井出草平の研究ノート

きょうの健康でゲーム行動症について誤った解説がされる

きょうの健康 “幸せホルモン”でストレス解消 「ゲームをするなら“黙々系”」

www.nhk.jp

きょうの健康といえば、ガッテン!(https://www.nhk.jp/p/gatten/ts/1ZQ6NXVY46/)などとは違い、確かな健康情報を伝えるというコンセプトの番組である。

日々の健康づくりに役立つ情報をお届けする「きょうの健康」。 がんや心臓病など命を奪うおそれのある病気から、効果的な運動や体操の方法まで、確かな取材に基づいた信頼のおける医学・健康の最新情報を、第一線で活躍する医師・専門家の方々をゲストに迎え、分かりやすくお伝えしますhttps://www.nhk.jp/p/kyonokenko/ts/83KL2X1J32/

番組初めからエセ科学全開である。

番組のディレクターが企画を考えて学者がそれに乗っかったのか、学者がディレクターをだましたのかわからないが、残念さしか残らないフリップである。

ゲーム障害

NHKのナレーションは以下。

ドパミンは欲求や快感を司っています。そのため、毎日何時間もゲームを続けていると、ゲームをしたいという欲が抑えられなくなってしまって、ゲーム障害になりやすくなってしまいます。そうなると、ひきこもりになったり、治療に長期間かかるなど生活への支障が大きくなりやすいそうです。ゲーム障害にならないためにはどんなゲームでも目安は1日30分程度が勧められます。

ドパミンは欲求や快感を司っています

ドーパミンは欲求や開花に関係をしているという意味であれば正しい。しかし、後に続く説明と整合的に理解すると、ドパミンが欲求や快感を引き起こしているという意味で使われているので、誤りである。

ides.hatenablog.com

James Oldsが1956年に書いた"Pleasure Centers in the Brain"で主張したメカニズムで、後年、否定されている。いつまで70年くらい前のドーパミン理解をしているのだろうか。

毎日何時間もゲームを続けていると、ゲームをしたいという欲が抑えられなくなってしまって、ゲーム障害になりやすくなってしまいます。

「なりやすくなる」という逃げ道を残しているが、長時間ゲームをし続けるとゲーム行動症になるという因果関係は証明されていない。もともとゲーム行動症といわれる状態になりやすい因子である、ADHDうつ病、不安症などの説明力を除いて、ゲームをすることがゲーム行動症につながると示した論文がないからだ。

端的にエビデンスがない。

ひきこもりになったり、治療に長期間かかるなど生活への支障が大きくなりやすいそうです

ゲームをやったら恐ろしいことになる、と脅しているが、ひきこもりがゲームのせいか、などわからない。例えば、不登校になって、家でやることがないのでゲームを長時間しているというのはよくあるケースだ。これをゲームのせいだ!というのは因果が逆転しているように思うのだが、どうだろうか。

ゲーム障害にならないためにはどんなゲームでも目安は1日30分程度が勧められます

端的にエビデンスがない。

先述のADHDなどの併存症の影響を取り除いて、ゲーム時間が30分ならゲーム行動症になりにくい、という結果を出している論文はないはず。

ゲーム行動症になりやすい背景を持った子が長時間ゲームをする傾向があり、併存症の発症や社会でのつまづきなどの要因でゲーム時間が長くなり、ゲーム行動症と呼ばれる状態になっているというのが、現在までの研究で分かっているメカニズムである。

ゲーム時間が30分以内の子がゲーム行動症になる確率が著しく低いという結果はある。しかし、これらの研究は、ゲーム時間を30分以内に収めればゲーム行動症にならない、と解釈するのは間違いである。

監修として出てくる三村将先生の個人的主観にすぎず、科学的研究の結果ではないことを明言すべきである。

三村将先生

こちらのデータベースで研究は確認できる。

www.k-ris.keio.ac.jp

ここに掲載されている論文で、ファーストの論文がまったくないので、データベースを漁ったところ、脳の研究者であるというのは間違いなさそうだ。

久里浜の樋口進先生とも和文、英文とも共著がいくつかあるので、一つずつ挙げておこう

www.dovepress.com

  • ElSalhy, M., Miyazaki, T., Noda, Y., Nakajima, S., Nakayama, H., Mihara, S., Kitayuguchi, T., Higuchi, S., Muramatsu, T., & Mimura, M. (2019). Relationships between Internet addiction and clinicodemographic and behavioral factors. Neuropsychiatric Disease and Treatment, Volume 15, 739–752. https://doi.org/10.2147/NDT.S193357

webview.isho.jp

  • ムハンマド・エルサルヒ,村松太郎,樋口進,三村将(2016)インターネット依存の概念と治療.Brain and nerve,68(10):1159-1166