井出草平の研究ノート

介入-媒介変数に相互作用を伴わない2値データのアウトカム変数を用いた媒介分析[Mplus]

こちらのTable 8.8の例を解説する。コードはリンク先のinpファイルを参照のこと。

www.statmodel.com

データ

大学生女性の間でヒトパピローマウイルス(HPV)のワクチン接種率を高めることを目的とした無作為化対照試験のデータを分析している。被験者は3つの異なる介入群と対照群に無作為に割り付けられ、それぞれの群にはワクチンの接種を決定するビデオが介入として提示された。提示されたビデオは、ピアナラティブメッセージ、エキスパート(医療提供者)ナラティブメッセージ、ピアとエキスパートを組み合わせたナラティブメッセージ、メッセージがないというパターンである(xt1-tx3)。媒介変数intent4は「もしHPVワクチンが完全に無料だったら、次の年にHPVワクチンを接種する可能性はどのくらいでしょうか」という質問によって、ワクチン接種の意思を測定する。これは4点スケールで測定される。コントロール変数は、親とのHPVコミュニケーションhpvcomm(はい/いいえ)、年齢age、性的に活発(はい/いいえ)sezyes、HPV知識knowlである。

分析は、対照変数に関する完全なデータを有するn = 394人の被験者のサンプルに基づいている。このサンプルでは、15%がワクチン接種を受けていた。組み合わせたピアエキスパート介入の効果のみが考慮されている。標本の25%がランダム化されたこの群では、予防接種率は22.2%であったのに対し、対照群では12.0%であった。

モデル

f:id:iDES:20200915121329p:plain

コード

USEVARIABLES ARE
    Intent4 tx1 tx2 tx3 Vacc HPVcomm age SxYes Knowl;
CATEGORICAL = Vacc;
MISSING = ALL (99);
Define:
    Center age knowl(grandmean);
ANALYSIS:
    ESTIMATOR = ml;
    bootstrap = 10000;
MODEL:
    Vacc ON Intent4 Tx1 Tx2 Tx3 HPVcomm age SxYes Knowl;
    Intent4 ON Tx1 Tx2 Tx3 HPVcomm age SxYes Knowl;
model indirect:
    vacc IND intent4 tx2;

CATEGORICAL = Vacc;

アウトカム変数のみカテゴリカルに指定。

Define: center age knowl(grandmean);

DEFINEコマンドは、各変数から全体平均を引いている。MODEL INDIRECTコマンドはvaccが結果変数、intent4が媒介変数、tx2が2値の暴露変数となる。tx2はピア・エキスパート介入を意味している。センタリングをするのは多重共線性の影響を受けにくくするためである (Cronbach, 1987)。

結果

MODEL RESULTS

                                                    Two-Tailed
                    Estimate       S.E.  Est./S.E.    P-Value

 VACC       ON
    INTENT4            1.430      0.253      5.645      0.000
    TX1                0.311      0.442      0.703      0.482
    TX2                0.476      0.385      1.235      0.217
    TX3               -0.826      2.143     -0.385      0.700
    HPVCOMM            0.270      0.338      0.797      0.426
    AGE                0.191      0.083      2.293      0.022
    SXYES              0.215      0.329      0.653      0.514
    KNOWL             -0.036      0.071     -0.503      0.615

 INTENT4    ON
    TX1                0.149      0.106      1.400      0.161
    TX2                0.300      0.092      3.270      0.001
    TX3               -0.066      0.141     -0.465      0.642
    HPVCOMM            0.093      0.078      1.196      0.232
    AGE               -0.049      0.021     -2.283      0.022
    SXYES              0.044      0.078      0.573      0.567
    KNOWL             -0.003      0.017     -0.160      0.873

 Intercepts
    INTENT4            2.718      0.082     32.959      0.000

 Thresholds
    VACC$1             6.657      0.870      7.649      0.000

 Residual Variances
    INTENT4            0.591      0.041     14.293      0.000
CONFIDENCE INTERVALS OF TOTAL, INDIRECT, AND DIRECT EFFECTS BASED ON COUNTERFACTUALS (CAUSALLY-DEFINED EFFECTS)


