抗コリン作用への対処法

イントロダクション

抗コリン作用は抗うつ薬の副作用として生じる。抗コリン作用によって強い副作用が出るため、服薬を続けることができないことがあり、うつ病の治療において大きな問題となっている。

短期間であれば耐えられる程度の副作用だったとしても、抗うつ剤は少なくと半年間は服薬する必要があるし多くの場合は、数年単位での服薬をすることになる。抗コリン作用のマネージメントをすることは、治療をする上でも治療結果を左右する重要な要因である。

抗コリン作用の副作用は多岐にわたる。主なものは、便秘、胃腸障害、口渇、虫歯、歯周病緑内障、排尿困難などである。これらの症状は生活の質を大きく下げる。

抗コリン作用のマネージメントを怠ると、抗コリン作用が不快であるために、患者が服薬を拒否したり、医師に黙って服薬をしていないこというこにつながる。いわゆるアドヒアランスの低下である。結果として治るはずのうつ病が治らない、不十分(部分寛解)となる。

抗コリン作用が多くあらわれるのは、三環系抗うつ薬である。また、SSRIではパロキセチン(パキシル)、SNRIではデュロキセチン(サインバルタ)、エフェクサー(ベンラフェキシン)で発現頻度が高い。三環系抗うつ薬もまだまだ現役である。三環系抗うつ薬の使用頻度が減ったとは言え、現代でも未だに大きな問題として存在している。

1.一般的にとられている副作用の緩和策

まずは一般的に行われている対処法について記したい。抗コリン作用のマネージメントについての統計調査があるわけではないので、ここで書いているのは、見聞きした範囲で臨床で行われている方法であるが、異議はおそらく出ないだろう。

1.1 便秘

酸化マグネシウム(マグミット)が処方されることが多い。 安価な薬剤であるため、薬剤費の負担も少ない。また、腎結石の治療薬でもあるため、結石予防などの副効用も期待できる。

サプリメントとしては、水溶性食物繊維である難消化性デキストリンの効果が期待できるかもしれない。難消化性デキストリンは飲料系のトクホによく含まれるので最近知名度が上がっている。トクホでの承認は、食事の時に血糖値の上昇を抑えるという効果が認められているので、便秘解消効果が認められているわけではない。 血糖値にしろ、便秘解消にしろ、効果はあまり高くない。また、効果が出るほど大量に摂取すると、高価であるため、合理的な選択とは言いづらいだろう。

1.2 胃腸障害・胃腸の不快感

臨床では有効な薬剤が出されていることはあまりない。

胃腸障害は様々な機序で起こる。抗うつ剤の場合は、セロトニンが過剰になっている場合と、抗コリン作用によって起こるものが多い。アセチルコリンの濃度が減少すると腸の蠕動(ぜんどう)運動が弱まるため、消化がうまくいかなくなる。

胃腸薬にもさまざまなものがあり、特に注意が必要なのは、薬局でも売っているスコポラミン(ブスコパン)である。この薬は、抗コリン作用で生じた胃腸障害を悪化させる。スコポラミンは抗コリン作用を生じさせる薬であり、三環系抗うつ薬で生じる抗コリン作用と同じであり、症状が深刻になるのだ。

胃腸薬という名前がついていても作用機序がことなり、機序を把握した上で投薬する必要がある。

一般的に精神科ではファモチジン(ガスター)が出されていることがあるようだ。ファモチジンは胃酸の分泌を抑制する薬剤であり、胃腸障害を改善することとは関係がない。PPI(プロトンポンプ阻害薬)であるラベプラゾール(パリエット)ランソプラゾール(タケプロン)も同様である。

これらの薬は抗コリン作用による胃腸障害には有効ではない。また、PPIは長期使用(2年以上)をする際には、骨粗しょう症につなながる副作用がある。骨粗しょう症のリスクが高い女性の場合は投与の必要性を十分に考慮するべきである。PPIによる骨折リスクは医師にも患者にも、もう少し周知されるべきであろう。

www.ncbi.nlm.nih.gov Andersen et al., "Proton pump inhibitors and osteoporosis." Curr Opin Rheumatol. 2016 Jul;28(4):420-5.

