井出草平の研究ノート

暴力的なゲームは「人間を攻撃的にしない」独研究所 (ナゾロジー)

nazology.net

元論文はこちら。

www.nature.com

2019年の論文なのでこの分野に詳しい人にとっては有名な論文である。

論文の位置づけ

この種の論文はわりと書かれており、先行研究としてまとめられているとおりである。

短時間のビデオゲームの結果に焦点を当てた研究(主に大学生の集団を対象に実施)の効果は、主にプライミング効果の結果であることが示唆されている。つまり、暴力的なコンテンツに触れることで、参加者がその場にいるときに攻撃的な思考や感情への接近性が高まるということである[6]。しかし、それ以上に、一般的攻撃性モデルGeneral Aggression Model(GAM、[7])は、繰り返しプライミングされた思考や感情が進行中の出来事の知覚に影響を与え、その結果、長期的な効果として攻撃的な行動を誘発すると仮定している。私たちは、プライミング効果は興味深く、研究する価値があると考えている、GAMの概念とは対照的に、私たちが読んだ文献では、プライミング効果は短時間しか続かないとされている(5分未満しか持続しないと示唆されており、その時間が経過すると逆転する可能性がある[8])。したがって、プライミング効果は、ゲームプレイに非常に近い時間的近接性においてのみ役割を果たすはずである。さらに、大学生を対象とした多くの研究では、プライミング効果[9,10,11]や、いわゆるGAMの関連する予測(青年や大学生における暴力的コンテンツに対する脱感作[12,13,14]や、暴力的なビデオゲームをプレイした結果としての共感[15]や親社会的行動[16,17]の減少など)を再現できていない。

 プライミング効果

bsd.neuroinf.jp

ライミング効果とは、先行する刺激(プライマー)の処理が後の刺激(ターゲット)の処理を促進または抑制する効果のことを指す。プライミング効果は潜在的(無意識的)な処理によって行われるのが特徴であり、知覚レベル(知覚的プライミング効果)や意味レベル(意味的プライミング効果)で起こる。前者の処理は刺激の知覚様式(モダリティ)の違いによって、それぞれのモダリティに特異的な大脳皮質によって媒介される一方、後者の処理は側頭連合野などの意味処理に関連する大脳皮質によって媒介される。

一般的攻撃性モデルGeneral Aggression Model

GAMについてはこちらなど。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

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GAMとはこのようなモデルである。

尺度-バッテリー

今まで暴力的なゲームが人の攻撃性を上げるとしてきた論文で使われてきた尺度を用いている。

  • Buss–Perry Aggression Questionnaire
  • State Hostility Scale
  • Updated Illinois Rape Myth Acceptance Scale
  • Moral Disengagement Scale
  • the Rosenzweig Picture Frustration Test
  • World View Measure

論文も書かれているが、上2つがよく使われている印象がある。 SCL-90-Rも敵意Hostilityの尺度で使われていることがあるが含まれていない。ちなみに、日本語版は存在するもののライセンスが使えないに等しいものになっているのが残念なところ。

分析

GAMに則った多母集団同時分析を期待するところだが、群間差を比較しているだけである。

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2変量で効果がみれなかったので、多変量にする必要もないということなのかもしれない。

小6娘のグループLINEが無法地帯!親がどこまで関わるべき?【小川大介先生の子育てよろず相談室】(レタスクラブ)

www.lettuceclub.net

世の中の子育てをしている親の心配していることはゲームよりLINEやSNSなのでしょう。
相談者は、対応としては十分できているように思える。
LINEなど視覚化され、親にも子供の世界が把握できるようになったので、コントロールという意味では、やりやすくなったのではないかと思う。

ブルデュー『ディスタンクシオン』輪読会第29夜 覚書

旧版276ページ、普及版295ページから。

フランスのカフェ

279ページ。

ブルジョワ的あるいはプチブル的カフェやレストランにおいては、各テーブルがたがいに切り離された独自の領分を構成している(だから椅子を借りたり塩入れを拝借する場合にはたがいに許可を求めなくてはならない)のだが、これとは逆に大衆的カフェは仲間の集まる場所であり(それは新しく入ってきた者が「やあみんな!」とか「皆さんこんにちわ」とか「よう諸君!」とか言うことで特徴づけられている)、誰もがそのなかに仲間として加わる。

括弧の中の原語は以下のとおり。

ce que marque le « Salut la compagnie ! » ou « Bonjour tout le monde » ou « Salut les potes ! » du nouvel entrant

こんな風景が今でもあるのだろうか。パリには何度か行ったことがあるが、住んだことがないのでわからないが、カフェでカフェ仲間と雑談するといった感じの風景は見たことがない。

日本語の会話部分に引っ張られ過ぎに気もするが、レーニントロツキーが出入りしていた頃のカフェ・ラ・ロトンドはそんな感じだったのかもしれない。

ja.wikipedia.org

ちなみに、フランスでも、やや地方に行くと、常連さんと定員、常連さん同士が話をしている風景は日常的なように思う。

階級ごとの支出

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282-3ページ。

食料消費の内訳がどうなっているかをもっと詳しく見てみれば、差異の構造をさらに正確につかむことができる。工業実業家・大商人はこの点で、自由業の人々と、ましてや教授とは大きく異なっている。つまり彼らは穀物をべースにした製品(とくに菓子類)やワイン、肉の缶詰、猟肉(ジビエ)などを重視し、どちらかといえばいわゆる肉類や果物、新鮮野菜などにはあまり支出しないという点で異なっているのである。教授層の場合その食費の内訳は事務労働者とほぼ同じ構造をしており、他のあらゆる職種よりもパン、乳製品、砂糖、ジャム、非アルコール飲料などに多くの支出をあて、ワインやアルコール飲料への支出は少なく、また肉類----特に羊肉や仔羊肉のような、なかでも最も高価なもの----や果物、新鮮野菜などの高価な産物への支出は、自由業の人々にくらべて明らかに少なくなっている。自由業について言えば、彼らは特に高価な産物、わけても肉類(これは食費の一八・三%を占める)、そしてそのなかでも最も高価なもの(仔牛、仔羊、羊)、また新鮮野菜や果物、魚類やエビ・カニ類、チーズ、アペリティフなどへの支出が大きいという点で、他からきわだっている。

つまり金があればあるほど消費される食物は豊かに(すなわち高価であると同時にカロリーも豊かに)なり、また重たくなってゆく(猟肉やフォワグラなど)。これとは逆に自由業や上級管理職の趣味は、大衆的趣味を重たいもの、脂っこいもの、下品なものへの嗜好として否定的にとらえ、自らは軽いもの、繊細なもの、洗練されたものへと向かってゆく。