                  Lower .5%  Lower 2.5%    Lower 5%    Estimate    Upper 5%  Upper 2.5%   Upper .5%

Effects from TX2 to VACC

  Tot natural IE     0.009       0.016       0.020       0.048       0.083       0.092       0.111
  Pure natural DE   -0.037      -0.019      -0.010       0.041       0.098       0.111       0.139
  Total effect      -0.011       0.013       0.024       0.089       0.165       0.182       0.218

 Odds ratios for binary Y

  Tot natural IE     1.085       1.155       1.197       1.448       1.833       1.932       2.147
  Pure natural DE    0.634       0.803       0.894       1.523       2.715       3.045       3.896
  Total effect       0.895       1.137       1.283       2.205       4.115       4.665       6.051

媒介変数との相互作用がある場合

8.9は媒介変数との相互作用がある場合のコマンドが掲載されている。調整効果を示すMODコマンドを使用する。

8.8と違うところは以下である。DEFINEコマンドは、intent4とtx2 の積として相互作用項の変数mxを作成する。特定の間接効果を指定するためにMODオプションを使用する。MODオプションでは、vaccがアウトカム変数、intent4が媒介変数、mxがintent4とtx2の間の相互作用、tx2が2値の暴露変数である。

USEVARIABLES ARE
Intent4 tx1 tx2 tx3 Vacc HPVcomm age SxYes Knowl mx;
CATEGORICAL = Vacc;
MISSING = ALL (99);
Define:
    mx = intent4*tx2;
    center age knowl(grandmean);

ANALYSIS:
ESTIMATOR = ml;
bootstrap = 10000;

MODEL:
Vacc ON Intent4 Tx1 Tx2 Tx3 HPVcomm age SxYes Knowl mx;
Intent4 ON Tx1 Tx2 Tx3 HPVcomm age SxYes Knowl;

model indirect:
vacc MOD intent4 mx tx2;

調整変数については以下を参照のこと。

norimune.net

村山航『媒介分析・マルチレベル媒介分析』 https://koumurayama.com/koujapanese/mediation.pdf

行動嗜癖は精神障害であるべきか否か

さまざまなものが行動の依存症である行動嗜癖ではないかという声が上がっている。依存症とは違い嗜癖(addiction)とは行動のコントロールが取れないことが中核定義にあるため、合理的ではなかったり、個人の意思を超えて発生するものは、すべて嗜癖と定義することが可能である。

一般的に認められているギャンブリングやゲームだけではなく、携帯電話・スマホ、エクササイズ、窃盗癖、買い物、暴力、自傷、恋愛、セックス、性的逸脱行動、過食・嘔吐、放火、日焼けなどが嗜癖モデルの説明範囲となる。

恋愛といった精神障害として認知するにぱ不適切なものであったり、過食・嘔吐など嗜癖とは別のメカニズムで理解されているものなどがあり、精神医学の内外で、嗜癖概念はコンフリクトを生み出している。

ナンシー・ペトリーによるレビューから各嗜癖概念の研究状況と課題についてまとめた。ペトリーは著名な依存症・嗜癖の研究者であり、アメリカ精神医学会のDSM-5の物質使用と関連障害ワークグループの議長でもあった人物だ。

www.ncbi.nlm.nih.gov

要約

  1. 行動嗜癖の存在や精神障害などの問題の認識については、かなりの議論がある。現在、 Diagnostic and Statistical Manualの第5版 (DSM-5)には、物質関連障害および嗜癖性障害群のセクションにギャンブル障害が、さらなる研究が必要な条件として、研究付録にインターネットゲーム障害が含まれている。
  2. ギャンブル障害は、他のどのような行動依存症よりも研究されており、明確な基準があり、他の同様の精神障害と区別することができる。いくつかの研究は、ギャンブル障害に対する潜在的に有効な治療を同定しているが、エビデンスに基づく治療に対する厳密な経験的基準に達するものはない。
  3. DSM‐5にインターネットゲーム障害 (IGD) を含めることは、この状態を定義し、研究するための一連のガイドラインを提供した。IGDに関する研究文献の主な弱点は、スクリーニングと診断のための精神測定学的に健全な機器の欠如と、 IGDを他の精神状態に特有の精神疾患として確立する十分な研究の欠如である。
  4. 研究者たちはインターネット依存症の一貫した定義を使用しておらず、その結果、研究間で定義と評価がかなり不均一になっている。インターネット依存症を他の潜在的精神障害、特にインターネットゲーム障害と区別し、その基準と評価に関するコンセンサスを確立するために、さらなる研究が必要である。
  5. セックス、買い物、エクササイズ、日焼け、および摂食を含む他の推定される行動依存症は、現在、評価に関連する経験的証拠がなく、確立された精神障害と重複している。American Psychiatric Associationのワークグループは、DSM-5に含まれる可能性のあるこれらの疾患をそれぞれ検討したが、それらを含むことを支持する十分な証拠はなかった。