AndersenらはPPIの投薬をせざるを得ない場合にのみ最低有効量を使用するべきと書いている。

精神症状に伴って胃潰瘍逆流性食道炎などが生じる場合がある。その場合には、ファモチジンPPIを投与する必要がある。これらの症状が無い場合に、ファモチジン(ガスター)やPPIが無意味だということだ。

その他、テプレノン(セルベックス)レバミピド(ムコスタ)などが投与されることもあるが、抗コリン作用による胃腸障害には無意味である。

1.3 口渇・虫歯・歯周病・口腔感染症

これらの症状は口腔内の唾液量が現象することで生じる。臨床では患者からの訴えは頻繁に起こるが、放置される副作用でもある。口腔内のトラブルの重要性はあまり周知されていないようだが、個人的には対処の必要なトラブルだと感じている。

経過を知っている三環系抗うつ薬の投薬を受けた者は全員、虫歯や歯周病といった歯のトラブルを抱えている。場合によっては、カンジダや細菌性の感染症を引き起こすこともある。歯を失うことはQOLの低下のみならず、健康寿命への影響もある。どの程度の信頼性があるかはわからないが、歯周病菌がアルツハイマー認知症に影響があるという報告もある(https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/02/post-11628.php)。仮にこの仮説が正しいなら、抗コリン作用を放置は、アルツハイマー認知症の誘発を意味している。

口腔内トラブルはニュージーランド厚生労働省に相当するMedsafeのページでまとめられている。
Medicines, Dry Mouth and Tooth Decay - New Zealand Medicines and Medical Devices Safety Authority(Medsafe)

向精神薬を使用した時の口腔内トラブルにいては下記の論文が詳しい。

www.ncbi.nlm.nih.gov Fratto G, Manzon L, 2014, "Use of psychotropic drugs and associated dental diseases." Int J Psychiatry Med. 48(3):185-97.

唾液の分泌量が減少すると口臭がひどくなる。医科学的に軽度な副作用だが、対人場面が多くある営業職などの場合には、口臭で営業がうまくいかなくなることも容易に想像できるので、社会的には深刻な副作用と言えよう。

歯周病まで進行しなくても、患者が困っている場合には、口渇の副作用には何らかの対処をした方がよい。

抗うつ剤の副作用に対して、臨床では漢方薬が処方されることがあるようだ。

白虎加人参湯は、ジソピラミドなど抗コリン作用による口渇に関して、麦門冬湯はシェーグレン症候群のドライマウスに関しての論文が複数存在している。ただ、漢方薬の効果は限定的であり、白虎加人参湯も麦門冬湯も気休め程度にしか効果が期待できない。

先のニュージーランド政府機関リンク(Medsafe)にはライフハックとして下記の方法が示されている。

  • 食事と一緒にに水(または無糖飲料)を多めに飲む。
  • 無糖チューインガムを噛むか、無糖キャンディーをなめる。
  • カフェイン入りの飲み物、アルコール、タバコを避ける。
  • 夜に加湿器を使用する。
  • 辛いまたは塩辛い食べ物は痛みを引き起こす可能性があること注意。
  • 唾液代替物の使用を検討する(注:日本では人口唾液のサリベート等)。
  • 塩と重炭酸の口内洗浄剤の使用を検討する。

別の原因(例えば更年期障害)などで口渇で困っている場合にも、このライフハックは有効である。ライフハック以上の効果が期待できる口渇への有効な介入は、下記のコリン作動薬、コリンエステラーゼ阻害薬を使用するしかない。

1.4 排尿困難

抗コリン作用によって排尿困難になる場合がある。この副作用が出やすいのは男性であり、高齢であればかなりの割合で生じる。

高齢男性は前立腺肥大を抱えており、もともと排尿が難しくなるが、そこに、抗コリン作用が重なると、尿が出にくくなる。場合によっては、尿閉、つまり、完全に尿が出なくなることもある。短期的に非常に深刻な副作用であるため、抗うつ薬を変えるか、排尿困難の薬が追加されることが多い。

高齢者にはSSRIは効きにくいことがわかっており、三環系抗うつ薬を使うか、デュロキセチン(サインバルタ)を使うかしかない。いずれも抗コリン作用がある薬であるので、高齢男性のうつ病患者の場合には、ほぼ、この副作用について対処をすることに迫られる。

もっとも使用頻度が高いのはα1阻害薬である。中でも、タムスロシン(ハルナール)が多いのではないかと思う。もう一つの候補はナフトピジル(フリバス)である。シロドシン(ユリーフ)は勃起不全の副作用があり、忌避される可能性が高い。

