井出草平の研究ノート

デリーの都市部の学童における近視の有病率と危険因子

前回記事は「進行」がテーマだったが、今回はリスクである。前回記事で紹介した論文の1年前の調査を論文にしたものである。

www.ncbi.nlm.nih.gov

対象

デリーには9つの地区があり、そのうち2つの地区(南と西)を無作為に選んだ。デリーのこの2つの地区に登録されているすべての学校から10校が無作為に選んだ。選ばれた20校の学校に登録された児童の総数は10,114人で、97.7%の9884人の児童が調査対象となった。政府系の学校が11校、私立の学校が9校であった。調査対象となった児童の平均年齢は11.6±2.2歳(5~15歳の範囲)で、男子は6602人(66.8%)であった。男児と女児の割合は同程度であった。

近視の定義

近視は球相当径<-0.5Dと定義されている。

有病率

調査対象となった9884人の子供のうち、572人(5.8%)には、良眼で6/12未満の視力が認められ、そのうち455人(79.5%)が近視であった。軽度の視力障害(良眼で6/12-6/19未満の視力)は322人(3.3%)に認められ、249人(77.3%)が近視であった。

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属性別の有病率

近視の有病率は、公立学校(7.9%)に比べて私立学校(17%)で高く(p<0.001)、男子12.4%(821/6602)に比べて女子14.5%(476/3282)で高く(p=0.004)、年長児(≧11歳)で高かった(p<0.001)。

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多変量分析

近視の子供(n = 1297)と無作為に選ばれた近視でない子供(n = 1153)の両方について、人口統計学的および行動学的危険因子を分析し、すべての危険因子の修正オッズ比値を推定した。

  • 公立学校と比較して私立学校に通う者と近視の正の関連があること
  • 眼鏡を着用している正の家族歴(両親、兄弟)があること(両方ともp<0.001)
  • 社会経済的地位が高いこと(p=0.037)
  • 1日5時間以上の勉強・読書(p < 0.001)
  • 1日2時間以上のテレビ視聴(p < 0.001)
  • コンピュータ・ビデオ・携帯ゲーム(p < 0.001)
  • 屋外での活動/遊びとの逆の関連は、1日に2時間以上遊ぶ子供で観察された(近視でない子供では47.4%であったのに対し、近視の子供ではわずか5%で観察された;p < 0.001)
  • 子どもの年齢や性別、母親の教育到達度は、子どもの近視リスクの増加とは関連はない。

**近視の人口統計学的および行動学的危険因子のロジスティック回帰分析の結果 f:id:iDES:20200619044406p:plain

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雑感

テレビを3時間/日みるとオッズ比は12.3倍と非常に高い。勉強時間は8時間/日で3.8倍、コンピューターとゲームは4時間/週で8.1倍である。ゲームはさておき、テレビのリスクがここまで強い効果として現れているのはこの研究だけだろう。

この研究には大きな問題が一つある。
回帰分析をする際に、対象となる近視の子どもと同じくらいの禁止ではない子どもを対照群としている点である。
近視の子どもが1割程度なのが実態なのだが、この分析法では人口の半分が近視という標本になっており、推定結果が大きくゆがむ可能性がある。医学分野では標本の代表性はあまり気にされないので、同数くらいの対照群を置いておけばよいという発想が出てくるのはわかる。しかし、ほぼ同数の対照群を設定するのは実験デザインであり、この研究は代表性を持った標本の分析なのだから、研究デザインが理解できていなと言わざるを得ない。

デリーの都市部の学童における近視の発生率と進行因子

journals.plos.org

北インドの研究。インドでは学童の近視の有病率は13.1%と他のアジア地域よりも低い(Saxena qt al. 2015)。

方法

デリーにある20の学校に通う5歳から15歳までの児童が対象。1年間の間隔をおいてスクリーニングを行い、1回目に近視と診断された子供たちの新たな近視の進行を観察した。近視は球相当径<-0.5Dと定義されている。

結果

再検査を受けたのは97.3%の9,616人。近視の年間発生率は3.4%で、平均視度変化率は-1.09±0.55であった。近視の発生率は、年長児に比べて年少児で有意に高く(P = 0.012)、女児は男児に比べて有意に高かった(P = 0.002)。

