井出草平の研究ノート

精神医学

献本御礼:セイックラ、アーンキル 『開かれた対話と未来 今この瞬間に他者を思いやる』

開かれた対話と未来 今この瞬間に他者を思いやる作者: ヤーコ・セイックラ,トム・アーンキル,斎藤環出版社/メーカー: 医学書院発売日: 2019/08/26メディア: 単行本この商品を含むブログを見る 監訳者の斎藤環さんにいただきました。350ページを超える本なの…

単純型統合失調症のまとめと8050問題

単純型について過去にエントリを入れたが、その中で書き残している項目をまとめてこのエントリに入れておきたい。 疫学 単純型統合失調症に該当する症候を持つ者の疫学調査が存在するようだ。アイルランドの一地方で実施されたもので、DSM-IIIから基準Aを除…

統合失調症(単純型)の典型例

www.seiwa-pb.co.jp 仙波純一,神山園子,2012,「統合失調症(単純型)の典型例」『精神科治療学』27(7): 897-901. 「統合失調症(単純型)の典型例」という論文があるため、少し長くなるが症例込みで見ていきたい。 単純型とは下記のように定義されている。 …

抗コリン作用への対処法

イントロダクション 抗コリン作用は抗うつ薬の副作用として生じる。抗コリン作用によって強い副作用が出るため、服薬を続けることができないことがあり、うつ病の治療において大きな問題となっている。 短期間であれば耐えられる程度の副作用だったとしても…

単純型・寡症状性統合失調症

単純型よりもさらにマニアックな類型になるが寡症状性統合失調症にもついて見ていきたい。 ci.nii.ac.jp 田中伸一郎,2012,「継往開来 操作的診断の中で見失われがちな,大切な疾病概念や症状の再評価シリーズ 単純型・寡症状性統合失調症」『精神医学』54(7…

ICDとDSMにおける単純型統合失調症の扱い

ICDとDSMにおける単純型統合失調症の扱いについてメモをしておこう。 ICDでの扱い 1977年のICD-9の段階でも「可能であれば控えめに行うべき」と書かれている。1970年代の段階で国際的にこの診断基準は推奨されていなかったことがわかる。 1990年のICD-10での…

Blankenburgの『自明性の喪失』-単純型統合失調症かアスペルガー症候群か

和田信,2016,「『自明性の喪失』にみるBlankenburg, W.の姿勢 : 単純型統合失調症か,それともアスペルガー症候群か」『精神科治療学』 31(6): 755-761. ci.nii.ac.jp 「単純型統合失調症か,それともアスペルガー症候群か」という副題にあるようにBlankenb…

単純型統合失調症か自閉スペクトラム症か

yomidr.yomiuri.co.jp yomidr.yomiuri.co.jp このコラムの筆者はある女性患者を当初「統合失調症(鑑別不能型あるいは単純型)あるいは統合失調型障害」と診断した。 その後、児童青年精神医学に詳しい医師から「自閉スペクトラム症(広汎性発達障害)」と指摘…

素行障害の特定用語

素行障害とはConduct Disorderのことであり、以前は行為障害と翻訳されていた。翻訳が変化しただけで、同じものを指している。素行障害特定用語が4つあるのでDSM-5から引用しておこう。 サイコパスは様々な意味を含むが、その中核症状は、DSM-5では素行障害…

精神科の選び方3 ベンゾジアゼピン

以前のエントリの続きである。 精神科の選び方1 ガイドライン 精神科の選び方2 血液検査 今回はベンゾジアゼピン系の薬剤についてである。 最近はベンゾジアゼピンの処方がやり玉にあがることが多い。ベンゾジアゼピンとされる薬剤は主に下記の薬剤である…

精神科の選び方2 血液検査

イントロダクション 前回に引き続き精神科の選び方について。 前回はガイドラインと自分の受けている治療を比較するということだったが、今回は血液検査についてである。 前回は精神疾患以外のほとんどの疾患に応用できる方法だったが、今回はうつ病に限定し…

精神科の選び方1 ガイドライン

イントロダクション 精神科の選び方について相談をされることが度々あるので、まとめてみたい。 精神科選びというのはかなり難しい。治療方法が複雑なので説明が尽くせないということもあるが、一般的に悪手とされているものでも、会心の一手であることも稀…

CP換算計算シート

抗精神病薬のクロルプロマジン換算のシートを作る機会があったので、以下にリンクを貼っておく。エクセル形式(.xlsx)で、凡例として架空のサンプルデータが10ほど入力してある。 http://www.idesohei.net/files/CPEquivalents.xlsx

アルコール使用障害と併存症

アルコール使用障害(AUD)と併存症についてまとめてみた。 アルコール使用障害の概観 アルコール使用障害(AUD)は、医療費の4%を占める慢性疾患および再発性疾患である(Margolese et al., 2004 ; Rehm et al., 2009)。 12ヶ月と生涯AUD(DSM-5)の有病率…

ゲーム障害 Gaming disorder

WHOの診断基準であるICD-11が策定されたのでゲーム障害を訳出した。 icd.who.int 原文 Description Gaming disorder is characterized by a pattern of persistent or recurrent gaming behaviour (‘digital gaming’ or ‘video-gaming’), which may be onlin…

うつ病の自記式尺度について潜在クラス分析を行った論文

今回取り上げるのは下記の論文。 Ulbricht CM, Rothschild AJ, Lapane KL. The association between latent depression subtypes and remission after treatment with citalopram: A latent class analysis with distal outcome. J Affect Disord. 2015 Dec …

パリス『現代精神医学を迷路に追い込んだ過剰診断』

現代精神医学を迷路に追い込んだ過剰診断 -人生のあらゆる不幸に診断名をつけるDSMの罪作者: ジョエル・パリス,村上雅昭出版社/メーカー: 星和書店発売日: 2017/05/31メディア: 単行本(ソフトカバー)この商品を含むブログを見る DSMと過剰診断について書か…

日本人の精神力が弱まった

野村総一郎 メディア用語としての"新型うつ病"のその後 (特集 臨床現場から見た精神疾患の変貌) 臨床精神医学 45(1), 37-42, 2016-01 中島は日本人に備わっていた「徳」(善や正義をつらぬく人格的能力)と「仁」(おもいやり, いつくしみ)が失われたこと…

シーハン障害尺度

シーハン障害尺度は仕事/学校、社会、家族という3つの相互に関連のある領域における機能障害の評価をするツールである。自記式(Self-Report)である。harmresearch.org 追記 下記ドメイン(cqaimh.org)に掲載されたSDSは著者の許可なしに掲載されたものだとシ…

不登校に対する精神医学的診断

不登校の入院例に対してDSM-III-R&IVの多軸診断を行った研究。 古口高志ほか、 心療内科入院治療を施行した不登校症例の病態特徴について : DSM(III-R&IV)多軸評定に準じた形式での評定結果より 心身医学 42(7), 467-474, 2002 http://ci.nii.ac.jp/naid/110…

向精神薬の処方制限についての解説

読売新聞で向精神薬の大量処方を制限するという報道があったが、正確ではないので整理しておきたい。 向精神薬の大量処方を制限へ、診療報酬を認めず 社会 YOMIURI ONLINE(読売新聞) http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20140307-OYT1T00823.htm (20…

自由こそ治療だ

自由こそ治療だ―イタリア精神病院解体のレポート作者: ジルシュミット,Sil Schmid,半田文穂出版社/メーカー: 社会評論社発売日: 2005/12メディア: 単行本購入: 2人 クリック: 12回この商品を含むブログ (7件) を見る 日本の精神病棟もどうかとは思うが、イタ…