α1阻害薬にも副作用はある。この3剤はアドレナリンα1A/1D選択的阻害薬である。そのためα受容体に関連がある低血圧や腹圧性尿失禁などの副作用がある。血圧を下げる効果があるため、高血圧にも有効な薬であるため、高血圧の人が血圧を抑えるために(つまり一石二鳥を狙い)使うこともできるが、高血圧であるがハルナールやフリバスを飲んでいるために、高血圧であることを認知できないケースがあることにも注意が必要である。

前立腺肥大に6~7割程度併存する過活動膀胱・頻尿という点で言えば、α1阻害薬と抗コリン作用のある薬の併用は泌尿器科ではよく行う治療法であり、エビデンスもある。下部尿路症状がある場合には、抗うつ剤の抗コリン作用を緩和するために、α1阻害薬を投与するというのは副次的にもたらされる良い状態である。

www.ncbi.nlm.nih.gov Kim HJ et al., 2017, "Efficacy and Safety of Initial Combination Treatment of an Alpha Blocker with an Anticholinergic Medication in Benign Prostatic Hyperplasia Patients with Lower Urinary Tract Symptoms: Updated Meta-Analysis." PLoS One. 10, 12(1).

1.5 眼圧上昇・緑内障

抗コリン作用は眼圧を上げる。眼圧の上昇は自覚することが難しく、ほとんどのケースでは短期的にも問題が起きないことから、気にされないことが多い。

もちろん、中長期的には眼圧の上昇は問題を引き起こす。最も注意が必要なのは、緑内障の発症である。抗うつ剤は長期間服薬することが多いため、眼圧の上昇にも気を配る必要がある。

医原性の緑内障の原因は、抗コリン作用の薬剤、サルファ剤、ステロイドの3つである。 www.ncbi.nlm.nih.gov Razeghinejad MR et al., 2011, "Iatrogenic glaucoma secondary to medications." Am J Med. 124(1):20-5.

Seitzら(2012)がカナダ・オンタリオ州で行った解析によると、高齢者(平均74.3歳であり、66%は女性)では抗うつ剤を飲むと1.62倍(95%信頼区間、1.16-2.26)急性閉塞性緑内障(AACG)を発症しやすいというデータがある。

www.ncbi.nlm.nih.gov Seitz DP, 2012, "Short-term exposure to antidepressant drugs and risk of acute angle-closure glaucoma among older adults.", J Clin Psychopharmacol. 32(3): 403-7.

SSRI投与によって短期的に急性閉塞性緑内障が生じることも判明しており、SSRIのあまり知られていない副作用として注意喚起が一部の研究者が行っている。抗コリン作用があまりないとされているSSRIでも緑内障の副作用が起こっていることは、三環系抗うつ剤を想定している本稿の目的からは逸れるが、注意が必要である。

www.ncbi.nlm.nih.gov Kirkham J, Seitz D., 2016, "Evidence of ocular side effects of SSRIs and new warnings.", Evid Based Ment Health. 20(1): 27.

臨床場面では眼圧や緑内障への影響はあまり気にされていないが、少なくとも抗うつ剤の服薬している患者には、眼科医への定期的な受診を精神科の医師は勧めるべきである。若年でも気を付けた方がよいが、40歳以上では20人に1人が緑内障であるため、特に中高年以降は緑内障や眼圧の上昇には注意すべきである。

眼圧を下げたり緑内障の治療に使用するのは目薬である。眼圧は眼の中の房水の量で決まるため、房水の量をコントロールすることで眼圧を下げることができる。

房水の生産量を抑える薬
- β受容体遮断薬...チモロール、カルテオロール、ベタキソロール、ニプラジロール
- 炭酸脱水酵素阻害...ドルゾラミド
- α2刺激薬...ブリモニジン

房水の排出
- プロスタグランジン関連薬...ラタノプロスト、タフルプロスト、トラボプロスト、ビマトプロスト、ウノプロスト
- α2刺激薬...ブリモニジン
- α1受容体遮断薬...ブナゾシン
- ROCK阻害薬...リパスジル

合剤
- コソプト
- ザラカム
- デュオトラバ

2.1 アセチルコリン濃度を上昇させる

以下では、一般的に行われていない方法の説明を行う。

抗コリン作用とは体内のアセチルコリンの濃度が低くなっていることである。従って逆の作用を持つ薬、つまりアセチルコリンの濃度を上昇させる薬を入れて打ち消しあうことも選択肢に入る。

薬の副作用に対して薬を入れることに抵抗感もあるだろうが、三環系抗うつ薬を服薬する場合に、副作用を抑える薬なしに服薬することはほとんど不可能なのである。だいたい3~4剤ほど副作用を押さえる薬を飲むのが普通である。一般的な処方は下記のようなものである。

