日時:2020年1月25日(土)14:00~16:00(開場13:30)
場所:高松商工会議所 401会議室
香川県高松市番町2-2-2
参加費:無料
講師:井出草平 大阪大学非常勤講師
香川県ネット・ゲーム条例と久里浜医療センター
香川県議会が、全国に先駆けて検討しているゲームやインターネットの依存症の対策に関する条例の素案に、高校生以下の子どもを対象にゲームなどを利用する時間を1日あたり平日は60分、休日は90分に制限するなど、具体的な制限が盛り込まれることがわかりました。
条例素案18条
香川県ネット・ゲーム依存症対策条例(仮称)素案
第18条 保護者は、子どもにスマートフォン等を使用させるに当たっては、子どもの年齢、各家庭の実情等を考慮の上、その使用に伴う危険性及び過度の使用による弊害等について、子どもと話し合い、使用に関するルールづくり及びその見直しを行うものとする。
2 保護者は、前項の場合においては、子どもが睡眠時間を確保し、規則正しい生活習慣を身に付けられるよう、子どものネット・ゲーム依存症につながるようなスマートフォン等の使用に当たっては、1日当たりの使用時聞が60分まで(学校等の休業日にあっては、90分まで)の時間を上限とするとともに、義務教育修了前の子どもについては午後9時までに、それ以外の子どもについては午後10時まで、に使用をやめるルールを遵守させるものとする。
問題になっているのはこの18条2項である。
条例と久里浜医療センターアンケートの関係
この18条ができた根拠は国立病院機構久里浜医療センターによる「ネット・ゲーム使用と生活習慣についてのアンケート調査」が大きく影響している。
ネット・ゲーム使用と生活習慣についてのアンケート結果(概要) https://www.ncasa-japan.jp/pdf/document15.pdf
久里浜の調査ではゲームのプレイ時間が増えると「学業成績が落ちる」「家族関係が悪くなる」「朝が起きられない」「昼夜逆転がおこる」と結果が示されている。
18条には「子どもが睡眠時間を確保し、規則正しい生活習慣を身に付けられ」ると書かれてあるが、久里浜の「朝が起きられない」「昼夜逆転がおこる」に対応したものだ。
「学業成績が落ちる」は前文の「インターネットやコンピュータゲームの過剰な使用は、子どもの学力や体力の低下のみならず睡眠障害やひきこもりといった問題まで引き起こすことなどが指摘されており」に対応している。
「家族関係が悪くなる」は基本理念の第3条「ネット・ゲーム依存症である者等及びその家族が日常生活及び社会生活を円滑に営むことができるように支援すること」に対応している。
ゲームが悪いと思っているとすべてゲームのせいに見えてくる
先の久里浜のアンケート調査の報告では、ゲームのプレイ時間の増大が原因で「学業成績が落ちる」などのことが起きたかは明言されているわけではない。
家族関係が悪くなったのでゲームをしているという逆の因果も考えられるだろう。
また、うつ病やADHDなど他の要因が学業成績の下落とゲームプレイ時間の増加の両方に影響を与えているという疑似相関も考えられる。
しかし、「ゲームが悪い」という先入観があると、すべてゲームのせいにしてしまいがちである。
つまりすべてゲームのせいにしてしまい、ゲームのプレイ時間さえ制限してしまえば、なんでも解決すると考えてしまうのだ。
今回の条例は因果関係の同定をせずに、ゲームに馴染みのない世代がゲームを悪として魔女狩りをしているようにしかみえない。
texregの結果をRstudioで取り込むには
今回は2年以上前のエントリの続きである。
一番下の節で紹介しているtexregパッケージを実戦で使ってみたのだが意外に使いにくい。
確かに、HTML形式で綺麗な回帰分析は作れるが、それをRstudioに張り付けてレポートにすること、つまりknitすることができないのである。
今回はその解決法を紹介する。
下準備
以前のエントリ通り回帰分析を作成する。
library(AER) #パッケージの呼び出し data("CPS1985") lm0 <- lm(wage ~ age, data=CPS1985) #年齢が賃金を決めるモデル lm1 <- update(lm0, ~. + gender) # 性別をモデルに加える lm2 <- update(lm1, ~. + education) # 学歴をモデルに加える lm3 <- update(lm2, ~. + experience) # 仕事の経験年数をモデルに加える
texregによる整形
texregによるHTML形式による出力。詳しくは以前のエントリを参照のこと。
library(texreg) output <- htmlreg( list(lm0, lm1, lm2, lm3), caption.above = TRUE, caption = "表1 回帰分析のモデル比較", custom.coef.names = c("定数","年齢", "性別-女性", "教育年数", "就労経験") )
textreg関数で書き出すと以下のようなHTMLのコードが出力される。
今回はoutput
というオブジェクトに格納しているので、下のようなコードは出力されない。