最後に教授層は、経済資本よりも文化資本が豊かであり、それゆえあらゆる領域において消費を禁欲的にする傾向があるため、最小の経済コストで異国趣味(イタリア料理、中華料理など)や庶民性(田舎料理)へと向かう独自性を追求しようとする点で、金持ち(成金)およびその豪勢な食物に対立する。

まとめると、以下のようになる。

文化資本が高い人は、低カロリーな食物、非アルコール飲料、ジャムなどフレッシュな物を好む。
文化資本が低い人は、高カロリーな食物、脂が含まれる重いもの、肉類、アルコール飲料穀物などを好む。

今の感覚とかなり違う、というのが正直な感想である。

村井重樹さんが「食の実践と卓越化 : ブルデュー社会学の視座とその展開」という論文を書かれている。 koara.lib.keio.ac.jp

片岡栄美さん、村井重樹さん「食テイスト空間と社会空間の相同性」という研究報告もある。 researchmap.jp

併せて読む必要がありそうだ。

大商人

Le gros commerçantの翻訳として大商人が当てられているが、大商人というと孫正義さんみたいな感じの人を思い浮かべてしまう。彼の場合はLe Grand Marchandといった方がよいのではないだろうか。

www.larousse.fr

Le gros commerçantはやや大きい会社の経営であるとか、卸業などを指すと思われる。また、自由業professions libérales士業などを含めた専門職のことである。

kotobank.jp

日本語でも存在する言葉だが、フリーランスであったり、フリーターみたいな捉え方をされることが多いの注意が必要だ。

専業主婦はポトフ

完全に家事専業の主婦のことを、彼女は「ポトフ」だなどと言ったりする

ポトフにそんな意味があったのか、とやや驚いたところ。

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大衆料理のほうの最も代表的な例はポトフであり、これはグリルやローストとは対照的に安い肉を煮込んで作られるものであるから、技術よりもむしろ時間をかけることが必要な、より下位とみなされる調理法によるものである。この料理形式が女性の地位と男女間の分業を象徴するものである。

ポトフは散々な言われようである。

ja.wikipedia.org

ポトフpot-au-feuは火にかけた鍋という意味である。

日本人のほとんどの人が誤解をしていると思うのだが、フランスでのポトフは牛肉を使うことが多い。日本で家庭向けに紹介される場合には豚肉のレシピに変わっていることが多く、また、紹介している料理研究家も誤解をしていることが多い。

では、豚肉を使う場合には何というのか、というと「ポテpotée」という料理がある。こちらも鍋という意味なのでややこしい。

ja.wikipedia.org

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ポテは庶民的な料理でポトフはそれよりも上という感覚が個人的にあったのだが、ブルデューがポトフをこき下ろしているので、ポテはどうなることやら、といった感じだ。

見た目が「肉じゃがですね」という話になった。しかし、僕は大阪の出身なので、肉じゃがといえば、牛肉が入ったもので、関東では豚肉が入るので、思い浮かべるものが違った。

ポトフの文化表象

ちなみに、ポトフは文化表象として登場する。素朴な料理、家庭料理といった表象として登場するのがモーパッサン『La Parure』(1884年)。

3日分のテーブルクロスが敷かれた丸いテーブルの前に座って食事をしていると、夫が鍋の蓋を開けて「ああ、おいしいポトフだ!」と嬉しそうに言った。洗練されたディナー、輝く銀食器、おとぎ話の森の中で古代文字や奇妙な鳥が壁に描かれたタペストリーなどを思い浮かべた。

肉がはいっているのでポトフは高価な料理として描写されることもある。例えば、バルザック『ウジェニー・グランデ』(1833年)。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%8B%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%87

階級によって好きな料理が異なる

285ページ。

最後に七種類の料理のリストから好きな料理二つを選んでもらったところ、農業従事者・生産労働者は、ジゴ(羊・仔牛の腿肉)を第一位にする点では他のすべての職種と同じであるが、ポトフについてはこれを選ぶ率がいちばん高い(農業従事者は四五%、生産労働者は三四%であり、これにたいして事務労働者は二八%、上級管理職は二〇%、そして小経営者では一九%となっている。また、アンドゥィエットを選ぶのはほとんど農業従事者だけと言ってもいいくらいで、一四%の人が選んでいるが、生産労働者・事務労働者・一般管理職では四%、上級管理職では三%、そして小経営者では〇%である)。また生産労働者・小経営者層ではコック・オ・ヴァンにも人気があるが(前者は五〇%、後者は四八%)、それはしゃれた店をめざす中級の小レストランではこれが典型的なメニューであり、したがってたぶんレストランへの「お出かけ」という感覚に結びついているせいであろう(ちなみに事務労働者では四二%、上級管理職では三九%、農業従事者では三七%となっている)。管理職・自由業・経営者層が比較的はっきり他の職層と区別されるとしても、それは彼らにとっては非常に選択の幅の小さいリストに示された料理のなかから、プチブル的料理の通常のならわしからみれば比較的「軽い」と同時に象徴的に有標でもある料理、そしてそこでは魚と肉(なかでも特にシュークルートやカスーレの豚肉)との対立が地方趣味的で観光的な色彩をはっきりともなって現われてくる料理、すなわちブイヤーベースを選ぶ者が多い(三一%で、これにたいして事務労働者は二二%、小経営者では一七%、生産労働者は一〇%、農業従事者は七%)といった違いによるにすぎない(補足資料XXXⅣ)

  • 農業従事者・生産労働者はジゴとポトフ
  • 農業従事者だけアンドゥィエットを選ぶ
  • 産労働者・小経営者層ではコック・オ・ヴァンが人気
  • プチブル的料理の通常のならわしからみれば比較的「軽い」料理
  • プチブルはブイヤーベースを選びがち  

料理の評価の変化

fr.wikipedia.org

現代のフランス料理のレストラン、特に高級店で、どの料理が採用されるかというとアンドゥィエットである。自家製のアンドゥィエットという形であれば、高級店でもメインにふさわしいと判断されるはずだ。アンドゥィエットをアレンジなしで作るとやや癖があるので、ブーダンの方がおそらく好まれるだろう。業従事者だけが好んでいたアンドゥィエットが高級店で出される可能性があるというのは、価値観が反転しているように思われる。

