない変数を選んだ。

  • school: 教育年数
  • age: 年齢
  • tenure: 在職年数

wage: 賃金が従属変数で残りの3つが独立変数である。
通常の重回帰分析を行う。

. reg wage school age tenure

      Source |       SS           df       MS      Number of obs   =       488
-------------+----------------------------------   F(3, 484)       =     83.28
       Model |  16315.6844         3  5438.56147   Prob > F        =    0.0000
    Residual |  31608.2971       484   65.306399   R-squared       =    0.3404
-------------+----------------------------------   Adj R-squared   =    0.3364
       Total |  47923.9816       487   98.406533   Root MSE        =    8.0812

------------------------------------------------------------------------------
        wage |      Coef.   Std. Err.      t    P>|t|     [95% Conf. Interval]
-------------+----------------------------------------------------------------
      school |   1.423874   .1427238     9.98   0.000      1.14344    1.704309
         age |  -.0003934   .0601166    -0.01   0.995    -.1185151    .1177283
      tenure |   .9309508   .1111943     8.37   0.000     .7124676    1.149434
       _cons |   -3.14417   2.128803    -1.48   0.140    -7.327007    1.038668
------------------------------------------------------------------------------

年齢だけ有意にならず、教育年数と在職年数は有意になっている。

ベイズ推定を用いた重回帰分析

ベイズ推定を行う場合、bayes:と前につければよいようだ。

. bayes:reg wage school age tenure

Model summary
------------------------------------------------------------------------------
Likelihood:
  wage ~ regress(xb_wage,{sigma2})

Priors:
  {wage:school age tenure _cons} ~ normal(0,10000)                         (1)
                        {sigma2} ~ igamma(.01,.01)
------------------------------------------------------------------------------
(1) Parameters are elements of the linear form xb_wage.

Bayesian linear regression                       MCMC iterations  =     12,500
Random-walk Metropolis-Hastings sampling         Burn-in          =      2,500
                                                 MCMC sample size =     10,000
                                                 Number of obs    =        488
                                                 Acceptance rate  =      .3651
                                                 Efficiency:  min =     .06028
                                                              avg =     .09881
Log marginal-likelihood = -1743.1885                          max =      .2248

------------------------------------------------------------------------------
             |                                                Equal-tailed
             |      Mean   Std. Dev.     MCSE     Median  [95% Cred. Interval]
-------------+----------------------------------------------------------------
wage         |
      school |   1.42746   .1428921   .005161   1.427762    1.14294   1.691908
         age | -.0006101   .0613317   .002422   .0015164  -.1249813   .1155295
      tenure |  .9335003   .1107249    .00451   .9299339   .7168522   1.142494
       _cons | -3.198892   2.123934   .081357  -3.199921  -7.157741   1.090784
-------------+----------------------------------------------------------------
      sigma2 |  65.56849    4.28004   .090266   65.23421    58.0508   74.34627
------------------------------------------------------------------------------

頻度統計を長年やってきた者としては、P値を探すのだが、ベイズ統計にはP値はない。

その代わりに使われることもあるのが、ベイジアンP値(Bayesian p-value)である。95%確信区間が0をまたいでいると確かではない、0をまたいでいないと、確かだという考え方だ。

頻度統計でも95%信頼区間で使ってきた考え方なのでそれほど違和感はない。

この分析ではageが0をまたいでいるので、効果が認められないことがわかる。他の2つの値は0をまたいでいないので、効果が認められるといった判断になる。

明治時代の義務教育の浸透

文科省が1962年に明治時代からの教育の歴史をまとめた『日本の成長と教育』という書籍がある。統計データを中心に書かれているが、非常に興味深い。
文科省上のWebスペースでHTML化されて公開されているようだ。  追記:2022.05.08 リンク切れ
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpad196201/hpad196201_1_001.html