<!DOCTYPE HTML PUBLIC "-//W3C//DTD HTML 4.01 Transitional//EN" "http://www.w3.org/TR/html4/loose.dtd"> <table cellspacing="0" align="center" style="border: none;"> <caption align="top" style="margin-bottom:0.3em;">表1 回帰分析のモデル比較</caption> <tr> <th style="text-align: left; border-top: 2px solid black; border-bottom: 1px solid black; padding-right: 12px;"><b></b></th> <th style="text-align: left; border-top: 2px solid black; border-bottom: 1px solid black; padding-right: 12px;"><b>Model 1</b></th> <th style="text-align: left; border-top: 2px solid black; border-bottom: 1px solid black; padding-right: 12px;"><b>Model 2</b></th> <th style="text-align: left; border-top: 2px solid black; border-bottom: 1px solid black; padding-right: 12px;"><b>Model 3</b></th> <th style="text-align: left; border-top: 2px solid black; border-bottom: 1px solid black; padding-right: 12px;"><b>Model 4</b></th> </tr> <tr> <td style="padding-right: 12px; border: none;">定数</td> <td style="padding-right: 12px; border: none;">6.17<sup style="vertical-align: 0px;">***</sup></td> <td style="padding-right: 12px; border: none;">6.93<sup style="vertical-align: 0px;">***</sup></td> <td style="padding-right: 12px; border: none;">-4.84<sup style="vertical-align: 0px;">***</sup></td> <td style="padding-right: 12px; border: none;">-1.96</td> </tr> <tr> <td style="padding-right: 12px; border: none;"></td> <td style="padding-right: 12px; border: none;">(0.72)</td> <td style="padding-right: 12px; border: none;">(0.72)</td> <td style="padding-right: 12px; border: none;">(1.24)</td> <td style="padding-right: 12px; border: none;">(6.84)</td> </tr> <tr> <td style="padding-right: 12px; border: none;">年齢</td> <td style="padding-right: 12px; border: none;">0.08<sup style="vertical-align: 0px;">***</sup></td> <td style="padding-right: 12px; border: none;">0.09<sup style="vertical-align: 0px;">***</sup></td> <td style="padding-right: 12px; border: none;">0.11<sup style="vertical-align: 0px;">***</sup></td> <td style="padding-right: 12px; border: none;">-0.37</td> </tr> <tr> <td style="padding-right: 12px; border: none;"></td> <td style="padding-right: 12px; border: none;">(0.02)</td> <td style="padding-right: 12px; border: none;">(0.02)</td> <td style="padding-right: 12px; border: none;">(0.02)</td> <td style="padding-right: 12px; border: none;">(1.12)</td> </tr> <tr> <td style="padding-right: 12px; border: none;">性別-女性</td> <td style="padding-right: 12px; border: none;"></td> <td style="padding-right: 12px; border: none;">-2.27<sup style="vertical-align: 0px;">***</sup></td> <td style="padding-right: 12px; border: none;">-2.34<sup style="vertical-align: 0px;">***</sup></td> <td style="padding-right: 12px; border: none;">-2.34<sup style="vertical-align: 