将来の課題

  1. ギャンブル依存症または仮説上の行動嗜癖のいずれかにつながる神経生物学的機能障害を決定すること。これらの機能障害が特定の行動依存症に特有のものであるか、他の依存症や精神障害に共通するものであるかを確立すること。
  2. 行動嗜癖、特にインターネット賭博障害のための測定法の開発と検証。
  3. インターネット依存症および他の考えられる行動嗜癖については、それぞれの潜在的な障害の基準を理解し、関連する障害が臨床的に有意であるかどうかを理解する。行動障害のそれぞれを、互いに、また既に確立されている他の精神障害と区別する。それらの縦断的な経過を評価する。
  4. ギャンブル障害に対する既存の治療法の作用機序の評価、十分な検定力があり、長期の追跡調査を含む試験を用いること。
  5. インターネットゲーム障害の治療のための心理療法アプローチの開発と評価。このような治療試験には、信頼性の高い有効な手段、治療の忠実性を確保するためのアプローチ、適切なサンプルサイズ、および長期的な効果の評価が含まれるべきである。診断上の妥当性が証明されれば、他の仮説上にある行動嗜癖に対する治療法の開発が必要となるかもしれない。

エクササイズ依存症

ナンシー・ペトリーのレビューからエクササイズ依存症について。

www.ncbi.nlm.nih.gov

運動依存症、運動嗜癖・エクササイズ嗜癖(Exercise Addiction) などの呼び方がある。

過度の運動の結果、体に害があることが当初は想定されていなかったため、「積極的な依存症」(Glasser 1976)として指定されていた。

  • Glasser W. Positive Addiction. New York: Harper & Row; (1976).

運動依存症が一次的なものか、二次的なものかということで区別されている。一次的なものは運動そのものが目的である一方で、二次的なものは体重減少が目的であり、運動はその目的を達成するための手段とされている(Berczik et al. 2012)。

  • Berczik K, Szabó A, Griffiths MD, Kurimay T, Kun B, Urbán R, et al. Exercise addiction: symptoms, diagnosis, epidemiology, and etiology. Subst Use Misuse (2012) 47(4):403–17.10.3109/10826084.2011.639120 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22216780

ただ、一次的なエクササイズ依存症の人も体重やダイエット、ボディイメージに気を取られていることが多く、両者の区別は容易ではない。

運動依存症は摂食障害、特に神経過食症と強い関係がある(Lejoyeux et al. 2008)

  • Lejoyeux M, Avril M, Richoux C, Embouazza H, Nivoli F. Prevalence of exercise dependence and other behavioral addictions among clients of a Parisian fitness room. Compr Psychiatry (2008) 49(4):353–8.10.1016/j.comppsych.2007.12.005 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18555055

二次的なエクササイズ依存症は実際には摂食障害の症状であると考えるのが適切である。また、摂食障害だけではなく筋醜形恐怖症(muscle dysmorphia)とも重なっている。筋醜形恐怖症は、自分の体が実際にはたくましいのに貧弱なのではないかと慢性的に不安に思ってしまうもので、醜形恐怖の一種である。

エクササイズ依存症は強迫性スペクトラム障害と考えられてきたが(Berczik et al. 2012)、不安や抑うつの症状とも関連があり、反復的な運動や強迫的な運動は、不安や抑うつを和らげる必要性(Weinstein & Weinstein 2015)や苦痛や不快な感情状態を回避する必要性(Szabo 2010)によって駆り立てられることがある。しかし、これらの関係は十分に調査されておらず、そのインプリケーションも明らかではない。

  • Weinstein A, Maayan G, Weinstein Y. A study on the relationship between compulsive exercise, depression and anxiety. J Behav Addict (2015) 4(4):315–8.10.1556/2006.4.2015.034

  • Szabo A. Addiction to Exercise: A Symptom or a Disorder? New York: Nova Science Publishers; (2010).