NDLのログで見ることができる。 warp.da.ndl.go.jp

dl.ndl.go.jp

義務教育の浸透

江戸時代には寺子屋などの民間教育施設があったが、現在の小学校のような形ではなかった。明治5年の学制の発布以後の尋常小学校が現在の小学校の原型である。

尋常小学校は4年(1907年に6年に延長)であった。学制の発布当時高等小学校は4年で現在の中学校に相当した。

学制では授業料を1か月50銭くらいが妥当としていた。明治11年当時、有業者1人当たり年間21円の所得であり、就学は家庭にとってはかなり負担であった。また、教科書や筆、硯、紙、石盤、石筆などの学用品を一式を揃えるのも自費であった。尋常小学校への就学率がなかなか上がらなかったのも無理はない。

当時の子どもは小さな労働者でもあったから、小学校に通わせない親(実際には通わせる経済的な余裕のない親)は少なからずいた。小学校費出銭免除運動なども起こっている。また、小学校の焼き討ちなども起こっている。

女子の就学率は低い。男性優位の社会であったことを示している。家族の中で、就学させならば男子を優先した、男子の中でも長男を優先したということが行われていた。

就学率の転換点

転換点となるのは日清戦争あたりの時期である。グラフをみると1890年代に就学率が急増している。

これは、学費が次第に町村費から出されるようになってきたからである。1900(明治33)年八8月に小学校令改正によって授業料徴収が廃止され学費の学制自己負担はなくなったために、就学率はうなぎのぼりにあがり、100%近くまで上昇する。

学費だけではなく、明治の経済発展から大正の大戦景気(大正バブル)まで経済的に日本は豊かになり、子どもを学校に通わせる程度には余裕ができたという社会的な背景も関係している。

義務教育

グラフには義務教育就学率とあるが、厳密に言うと、学生の発布以後すぐに義務教育が始まったわけではない。 義務教育の教育の「義務化」がされるのは森有礼が行った一連の教育改革の中で、1886(明治19)年に出された小学校令である。第3条に次のような条文がある。

児童六年ヨリ十四年ニ至ル八箇年ヲ以テ学齢トシ父母後見人等ハ其学齢児童ヲシテ普通教育ヲ得セシムルノ義務アルモノトス

義務教育の義務はこの時から後見人(保護者)の義務であったことがわかる。

www.mext.go.jp

オープンダイアローグによる介入によりひきこもりが著効した例

以下は斎藤環さんが実際に介入した事例である。

最初の事例はひきこもりの男性だった。家族内暴力を振るい、家族を閉め出して自宅にたてこもっていた男性事例。二週に一度、同僚医師と外来でOD(オープンダイアローグ)的な面接を試みたところ、わずか半年間で目覚ましい変化があった。結果のみ記すと、彼は現在、専門学校に通いつつ、その技能を活かして起業すベく、ネットワーク作りに奔走している。初診の段階では想像もつかなかったような社会性が発揮されつつある。これとともに家族関係も改善し、当初は面接室で親を怒鳴り上げることもしばしばあったが、現在は比較的穏やかに、今後のことが話し合えるまでに変わりつつある。
ひきこもりの社会参加は、とにかく時聞がかかる。従来のやり方では、たとえ治療がきわめて順調に進んでも、社会参加には数年かかるのが普通だった。ひきこもりにかかわって30年近くなるが、このレベルの重篤度で、わずか半年間でこれほど自発的な変化が起きた事例は記憶にない。
もうひとつ喜ばしかったのは、家族に対して高圧的な指導をしなくて済んだ点である。専門家としてひきこもりの家族にかかわっていると、よくないと知りつつも、ついアドバイスが指導的あるいは叱咤激励的になってしまいがちだ。家で本人にそんな接し方をしていたら改善するわけがないという思いが先走って、どんどん言葉が強くなる。なにしろ「親は健常者」が前提だから、ついつい容赦ない断罪になってしまう。

ひきこもり事例でこれほどの短期間の回復は聞いたことがない。著効例といっていいだろう。

批判より納得

どれほど家族を叱ろうと、家族はなかなか変わらない。つまるところ「叱咤や批判で変わる人はいない」ということに尽きる。私やあなたがそうであるように。その批判が正しいかどうかはほとんど関係ないのだ。

