中山健夫・京都大教授(健康情報学)は「ゲームへの依存と学力の低下の、どちらが原因でどちらが結果か、この調査だけではわからない」と指摘。「何らかの事情でゲームが居場所となっている子どもが『時間制限』で行き場を失うケースが出ないよう、注意が必要だろう」
学歴成果主義で挫折、ゲームは逃げ込む場所 支援者語る(朝日新聞)
NPO法人高卒支援会の杉浦孝宣理事長(59)に聞きました。
条例で上から1時間までと決められても、各家庭でできていた以上の制限ができるようになるとは思えません。親に無理やり取り上げられて、暴力を振るう子もいます。
ゲームばかりしている子に『そんなに好きなのか?』と聞くと、『やることがないから』と答える子がほとんどです。他にやりたいことが見つかれば、自然とゲーム時間は減っていきます。
私たちは、引きこもっている子どもと会話するために、同世代の引きこもり経験者が「ゲームを教えてよ」というきっかけから信頼関係を築いていくこともあります。ゲームなどを通じて仲良くなって信頼関係を築いてから、本人も納得の上で、実行可能な決まり事を作ります。
ひきこもり・不登校の支援者の突破口の一つは当事者さんたちと一緒にゲームをすることだといわれている。ゲームをしているのは「やることがないから」というのもよく聞く話。実際に、ゲーム障害の定義に当てはまりそうな子どもや青年に支援をしていたり、接している人はだいたい同じものを見ているし、だいたい意見だと思う。
(声 どう思いますか)香川県ゲーム条例(朝日新聞)
薬剤師 岩佐紀子(福井県 46)
私は高校生の時に一番はまり、大学受験前はストレスに耐えられずにゲーム依存となり、受験に失敗しました。 制限をかけても、依存症の子はゲームを続けます。大事なのは制限ではなく、依存しなければならない原因を突き止めること。家族、勉強、友だちとのトラブルなどからの逃げ場がゲームです。
時間制限は依存症対策にならないという本質的なところを突いた意見だと思う。
ゲームは子どもの生活に良い影響を与えるかもしれない
要約
EU6か国を対象とし、6歳~11歳の3195人を対象とした調査。 ゲームを長時間しているグループでは、知的機能が1.585倍高く、教師が測定した学校における全体的な能力が1.67倍高かった。メンタルヘルスの問題はなく、仲間関係の問題が減少(0.41倍)、向社会性の問題が減少 した(0.23倍)。「ゲームをすることは子どもにとって良い影響を与えるかもしれない」と結論付けられている。
データ
データはEUの6つの国(ドイツ、オランダ、リトアニア、ルーマニア、ブルガリア、トルコ)で実施されたSchool Children Mental Health Europe Project(SCHME)のもの。
計測
ゲームの使用
一週間にゲームをした時間両親が報告。 分析では、低使用(週に0〜60分)、中程度(61〜300分)、高使用は300分以上と3分位にして検討されている。
子どもの精神衛生
1つ目はThe Strengths and Difficulties Questionnaire (SDQ)を使用。母親報告、教師報告。 2つ目は、子ども自身が評価をしたDominic Interactive(DI)。
学業成績
教員による報告。 「クラスの他の子どもたちと比べて、成績、読解、数学、スペリング、知的機能などの分野で成績はどうですか?」(compared to the other children in the class, how does he or she fare in the following areas: school performance, reading, mathematics, spelling and intellectual functioning?)
結果
学業成績
ゲームの利用率が高いと、知的機能や学業成績が良かった。正の関連は読字能力(p=0.05)、数学能力(p=0.0031)、スペル能力(p=0.002)。
知的能力
オッズ比 | P値 | |
---|---|---|
1–5時間 | 1.25 (1.03, 1.53) | [0.028] |
5時間以上 | 1.58 (1.22, 2.05) | [0.001] |
学校における全般的な能力
オッズ比 | P値 | |
---|---|---|
1–5時間 | 1.38 (1.14, 1.67) | [0.001] |
5時間以上 | 1.67 (1.31, 2.12) | [<0.001] |
子どもの年齢と性別、子どもの数、母親の年齢、配偶者の有無、教育、雇用状況、心理的苦痛、およびヨーロッパ地域(西/東)を調整したところ、ゲームの使用量が多いと、知的機能が高いオッズ(OR= 1.58(1.22-2.05)[0.001])が高くなり、学校における全般的な能力が高いOR=1.67(1.31-2.12)[<0.001)。使用量が中程度もある程度高くなる。
メンタルヘルス
DIの分析は多変量解析をすると統計学的に有意な値は得られなかったようだが、SDQではゲームを長時間するグループでメンタルヘルスの問題が少ないことが判明している。
向社会的の問題
オッズ比 | P値 | |
---|---|---|
1–5時間 | 0.23(0.07, 0.81) | [0.02] |
5時間以上 | 1.09 (0.31, 3.9) |
仲間関係の問題
オッズ比 | P値 | |
---|---|---|
1–5時間 | 0.83 (0.44, 1.57) | |
5時間以上 | 0.43 (0.19, 0.99) | [0.05] |
困難総計
オッズ比 | P値 | |
---|---|---|
1–5時間 | 0.97 (0.5, 1.88) | |
5時間以上 | 0.41 (0.2, 0.86) | [0.02] |