雑感

醜形恐怖は整形手術を繰り返す群がいるが、筋肉に対して不十分であるという恐怖であれば、整形手術の代わりになるのはパンプアップなどの筋肉運動である。おそらく、整形手術よりも容易にできるため、筋肉を鍛えて強迫性や不安を打ち消す人は多くなるだろう。

BBCのビデオではステロイド使用との関連が指摘されている。

www.youtube.com

ステロイドの過度な使用は抑うつなどの精神症状も引き起こす。

下記記事ではLGBTでこの症状は起こりがちであると指摘されている。

www.queerty.com

Wikipediaをざっと読んだ感じでは、思ってる以上に研究がされているようだ。

en.wikipedia.org

醜形恐怖症は、DSM-5では身体醜形障害(Body. Dysmorphic Disorder; BDD)に分類される。

2値変数をアウトカムとしたロジットモデルの媒介分析[Mplus]

こちらのTable 8.5の例を解説する。コードはリンク先のinpファイルを参照のこと。

www.statmodel.com

データの詳細は以前のエントリーを参照のこと。

ides.hatenablog.com

モデル

パス図で表現されるモデルはプロビットモデルの時と違いはない。

f:id:iDES:20200913170222p:plain

コード

プロビットモデルからの変更は以下。

analysis:
        estimator = ml;
        link = logit;
        bootstrap = 10000;
       
model:
          ciguse on intent (beta1)
          tx (beta2);
          intent on tx (gamma);

model indirect: 
          ciguse IND intent tx;

model constraint:
          new(indirect direct);
          indirect = exp(beta1*gamma);
          direct = exp(beta2);

link = logit;

probitからrogitへの変更。

ciguse on intent (beta1) tx (beta2); intent on tx (gamma);

モデルの場所に、新しい回帰係数が3つ作成されている。

model constraint:

new(indirect direct)

新しいパラメーター(直接効果、間接効果)の定義。

indirect = exp(beta1*gamma);

こちらは間接効果の定義。beta1とgammaの積で表現されるのパス図のとおり。

direct = exp(beta2);

こちらは直接効果。beta2と定義される。

結果

CONFIDENCE INTERVALS OF MODEL RESULTS

                  Lower .5%  Lower 2.5%    Lower 5%    Estimate    Upper 5%  Upper 2.5%   Upper .5%

 CIGUSE   ON
    INTENT           0.810       0.864       0.892       1.038       1.205       1.238       1.305
    TX              -0.903      -0.781      -0.715      -0.377      -0.044       0.019       0.145

 INTENT   ON
    TX              -0.327      -0.285      -0.266      -0.164      -0.065      -0.045      -0.009

 Intercepts
    INTENT           1.426       1.455       1.470       1.550       1.633       1.649       1.683

 Thresholds
    CIGUSE$1         3.056       3.056       3.056       3.056       3.056       3.056       3.056

 Residual Variances
    INTENT           0.634       0.668       0.684       0.776       0.864       0.883       0.918

New/Additional Parameters
    INDIRECT         0.703       0.737       0.754       0.843       0.936       0.954       0.990
    DIRECT           0.405       0.458       0.489       0.686       0.957       1.020       1.156


CONFIDENCE INTERVALS OF TOTAL, TOTAL INDIRECT, SPECIFIC INDIRECT, AND DIRECT EFFECTS FOR LATENT RESPONSE VARIABLES


                  Lower .5%  Lower 2.5%    Lower 5%    Estimate    Upper 5%  Upper 2.5%   Upper .5%

Effects from TX to CIGUSE

  Indirect          -0.353      -0.306      -0.282      -0.171      -0.067      -0.047      -0.010
  Direct effect     -0.903      -0.781      -0.715      -0.377      -0.044       0.019       0.145