0px;">***</sup></td> </tr> <tr> <td style="padding-right: 12px; border: none;"></td> <td style="padding-right: 12px; border: none;"></td> <td style="padding-right: 12px; border: none;">(0.43)</td> <td style="padding-right: 12px; border: none;">(0.39)</td> <td style="padding-right: 12px; border: none;">(0.39)</td> </tr> <tr> <td style="padding-right: 12px; border: none;">教育年数</td> <td style="padding-right: 12px; border: none;"></td> <td style="padding-right: 12px; border: none;"></td> <td style="padding-right: 12px; border: none;">0.83<sup style="vertical-align: 0px;">***</sup></td> <td style="padding-right: 12px; border: none;">1.31</td> </tr> <tr> <td style="padding-right: 12px; border: none;"></td> <td style="padding-right: 12px; border: none;"></td> <td style="padding-right: 12px; border: none;"></td> <td style="padding-right: 12px; border: none;">(0.07)</td> <td style="padding-right: 12px; border: none;">(1.12)</td> </tr> <tr> <td style="padding-right: 12px; border: none;">就労経験</td> <td style="padding-right: 12px; border: none;"></td> <td style="padding-right: 12px; border: none;"></td> <td style="padding-right: 12px; border: none;"></td> <td style="padding-right: 12px; border: none;">0.48</td> </tr> <tr> <td style="padding-right: 12px; border: none;"></td> <td style="padding-right: 12px; border: none;"></td> <td style="padding-right: 12px; border: none;"></td> <td style="padding-right: 12px; border: none;"></td> <td style="padding-right: 12px; border: none;">(1.12)</td> </tr> <tr> <td style="border-top: 1px solid black;">R<sup style="vertical-align: 0px;">2</sup></td> <td style="border-top: 1px solid black;">0.03</td> <td style="border-top: 1px solid black;">0.08</td> <td style="border-top: 1px solid black;">0.25</td> <td style="border-top: 1px solid black;">0.25</td> </tr> <tr> <td style="padding-right: 12px; border: none;">Adj. R<sup style="vertical-align: 0px;">2</sup></td> <td style="padding-right: 12px; border: none;">0.03</td> <td style="padding-right: 12px; border: none;">0.08</td> <td style="padding-right: 12px; border: none;">0.25</td> <td style="padding-right: 12px; border: none;">0.25</td> </tr> <tr> <td style="padding-right: 12px; border: none;">Num. obs.