井出草平の研究ノート

ネット・ゲーム依存症の予防・治療支援サービスをしている人の本を読んだら、樋口先生の作ったドーパミンの作り話がそのまま載っていてミーム化していることを確認してしまった話

MIRA-iというサービスをやっている公認心理師の方の本。

mira-i.jp

脳の説明

例えば、アルコールを飲んだとき、ギャンブルで大儲けをしたとき、この報酬系が強く反応して、ドーパミンという快楽物質、が大量に分泌され、人は強い幸福感や快感を得ます。ゲームの場合もシューティングゲームで勝ったときや敵を倒したときに報酬系、が活性化していると考えられます。
依存が進んでいくと、この報酬系の働きが影響を受け、最初のころに得ていた快感がだんだん得られにくくなっていきます。そのため、より強い刺激を求めるようになり、長時間プレイしないと満足できない、より刺激的なゲームを選ぶなど行動が変化していきます。
自分の意思で使用をコントロールできなくなるのは、こうした脳内の変化があるからなのです。(p.32)

どこやらで見た心理学的「脱感作」仮説ともいうべき?説明されている。

香川県の学習シートにもあった説明である。

jssba.org

この説明の大元(つまりデマを最初に言い始めた人)はおそらく久里浜医療センターの樋口進先生だろう。

ides.hatenablog.com

この説明は、過去のエントリでも書いたように間違いである。

この理屈でいえば、ドーパミンが放出されるものはすべて依存症にならないといけない。

例えば、食事でドーパミンは50%程度増加するとされている。ならば、明日はもっと、明後日はもっと食べなくては満足がいかなくなってくる、となるはずだが、そんなことは起きない。

ides.hatenablog.com

ヨガニードラの瞑想でも65%ドーパミンが増える。この仮説に従えば、瞑想というものを一度でもしてしまったら、離れられないことになる(ダメ。ゼッタイ。)

明日は1時間、明後日は2時間と次第にヨガの時間が増え、全員が片岡鶴太郎さんのような生活をするハメになる。その果てには「ヨガ離婚」が待ち受けているだろう。(注:片岡鶴太郎さんが行っているのはヨガニードラではありません。)

パーキンソン病黒質緻密部から放出されるドーパミンが不足するために生じる疾患である。そのため、治療はドーパミンを補うことが基本である。レボドパをはじめ、ドーパミンを増やす薬が治療薬として使われる。ドーパミンそのもので、幸福感や快感が得られるという説明が正しいなら、パーキンソン病は「麻薬」として厳重に管理され、闇で売買されるような薬になっているはずだ。

パーキンソン病の薬は闇で売買されていないし、パーキンソン病の薬を飲んだ人が快感や幸福感を味わっているという話もない。
それはなぜだろう?
説明が間違っているからだ、という、とても簡単なことになぜ気づかないのか、不思議でならない。

感想

樋口先生の本と同じ内容で、出版の人が良く言う類書との差を感じなかった。違うところとして記憶できているのは、樋口先生や三原先生はCRAFTという技法名を書かずCRAFTの方法をただ書くことに徹していたが、森山さんの本にはCRAFTの公認ワークショップを受講していますよ!と書いてあったことだろうか。

ネッ卜・ゲーム依存は特別な人だけがなるのではありません。心理的な要因や環境的な要因などが関係して生じるもので、誰でもなる可能性もあります。(p.17) ADHDうつ病ASDとの強いつながりが指摘される中、「誰でもなる可能性あります」とはいかに。

その行為やプロセスにのめり込み、やめたくてもやめられなくなった状態を「行為依存」といいます。(p.22) たぶん言わないし、「行為依存」という言葉をはじめて聞いた。
樋口先生のつくった用語だと思われる「国際疾病」レベルで超面白い。

実際に、依存症の症状が深刻な人のほうが、治療期間は長くなってしまう傾向にある一方で、早めに治療を受けた人のほうが治療期聞が短いだけでなく、長期的に見ても回復が持続する傾向が見られます。(p.84) この種のエビデンスを知らないが、どこにあるんだろう。少なくともこんなにしっかり明言できるエビデンスはみたことがないな。