CONFIDENCE INTERVALS OF TOTAL, INDIRECT, AND DIRECT EFFECTS BASED ON COUNTERFACTUALS (CAUSALLY-DEFINED EFFECTS)


                  Lower .5%  Lower 2.5%    Lower 5%    Estimate    Upper 5%  Upper 2.5%   Upper .5%

Effects from TX to CIGUSE

  Tot natural IE    -0.044      -0.038      -0.035      -0.021      -0.008      -0.006      -0.001
  Pure natural DE   -0.126      -0.109      -0.100      -0.053      -0.006       0.003       0.021
  Total effect      -0.149      -0.132      -0.121      -0.073      -0.026      -0.017       0.001

 Odds ratios for binary Y

  Tot natural IE     0.733       0.764       0.779       0.858       0.942       0.959       0.991
  Pure natural DE    0.449       0.501       0.532       0.716       0.962       1.018       1.137
  Total effect       0.374       0.422       0.448       0.614       0.840       0.893       1.008

 Other effects

  Pure natural IE   -0.053      -0.045      -0.042      -0.025      -0.010      -0.007      -0.001
  Tot natural DE    -0.116      -0.100      -0.091      -0.048      -0.005       0.002       0.019
  Total effect      -0.149      -0.132      -0.121      -0.073      -0.026      -0.017       0.001

 Odds ratios for other effects for binary Y

  Pure natural IE    0.737       0.768       0.782       0.860       0.943       0.960       0.991
  Tot natural DE     0.446       0.499       0.530       0.714       0.961       1.018       1.137
  Total effect       0.374       0.422       0.448       0.614       0.840       0.893       1.008

プロビットモデルとロジットモデルの比較

オッズ比メトリックにおける総合効果がプロビットモデルの推定値が0.624に対してロジスティック回帰では0.614と推定されている。標本値は0.602であった。対数尤度の値も非常によく似ており、ロジスティック回帰では-1452.174、プロビット回帰では-1452.171となっている。

2値変数をアウトカムとしたプロビットモデルの媒介分析[Mplus]

こちらのTable 2.1の例を解説する。コードはリンク先のinpファイルを参照のこと。

www.statmodel.com

分析はMacKinnon et al.(2007)のもの。

モデル

f:id:iDES:20200913161530p:plain

データ

2 値の暴露変数tx、連続変数と仮定したの媒介変数intent(4値)、2値のアウトカム変数ciguseの3変数で構成されるモデルである。媒介変数intentはベースラインの約6ヵ月後に測定されたもので、次の2ヵ月間にタバコを使用するか否かという意思である。アウトカムciguseは、フォローアップで測定された前月にタバコを使用したか否かである。標本はn = 864人の学生であり、たばこの使用は標本の18%で観察された。

標本のオッズ比

データは下記の表である。

f:id:iDES:20200913161544p:plain

標本の総合効果は、媒介分析を行わなくても計算できる。これは、治療群の喫煙者の割合と対照群の喫煙者の割合の差である。 これにより、総合効果の推定値は確率の差である0.148-0.224 = -0.076となる。オッズ比は下記のように計算できる。

 TE(OR) =\frac{0.148/(1-0.148)}{0.221/(1-0.224)}=0.602

コード

Title: 
    Clinical Trials data
    from MacKinnon et al. (2007)

data:
    file = smoking.txt;
     
variable:
    names = intent tx ciguse;
    usev = tx ciguse intent;
    categorical = ciguse;

analysis:
        estimator = ml;
        link = probit;
        bootstrap = 10000;
       
model:      
        ciguse on intent tx;
        intent on tx;

model indirect: 
        ciguse IND intent tx;

output:
        tech1 tech8 sampstat cinterval(bootstrap);

plot:
        type = plot3;

コードの解説

variable: categorical = ciguse;

カテゴリカルに指定するのはアウトカムであるciguseだけである。暴露変数も2値であるが、独立変数側の設定は不要である。

analysis: link = probit;

linkオプションでプロビットを指定。

analysis: bootstrap = 10000;

ブートストラップを1000万回に指定。少し時間がかかる。たぶん1000でも問題ないと思う。

model indirect: ciguse IND intent tx;

tx → intent → ciguseのパスをmodel indirectオプションで指定。

output: cinterval(bootstrap)

