このコラムの筆者はある女性患者を当初「統合失調症(鑑別不能型あるいは単純型)あるいは統合失調型障害」と診断した。
その後、児童青年精神医学に詳しい医師から「自閉スペクトラム症(広汎性発達障害)」と指摘がされたというエピソードである。
昔の感覚だと統合失調症だったものが現在では自閉スペクトラム症とみなされるケースなのだが、その歴史の変わり目が非常にわかりやすく記述されている。
臨床の場では、鑑別不能型あるいは単純型*1というものが頭に浮かぶのは、ああでもない、こうでもないと逡巡して、明確に当てはまる診断がないものの、統合失調症っぽい、どうしたものか、といったときに登場することが多いと思う。
「従来の精神医学の範疇からすれば、破瓜型か単純型かは判別が困難としても、少なくとも統合失調症でよかろう」
「いや、これからは、精神科といえども、発達の視点をもつことが不可欠となろう」
医局が二分されたそうである。
治療から考える
治療の面から考えると、実は、診断はどちらでも大差はない。 単純型の場合は少量の抗精神病薬を投与するのがセオリーであり、自閉スペクトラム症の成人例でも同様である。自閉スペクトラム症の方がエビリファイやリスパダールが有効性が高いというエビデンスがあるため、抗精神病薬を選ぶ際にはやや有利かもしれない。
また、使える社会資源に差があるなら、有利に方を選べばよいし、患者の希望を聞いてもよいのではないだろうか。
自閉症の誤診問題
「(広汎性)発達障害を統合失調症と誤診され、人生を台無しにさせられた例が後を絶たない」といった指摘も、散見されるようになった。
自閉スペクトラム症(広汎性発達障害)が喧伝される初期には、このような指摘は確かに何度か目にしたことがあるし、確かにそのようなケースは少なからず存在しているようだ。
統合失調症であると誤診された結果、高容量(=統合失調症であれば通常量)の抗精神病薬を投与され、廃人のように人生を過ごしてきてしまった、という経過が多い。
この問題の本質は誤診だと考えるのは誤りである。
自閉スペクトラム症の概念を知らなかったとしても、典型的な統合失調症ではないことは明らかであり、その場合は、このコラムを書いている医師のように、どの類型だろうか、どのような治療がよいかと逡巡することになる。
もし、単純型であれば、高容量の抗精神病薬を投薬してはいけないことは過去の知識でも明白である。
自閉スペクトラム症に高容量の抗精神病薬を投薬していたケースは、統合失調症の治療として失敗しているのである。
実際のところ、このコラムを書いた医師のように旧来の知識でも正解に限りなく近い考えに到達できる医師ばかりではない。
統合失調症=高容量の抗精神病薬という対応をとる治療者は意外に多い。
そのような医師の元で、自閉スペクトラム症に高容量の抗精神病薬を投与して廃人にするという事態が起こってきたと捉えるのが正しい。要するに、統合失調症の治療が間違っているか、ひどく下手であることがこの問題の本質なのである。