  • 便秘...酸化マグネシウム
  • 胃腸障害...胃腸薬(効果はないが患者から求められることが)
  • 口渇...漢方薬など
  • 排尿困難...タムスロシンなど
  • 眼圧上昇...リスク認知が進んでいないの対応はされていない

アセチルコリンの濃度を上昇させることができれば、薬の量を減らすことも可能である。そもそも、

また、一般的に副作用を抑えるために飲む薬はアドレナリンやヒスタミンの受容体に働きかける薬であるため、それらの薬によって新たな副作用が起きるリスクがある。下がっているアセチルコリンの濃度を上げるだけであれば、他の受容体への悪さをしなくて済む。

注意すべきは、アセチルコリンの濃度を上昇させる薬であっても、個々の薬で差異があり、副作用が起こることも当然想定しておくべきことだ。コストベネフィットを考え服薬の是非を検討する必要がある。

2.1.1アセチルコリンの濃度を上昇させる2つの方法

アセチルコリンの濃度を上昇させるには2つの方法がある。アセチルコリンコリンエステラーゼによって分解される。第1の方法は、単純にアセチルコリンの量を増やす方法である。第2の方法は、アセチルコリンを分解するコリンエステラーゼの効果を阻害してアセチルコリンの量を一定に保つ方法である。

2.2 胃腸薬

2.2.1 モサプリド(ガスチモン)  

モサプリド(ガスモチン)は精神科でも処方がよくされる薬である。5-HT4受容体作動剤であり、セロトニン系の薬である。しかし、5-HT4ないし、5-HT3の増加によって、アセチルコリンは増加するため、二次的にコリン作動薬として働く。ただ、効果は穏やかであり、三環系抗うつ薬の抗コリン作用を抑えることはこの薬単体では不可能である。

ちなみに、SSRIセロトニン増加によっても胃腸障害が起こりうるが、それに対してモサプリドは効果を示さない。SSRIもモサプリドもセロトニン作動薬であるため、効果の方向性が同じだからだ。

この際には、過敏性大腸炎の薬であるラモセトロン(イリボー)を使用する。ラモセトロンは5-HT3受容体拮抗剤である。従って5-HT4によって起こった胃腸障害は無効である。ラモセトロンは下痢症状には著効する印象がある。セルトラリンが下痢の副作用で飲めないという典型例にこの方法は非常にフィットする。

抗うつ薬による胃腸障害が起こる際には、アセチルコリンによるものなのか、セロトニンによるものなのかを見極めることが重要である*1。胃腸が悪かったら胃腸薬を入れるという雑な対応が一般的だが、このような対応では飲める薬も飲めず、抗うつ剤の継続的な服薬は難しい。

なお、5-HT4の阻害薬として開発されているのはPiboserod(https://en.wikipedia.org/wiki/Piboserod)であるが、入手はできない。入手ができるのはリジン(リシン)である(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC307574/)。Ki値はわからないが、効果はサプリメントの域を出ない印象である。5-HT4阻害効果が必要であれば、現在は他の選択肢がないため、トライするのは悪くはないとは思う。

2.2.2 ベサコリン(ベタネコール)

ベサコリン(ベタネコール)は胃腸科で処方される薬である。コリン作動薬に分類される。三環系抗うつ薬による抗コリン作用に対しても、ある程度改善がみられるため、選択肢に入れるべき薬である。ただ、三環系抗うつ剤の抗コリン作用を完全に押さえるほどの能力はなく、1~2割が改善する程度のものという人が多いように思う。

また創薬年が古く薬価も安い。気管支喘息甲状腺機能亢進症など服薬に適さない人もいるため、服薬ができるかを事前に確認する必要がある。
コリン作動薬であるため排尿困難にも効果が認められている。

2.2.3 アコチアミド(アコファイド)

アコチアミド(アコファイド)は胃腸科で処方される薬である。コリンエステラーゼ阻害薬に分類される。効果は穏やかであり、抗コリン作用を抑えることは不可能である。体感では改善されたという気が全くしないらしい。薬価も高く、効果の面から言うとベサコリンを選ぶ方が良いだろう。

2.3 排尿困難治療薬

2.3.1 ジスチグミン(ウブレチド)