</td> <td style="padding-right: 12px; border: none;">534</td> <td style="padding-right: 12px; border: none;">534</td> <td style="padding-right: 12px; border: none;">534</td> <td style="padding-right: 12px; border: none;">534</td> </tr> <tr> <td style="border-bottom: 2px solid black;">RMSE</td> <td style="border-bottom: 2px solid black;">5.06</td> <td style="border-bottom: 2px solid black;">4.94</td> <td style="border-bottom: 2px solid black;">4.45</td> <td style="border-bottom: 2px solid black;">4.46</td> </tr> <tr> <td style="padding-right: 12px; border: none;" colspan="6"><span style="font-size:0.8em"><sup style="vertical-align: 0px;">***</sup>p < 0.001, <sup style="vertical-align: 0px;">**</sup>p < 0.01, <sup style="vertical-align: 0px;">*</sup>p < 0.05</span></td> </tr> </table>
これをエディタに張り付けて、エンコードをUTF-8に設定して、拡張子をhtmlにするとhtmlファイルに変わるのだが、少しめんどくさいので、一部自動化してみた。本当は全部自動化したかったのだが、どうしても、エンコードの指定だけができなかった。今後の課題としたい。
HTMLファイルの書き出し
cat関数を使う。
先ほどのtextregでHTML形式で整形したものを格納したoutput
をoutput.html
というファイル名で書きだす。
cat(output, file="output.html")
おそらく多くの人のWindowsはShift-JIS(CP932)で動いているので、catで書きだすとShift-JISで書きだされる。
しかし、UTF-8で書きだしたいのだ。
ちなみに、Macは確かUTF-8で動いていたはずなので、Macユーザーにはあまり関係ない話である。
エンコード
RStudioのRmdファイルと同じフォルダに先ほどのoutput.html
というファイルが作成されているので、テキストエディタでエンコードを変更する。
やり方はリンク先で解説されている。
https://www.1-firststep.com/archives/2258
Windowsに標準付属のテキストアプリでも可能である。
エンコードをShift-JISからUTF-8に変更して保存する。
HTMLファイルの読み込み
出力したHTML形式のファイルはhtmltoolsパッケージで取り込む。
library(htmltools) htmltools::includeHTML("output.html")
RStudioで部分的にRunすると文字化けして表示されるが、knitをすると日本語(2バイト文字)がちゃんと表示される。
出力した表を画像にしてRStudioで読み込むという手もあるが、画像をHTMLファイルと一緒に送らないといけない。それを回避するにはPDFにして全部固めるしかなかった。しかし、今回の方法では、出力して取り込んだHTMLのコードも取り込んでしまうので、knitしたHTMLファイルだけ送ることが可能だ。今回の例だとoutput.html
は同梱しなくてもよい。
アドヒアランスの指標であるMPRとPDCを計算するパッケージ[Stata]
The Stata Journalを読んでいたらMPRとPDCを計算するパッケージの紹介があったので、こちらで紹介しておこう。
https://journals.sagepub.com/doi/pdf/10.1177/1536867X19893625
http://www.lindenconsulting.org/stats.html
NPRとは薬剤保持率(medication possession ratio)であり、PDCは調査対象日数に対して実際に処方した日数の比率を示す平均治療日数カバー比率(proportion of days covered)である。
PRRという処方削減率(prescription reduction ratio)という指標もあるらしい。こちらは処方されたが、飲まなかった薬の残量を測る指標らしい。 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27489544
日本の福岡の先生たちが開発したらしい。処方した薬が大量に家で余っている状況は日本では日常茶飯事だが、諸外国ではどうなのだろうか。
medadhereパッケージ
コンソールからインストールする場合は以下のコードで手に入れる。
. net sj 19-4 . net install st0578 . net get st0578
install st0578
はプログラム、get st0578
はdoファイルとmedadheredata.dta
というデータである。
sj 19-4
はdoファイルに含まれるsjlog
というコマンドを実行するのに必要らしいが、インストール方法がよくわからなかった。リソースからsjlog
を直接インストールした。また、そもそも、このパッケージを利用するだけであれば、sjlog
は特に必要はない。
もちろん、リソースから検索してもパッケージ、データとも入手できる。
薬剤ごとのMPRとPDC
下記のものはidを1に絞った形でのコードだ。 スタートは2013年1月1日に設定し、365日続けるとしている。
. use medadheredata.dta" ,clear . keep if id==1 . medadhere fill_date days_supply, drug(drug) start(01jan2013) length(365) . list drug study_start_dt study_end_dt study_days mpr pdc, clean noobs abbreviate(14)