斎藤さんはオープンダイアローグの家族への効果を以上のように分析している。

個人的には以下の3つにわけるとわかりやすいと考えた。

  1. 家族システムへの介入。親-子の関係性の修復
  2. 親への介入
  3. 本人への介入

相互に重なり合うがまずは一つ目。

家族システムへの介入

ひきこもりを抱える家庭の場合、親はしつこいくらいに子どもに説教をしていることが多い。「働きなさい」「学校に行きなさい」といった類の説教である。その説教の中身はだいたい正しい。しかし説教をされてなおるくらいなら、ひきこもりになどなっていないので、正しさを押し付けるアプローチは効果がない。

むしろ負の効果しかなく、親子関係が悪化する。家族関係の悪化はひきこもりを悪化させる。負の連鎖とでもいったようなものであろうか。家族システムの健全化がひきこもりの治療になるというのは、家族関係が良くなると、ひきこもり状態にある本人にも良い影響を与えるためである。

病理を個人化させると、ひきこもりは個人、本人の問題になる。しかし、ひきこもり状態の改善を考える際には、病理を個人化していくのは得策ではない。親もひきこもりの一部だと考えた方がよい。親が子供を扶養しないとひきこもりは成立しないから片棒を担いでいるといった話ではなく、親もひきこもりという病理の一部であると考えた方が対処しやすい、問題を掴みやすいということである。

病理のレベルとしては、個人病理から社会病理までの間の病理である。家族の病理だと書くと「あるべき家族像」などの話が湧いてくるので、家族の病理といった表現は避けたいのだが、レベルは家族で間違いない。

家族への介入

2つ目。家族への介入である。
斎藤さんの文章の中に「家で本人にそんな接し方をしていたら改善するわけがない」と書かれてあるように、ひきこもり家庭での親の振る舞いはだいたい不適切である。子どもへの説教、冷たい態度、罰、喧嘩、などなど、よい所がない。それらの行動の結果、ひきこもりは悪化する。主治医という立場上、それは止めさせなくてはならない。

叱責が好きな治療者にとって、叱るのは苦痛ではなく人によってはストレス発散にもなるそうだが、斎藤さんには苦痛なのだろう。これは治療者のパーソナリティによって苦痛の度合いは異なる。引用箇所のあたりでの斎藤さんの文章では、オープンダイアローグの家族への介入の有効性について力点が置かれてある。

もし、親への介入のみにオープンダイアローグの効果が限られたとしても、十分に検討する価値はありそうだ。なにせ、ひきこもりを抱える親に子どもへの批判を止めるようにといっても、実際には難しいからだ。人は心から納得していないことは守ろうとしない。特に、子どもとの喧嘩のような場面では、ついつい本音が出てしまうので、主治医が止めても、正しさの押し付けはなかなか止まないのだ。

親が説教をしないだけでも、ひきこもり支援としてはかなりの有効な支援である。

本人への介入

3つ目。本人への介入の効果である。
批判で変わらないのは本人も同じである。本人も、自分はまずい状態にあると認識している。ひきこもり生活を否定的に捉える当事者、経験者にしか、僕は会ったことがないので、これは間違いないと思う。

自分で自分の境遇が良くないと捉えていが、抜け出せない状況にあるとき、認識は歪むことが多い。何事も自身への批判だと捉えがちになるのである。

支援者・治療者がどのように考えていたとしても、本人の思い込みが先行していて、支援者や治療者の言葉が頭に入ってこない。結果として、彼らを締め出してしまうのだ。

優秀な支援者でも近づけない時に、ピア(=ひきこもり経験者)がさっと近づけることがあるのは、仲間だとある種の誤解が生じるからである。つまり、本人の思い込みの先行がないから近づけるのである。ただ、残念ながらピアは臨床力に欠ける。臨床力の高いピアは稀に存在はするが、臨床力が高くなる実際には治療者であり、ピアと治療者は両立しないのだ。

ピアではない支援者・治療者の場合、批判を含まない進め方というものが必要である。オープンダイアローグでは、批判ではなく「納得」ができる形でものごとを進めるということなので、本人的にも、防御行動には出にくいのではないだろうか。

本人支援でのポイントというのは、何事も批判的に捉える本人の思い込みをニュートラルに戻し、防御行動である他者の締め出しを起こさせない仕掛けが必要だということである。オープンダイアローグはその点で、ひきこもり支援に向いているように思えた。