11月に新しい抗うつ薬トリンテリックス(一般名:ボルチオキセチン)が投入されるようだ。効果はSSRI+リフレックス的な効果で、忍容性が高い(継続率70%)ということのようだ(トリンテリックス | kyupinの日記 気が向けば更新)。
新規の抗うつ薬が登場しても、何に使うの?と思うくらい既に多くの抗うつ剤が存在している。今更、新薬がてでるのかと少し冷やかな気持ちになったが、SSRI+リフレックス的という言葉から高齢者のうつ(late-life depression: LLD)に向いているのではと思いついたので、調べると既に有効性を示す論文が書かれていた。
Lu AA21004とされているのがトリンテリックスのことである。薬剤名が決まる前から高齢者うつ病のRCTを行っていたようだ。事前マーケティングの時点で高齢者は主たるターゲットに入っていたのかもしれない。
この研究は8週間のRCTである。トリンテリックス群(5mg/day)、サインバルタ群(60mg/day)、プラセボ群の3群比較をする設計になっている。評価はHAM-D24とMADRSとCGI-S。患者の平均年齢は70.6歳である。
成績は下記のようになっている。
トリンテリックス | サインバルタ | プラセボ | |
---|---|---|---|
反応(HAM-D24) | 53.2%** | 35.2%*** | 35.2% |
反応(MADRS) | 59.7%*** | 70.7%*** | 35.9% |
寛解(HAM-D24) | 29.2%* | 29.2%** | 19.3% |
寛解(MADRS) | 33.8%* | 46.9%*** | 20.7% |
*: P < 0.05, **: P < 0.01, ***: P < 0.001 vs. placebo.
治療成績はさすがにサインバルタには及ばない。しかし、高齢者のうつ病で有効なのはサインバルタと、プラセボより少しマシなパキシルとマイルドな効果があるリフレックスだけなので、ライバルになる商品が実はサインバルタしかない。サインバルタには及ばなかったとしても、十分に使える薬である。
中止率はトリンテリックス群5.8%、サインバルタ群9.9%、プラセボ2.8%で、トリンテリックス最も忍容性が高いことがわかった。
総合すると、トリンテリックスはサインバルタに効果では劣るものの、忍容性が高く薬に弱い高齢者でも飲みやすい。
今後、高齢者のうつ病での第一選択がトリンテリックスになる可能性は非常に高い。
日本でも高齢者は増加し、それに比例して高齢者のうつ病も増えていくため、トリンテリックスはその時代にフィットした抗うつ薬として十分な売り上げが出せるのではないかという気がした。最初は冷やかな気持ちだったが、この薬はたぶん売れる部類の薬になるだろう。
マーケティング的に書くと陰謀論的でいやらしい感じがするが、患者にとっても、効かない薬を飲まされるよりも、臨床的な効果が確かめられている薬を飲めるようになるということは、健康を取り戻す人が増えることであり、とても良いことである。
LLDについて直近のレビューは以下のものだと思うので、こちらの論文が参考になるだろう。