結果。
drug study_start_dt study_end_dt study_days mpr pdc 1 01jan2013 31dec2013 365 .969863 .9013699 2 01jan2013 31dec2013 365 .9808219 .9068493
薬剤を一つに絞ったMPRとPDC
下記のものは薬剤を1に絞ってidごとにMPRとPDCを出すコードである。 今度は終了日時を2013年1月30日に設定し、期間は設定していない。
. use medadheredata.dta, clear . keep if drug==1 . medadhere fill_date days_supply, id(id) end(30jun2013) . list id study_start_dt study_end_dt study_days mpr pdc, clean noobs abbreviate(14)
結果。
id study_start_dt study_end_dt study_days mpr pdc 1 07dec2012 30jun2013 206 1.038835 .9514563 2 11apr2012 30jun2013 446 .896861 .8744395 3 07jan2012 30jun2013 541 .9685767 .9260628 4 27dec2012 30jun2013 186 1.010753 .9354839 5 22may2013 30jun2013 40 .75 .75 6 03apr2012 30jun2013 454 .8678414 .8502203 7 17jan2012 30jun2013 531 .3954802 .3427495 8 20feb2013 30jun2013 131 .8091603 .7480916
クロス集計表
上記の2つの例は条件をつけた形で数値を示していたが、条件がなくリストを出すとかなりの行数が並ぶので読むのが大変だ。そこでクロス集計表にして見やすくする。今回指定するオプションはlength
だけで、これは研究期間で180日に揃えてある。
今回はPDCのクロス表である。
. use medadheredata.dta, clear . medadhere fill_date days_supply, id(id) drug(drug) length(180) credit . generate pdc80 = cond(pdc >= .80,1,0) . tabulate pdc80 drug, column
MPRとPDCのカットオフは0.8だと言われている。0.8を超える患者はアドヒアランスが良いとみなされ、0.8未満の患者はアドヒアランスが悪いとみなされる(Cramer et al. 2008; Sikka, Xia, and Aubert 2005; Centers for Medicare & Medicaid Services 2018).。
+-------------------+ | Key | |-------------------| | frequency | | column percentage | +-------------------+ | drug pdc80 | 1 2 3 | Total -----------+---------------------------------+---------- 0 | 2 2 2 | 6 | 25.00 25.00 40.00 | 28.57 -----------+---------------------------------+---------- 1 | 6 6 3 | 15 | 75.00 75.00 60.00 | 71.43 -----------+---------------------------------+---------- Total | 8 8 5 | 21 | 100.00 100.00 100.00 | 100.00
このサンプルのアドヒアランスは、薬物1、2、3でそれぞれ75%、75%、60%であることがわかる。
文献
- Cramer, J. A., A. Benedict, N. Muszbek, A. Keskinaslan, and Z. M. Khan. 2008. The significance of compliance and persistence in the treatment of diabetes, hypertension and dyslipidaemia: A review. International Journal of Clinical Practice 62: 76-87.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2228386/
Sikka, R., F. Xia, and R. E. Aubert. 2005. Estimating medication persistency using administrative claims data. American Journal of Managed Care 11: 449-457 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16044982