ブートストラップでの信頼区間を表示させる。

結果

MODEL RESULTS

                                                    Two-Tailed
                    Estimate       S.E.  Est./S.E.    P-Value

 CIGUSE     ON
    INTENT             0.608      0.055     11.155      0.000
    TX                -0.203      0.111     -1.834      0.067

 INTENT     ON
    TX                -0.164      0.061     -2.681      0.007

 Intercepts
    INTENT             1.550      0.049     31.414      0.000

 Thresholds
    CIGUSE$1           1.798      0.123     14.640      0.000

 Residual Variances
    INTENT             0.776      0.055     14.190      0.000

TOTAL, TOTAL INDIRECT, SPECIFIC INDIRECT, AND DIRECT EFFECTS FOR LATENT RESPONSE VARIABLES


                                                    Two-Tailed
                    Estimate       S.E.  Est./S.E.    P-Value

Effects from TX to CIGUSE

  Indirect            -0.100      0.039     -2.596      0.009
  Direct effect       -0.203      0.111     -1.834      0.067

CONFIDENCE INTERVALS OF TOTAL, INDIRECT, AND DIRECT EFFECTS BASED ON COUNTERFACTUALS (CAUSALLY-DEFINED EFFECTS)


                  Lower .5%  Lower 2.5%    Lower 5%    Estimate    Upper 5%  Upper 2.5%   Upper .5%

Effects from TX to CIGUSE

  Tot natural IE    -0.046      -0.040      -0.036      -0.022      -0.008      -0.006      -0.001
  Pure natural DE   -0.121      -0.104      -0.095      -0.050      -0.005       0.004       0.020
  Total effect      -0.145      -0.128      -0.119      -0.072      -0.026      -0.017       0.000

 Odds ratios for binary Y

  Tot natural IE     0.724       0.757       0.772       0.853       0.939       0.958       0.991
  Pure natural DE    0.469       0.520       0.551       0.731       0.969       1.025       1.134
  Total effect       0.387       0.433       0.461       0.624       0.841       0.896       0.997

買い物依存症

ナンシー・ペトリーのレビューから買い物依存症について。

www.ncbi.nlm.nih.gov

強迫的買い物障害(CBD: Compulsive Buying Disorder)、買い物嗜癖(Shopping Addiction)などという用語も使われる。強迫的買い物障害(CBD)がおそらく適当な用語法であろう。ナンシー・ペトリーのレビューでもCBDという用語で説明されているが、日本での使用例に従って、買い物依存症と翻訳する。

買い物依存症DSM-5、ICD-11共に採録されていない。今のところ研究者が提案している概念に留まる。

買い物依存症は、必要のないものを買いたいという抵抗しがたい衝動を指す。過剰な買い物の無意味さとその有害な結果について理解したとしても、買い物は防ぐことはできない。

買い物依存症の併存症について。DSM-IVのI軸障害の生涯有病率の併存率は89.5%だと報告されている(Mueller et al. 2010)。生涯診断で最も多かったのは、いずれかの気分障害(95%)(McElroy et al. 1994)、不安障害(80%)(McElroy et al. 1994)、大うつ病性障害(62.6%)(Mueller et al. 2010)、いずれかのパーソナリティ障害(62.6%)(McElroy et al. 1994)、衝動制御障害(40%)(McElroy et al. 1994)、摂食障害(35%)(McElroy et al. 1994)、物質使用障害(30%)(Schlosser et al. 1994)、強迫性障害(18.7%)(Mueller et al. 2010)、心的外傷後ストレス障害(13.5%)(Mueller et al. 2010)、社会不安障害(9.1%)(Black et al. 1998)、双極性障害(4.7%)(Mueller et al. 2010)と続く。

  • Mueller A, Mitchell JE, Black DW, Crosby RD, Berg K, de Zwaan M. Latent profile analysis and comorbidity in a sample of individuals with compulsive buying disorder. Psychiatry Res (2010) 178(2):348–53.10.1016/j.psychres.2010.04.021 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20471099