進行した児童(n = 629)について調整オッズ比値を推定した。コントロールに使用した変数は、性別、学校の種類、社会経済的地位、遠距離眼鏡の保護者による使用、学校と家庭での読み書きの時間、テレビの視聴、コンピュータ/ゲームの使用、野外活動である。

影響があったのは、下記の項目。

  • 読書時間(週)(p<0.001)
  • コンピュータ/ゲームの使用(p<0.001)
  • テレビの視聴(p=0.048)

保護的に作用したのは下記の項目。

  • 屋外活動(週14時間以上の野外活動)(P<0.001)

雑感

知っている限り、コンピューターやゲームが近視に影響を及ぼしているという結果が明確に出ている唯一の論文。近視の原因として揺るがないレベルで確定している原因は親からの遺伝である。この論文では、コントロール変数に親がメガネをかけているという項目があり、先行研究は踏まえられているが、この変数が有意になっていない。遺伝は近視のリスクではあるが、進行には関連しないということだろうか。うまくデータの解釈ができない。

近視は都市的な生活によって生じると推測されているが、インドは先進国に比べて都市的な生活がまだ進んでいない。ほとんどの研究は近視が社会問題化されるほど広く見られるようになった社会でされている。中国や日本などは近視が一般化しすぎて、コンピュータやゲームの影響を測定できないようになっているのかもしれない。

仮説はいくつか立てられるが、他の研究との齟齬を説得的に説明することは難しそうだ。

文献

  • Saxena R, Vashist P, Tandon R, Pandey RM, Bhardawaj A, Menon V, et al. Prevalence of myopia and its risk factors in urban school children in Delhi: the North India Myopia Study (NIM study). PloSOne. 2015;10: e0117349

www.ncbi.nlm.nih.gov

ひきこもり「引き出し業者」を刑事告訴 連れ出し監禁か(朝日新聞)

digital.asahi.com

弁護団の林治弁護士は「ひきこもっている人を不意打ちで連れ出すような行為は、本来時間をかけたコミュニケーションが必要な支援活動とは逆行しており、本人の自尊心を傷つけ、回復を妨げる。重大な人権侵害であり、刑事責任も問われうる問題であることを認識してほしい」と話している。

香川ゲーム条例「議論再開して」 制定過程に問題点、市民が陳情書(毎日新聞)

mainichi.jp

子供のゲーム時間の目安を定めた「ネット・ゲーム依存症対策条例」の制定過程などに問題があるとして、高松市の自営業、岸本充裕さん(44)が17日、条例の議論の再開などを求める香川県議会議長宛ての陳情書を県議会事務局に提出した。

香川県ネット・ゲーム規制条例の中国での報道

中国のゲーム関連のメディア触乐ChuAppの報道。

www.chuapp.com

中国語が読めないので機械翻訳で読んだ。

瀬戸内海放送(KSB)、裁判を起こしたわたるさんの話、作花知志弁護士の話、松本ときひろ議員のコメント、ニューヨークタイムズの記事、大山一郎議員の話(大山一郎,《纽约时报》评价他是个“极端保守主义者”,主张在教育中引入“日本传统价值观”,因此才会将电子游戏和互联网视为对日本家庭的威胁。)などが出ている。

田中敦さんのコメントとして次のようなコメントがある(機械翻訳をいくつか使って翻訳したので間違っているかもしれない)。

本の学校では、髪の毛の色やスカートの長さ、下着まで細かく決められた校則が多く、今でも生徒をかなり管理している。色やスタイル、親はあまり考えずに校則を支持することが多い。条例も議会の支持を受けて、一部の学校では、"紋切型"の対応がされ、非人道的な規制を考案し、ネガティブな取り組みに発展することが心配されている。

引きこもり支援「引っ張り出す」 衛藤1億相が発言(共同通信社)

www.hokkaido-np.co.jp

 衛藤晟一1億総活躍担当相は16日の記者会見で、引きこもりの人の支援団体と17日に意見交換すると発表した際「いろいろな形で引っ張り出したい」と述べた。

NYタイムズが「ゲーム条例」を報じる(KSB)

www.ksb.co.jp

6月12日付のニューヨーク・タイムズ電子版の記事では、ゲームの利用を1日60分までとする目安や、高校生による訴訟の動きを伝えています。この中で、「日本では罰則などの強制的な仕組みがなくても、公的な提案には従うべきだという強い社会的圧力がある」と指摘しています。