Centers for Medicare & Medicaid Services. 2018. Part C and D performance data. https://www.cms.gov/Medicare/Prescription-Drug-Coverage/PrescriptionDrugCovGenIn/PerformanceData
ネット・ゲーム依存とオピオイド拮抗薬
久里浜の樋口進さんのインタビューでオピオイド拮抗薬の話が出ていたので、少しまとめておこうと思う。
この記事で出てくるオピオイド受容体拮抗薬とはナルトレキソンとナロキソンのことである。
ネット・ゲーム依存とオピオイド拮抗薬の効果を要約すると、おそらく有効性は一定あるだろうが、現在のところエビデンスはまだ揃っていないというところだろうか。ただ、他の依存症・中毒での有効性がある薬なので、治療効果が期待できるように思える。
ナロキソン
ナロキソンは日本でも既に認可されている薬剤である。
ただし、ナロキソンは静脈注射であるため、使いにくい。また、使用用途が「麻薬による呼吸抑制ならびに覚醒遅延の改善」に限定されているため、依存症には使用できない。
現在の日本では、ナロキソンをナルトレキソンの代わりに使うのは現実的ではない。海外では経口薬も存在する。
北米ではナロキソンでは処方箋なしに薬局で入手することが可能である。また、オピオイド汚染で死者が続発していることから、ナロキソン配布プログラムというものもある。
本筋とは関係ないがナロキソンはクロニジンやグアンファシンの解毒剤でもある。
インチュニブ(グアンファシン)が昨年ADHD治療薬として承認されたため、小児でも使用される機会は増えたとは思われる。
過剰摂取の際にはナロキソンの静注と覚えておくと良いかもしれない。
鼻へのスプレー
フィンランドで治験がされているスプレーというのはナロキソンのスプレーのようだ。これはギャンブル依存への治療薬として開発されている。
ナルトレキソン
依存症・中毒関連の文献でよく見る薬剤である。おもしろい薬剤なのでまた機会があれば詳しくまとめてみたい。今回は簡単にまとめてみよう。
自傷行為
境界性パーソナリティー障害、自閉症の自傷行為に有効であることが確認されている。自傷行為はその行為の最中にベータエンドルフィンが放出されるため、ヘロインやモルヒネに似た効果が得られる。ナルトレキソンはこれをブロックできるため、自傷行為によって得られる快感がなくなる。そのため、境界性パーソナリティー障害には処方されやすい薬となっている。
境界性パーソナリティー障害の人には種々の依存症が併存することがあるため、その点でも処方されやすい。
依存症
クレプトマニア、ギャンブル依存、抜毛癖などへのエビデンスがある。
ネット・ゲーム障害への有効性
DSM-5にインターネットゲーム障害、ICD-11にゲーム障害が採録されてから日が浅いこともあり、エビデンスは今のところはない。
インターネット関連でナルトレキソンが使われた文献はインターネット・セックス依存のケースレポート1本である。
ただ、この論文で扱われているのはインターネットを利用した性衝動のコントロール不全なので、ネット依存の論文というよりも、性衝動の治療について書かれた文献といった方が妥当だろう。
性欲・性犯罪
ナルトレキソンは過度な性欲の抑制をしたり、勃起不全に役立つとされている。
性欲を押さえるという一方向の効果でないところが興味深いところである。
ナルトレキソンは思春期の性犯罪者の治療にも用いられている。
ナルトレキソンが力不足の場合はリュープロレリンが投与されている。リュープロレリンは女性ホルモンの一種であるエストラジオールと男性ホルモンの一種であるテストステロンを減少させる効果がある。
ナルトレキソンを使うのは、副作用の面でリュープロレリンよりナルトレキソンの方が軽微であるためと、性犯罪者へのホルモン治療は社会的に批判があるためである。
サイトカイン療法
インターフェロンαの注射によって生じる精神症状の増悪に対して有効である。
低用量ナルトレキソン療法
日本語でナルトレキソンを検索すると癌の代替療法としての低用量ナルトレキソン療法の結果が多い。低用量ナルトレキソン療法はもともとエイズ治療の研究として出発しており、一応、免疫療法に分類される。
アメリカなどでは多発性硬化症の代替療法としても有名だが、日本では多発性硬化症の知名度が高くないので、やはり癌の代替療法として売り出されている。
標準医療において、この治療法への評価は総じて否定的である。イェール大学のスティーブン・ノベラは低用量ナルトレキソン療法は疑似科学と言明している。
数十年研究されてきてエビデンスはないに等しい。実施したところで大したことは期待できないないだろう。ナルトレキソンの副作用もあるため、割に合わないのは明らかである。
低用量の場合は比較的副作用も穏やかであるため、人によっては利用できるかもしれない。代替療法全体に言えることだが、低用量ナルトレキソン療法もやたらと高価である。どうしても、低用量ナルトレキソン療法がしたければ、下記で書いているように個人輸入でナルトレキソンを手に入れられるので安価で実施は可能である。
副作用
副作用はμ受容体の遮断による下痢や腹部痙攣などの胃腸障害、嘔吐・吐き気などが挙げられる。管理面で最も悩ましいのは、吐き気の副作用になるだろう。ジプレキサなど制嘔作用のある副剤が必要になるケースが多くなるだろう。
コーカサイドよりもモンゴロイドの方がこの種の副作用の頻度は多くなる傾向にあるため、海外のデータよりも副作用の発生頻度は多くなると考えておいた方がよいだろう。
肝障害を起こすリスクがあるため肝機能のモニタリングが必要である。肝障害がある人には禁忌である。
入手性
ナルトレキソンは個人輸入で入手でき、入手は比較的簡単である。
使用をする場合には、ナルトレキソンの知識を持ち、個人輸入の薬の服薬の責任を持っつてもよいという奇特な医師を探し出すなどして服薬するしかない。
