井出草平の研究ノート

ゲームは子どもの生活に良い影響を与えるかもしれない

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要約

EU6か国を対象とし、6歳~11歳の3195人を対象とした調査。 ゲームを長時間しているグループでは、知的機能が1.585倍高く、教師が測定した学校における全体的な能力が1.67倍高かった。メンタルヘルスの問題はなく、仲間関係の問題が減少(0.41倍)、向社会性の問題が減少 した(0.23倍)。「ゲームをすることは子どもにとって良い影響を与えるかもしれない」と結論付けられている。

データ

データはEUの6つの国(ドイツ、オランダ、リトアニアルーマニアブルガリア、トルコ)で実施されたSchool Children Mental Health Europe Project(SCHME)のもの。

計測

ゲームの使用

一週間にゲームをした時間両親が報告。 分析では、低使用(週に0〜60分)、中程度(61〜300分)、高使用は300分以上と3分位にして検討されている。

子どもの精神衛生

1つ目はThe Strengths and Difficulties Questionnaire (SDQ)を使用。母親報告、教師報告。 2つ目は、子ども自身が評価をしたDominic Interactive(DI)。

学業成績

教員による報告。 「クラスの他の子どもたちと比べて、成績、読解、数学、スペリング、知的機能などの分野で成績はどうですか?」(compared to the other children in the class, how does he or she fare in the following areas: school performance, reading, mathematics, spelling and intellectual functioning?)

結果

学業成績

ゲームの利用率が高いと、知的機能や学業成績が良かった。正の関連は読字能力(p=0.05)、数学能力(p=0.0031)、スペル能力(p=0.002)。

知的能力

オッズ比 P値
1–5時間 1.25 (1.03, 1.53) [0.028]
5時間以上 1.58 (1.22, 2.05) [0.001]

学校における全般的な能力

オッズ比 P値
1–5時間 1.38 (1.14, 1.67) [0.001]
5時間以上 1.67 (1.31, 2.12) [<0.001]

子どもの年齢と性別、子どもの数、母親の年齢、配偶者の有無、教育、雇用状況、心理的苦痛、およびヨーロッパ地域(西/東)を調整したところ、ゲームの使用量が多いと、知的機能が高いオッズ(OR= 1.58(1.22-2.05)[0.001])が高くなり、学校における全般的な能力が高いOR=1.67(1.31-2.12)[<0.001)。使用量が中程度もある程度高くなる。

メンタルヘルス

DIの分析は多変量解析をすると統計学的に有意な値は得られなかったようだが、SDQではゲームを長時間するグループでメンタルヘルスの問題が少ないことが判明している。

向社会的の問題

オッズ比 P値
1–5時間 0.23(0.07, 0.81) [0.02]
5時間以上 1.09 (0.31, 3.9)

仲間関係の問題

オッズ比 P値
1–5時間 0.83 (0.44, 1.57)
5時間以上 0.43 (0.19, 0.99) [0.05]

困難総計

オッズ比 P値
1–5時間 0.97 (0.5, 1.88)
5時間以上 0.41 (0.2, 0.86) [0.02]

子どもの年齢と性別、子どもの数、母親の年齢、配偶者の有無、教育、雇用状況、心理的苦痛、およびヨーロッパ地域(西/東)が調整されている。ゲームを1時間以上しているグループでメンタルヘルスの問題が統計学的に有意に高いものはなかった。

考察

日本ではゲームをすると学力低下をするという、固定観念があるが、海外の調査ではゲームを長時間しているグループの方が学業成績は高いという研究が多い。韓国の調査ではインターネット使用時間が長いグループでは学業成績がよく、親の収入も高いという結果であった(参照)。

日本では、成績やメンタルヘルスの問題を、ゲームと成績という2つの項目だけで相関関係を見ることが多い。しかし、実際には成績は家庭の年収や家庭の文化資本資産などの影響を受けるため、他の変数・項目も分析に組み込んで、ゲームと成績の関係を評価しなくてはならない。

ゲームの良い効果が海外では多く報告されている中、ゲームは教育に悪いという固定観念を持つのではなく、科学的な調査に基づいて、ゲームは何時間くらい、どういった形で利用するのが適切なのか、という議論をしていく必要があるだろう。