逆に、ジゴ、ポトフ、コック・オ・ヴァンが選ばれることはない。オシャレだと思われていたコック・オ・ヴァンは現在ではビストロ料理である。

ブイヤーベースが選ばれるのはやや大衆的な料理店か、海産物を全面に出したレストランだけだろう。

料理の世界でも流行があって、昔は一戦を張っていた料理が、現在は二番手やビストロ料理と認識されるということも起きうる。

アンドゥイエットのような料理が再評価されるには近年、シャルキュトリーの評価が非常に高いことが挙げられるだろう。また、シャルキュトリーで行う作業(ハムを作ったり、ソーセージ類を作ること)をミシュランを狙うような店では、自前で行うことも多くなった。

食物の4象限

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ポトフがやたらと低い、文化資本が高い方に冷凍食品が入っている、などの特徴がある。

「♀」のマークは女性を意味するのかと思ったのだが、原版をみると少し違う。

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ブルデューは図表をちゃんと説明しない癖があるので「よくわからない」ということになった。

ジャムとコンフィチュール

一般的なジャムは現在のフランスで文化資本が高いものとして認知されていないはずである。日本も同じである。

日本の場合、英語でジャムであればスーパーにも売っている商品となるが、フランス語でコンフィチュールというと高級店も販売できる商品になる。ジャムが自国のものではなかったため、原語を変えたマーケーティングが違う分、マーケティングの方針も明白である。

フランスでのコンフィチュールの再評価というとクリスティーヌ・フェルベールが有名だ。日本では伊勢丹での取り扱いがある。パティシエ、ショコラティエは日本でも使われるが、フェルベールはコンフィチュリエConfiturièreともいわれるようになっているようだ。レジオン・ドヌール勲章のシュバリエも受勲している。

fr.wikipedia.org

trip-s.world

クリスティーヌ・フェルベールの作っているコンフィチュールをみれば、私たちが日常的に知っているジャムではない、とほとんどの人が思うはずである。

冷凍食品

地位が大きく変わったと思われるのが冷凍食品である。

フランスと冷凍食品というとピカールが有名である。

www.picard-frozen.jp

日本ではイオンが展開している。

冷凍食品は電子レンジの普及と関係しており、1979年の当時は子レンジは高級家電であり、冷凍食品も高級なものだったはずである。コモディティ化によって、現在の冷凍食品の地位はかなり低くなったと言える。

階級的身体

288ページ。

たとえば庶民階級が、身体の形よりもその(男性的な)力のほうに関心が強く、安価であると同時に栄養のある食品を求める傾向があるのにたいし、自由業の人々はむしろ美味で健康によく、軽くて太らない食品のほうを好むといった違いが生じるのだ。趣味とは自然=本性と化した文化、すなわち身体化された文化であり、身体となった階級であって、階級的身体を形成するのに加担する。

わりと重要なところかも。

身体と階級

288ページ。

その場合いくつかのしかたでこれを表現するのだが、その第一に挙げられるのが、外見上身体がそなえている最も自然な側面、すなわちその目に見える構造上の大きさ(肉付き、身長、体重など)と形態(丸味があるか角ばっているか、硬ばっているか柔らかみがあるか、まっすぐであるか弩曲しているか、など)における表現であり、そこには身体にたいする関わりかたの全体、すなわち身体を扱い、手入れし、養い、維持する方式の全体が現われてくるのであって、それがハビトゥスの最も深い諸性向を明らかにするのである。

高い階級にふさわしい身体を作り上げるのに、食べ物の選択は重要である。穀物やカロリーの高い肉類ばかり食べていると、肥満体になるので、高い階級にふさわしい身体とは言えないわけだ。

散髪などを含めた身体の手入れ、服装などと共に、階級が視覚的に表れるものとして身体重要であると共に、それを作り出す食物の選択も重要となるのだろう。

次回

288ページ、普及版307ページから。

Kearneyによるスクール・アブセンティズムに関する先行研究のレビュー その1

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

こちらは先行研究のレビュー。


青少年の学校欠席と登校拒否行動:現代レビュー

 概要

学校を欠席することは、メンタルヘルスの専門家、医師、教育者にとって深刻な公衆衛生上の問題である。暴力、傷害、薬物使用、精神疾患、経済的困窮の主要な危険因子である。この論文では、欠席の有病率、併存する身体的・精神的疾患、分類、文脈上の危険因子、異文化間の変数、評価、介入、転帰に関する現代の研究レビューを行っている。文脈上の危険因子としては、ホームレスや貧困、10代の妊娠、学校での暴力や被害、学校の環境やつながり、親の関与、家族の変数などが挙げられている。介入についての記述には、医学的、臨床的、システム的な介入が含まれる。医療関係者、地域や学校の精神保健関係者、教育関係者は、学校欠席の定義、分類、評価、問題のある若者への介入について、より良い合意に基づく方針を策定するために、学校欠席のパラメータを十分に理解することが望まれる。

1. はじめに

学校を欠席することは、多くの子どもや青少年にとって、精神的にも肉体的にも深刻な健康問題である。不登校や代替教育施設への入所は、自殺未遂、危険な性行動、10代の妊娠、暴力、不慮の事故、飲酒運転、アルコール、マリファナ、タバコ、その他の物質使用の重要な危険因子である(Almeida, Aquino, & de Barros, 2006; Chou, Ho, Chen, & Chen, 2006; Denny, Clark, & Watson, 2003; Grunbaum et al, 2004; Guttmacher, Weitzman, Kapadia, & Weinberg, 2002; Hallfors et al., 2002; Henry & Huizinga, 2007)。慢性的なアブセンティーズムは、学校からのドロップアウトと関連していることが多い。このドロップアウトは、学校を基盤とした健康・精神衛生プログラムから直ちに切り離され、経済的に困窮し、大人になってから結婚生活、社会生活、精神医学的な問題を引き起こす原因となる(Kogan, Luo, Murry, & Brody, 2005; Tramontina et al., 2001; US Census Bureau, 2005)。

スクール・アブセンティズムは、身体的および精神的な問題から生じることもある。後述するように、欠席は様々な病状、特に喘息と密接な関係がある。実際、欠席率は病気の発生を示す有効なバロメーターになるとの指摘もある(Besculides, Heffernan, Mostashari, & Weiss, 2005)。長期欠席に関連する精神疾患には、主に不安障害、抑うつ障害、破壊的行動障害などがある。このように、学校を欠席することは、メンタルヘルスの専門家、医師、教育者にとって重要な公衆衛生上の問題である。