ジスチグミン(ウブレチド)は排尿困難の薬である。抗コリン作用による胃腸障害改善薬としても使用できる。しかし、副作用には注意が必要である。1968年から2009年までに10例の死亡例がある。投薬量が10~15mgと高容量であり、現在の添付文書の上限である5mgでの死亡例はない。高齢者では副作用であるコリン作動性クリーゼが起こりやすく、高齢者の服用は避ける方が望ましい。

ジスチグミン臭化物による コリン作動性クリーゼ報告の解析 https://www.jshp.or.jp/banner/oldpdf/p46-11.pdf

他の薬の方が副作用が少ないため、ジスチグミンは選択肢から外した方がよいだろう。

2.4 シェーグレン症候群治療薬

胃腸薬などは処方が抗うつ剤によって起こされた副作用であっても処方が容易だが、シェーグレン症候群の治療薬は、シェーグレン症候群の診断がなければ医療保険を使用した処方はできない。シェーグレン症候群は有病率が低く(0.05%)、女性しか罹患せず、専門性の高い疾患であるため、精神科でシェーグレン症候群の薬の処方はできない。抗うつ剤の抗コリン作用を抑えるために使う場合には自由診療で100%自己負担で購入するか、個人輸入で購入する必要がある。

2.4.1 セビメリン(エボザック・サリグレン)

半減期が3.9±1.2時間と比較的長く1日3回の服薬で管理できる。薬価は1カプセルあたり106.5円(30mg)であり、1日3回の服薬が指示されているため、28日で8946円の費用が必要である。

禁忌
心筋梗塞狭心症気管支喘息慢性閉塞性肺疾患、消化管や膀胱頸部に閉塞のある人、てんかんパーキンソン病虹彩炎のある人。  

副作用
承認後における使用成績調査2,020例中報告された副作用は483例(23.9%)で、主な副作用は、悪心6.4%(130件)、下痢1.7%(35件)等の胃腸障害、多汗3.9%(78件)等の皮膚及び皮下組織障害、めまい0.9%(19件)等の神経系障害、頻尿1.2%(24件)等の腎及び尿路障害、倦怠感0.4%(7件)等の全身障害、ALT(GPT)上昇0.5%(9件)等の臨床検査値異常であった。

添付文書
www.info.pmda.go.jp

副作用の発現率は23.9%であり、薬の中では非常に少ない。気を付けるのは悪心6.4%であろうか。悪心はアセチルコリンの濃度が減少することによって起こっているため、抗コリン作用を打ち消す際には、現れにくいはずである。もし対処が必要な場合には、ドンペリドン(ナウゼリン)やメトクロプラミド(プリンペラン)がおそらく有効である。この2剤は胃腸薬であるため、組み合わせは悪くない。

2.4.2 ピロカルピン(サラジェン)  

半減期が1.586±0.397時間と早いため、効果が出て、しばらくすると減弱する。添付文書では1日3回の投薬を指示しているが、おそらく1日5mgを3回では1日の半分くらいは効果が実感できないはずである。投薬の工夫としては、2.5mgにして1日6回服薬するなどであるが、管理は難しくなる。
薬価は127.5(5mg)であり、1日3回の服薬が指示されているため、28日で1万710円の費用が必要である。  

禁忌
セビメリンに同じ。

副作用
製造販売後に実施された使用成績調査の安全性解析対象症例2,155例中,副作用が報告されたのは685例(31.8%)であった。その主なものは,多汗21.8%(469/2,155),嘔気1.8%(38/2,155),下痢1.3%(27/2,155),頻尿1.1%(24/2,155)であった。

添付文書   www.info.pmda.go.jp

多汗はアセチルコリン濃度の増加によって起こるため、抗コリン作用を打ち消す際には、現れにくいはずである。

なお、5mgを2.5mgにして投与回数を増やしたりしてはいけないのではないかという疑念を持つ人もいるかもれないが、血中濃度の観点から言っても実は好ましい。少量多分割投与療法によって副作用を抑えるという論文も書かれている。

ci.nii.ac.jp 岩渕博史他,2010,「ピロカルピン塩酸塩の副作用軽減法に関する研究-少量多分割投与療法による多汗軽減の可能性-」『日口粘膜誌』16(1): 17-23. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjomm/16/1/16_1_17/_pdf/-char/ja

2.5 抗うつ薬

2.5.1 フルボキサミン(デプロメールルボックス)

抗うつ薬の中で唯一コリン作動薬になるのがフルボキサミンである。フルボキサミンがコリン作動薬として働くのは、5HT3、5HT4受容体が強いためであり、モサプリドと同様の機序でアセチルコリンレベルが上昇する。服薬量によっても異なるが、モサプリドよりも効果は強いことが多い。

