井出草平の研究ノート

大分県『ひきこもりの実態調査報告書』

大分県精神保健福祉センター,2004,
『ひきこもりの実態調査報告書』


大分県での「ひきこもり」の実態調査についての報告書。2つの調査が行われている。


1つ目は保健所・診療所などを通して把握された事例を機関が記入したもの。
2つ目は機関に相談を来た人による自己記入式。


1つ目の調査。

ひきこもり本人年齢


高齢化事例(30歳以上)は全体の30.8%。この調査の興味深い点は最高年齢が73歳であること。これは老人のひきこもりであろう。
ちなみに斎藤環定義の「ひきこもり」は「二十代後半までに問題化」という条件がつくため、斎藤定義ではこの老人のひきこもりは「ひきこもり」には入らない。理由は、ひきこもり状態になる原因・背景が異なるため、別の問題として扱うべきであるからだ。


(2)ひきこもり本人の性別・年齢
 性別は、男性145人(69%)、女性66人(31%)であった。平均年齢は26.2歳で、最年少15歳、最年長は73歳であった。年齢階層別では15-19歳が68人と最も多く、 20-24歳45人、 25-29歳33人、 30-34歳26人、 35-39歳16人、 40歳以上22人と年齢が若いほど多くなっており、 10代が32%、 20代が37%であるが, 30代以上も30%を占めていた。 (表2 ・図1)

ひきこもり発生年齢

やはり学齢期からの「ひきこもり」が多い。


ひきこもり5年以内の内訳

2年が最頻値。これは埼玉県の調査とも符合する。

本人の状態

部屋に籠もりきりは全体の5.6%。『ひきこもりガイドライン』は4%ほどであったので、この数字も符合している。

きっかけ・要因

やはりコミュニケーションについての問題が多い。

問題行動

昼夜逆転が多い。
摂食障害の性別は報告書からは判別が出来ないが、経験則として女性が大半だと思われる。
家庭内暴力が12%程度に見られる。『ひきこもりガイドライン』では17.6%。

不登校経験


不登校経験は45%。他の調査より低い。
理由は、この調査の最高齢が73歳であることも関係あるだろう。通常の調査は「二十代後半までに問題化」した「ひきこもり」を扱っているが、この調査はその他のひきこもり状態も含まれているため、不登校経験率も低くなるのだと思われる。

不登校とひきこもりは関連があるという調査結果もあるが、今回の基礎調査では45%に不登校経験があった。(不登校を小中学校と明記しなかったため不登校経験者に高校や大学も含まれていることも考えられる。)そのうち就労経験がない者が65%を占めていたことを考えると、不登校からひきこもりに移行する者も少なくないと思われる。

不登校経験と就労体験


注目すべき所は、不登校経験「有」の中で、就労経験「無」が65%と言うところだろう。これは、不登校をした後にひきこもり状態が連続し、就労にも至っていないということだろう。つまり、不登校が長期化し、ひきこもり状態から抜け出すことが出来ていない事例なのである。


もう一点。
この1つ目の調査では、不登校経験「無」で就労経験「無」=学校にちゃんと行っていたし、その後プラプラと仕事をせずにニートを続けていた人がいない。不登校ではなかった人たちは、すべて何かしらの仕事をした後に、ひきこもり状態になっているということなのだと思われる。

外部からの働きかけに対する本人の対応


問いかけに対して無反応……8.1%
全く姿を見せない……16.1%

家族に必要と思われるサービス


社会参加の支援人員の制度化が必要との声。これは「家族」「本人」に共通している。
違いを見せるのは「学習会・講座」が「家族」に必要だとのこと。

本人に必要と思われるサービス


「本人」に対しては、「居場所の提供」、「就労・仕事体験の提供」が必要とのこと。




2つ目の調査

アンケート調査

本人の件別は男性44人(79%)、女性12人(21%)であった。

男性8割。

ひきこもり本人の年齢

10代20代が多い。長期化例(30歳以上)は23.1%。

ひきこもり本人の年齢

問題化した年齢。学齢期に問題化=不登校は34例で60.7%。大学・就労からひきこもり状態になっているのは、39.3%。

ひきこもり継続期間

3年以内の事例は37.5%。この調査では長期化事例が多い。

不登校経験と就労経験

1つ目の機関を通しての調査と違い、不登校経験「無」就労経験「無」=卒業後に就職せずにズルズルとニート(なのではないかと思われる)事例がそれなりに存在している。


また、不登校経験「有」で就労経験「無」が77%。つまり、不登校経験者の中で一度も就労に繋がることが出来ず、長期化しひきこもり状態が続いているものが8割弱ということになる。

問題行動


社会参加できない以外に問題がない……41.1%
昼夜逆転……55.4%
家庭内暴力(対人)……12.5%
家庭内暴力(対物)……21.4%


「社会参加できない以外に問題がない」=4割というのが非常に興味深い。岡山大学のフォローアップ調査では、精神障害を伴わない「ひきこもり」が全体の4割であるという調査結果が出ている。(参照)


この大分の調査は岡山大学のフォローアップとともに、「ひきこもり」固有の問題を照射することに寄与するだろう。つまり、「ひきこもり」は必ずしも精神障害を伴わないし、「ひきこもり」固有の問題として「コミュニケーションから切断されている」ということの説得力を高めるのではないかと思われる。

これまであった問題行動では、家族用アンケートで「社会参加ができないこと以外に深刻な問題がない」が23人(41%)、「家族以外の暴力がある」0人であった反面、「家族への暴力」7人(13%)、「家庭内で物を壊す」12人(21%)と家族内の問題も少なくなかった。家族の調整や家庭内暴力に対する対応等の支援も必要である。