この論文の目的は、青少年のスクール・アブセンティズムとそれに関連する概念に関する現代の研究を簡潔にレビューすることである。2001年以前の文献のレビューもあるが(Heyne, King, Tonge, & Cooper, 2001; Kearney, 2001; King & Bernstein, 2001)、本稿では2000年以降に発表された広範な研究文献に重点を置いている。重要な概念の簡単な説明に続いて、有病率、身体的条件、精神的条件、分類、文脈上の危険因子、評価、介入、転帰に関するデータと理論を紹介する。

2. キーコンセプト

アブセンティーズムとは、小学校や中学校(中学・高校)を欠席することで、許容できるもの/許容できないものを指します。研究者は一般的に、(1)病気やけがによる許しがたい欠席、または(2)環境的、社会的、精神的、その他の条件による許しがたい欠席が多い5~17歳の青少年に注目している。許容できないアブセンティーズムは、親が経済的な理由、虐待を隠すため、別居中の配偶者からの誘拐を防ぐため、学校が原因と思われる脅威から子供を守るため、精神病の親を支援するため、その他の理由で意図的に子供を学校から遠ざけることが原因となる場合がある(Kearney, 2004)。

許容できないアブセンティーズムは、登校拒否行動、つまり子どもの動機による登校拒否や1日中クラスにいることができないことが原因の場合もある。研究者は一般的に登校拒否行動に注目しており、学校からの引きこもりには注目していない。登校拒否行動は、長期にわたる欠席、定期的な欠席や授業の欠席、慢性的な遅刻、将来の不登校を嘆願するような学校に対する強い恐怖感などからなる異質な次元の構成要素である(図1参照)。登校拒否行動のエピソードには、これらの形態のいずれかが含まれ、日々変化する可能性がある。登校拒否行動は、不登校、登校拒否、登校恐怖症などの概念を含む包括的な用語である(Kearney, 2003)。

無断欠席Truancyとは、一般的に、無断欠席unexcused absenteeism、不法欠席illegal absenteeism、密かな欠席surreptitious absences absenteeism、不安を伴わない欠席non-anxiety-based absenteeism、行動に関する親の知識不足に関連した欠席、非行や学業上の問題に関連した欠席、ホームレスや貧困などの社会的状況に関連した欠席を指す(Fremont, 2003)。登校拒否School refusal は、恐怖に基づく欠席を意味するが、若者が学校恐怖症になることはほとんどないため、最近の研究文献ではこの用語は重視されていない(Hanna, Fischer, & Fluent, 2006; Suveg, Aschenbrand, & Kendall, 2005)。無断欠席truancy、登校拒否school refusal、登校恐怖症school phobiaが同じ意味で使われていたり、定義が一貫していないことが問題となっている(Lauchlan, 2003; McCune & Hynes, 2005)。そこで本稿では、不登校と登校拒否行動という包括的な概念に焦点を当てる。

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図1. 青少年の登校拒否行動の連続性

  • 強要されての登校、不登校の嘆願
  • 学校を避けるために朝から不作法を繰り返す
  • 朝から遅刻を繰り返し、その後に登校する。
  • 定期的な欠席やサボり
  • 出席しているにもかかわらず、欠席やサボりが繰り返されている
  • 学年のある時期に完全な欠席をする
  • 長期間の完全な欠席

Fig. 1. Continuum of school refusal behavior in youth.

  • School attendance under duress and pleas for nonattendance
  • Repeated misbehaviors in the morning to avoid school
  • Repeated tardiness in the morning followed by attendance
  • Periodic absences or skipping of classes
  • Repeated absences or skipping of classes mixed with attendance
  • Complete absence from school during a certain period of the school year
  • Complete absence from school for an extended period of time

3. 有病率

2005年のNational Center for Education Statisticsによると、小学4年生の19%、中学2年生の20%が過去1ヶ月間に少なくとも3日以上学校を休んでいた。また、小学4年生の7%、中学2年生の7%が、過去1ヶ月間に5日以上学校を休んでいた。欠席率は、性別とはほとんど関係なく、多様な生徒、特にアメリカインディアン、障害のある生徒、無料または低価格の昼食を受ける資格のある生徒、無料または低価格の昼食を受ける資格のある生徒が多くいる学校の生徒に多く見られる(表1参照)。欠席率は、1994年以来、安定している(National Center for Education Statistics, 2006a)。

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表1 2005年、小学4年生と中学2年生の生徒が過去1ヶ月間に3日以上学校を休んだ割合

Grade4/Grade8
合計 19/20
男性 18/20
女性 20/21
白人 18/19
アフリカ系アメリカ人 21/24
ヒスパニック 21/23
アジア/太平洋諸島人 13/12
アメリカインディアン 25/29
英語学習者 -yes 21/23
英語学習者- no 19/20
障がいがある -yes 24/29
障害 -no 19/20
家庭内で英語以外の言語を使用している -yes 20/21
家庭で話されている英語以外の言語 -no 18/20
無料/割引価格の昼食を受ける資格のある生徒-yes 23/25
無料/割引価格のランチを受けることができる生徒 -no 17/18
都心部の学校 20/22
都市周辺部/大きな町の学校 18/20
田舎/小都市の学校 20/19
無料/低価格ランチの対象となる生徒が10%以下の学校 16/17
無料/低価格ランチの対象となる生徒が11-25%の学校 18/18
無料/低価格ランチの対象となる生徒が26-50%の学校 19/21
無料/低価格ランチの対象となる生徒数が51~75%の学校 21/23
75%以上の生徒が無料/低価格の昼食をとることができる学校 22/25

高校生の欠席率は、多くの青少年が永久に学校を離れてしまうため、定量化するのがより困難である。全米教育統計センターによると、2004年の16歳から24歳までの中途退学率は10.3%である。

24歳の生徒の2004年の現状退学率は10.3%である。中途退学率とは、学校に通っていない人のうち、高校卒業資格を取得していない人の割合である。男性(11.6%)は女性(9.0%)よりも、またヒスパニック系(23.8%)はアフリカ系(11.8%)やヨーロッパ系(6.8%)よりもわずかに高い。また、所得の低い家庭の若者(17.7%)、雇用されている若者(53.0%)、教育年数が11年または12年の若者(40.3%)でも中途退学率が高くなっている(National Center for Education Statistics, 2006a)。これらの数字は、多くの若者が自分や家族を経済的に支えるために学校を離れていることを示している。また、実際には学校に在籍していなかったにもかかわらず、中途退学者として分類されている若者も少なくありません。