  • McElroy SL, Keck PE, Jr, Pope HG, Jr, Smith JM, Strakowski SM. Compulsive buying: a report of 20 cases. J Clin Psychiatry (1994) 55(6):242–8. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8071278

  • Schlosser S, Black DW, Repertinger S, Freet D. Compulsive buying: demography, phenomenology, and comorbidity in 46 subjects. Gen Hosp Psychiatry (1994) 16(3):205–12.10.1016/0163-8343(94)90103-1 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8063088

  • Black DW, Repertinger S, Gaffney GR, Gabel J. Family history and psychiatric comorbidity in persons with compulsive buying: preliminary findings. Am J Psychiatry (1998) 155(7):960–3.10.1176/ajp.155.7.960 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9659864

買い物依存症といくつかの衝動制御障害、行動嗜癖摂食障害との関係は「双方向性」であるため、病的なギャンブル依存症(Grant et al. 2003)、運動依存症(Lejoyeux et al. 2008)、双食性障害、むちゃ食い障害(過食性障害)、拒食症、または病的な肥満(Lejoyeux et al. 2008、Schmidt et al. 2012)を持つ人は、買い物依存症の割合が高いと思われる。

インターネットで買い物をする人を対象とした最近の研究では、買い物依存症、不安傾向、強迫性障害の症状との間に関連性があると報告されている(Weinstein et al. 2015)

  • Weinstein A, Mezig H, Mizrachi S, Lejoyeux M. A study investigating the association between compulsive buying with measures of anxiety and obsessive-compulsive behavior among Internet shoppers. Compr Psychiatry (2015) 57:46–50.10.1016/j.comppsych.2014.11.003 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25465653

買い物依存症とため込み(Hoarding)との間には関係があると思われる。臨床サンプルを分析した研究では買い物依存症のうち62%はため込みが見られ(Mueller et al. 2007)、強迫性障害でため込みが無い人に比べある人は買い物依存症が有意に多かった(Torres et al. 2012)。

  • Mueller A, Mueller U, Albert P, Mertens C, Silbermann A, Mitchell JE, et al. Hoarding in a compulsive buying sample. Behav Res Ther (2007) 45(11):2754–63.10.1016/j.brat.2007.07.012 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17868641

  • Torres AR, Fontenelle LF, Ferrão YA, do Rosário MC, Torresan RC, Miguel EC, et al. Clinical features of obsessive-compulsive disorder with hoarding symptoms: a multicenter study. J Psychiatr Res (2012) 46(6):724–32.10.1016/j.jpsychires.2012.03.005 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22464941

雑感

買い物依存症は女性が多いと考えられている。例えば、Mueller et al. (2010)では、93%が女性であった。摂食障害との関連があったり、パーソナリティ障害との関連があることからも明白である。買い物依存症精神障害の診断として確立するかは微妙なところだが、買い物への強迫的行動がある人が存在するのは確かだろう。ある程度、お金が自由にならないと現象が起きないため、発症年齢は成人以降になることが多いはずである。

クレジットカードが買い物依存症の原因になるという認識が一般的にあると思うが、他の精神障害との併存がみられることから、クレジットカードは手段に過ぎないと考えられる。研究はそれほどないようだが、遺伝的要因が関係しており、生得的要因が大きいだろう。ゲーム障害でゲームが問題だと批判される構図と、クレジットカードが問題だと批判される構図はおそらく似ているはずである。

歴史的にはエイブラハム・リンカーンの妻、メアリー・トッド・リンカーンの例が有名だろう。メアリーは、ショッピングに夢中になり、クレジットで多額の紙幣を使い果たし、かつ、隠しており、あまりの出費に抑うつ的な反応を示したとされている。メアリーの強迫的な買い物と膨大な借金は、1864年リンカーンの再選の懸念の一つだったと言われている。

この本の p.305, pp.401-2, 681-2に該当の記述があるようだ。

メアリーには手袋のため込みがあったようだ。また、食事以外では手袋を常に着用していたようで、おそらく強迫性障害(不潔恐怖?)であったと推測できる。

americacomesalive.com

強迫的性行動症(Compulsive sexual behaviour disorder)