子どもの年齢と性別、子どもの数、母親の年齢、配偶者の有無、教育、雇用状況、心理的苦痛、およびヨーロッパ地域(西/東)が調整されている。ゲームを1時間以上しているグループでメンタルヘルスの問題が統計学的に有意に高いものはなかった。
考察
日本ではゲームをすると学力低下をするという、固定観念があるが、海外の調査ではゲームを長時間しているグループの方が学業成績は高いという研究が多い。韓国の調査ではインターネット使用時間が長いグループでは学業成績がよく、親の収入も高いという結果であった(参照)。
日本では、成績やメンタルヘルスの問題を、ゲームと成績という2つの項目だけで相関関係を見ることが多い。しかし、実際には成績は家庭の年収や家庭の文化資本資産などの影響を受けるため、他の変数・項目も分析に組み込んで、ゲームと成績の関係を評価しなくてはならない。
ゲームの良い効果が海外では多く報告されている中、ゲームは教育に悪いという固定観念を持つのではなく、科学的な調査に基づいて、ゲームは何時間くらい、どういった形で利用するのが適切なのか、という議論をしていく必要があるだろう。
香川県で仕事の連絡がスマホでできなくなる人はどのくらい存在するか
香川県のネット・ゲーム規制条例には18歳未満の人のスマホ使用に制限をかける条項に関するエントリである。条文での子どもとは18歳未満のことだと第2条4項で規定されている。18歳未満であれば全員学生かというと、必ずしもそうではない。
中卒や高校中退で働いている人も香川県にはいるはずである。スマホの使用用途を「家族との連絡及び学習に必要な検索等」に限っているので、仕事での連絡などはできないことになってしまう。
スマートフォン等の使用(家族との連絡及び学習に必要な検索等を除く)に当たっては、義務教育修了前の子どもについては午後9時までに、それ以外の子どもについては午後10時までに使用をやめることを目安とする。(第7回検討委員会 再修正素案より引用)
高校に通いながらバイトをしている者もいる。職場との連絡ができないので、バイトのシフトの連絡ができなくなるなどの問題が生じる。クラブ活動も学習ではないため、クラブの打ち合わせもできない。論理的に作り込まれた条例ではないので、様々な矛盾や問題が生じる。
やはり中でも最も気になるのは、条例を定めた人たちの頭の中には、中卒の人たちの存在や、高校などに進学せずに、働いている人たちのことがないことである。
そこで、そういった人たちがどの程度いるのかを調べてみた。
学生ではない18歳未満の人数
知りたいのは要するに「18歳未満の非就学者」である。
ただ、そのものズバリの統計がとられているわけではないので、計算をする必要があるし、正確な数値は得られないので、近似的な値を出すことになる。
学校基本調査
2019年(令和元年)度の後期中等教育(高校など)の生徒数は以下である。全国と香川県の値を示す。
全日制+定時制 | 通信制 | 中等教育学校 | 専修学校 | 各種学校 | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|---|
全国 | 3,168,369 | 197,696 | 54 | 3,137 | 1,119 | 3,370,375 |
香川 | 25,878 | 369 | 0 | 26 | 16 | 26,289 |
これらの学校に通う人たちの合計が就学者である。
国勢調査との比較
人口を知るのであれば国勢調査である。国勢調査は5年に1回行われている。直近で行われたのは2015年である。調査時期は9月から10月なので、年度と年のズレもあまり気になくてよい。
2019年に18歳だった者は2015年には14歳だったので、12~14歳までの人口が必要な値である。
全国 | 香川 | |
---|---|---|
12歳 | 1,118,555 | 8,713 |
13歳 | 1,152,224 | 9,095 |
14歳 | 1,168,566 | 9,238 |
合計 | 3,439,345 | 27,046 |
国勢調査から4年経っているため、香川県と個別の都道府県の場合には、転入・転入がある。引っ越しである。また、少数ながら死亡例もあるだろう。また、高校になると留年・再入学等で4月時点で18歳以上の生徒も含まれる。こういった問題はあるにしろ、だいたいの人数は把握できるはずである。
人口 | 生徒合計 | 非就学人口 | |
---|---|---|---|
全国 | 3,439,345 | 3,370,375 | 68,970 |
香川 | 27,046 | 26,289 | 757 |
この方法だと、全国で6.8万人弱、香川県で757人が18歳未満の非就学者であった。
過去の学校基本調査との比較
国勢調査以外にも推定の方法はある。
それは、義務教育時点の生徒数との比較である。
2019年に18歳だった者が2016年には中学3年生であったので、2016年の学校基本調査との差で、18歳未満の非就学者数を求められる。
2016年義務教育時点生徒数 | 2019年後期中等教育生徒数 | 非就学人口 | |
---|---|---|---|
全国 | 3,406,029 | 3,370,375 | 35,654 |
香川 | 27,541 | 26,289 | 1,252 |
こちらの計算方法だと、18歳未満の非就学人口は全国で3.6万人、香川県で1,252人であった。
結論
香川県の2019年度の18歳の非就学人口は、2015年の国勢調査を用いると757人、過去の学校基本調査を用いると1,252人であった。だいたい1000人である。
全体から言えば、3~5%くらいと少数だが、香川県でも1000人くらいはいる。条例を作る際に、考慮すべき人数だと個人的には思うが、条例を作った人たちには、そうは映らなかったようである。