軽度発達障害は「軽度」な訳ではない、本人の生きづらさは軽度ではない、というようなことから「軽度」発達障害という言葉は不適切であると言われることがある。行政が軽度発達障害という言葉を使わなくなった理由は、そういった批判が受け入れられたのかと思っていたが、どうやら違うようだ。法律レベルでは障害の度合いを定めない、障害の度合いを定めるのは自治体、という事情から、「軽度」という言葉は使われなくなったようである。
島治伸,2007, 「なぜ軽度発達障害という名称が用いられないのか」 『現代のエスプリ』 (474),117〜121,2007/1
このように、法律レベルで障害の軽度や重度という程度を表すことは基本的に行われていない。つまり、行政による措置や事業対象となる障害の種類はともかく、その程度を国レベルで規定していないのである。したがって、障害の軽度や重度というのは、事業等の実施主体となる自治体による専決事項とも言うべき事柄である。
軽度発達障害という言葉は、厚労省・文科省の施策では登場しない。発達障害者支援法にも登場しない。
発達障害者支援法では、第二条で 「この法律において『発達障害』とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。」として大枠を決め、発達障害者支援法施行令(政令第一五〇号)で、「脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもののうち、言語の障害、協調運動の障害その他厚生労働省令で定める障害とする。」とし、発達障害者支援法施行規則(厚生労働省令第八一号)では、「心理的発達の障害並びに行動及び情緒の障害(自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、言語の障害及び協調運動の障害を除く。)とする。」と規定し、その他の対象を規定している。
これによって、従来の枠では収まらなかった「隆害」のほとんどが網羅されることとなり、国の施策や事業の根拠法令となったのである。つまり、個々の障害の総称として「発達障害」で表し、他の法律の関係から障害の程度を表す「軽度」の名称を用いなかったと考えることが安当であろう。