日本以外の臨床では、口渇の副作用はブプロピオン(ウェルブトリン)で最も多く(上記Medsafe)、その場合、ブプロピオンとフルボキサミンのコンビネーションは有効かもしれない。ブプロピオンのコンビネーションといえば、セルトラリン(ゾロフト)が最も有名である。ウェルブトリンのウェルとゾロフトのロフトを併せて、ウェルロフト(welloft)という名前がつけられている。ちなみにwellは「よく」という意味であり、loftには「打ち上げる」なので、「(気分が)よく打ち上げられる」とゴロがよいため英語圏では割と知られている。

抗うつ薬を2つ同時に使うメリットはあまりないと言われる中でブプロピオンのコンビネーションが検討される理由は、ブプロピオンはノルエピネフリンドパミンへの作用があるが、セロトニンへの作用がないためであり、SSRIであるフルボキサミンセロトニンへの作用を補完するためである。STAR*DでSSRI(シタロプラム)にブプロピオン付加が有効であったということもコンビネーションを広めるきっかけになったのではないかと思う。

ただ、日本ではブプロピオンは認可されていないため、フルボキサミンを治療と副作用の抑制に使用することを検討する機会はまずないだろう。

3. 結論

有効性が高く副作用が少ない方法は、シェーグレン症候群治療薬の2剤である。また効果は薄いもののベサコリン(ベタネコール)を検討してもよいだろう。ベサコリンは胃薬であるため、処方は簡単だが、シェーグレン症候群の治療薬は手に入れることが難しい。

3.1 シェーグレン症候群治療薬の入手

入手方法は2つある。

3.1.1 自由診療

1つは自費で診療を受け処方を受けることである。半減期が長いほうが効果が長く、管理が楽であるためセビメリン(エポザック)がよいだろう。費用はさきほど計算したように28日で8946円である。

比較的高価な薬となるが、眼圧上昇による緑内障や口渇による虫歯・歯槽膿漏のことを考えれば、高くないと考える人もいるだろう。

セビメリンの自費購入は、更年期治療では比較的行われているため、薬局では日常的にあるが、精神科ではセビメリンの自費購入が比較的多いことは知られていないため、精神科医の説得に少し骨が折れるかもしれない。

3.1.2 個人輸入

シェーグレン症候群で個人輸入できるのは、知る限りピロカルピンのみである。半減期が短くセビメリンより管理が難しい(=少量をこまめに服薬することが必要)。信頼度の高いインドジェネリック(Sun Pharma製)が販売されており、あるサイトでは5mg×50錠で1843円と日本で自由診療で購入するするよりはるかに安価である。

3.2. 抗コリン作用の副効用

抗コリン作用がある抗うつ剤を飲んでいるために健康的に益が生まれる場合にもある。

3.2.1 過活動膀胱(OAB)

過活動膀胱(OAB)とは頻尿、夜間頻尿や、切迫性尿失禁などの症状である。有病率は成人の1/6程度と言われていたが、現在では8%程度といわれている。過活動膀胱の治療薬は抗コリン剤である。従って、抗うつ剤の抗コリン作用があれば、過活動膀胱もある程度押さえられる。α1阻害薬とのコンビネーションは上記の通りである。

journals.plos.org Kari A.O. Tikkinen et al., 2007, Is the Prevalence of Overactive Bladder Overestimated? A Population-Based Study in Finland, PLoS One 7.

,

3.2.2 胆石の痛み止め

胆石による痛みに対して鎮痙薬(ちんけいやく)が使われる。鎮痙薬とは抗コリン薬のことである。抗うつ剤の抗コリン作用は、常に鎮痙薬が入っているのと同じ状態であるため、胆石などの痛みが起こりにくい。胆石の保存療法(積極的に治療をせずに見守る)をする際には、痛みが起こりにくい状態が作り出されるので、都合がよい。

胆石症の保存療法をする際には抗コリン作用は有効だが、鎮痙作用があるために病気の発見が遅れる可能性も考慮すべきである。鎮痙効果によって収まる症状は、胃・十二指腸潰瘍(かいよう)、胃痛、胃けいれん、腎・尿管結石、肝・胆道疾患などである。

抗うつ薬の服用によって、消化器系の疾患の発見が遅れる可能性には注意すべきである。

*1:もちろんノルアドレナリンドパミンによって起こるので検討が必要なのはこの2つだけではない