従って、入手が簡単だといっても、実際に使えるわけではない。
ネット・ゲーム依存の防止条例
この条例についていろいろとレクチャーを受けた。
まだ骨子はできておらず、詳細は決まっいないようだ。
また、子どものスマホを制限するようなラディカルな内容ではないようだ。
とはいえ、条例化するような話ではないように思う。
ひきこもりはネット依存か
一般的には、ひきこもり=ネット依存的なイメージが強いらしい。
そういわれてみれば、メディアイメージのひきこもりはネットをしているし、ネットで語られるひきこもりのステレオタイプもネットばかりしている人である場合が多いように思える。
そこで、実際にはひきこもりの人たちがどの程度ネット利用をしているのか調べてみた。
使用するのは内閣府の2015年調査(15-39歳)、2018年調査(40-64歳)である。
若者の生活に関する調査報告書
https://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/hikikomori/h27/pdf-index.html
生活状況に関する調査
https://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/life/h30/pdf-index.html
両方の調査で「ふだんご自宅にいるときに、よくしていることすべてに○をつけてください。」というマルチアンサーの質問があり、インターネットとゲームの選択肢が含まれている。
この質問に対する答えを集計してみたい。
若年(15-39歳, 2015年調査)
テレビ | ラジオ | ゲーム | ネット | |
---|---|---|---|---|
ひきこもり | 61.2% | 12.2% | 46.9% | 59.2% |
一般群 | 75.7% | 4.8% | 38.8% | 59.6% |
ひきこもりのラジオ利用率が高いことがわかる。テレビは一般群の方がみている。ゲームは8%ほどひきこもりの方が使用率は高い。ネット利用率は一般群は差はない。
2000年代からひきこもりのラジオ利用率は高かったが、その傾向は近年でも変わっていない。一般的にはひきこもりといえばネットやゲームかもしれないが、個人的にはラジオ視聴が特徴的だと思っている点である。
ただ、ラジオはテレビよりも古いメディアなので、社会的な拒否感というのは低いだろう。ネットやゲームは数十年くらいの歴史しかないので、高齢者にとっては「よくわからない存在」であり、「気持ちの悪いもの」であり、叩きやすいものでもある。そのため、異常な行為だとみなされやすい。ひきこもりも社会的には異常な行動なので、両者は結び付けられやすいのだろう。しかし、残念ながら、実態としては、ひきこもりがとりわけネットをよく利用しているわけではなさそうである。
中年(40-64歳, 2018年調査)
テレビ | ラジオ | ゲーム | ネット | |
---|---|---|---|---|
ひきこもり | 74.5% | 12.8% | 14.9% | 29.8% |
一般群 | 82.5% | 7.9% | 18.6% | 43.3% |
中年でもラジオ使用率が高い。テレビは若年と同じく一般群より1割ほど低い。ゲーム、ネットはいずれも一般群の方が高い。
ネット使用というのは、社会性とある程度の相関があると思われる。現代のオフィスワークではネット利用なしに仕事はできない。
仕事でネットを利用していれば、プライベートでもネットを利用するようになるはずである。
ひきこもりの中のヘビーユーザー
全体的にみるとひきこもり=ネット依存ということではないことが確認できた。
若年調査では一般群と使用率が同程度であった。中年調査では一般群の方がネット使用率は高かった。
ネットがあまり普及していなかった2000年代の調査では、ひきこもりのネット利用率は1割程度だったが、現代では一般群とほぼ変わらなくなったと言えるだろう。
とはいえ、ひきこもりの中にネットやゲームのヘビーユーザーがいないかというと、そうでもない。 仕事をしながら余暇のすべてをゲームやネットにつぎ込んでいる人もいるので、ひきこもりだけの問題だけではないのだが、ひきこもりとネット・ゲーム依存についても検討していかなければならないだろう。
2015年調査の問33に「パソコンや携帯ないと落ち着かない」という質問がある。内閣府の調査では、この質問くらいしかネット依存を計測できそうな質問がないが、その質問に該当したからと言って依存だということにはならない。
依存とはもう少し深刻な状況を指す。
スマホを常に持っていてLINEがくるので気になるくらいの人でもこの質問では引っかかるレベルである。
よって、下記の値は参考値くらいに捉える必要がある。
一般群とひきこもり群を比較すると、ひきこもり群の方が割合が高い。
2015年調査 | パソコンや携帯ないと落ち着かない |
---|---|
ひきこもり | 28.6% |
一般群 | 10.5% |
2018年の中年調査では割合がぐっと低くなる。
2018年調査 | パソコンや携帯ないと落ち着かない |
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ひきこもり | 8.5% |
一般群 | 4.5% |
こちらもひきこもり群の方が多い。引き上げているのは40代である。60代の一般群は1.8%と低い。
ある程度、推測は混じるが、依存という点では、一般群よりも、ひきこもり群の方が割合は多いのかもしれない。
間違えてはいけないのは、これはあくまでも割合の話である。
そもそもひきこもりは人口の1~2%程度と少数派である。
ひきこもりの方が割合として多かったとしても、ネット・ゲーム依存になっている大半の人は就労・就学をしながらの人であるということは確認しておきたい点である。