しかし、最近では、高校レベルでの欠席率を特定する試みがなされている。Guare & Cooperは、アメリカの4つの高校と1つの中学校の230人の生徒を対象に調査を行った。著者らは、多くの生徒が時々(29.1%)または頻繁に(9.1%)故意に完全に学校を欠席することを発見した。また、54.6%の生徒が「時々」、13.1%の生徒が「頻繁」に授業を欠席していた。欠席率は、男女でほぼ同じであったが、ヨーロッパ系アメリカ人(48.4%)、英語を話さない家庭(65.0%)、学業成績がまあまあの生徒(52.4%)、12年生(55.0%)に多く見られた(Guare & Cooper, 2003)。しかし、欠席率は学区によって大きく異なる。例えば、ニューヨーク市の公立高校の1日の欠席率は、15〜30%と報告されている(Weitzman, Guttmacher, Weinberg, & Kapadia, 2003)。

前述の通り、欠席は病気や怪我など様々な理由で発生する。2004年のCenters for Disease Control and Preventionによると、5〜17歳の青少年の10.9%が、病気や怪我のために過去1年間に6〜10日学校を休んでいる。また、5.1%が11日以上欠席し、1.0%が病気やケガのために学校に行けなかった。欠席日数が11日以上の人は、女性(4.9%)よりも男性(5.3%)、5~11歳(3.8%)よりも12~17歳(6.7%)に多い傾向がある。

5-11歳(3.8%)よりも12-17歳(6.7%)の方が多い傾向にある。また、病気やけがで11日以上学校を休むのは、片親(母親)の家庭(8.0%)、高校卒業資格を持たない親(7.2%)、所得が2万ドル以下の家庭(8.7%)で多く見られた。

2万ドル以下の家庭(8.7%)、小さなコミュニティに住む家庭(6.0%)、北東部の家庭(6.2%)に多い(Centers for Disease Control and Prevention, 2006)。

登校拒否行動school refusal behaviorによるアブセンティーズムは、完全な欠席や部分的な欠席、遅刻、不安による登校困難などが含まれるため、定量化がより困難である。飛び級などの部分的な欠席は、学区によっては1日の欠席としてカウントされるが、他の学区ではカウントされない。実際、この分野での重要な問題は、学区がしばしば欠席の定義、追跡、報告に一貫性がないことである。 遅刻は、校長と教師の32%が報告している一般的な問題ですが、一致した定義や分類は存在しません(National Center for Education Statistics, 1999-2000)。何人かの研究者は、不安に基づく登校困難の有病率を1~5%としているが、これは依然として議論の余地がある(Suveg et al.、2005年)。不安に基づく登校拒否および不登校の青少年に関する最近の包括的な地域研究では、全有病率は8.2%であった(Egger, Costello, & Angold, 2003)。

スクール・アブセンティズムとと登校拒否行動school refusal behaviorは共通の問題であり、その有病率は、うつ病、物質乱用/依存、抑うつ、行動障害、反抗期障害、注意欠陥多動性障害などの主要な小児行動障害に匹敵する(有病率推定値の中央値はいずれもb5%)(Costello, Egger, & Angold,2005). 残念ながら、これらの重要な問題に対する包括的で実証的な研究は、ごく最近になって注目されるようになった。これらの研究の中には、欠席や登校拒否に関連する一般的な身体的・精神疾患も含まれている。次にこれらの症状について説明する。

4. 体調不良 Physical conditions

研究者たちは、学校の欠席を無数の医学的問題と関連づけている(表2参照)。より詳細な情報を得るために、表中に参考文献を記載しています。このリストには、マラリアなどの感染症や、発展途上国で欠席率との関連が指摘されているモルモット病や尿路性シストソーマ症などの寄生虫症については含まれていない。また、欠席の原因となるアデノトンスイルレクトミーや上部消化管内視鏡検査などの外科的・内科的処置(および処置後の回復)については、このリストには含まれていない。

世界的にアブセンティーズムの原因となっているのは、喘息とそれに関連する呼吸器系の病気である(Borrego, Cesar, Leiria-Pinto, & Rosada-Pinto, 2005; Tinkelman & Schwartz, 2004)。米国では、Centers for Disease Control and Preventionの推計によると、2002年には0〜17歳の子供の8.3%が喘息を患っており、1470万日が喘息のために学校を休んでいる(Centers for Disease Control and Prevention, 2004)。アメリカの子どもたちにおける喘息の有病率は、過去25年間で急激に増加している。喘息を持つ青少年は、喘息を持たない青少年に比べて1.5〜3.0倍多く学校を欠席しており、喘息を持つ生徒の約60%は、問題のある呼吸器症状のために学年のどこかで学校を欠席している(Bonilla et al.2005; Dey & Bloom, 2005; Moonie, Sterling, Figgs, & Castro, 2006; Silverstein et al.)。体育の授業を欠席することも、喘息を持つ若者にはよくあることである(Austin, Selvaraj, Godden, & Russell, 2005)。

喘息によるスクール・アブセンティズムは、いくつかの要因によって悪化するようである。喘息患者は、年齢が若く、貧しく、治療を受けていない場合、ほこりや害虫、湿気やカビの多い環境に住んでいる場合に、学校を欠席する可能性が高い。さらに、喘息による欠席率は、父親が重症であること、母親が喘息持ちであること、生活の質が低いこと、医師の診断を受けていること、オゾン濃度が高いこと、喫煙していること、タバコの煙にさらされていることなどと関連している。民族性は、問題のある呼吸器症状による欠席の一貫した予測因子である(Austin et al., 2005; Freeman, Schneider, & McGarvey, 2003; Gilliland et al., 2003; Okelo et al., 2004; Taras & Potts- Datema, 2005c)。

スクール・アブセンティズムにつながる問題のある呼吸器症状は、室内の二酸化窒素や化学物質による汚染、外気の換気量の低下、温熱環境の変化など、環境面での欠陥から生じることもある(Mendell & Heath, 2005)。また、不登校は、教室の二酸化炭素濃度や、二酸化硫黄、オゾン、粒子状物質による空気の質の悪さとも関連している。そのため、研究者たちは、学校のろ過システムを改善し、公園や学校を交通量の多い排気口から離して建設し、空気の質が悪い日は屋外での運動を控え、子どもたちの抗酸化物質の摂取量を増やすことで、子どもたちが汚染物質にさらされるのを抑えるよう勧告している(Kunzli et al.2003; Park et al.2002; Rondeau, Berhane, & Thomas, 2005; Shendell et al.)