ナンシー・ペトリーのレビューから強迫的性行動症について。

www.ncbi.nlm.nih.gov

性行動過剰障害(Hypersexual Disorder)、性依存症(Sex Addiction)という用語もある。強迫的性行動症は、性的行動、性的指向、オンラインまたはオフラインでの性的活動、人間関係の破綻から性犯罪に至るまでを含む。

性行動過剰障害患者のほとんどが男性であるという小規模な臨床サンプルがある。DSM-IVのI軸障害の生涯併存率は83%(Black et al. 1997))と100%(Raymond et al. 2003)であった。

  • Black DW, Kehrberg LLD, Flumerfelt DL, Schlosser SS. Characteristics of 36 subjects reporting compulsive sexual behavior. Am J Psychiatry (1997) 154(2):243–9.10.1176/ajp.154.2.243 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9016275

  • Raymond NC, Coleman E, Miner MH. Psychiatric comorbidity and compulsive/impulsive traits in compulsive sexual behavior. Compr Psychiatry (2003) 44(5):370–80.10.1016/S0010-440X(03)00110-X https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14505297

いずれかの不安障害は96%(Raymond et al. 2003)、気分障害は71%(Raymond et al. 2003)、物質使用障害は71%(Raymond et al. 2003)、性機能障害は46%(Raymond et al. 2003)、パーソナリティ障害は46%(Raymond et al. 2003)、衝動制御障害は38%(Raymond et al. 2003)、強迫性障害は14%(Raymond et al. 2003)である。反社会的パーソナリティ障害および境界性パーソナリティ障害の割合は低かった。メタアナリシスでは性行動過剰障害と抑うつ症状との間に中程度の正の相関関係(r = 0.34)が認められた(Schultz et al. 2014)。

  • Schultz K, Hook JN, Davis DE, Penberthy JK, Reid RC. Nonparaphilic hypersexual behavior and depressive symptoms: a meta-analytic review of the literature. J Sex Marital Ther (2014) 40(6):477–87.10.1080/0092623X.2013.772551 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24168778

ナンシー・ペトリーは下記のように述べている。

様々な精神疾患が性行動過剰障害と同時発生する頻度が高いことを考慮すると、性行動過剰障害の全ての個人を対象に、これらの疾患について適切に評価し、治療でそれらに取り組むことが必須である。直感に反し、ある種の精神病理との比較的強い関連がある(例えば、性行動過剰障害と抑うつ、社会不安、性機能障害)。一方で、他の疾患とは弱い関連しかないのは意外である(例えば、性行動過剰障害とより重度の人格障害および双極性障害)。これは、性行動過剰障害の症候から離れて診断と治療に焦点を当てる必要があることを強調しておく。

雑感

臨床サンプルでは大きく偏りがあり、病理性の高いグループだろうから、一般化するのは慎重であるべきだろう。性行動が過剰であっても、他の精神障害が顕著でない限り、生活は破綻しないケースは多いのではないだろうか。最近、スキャンダルになったアンジャッシュの渡部さんは性依存症ではないかと言われていたが、社会的機能が保持されているため、もちろん該当しない。仕事が満足にできないほど、性行動に夢中であれば、社会的機能の障害となるが、そうではなかったので、診断をすることはできない。また、再三指摘されていることだが、性行動の概念が広すぎるため、どの部分を拾うかによって大きく結論が変わってくるだろう。タイガー・ウッズで有名になったセックス依存から、自慰行為がやめられないといったものや、痴漢や性暴力がやめられないといった犯罪行為まで幅広く、対象者の均質性が全くないようにように思う。
ICDでは伝統的に過剰性欲に関する診断がされてきたが、DSM-5は過剰性欲については認めていない。DSMとICDは同調して改訂されているが、違いがあるところは、ICDの方が過激であり、DSM保守的である傾向にある。DSMアメリカでのコンセンサスをとるが、ICDは世界でのコンセンサスを取らなければならないので、百家争鳴になっている箇所がある。ICD-11では異常性欲は強迫的性行動症(Compulsive sexual behaviour disorder)として概念が再構築されている。強迫性障害から独立する新しい概念といえば「ため込み症(hoarding disorders)」が近年の代表例だが、ICDの素案(Link)を見る限り、矛盾点がそのまま放置された診断名のように感じる。