ひきこもりの切っ掛け


対人トラブル……67.9%
いじめなど……39.3%
本人の要因……42.9%

現在の本人の状態



部屋にこもりきりが10.7%。

相談機関へのアクセスについて

とても苦労した+やや苦労した……70%


7割が相談機関を見つけるのに苦労をしている。この質問に答えている人は「繋がれた人」なので、苦労の結果繋がれなかった人は多数いるに違いないと思われる。


苦労した点
どこに相談するか分からない……51.8%
情報が少ない……41.1%


以下は相談機関の対応について。


大分県は恵まれているのかもしれない。よく分からないが。

また、相談機関や(支援)団体を見つけるのに苦労した家族が7割あり、「どこに相談すればよいかわからなかった」と回答した家族が5割あった。

2つの調査の比較


注目すべきは太字の部分。


項   目 基礎調査票 家族用アンケート
有効回服数 211件 56件
ひきこもり本人の性別 男性69%1女性31% 男性79%・女21%
ひきこもり本人の年齢 15歳〜19歳(32%) 15歳〜20歳(37%)
ひきこもり初発年齢 15歳〜19歳(39%) 13歳〜15歳(32%)
今までのひきこもり継続期間 5年未満50% 1〜3年30%・3〜5年23%
同居人あリ 71% 100%
同居人の内訳 両親と他の家族と本人30% 両親と他の家族と本人33%
相談来所者 父、母いずれか1人73%
本人の状況 時々自分で買い物やドライブ等外に出ることがある 時々自分で買い物やドライブ等外に出ることがある
ひきこもったきっかけ・要因 対人(他人)でのトラブル 対人(他人)でのトラブル
基本的問題

(家族用アンケートでは過去にあったことも含む)
昼夜逆転家庭内暴力 昼夜逆転・社会参加ができないこと以外問題なし・被害的な言動
不登校経験あり 45% 70%
就労経験 あり36%なし30%不明36% あり34% なし66%
不登校ありで就労経験なし 65% 77%
医療機関受診歴あり 27% 54%
医療機関以外の相談歴あリ 35%
医療機関以外の利用機関 精神保健福祉センター 精神保健福祉センター
これまで利用した相談機関 精神科の病院・診療所
相談機関を見つける苦労 とても苦労した 34%
苦労の内容 どこに相談すればいいのかわからなかった
相談のきっかけ 精神的不調があった
社会的支援への希望 支援する専門職の確保・解決事例や体験談の紹介
家族に必要なサービス 本人の社会参加を支援する人員の制度化
本人に必要なサービス 同上


1 基礎調査
(1)調査期間
平成14年4月1日〜平成15年3月31日


(2)調査方法
調査対象機関に基礎調査票を配布し、各機関が把握した事例について個人別に基礎調査票に記入し、平成15年度当初に回収


〈調査対象機関209施設〉
保健所14カ所・市町村57カ所・福祉事務所(県・市)17カ所・児童相談所2カ所 医療機関(精神科・心療内科)56カ所・教育事務所6カ所・高等学校57カ所・警察(フレンドリーサポートセンター)・フリースクール2カ所・精神保健福祉センター・教育センター各1カ所
(3)対象者
①調査期間内にひきこもりの診療・相談等で直接家族・本人の情報を把握した事例
②調査期間内に他機関等から間接的にひきこもりの現状を把握した事例
③調査期間内に何らかの形で関わったひきこもり事例(訪問・相談・他機関紹介等)
*①〜③のうち、最小限「識別コード」「性別」「年齢」「ひきこもり初発年齢」「ひきこもり継続期間」を記入できる事例

1基礎調査票

(1)回収状況
 調査対象機関209施設のうち、 129施設(62%)から回答があったが、そのうち68施設(53%)は「対象者なし」という回答であった。
 回答件数は229件であった。 (表1)内訳は精神保健福祉センターが98件(44%)と最も多く、次いで高校の35件(16%)、保健所26件(11%),医療機関26件(11%)、市町村19件(8%)、市福祉事務所14件(6%)、県福祉事務所10件(4%)、児童相談所1件(0%)であった。 (表1)
*229件の基礎調査票のうち、識別コード及び性別から同一人と判断した者については複数の機関から提出があっても1件とし、重複ケースを除いた211件の基礎調査票について集計した。



2 アンケート調査
(1)調査期間
平成14年10月1日〜平成15年3月31日


(2)調査方法
調査対象機関をとおして配布した調査票により自記式アンケート調査をおこない、同封の返信用封筒にて回収


(3)対 象 者
調査対象機関に「社会的ひきこもり問題」を相談するために来所した者及び関係団体に適所した者のうち、調査への協力の了承が取れた者

義務教育終了以降の「社会的ひきこもり」事例で、下記の2点を満たす者
①6ヶ月以上自宅等に閉じこもり、特定の相手以外と交流しない者
②精神病を背景としない者(既存の医療制度や障害者の福祉制度による支援が困難な者)

*「6ヶ月以上」
途中アルバイトなどで社会参加したが長続きしなかったという期間も含めること
*「特定の相手」
家族、親族、特定の友人・知人、行きつけのコンビニや書店等の店員等
(例:自分で運転して、あるいは父親が運転する車で近所の公園をドライブする事例、パソコンを使ってインターネットで他者と交流している事例、時々近所のコンビニや書店等で買い物をする事例等は、本調査の対象に含む。)