また、スクール・アブセンティズムは、健康上のリスクのある行動とよく関連しているます。特に、欠席は、思春期の違法薬物使用(アルコールやタバコを含む)、暴飲暴食、飲酒運転、危険な性行動やHIVのリスク、自殺未遂、栄養不良などと関連しています(Alberg, Diette, & Ford, 2003; Almeida et al, 2006; Aloise-Young, Cruickshank, & Chavez, 2002; Chou et al., 2006; Denny et al., 2003; Grunbaum et al., 2004; Guttmacher et al., 2002; Hallfors et al., 2002; Henry & Huizinga, 2007; Kleinman et al., 2002; Weitzman et al., 2003)。しかし、その因果関係はまだはっきりしていないため、アブセンティーズムがこれらの危険な行動を誘発するのか、あるいはその逆なのかについては、さらなる研究が必要である。しかし逆に、欠席のリスクが高まると、親の間でインフルエンザワクチンの受容が促進されるという研究もある(Nettleman, White, Lavoie, & Chafin, 2001).

スクール・アブセンティズムや登校拒否school refusalは、子どもの身体的不定愁訴とよく関連している。身体的不定愁訴は、不安を伴う欠席をする青少年に特に多く見られ、最近の包括的な地域研究では26.5%に見られたが(Eggerら、2003年)、別の研究では臨床サンプルの79.4%にも見られた(Honjo, Nishideら、2001年、Honjo, Sasakiら、2001年)。問題のある欠席をしている青少年の身体的訴えには、典型的には、頭痛、腹痛、吐き気や嘔吐、疲労、発汗、ふらつき、腹痛や背中などの痛み、動悸、下痢、息切れ、月経症状などがある。

登校拒否行動school refusal behaviorに伴って体の不調を訴える青少年は、上記のような真の身体的不調を抱えている可能性がある。しかし、登校拒否行動school refusal behaviorをとる青少年の多くは、部分的にストレスからくる実際の低度の身体的症状を誇示していることがある。このような症状の誇張は、重要な他者からの注目を集めるため、あるいは親の同意を得て学校を留守にするために行われることがある。また、登校拒否の若者の多くは、体の不調を偽って訴えている。医師は、登校拒否の子供が抱えている器質的問題を除外するために、あるいは真の医学的状態を治療するために、十分な診察を行うことが推奨されている(Kearney, 2006a)。

5. 精神的な不調 Psychiatric conditions

登校拒否の青少年は、一般的に精神疾患を抱えており、それが不登校のきっかけになったり、長期にわたる欠席の原因になっている。最近行われた2つの研究では、問題のある欠席をしている青少年の精神科疾患の併存について、これまでで最も包括的な見解が示されている。これらの研究は、主に2つの点で先行研究よりも優れている。第一に、欠席の問題を抱える青少年の大規模なサンプルを評価した。第二に、優れた心理測定特性を持つ構造化診断面接を用いたこと。1つの研究は地域社会のサンプルで、1つの研究は臨床サンプルである。

地域社会の研究では、Eggerら(2003)は、児童青年精神医学的アセスメントを用いて 不安に基づく登校拒否の青少年165人と、不登校やその他の理由で欠席した青少年517人を診断した。不安に基づく登校拒否school refusalの青少年に最も多く見られた診断は、うつ病(13.9%)、分離不安障害(10.8%)、反抗性障害(5.6%)、素行障害(5.0%)であった。このグループの24.5%が診断を受けていました。無断欠席truancyの青少年に最も多かった診断は、素行障害(14.8%)、反抗挑発症(9.7%)、うつ病(7.5%)、物質乱用(4.9%)であった。このグループの25.4%が診断を受けていた(Egger et al., 2003)。

著者らはまた、不安に基づく登校拒否school refusalの若者は、恐怖や心配、睡眠障害、体の不調(頭痛)が有意に多いことを発見した。睡眠障害、体の不調(頭痛や腹痛)が、不登校の若者に比べて有意に多かった。しかし、社会不安、親との別れの心配、悪夢については、両グループに差はなかった。不安に基づく登校拒否school refusalの若者は、無断欠席truancyのの若者に比べて仲間との関係に問題があり、両親が精神的な問題で治療を受けている可能性が高かった。無断欠席truancyのの青少年は、甘い監督を受けている可能性が高かった。しかし、貧困、家族の大きさ、継親との同居、親が高校卒業資格を持たない、または失業している、危険な地域に住んでいる、親の育て方や葛藤、母親のうつ病、親の犯罪歴などについては、両グループ間に差は見られなかった(Egger et al., 2003)。

Kearney & Albano(2004)は、登校拒否行動school refusal behaviorのある青少年の大規模な臨床サンプル(n=143)を調査した。5~17歳の青少年は、問題のある欠席行動のために専門の外来治療クリニックに紹介され、平均欠席率は37.2%であった。診断をつけるために,Anxiety Disorders Interview Schedule for Children(子供版および親版)を用いた。主な診断名は、分離不安障害(22.4%)、全般性不安障害(10.5%)、反抗期障害(8.4%)、うつ病(4.9%)であった。3分の1近く(32.9%)が診断なしの基準を満たしていた(Kearney & Albano, 2004)。

最近行われた3つ目の診断研究では、学校への出席が困難な10〜17歳の若者93人の入院患者と58人の外来患者のケースレビューが行われた。入院患者/外来患者の主な診断は、気分障害(30%/15%)、不安障害(28%/14.5%)、破壊的行動障害(18.5%/11.5%)であった。具体的には、大うつ病(31.8%)、気分変調症dysthymia(25.2%)、反抗性障害(23.8%)、分離不安障害(22.5%)が多かった。学習障害は全体の4.6%に過ぎなかったが、31%が学業面での困難が登校困難の発症に関連していると報告した。また、母親の18%、父親の14%が身体疾患を持っており、全体の37%が身体疾患を持っていた。5分の1の人が、身体的疾患が登校困難の発生と関連していると回答した。また、母方(53%)と父方(34%)の精神疾患も多く見られた(McShane, Walter, & Rey, 2001)。

これらの研究や他の研究によると、問題のある欠席をしている青少年に最もよく見られる診断の種類は、基本的にうつ病、不安症、破壊的行動障害が含まれており、顕著な一貫性がある(Silove, Manicavasagar, & Drobny, 2002; Tramontina et al., 2001)。診断研究は、問題のある学校の欠席を攻撃性や攻撃的な仲間の所属と関連付ける研究とも一致している(Farmer et al, 2003; Lounsbury, Steel, Loveland, & Gibson, 2004)。しかし、診断研究は、登校拒否行動をとる多くの青少年が、精神疾患を発症していないことも示している。

しかし、診断研究では、登校拒否行動をとる多くの青少年は、精神疾患を患っていないことも伝えられている。多くの青少年は、併存疾患のない唯一の行動問題として問題のある欠席を示している。この知見は、問題的欠席行動problematic absenteeism representsが、小児期の2つの精神疾患(分離不安障害、行為障害)の症状であり、それ自体が精神疾患ではないという事実を部分的に反映しているのかもしれない。

ICD-11作成の中心メンバーの一人ジェフリー・リード氏、ICD-11にゲーム障害を収録に関して「アジアの国々から大きな圧力を受けている」と証言する

アンドリュー・シュービルスキー氏がゲーム障害にエビデンスが薄弱であるとWHOからメールを受け取った件の続報である。事情を把握されていない方は以下のリンクを参照されたい。

ides.hatenablog.com

ジェフリー・リード氏がICD-11にゲーム障害を採用することに「アジアの国々から大きな圧力を受けている」と証言したのはクリス・ファーガソン氏とのメールのやり取りの中である。2016年8月16日のメールである。ファーガソン氏が実際のメールのスクショをアップしていので、見てみよう。

f:id:iDES:20211120031123p:plain https://twitter.com/CJFerguson1111/status/1461100257442418697

WHOが提案するICDのゲーム障害カテゴリー
Reed, Geoffrey M. gmr2142@cumc.columbia.edu
Mon 8/22/2016 9:33 AM
To: Chris Ferguson (Psychology Professor)
WHOの物質使用プログラムのコーディネーターであるウラディミール・ボズニャック氏から、より詳細な回答を受け取ることになるはずです。すべてが私に委ねられているわけではありませんので。特にアジアの国々からは、これを盛り込むよう大きな圧力を受けています。
ウラジミールには、あなたがこの分野の本格的な研究者であることを伝え、あなたの参考文献をいくつか送りました。また、あなたの研究に関連して利益相反の証拠は見当たらないこと、あなたの懸念に思慮深く答えることが重要だと考えていることも伝えました。
私は、この件について真剣に科学的な議論をすることが有益であると考えており、その方法について私が考えていることがあれば、随時お知らせします。
透明性の欠如についておっしゃることは理解できますが、WHOでは基本的に、悪意のあるものではなく、透明性を確保するために必要な責任の大きさや時間とリソースが不足していることが関係しています。

WHO proposed gaming disorder categories for the ICD
Reed, Geoffrey M. gmr2142@cumc.columbia.edu
Mon 8/22/2016 9:33 AM
To: Chris Ferguson (Psychology Professor)
Thanks, Chris. You should be receiving a more extensive response from Vladimir Poznyak, the Coordinator for Substance Use Programs at WHO. Not everything is up to me, and we have been under enormous pressure, especially from Asian countries, to include this. I have told Vladimir that you are a serious researcher in this area and sent him a few of your references. I also told him that I could see no evidence of conflict of interest in relation to any of your work and that I thought it was important to reply thoughtfully to your concerns. I think that a serious scientific discussion about this would be helpful, and will keep you posted about any ideas I have about how that might occur. I understand what you are saying about lack of transparency, but at WHO this basically has to do with overwhelming responsibilities and insufficient time and resources, both of which transparency requires, rather than anything nefarious.

ここまでのTwitterの流れ

f:id:iDES:20211120031135p:plain https://twitter.com/NME/status/1460603489583775749

f:id:iDES:20211120031144p:plain https://twitter.com/drcodyjphillips/status/1460762230811729921

Cody J. Phillips @drcodyjphillips 11月18日
特定の国がWHOに働きかけて、ICD-11にゲーム障害を含めるようにしたことは公然の秘密です。エビデンスに基づいた決定ではなく、政治的な決定だったのです。もちろん、彼らは自分たちの根拠を文書化することは「不可能ではないにしても、難しい」と考えているでしょう。
It is an open secret that certain countries lobbied for the WHO to include gaming disorder in the ICD-11. It was a political decision, not an evidence-based decision. Of course they're going to find it "challenging, if not impossible" to document their rationale.

f:id:iDES:20211120031155p:plain https://twitter.com/ShuhBillSkee/status/1460954862947127301

Andrew Przybylski @ShuhBillSkee 11月17日
その具体的な証拠を見たことがありますか?
Have you seen concrete evidence of this?

f:id:iDES:20211120031206p:plain https://twitter.com/drcodyjphillips/status/1461064110418845697

クリス・ファーガソン(@CJFerguson1111)に聞いてみましょう。
確か、数年前にCHIプレイでWHOとやりとりしたことがあると彼は言っていました。記録が残っているといいですね。
Have a chat with @CJFerguson1111. IIRC, he mentioned having had correspondence with WHO at CHI Play a few years back. Supposedly they said the quiet part out loud while talking to him. Hopefully there's paper trail.

この流れで冒頭のファーガソン氏がジェフリー・リード氏をTwitterにアップロードをした。

追加: 文中にあるCHI PlayというのはIT系の国際会議のことのようです(山根信二先生より)
基調講演が下記のリンクにあります。

https://dl.acm.org/doi/10.1145/3242671.3242715

ジェフリー・リード氏について

www.columbiapsychiatry.org

ジェフリー・M・リードは、コロンビア大学ヴェーゲロス・カレッジ・オブ・フィジシャンズ・アンド・サージャンズの精神科において、医療心理学の教授であり、WHO Collaborating Centre for Capacity Building and Training in Global Mental Healthの共同ディレクターを務めている。2008年から2018年まで、WHO精神保健・物質乱用部門のシニアプロジェクトオフィサーとして、世界保健機関の国際疾病分類第11版(ICD-11)の「精神・行動・神経発達障害」、「睡眠・覚醒障害」、「性的健康に関する条件」の章の作成に関わるすべての活動を管理した。博士は、これらの分野に対応するICD-11診断マニュアルの科学的妥当性と臨床的有用性を向上させることを目的とした体系的で生産性の高い研究プログラムを、さまざまな革新的な方法論を取り入れながら指揮した。
その一環として、リード博士は、ICD-11研究に参加するためのGlobal Clinical Practice Network (GCPN; http://gcp.network(link is external and opens in a new window))を設立、開発、指導している。GCPNは現在、158カ国の約16,000人のメンタルヘルスおよびプライマリーケアの専門家で構成されており、これまでに設立された国際的な実践ベースの研究ネットワークの中で最大かつ最も広範なものとなっています。リード博士は、WHOのコンサルタントとして、ICD-11の精神・行動・神経発達障害およびその関連領域に関する国際的なトレーニング、普及、WHO加盟国による採用に向けた取り組みに積極的に取り組んでいる。

要するに、ジェフリー・リード氏はICD-11作成の中心メンバーの一人である。その人物がゲーム障害について「特にアジアの国々からは、これを盛り込むよう大きな圧力を受けています。」と証言しているのである。

アンドリュー・シュビルスキーがWHOにゲーム障害の根拠を問い合わせたところ、根拠を示すことができなかった上に、ゲーム障害の解説ページを削除する事態に陥る

ゲームメディアNMEの記事。

www.nme.com

ゲーム障害の導入に慎重な立場のアンドリュー・シュビルスキーが、ゲーム障害がICD-11に採用されたのはなぜか? それほどエビデンスが積み重なっていたわけではないのに、どういう過程で採用されたのか? 自分が知らないだけで実はエビデンスがあるのか? とTwitter上で、先月くらいに、情報提供を呼びかけていたことから始まる。

シュビルスキーはTwitter上で満足な情報が集まらなかったこともあり、WHOに直接問い合わせることにした。

WHOに返事は「根拠を示すことができない」というものだった。

その上、そのやり取りの後、WHOはWHOのウェブサイト上にあったゲーム障害の解説ページを削除した。

ページは現在も削除されているが、アーカイブ・サービスで、以前掲載されていたものを確認できる。

https://web.archive.org/web/20211106013426/https://www.who.int/news-room/q-a-detail/addictive-behaviours-gaming-disorder

ゲーム障害の解説ページをWHOが削除した理由はわからないが、根拠を示せなかったためではないかと推測されている。
シュビルスキーはゲーム障害の根拠が示せないならば、ICD-11での採用を延期した方がいいのではないか、と述べている。


WHO、ゲーム障害の記録は「不可能ではないが困難」と発表

世界保健機関(WHO)は、ゲーム障害についての情報源について質問されると答えられず、ゲーム障害に関するFAQページを削除した。

世界保健機関(WHO)は「ゲーム障害」を嗜癖的行動addictive behaviourとする決定を下した背景にある研究内容を説明する気がないか、できないようだ。

これは、オックスフォード大学でビデオゲームを中心に社会科学を研究しているアンドリュー・シュビルスキーAndrew Przybylski教授が、WHOがゲーム障害を分類するに至った経緯と、WHOが行った具体的な研究内容を理解するために、WHOに問い合わせたことによるものである。

シュビルスキー氏は、WHOからの回答メールをNMEと共有したが、そこには次のように書かれていた。「ゲーム障害とした根拠や正当性を文書化して伝えることは、不可能ではないが、困難なことだ。」

シュビルスキー氏は、ゲーム障害を嗜癖的行動とする決定を正当化するには、公開されているデータだけでは十分ではないと懸念している。

2018年にシュビルスキー氏が発表した共著論文では、「(研究の)構成要素から正式な障害に移行するには、現在よりもはるかに強力なエビデンスが必要だ」と述べられていた。また、この論文は、依存症としてのゲーム障害に関する研究が不足しているという情報に基づいた理解から、「WHOは今のところ慎重に判断し、正式な用語の制定を延期する」よう促している。

「重要な判断をしたのだから、根拠となった論文のリストがあると思います」とシュビルスキー氏は付け加えた。「あるいは、書籍やデータセットのリストもね」。シュビルスキー氏は、WHOがビデオゲームをどのように定義しているか、すら、わからないと言う。「ゲームが精神的な健康に与える影響を研究したり、理解したり、主張したりしたいのであれば、誰かがゲームをどう考えているのか、あるいはそうではないのかは、実に重要な問題です」。

また、シュビルスキー氏は、「ゲームはすべて一様に何らかの嗜癖性があるという考え方」を批判し、「地球の3分の1の人々が常に行っている活動」をWHOがどのように定義しているのか、また、ゲームをプレイすることが安全でないと、どのように判断しているのかを知る方法がないと述べている。

ゲーム障害は、2018年にICD-11に依存性行動を追加したWHOによって「臨床的に認識可能で臨床的に重要な症候群」とみなされている。それは、さらに「ゲーム行動のパターンが、個人的、家族的、社会的、教育的または職業的機能において著しい苦痛または著しい障害をもたらすような性質と強度を有する場合」とされている。

ICD-11(International Classification of Diseases 11th Revision)は、世界中の医療従事者が症状を診断するために使用しており、そこに障害を含めることで、各国が障害に対処するための公衆衛生戦略を策定することを目的としている。

シュビルスキー氏は、ゲームへの依存が一部の人々にとって現実的な問題であることを理解し、WHOに賛同している一方で、「ゲーム障害」という言葉が含まれ、定義されていることに批判的である。また、WHOがICD-11への導入をサポートするために引用した幅広い研究結果についても説明している。

WHOは同じメールでシュビルスキー氏に対して「この分野でWHOの活動に携わっている専門家には、査読付きの文献で発表することを奨励している」とし「あなたがこの問題に関する数多くの論文に知識があると私たちは確信している(注:WHOに聞かなくてもシュビルスキー氏は論文を読んでいるので分かっているはずだという意味)」と書かれていた。

それに対してシュビルスキー氏は「私は、何百もの論文を読んできました」と語った。「しかし、どれが説得力のある論文なのかわかりませんし、新しい精神障害を作り出すに値するものは何なのでしょうか?」

嗜癖的行動としてのゲーム障害に関する質問と回答のウェブページはWHOのウェブサイトから削除さた。その理由は不明である。ゲーム障害を嗜癖的行動に含めることについての他のデータや情報はWHOから手に入れることはできるが、そのオリジナル・リンクは削除されたままである。しかし、この削除されたページは、アーカイブ・サービスによってアーカイブされており、今年(2021年)の11月6日の時点ではまだオンラインであったことが確認できている。

NMEは、この記事を掲載する前にWHOに連絡を取り、ゲーム障害を決定した研究や調査について質問している。また、シュビルスキー氏がWHOにゲーム障害の正当性について尋ねた際に、適切な回答ができなかったかについても、質問している。回答が得られた場合は、記事を更新する予定だ。