井出草平の研究ノート

「戸塚ヨットスクール」訓練生がまた死んだ

「「戸塚ヨットスクール」訓練生がまた死んだ」
『週刊現代』2006年11月18日号 :34-7.


戸塚ヨットスクールで死者がまた出た。


過去の事件については「戸塚ヨットスクール」(Wikipedia)を参照。


以下は『週刊現代』の記事より。

本誌は、10月31日、海上訓練を終え合宿所に戻った戸塚校長に、問い質した。
「ウチの生徒(A)が亡くなったというのは、事実です。Aは今年8月25日にウチに入校しました。彼が行方不明になったのは10月6日のことだった。
 その日は風がなく、ヨットやウィンドサーフィンの訓練ができなかったから、みんなで近くにある図書館に行ったんです。午後2時前後に、彼はフラッと図書館を抜け出してしまった。Aに付き添いずっと一緒にスクールに泊まり込んでいた父親によると、『息子が私と話したそうにしていたのに、あのとき私は読書に集中していてかまってあげられなかった』と言ってました。すぐにみんなで探したんですが、見つからず、翌日、(愛知県警)半田警察署に行方不明の届け出を出した。その3日後の10月9日に、地元の漁師が、スクールのすぐそばの知多湾に浮かんいるAを発見したという報せが入ったんです」


 戸塚校長が続ける。
「彼はもとむとウチに来た当初から、鬱状態にあったんです。鬱病となると、ウチだって病気の治療はムリだから手に負えない。でも、鬱状態を正常にすることはできると思ってます。
 出身地の病院で薬をたくさんもらって、それを飲んでも治らず、それでウチに来たわけです。ただし、入学の際、父親と契釣を交わしました。ウチは海の上では全責任を負うが、海から上がったら、もう知らん、と。だから父親に泊まり込みで付いてもらったんです」
 スクールを体験取材した前述の本誌記者は、入校中、Aさんと実際に会っている。新潟の出身だったと記憶しているが、定かではない。
 彼は体格がよく、身長も高く、身体的にほ健康そのものだった。ただし、何を話しかけても反応がなく、いつもぼうっとしている様子。ときどき一人でシャドーボクシングをしている姿を見かけたが、他の訓練生が近寄ることはなかった。
 訓練中に海に落ちたときでさえ無反応で、恐怖を感じているようには見えなかった。


また記者はAさんの父親とも言葉を交わしていた。父親は昔気質という印象で、「(息子が)ふがいないから、ここで精神を叩き直してもらいたい」と話していた。父親も、そして戸塚校長も、Aさんを立ち直らせることに熱心だったことは間違いない。
 戸塚校長は、Aさんの自殺を否定する。
「自殺するのなら、すぐ裏の山に入るでしょう。図書館から少し離れたスクール近くの海までわざわざ戻ってくるのは不自然です。靴を履いたままだったことや遺書がないことからも、自殺とは考えにくい。
 ウチに来るのは、最初は鬱状態の子ばかりですよ。そういった子は、鬱と躁を頻り適す。躁の状態で暴れ回って、鬱の状態で沈み込んでしまう。鬱状態がややよくなってくると、スクールから逃げ出したりします。でも、今回のケースは逃げ出したわけじゃない。おそらく妄想だと思います。薬を飲まされていると、ああいう行動をとることがある。犯人がいるとすれば、精神科医ですよ。精神科医にとっては、薬を売れば売るほど儲かるんですから。そもそも----」
 以下、戸塚校長は延々と精神科医批判を繰り広げた。Aさんを治せなかったという悔しさは伝わってくるものの、その死を悼むようなそぶりは90分におよんだ取材中、一度も見せなかった


戸塚氏によると、今回の事件に責任があるのは、自分ではなく「精神科医」であるらしい。「薬を売れば売るほど儲かるんですから」と精神科医を批判している。本当に困った人だ。


以下は過去の事件で犠牲になった親の言葉。

 同じ年の12月にスクールで死亡した小川真人君(当時13歳)の母親、尾澤園子さん(64歳)は、戸塚氏の裁判をほとんど全部傍聴したといい、こう憤る。
「入校からわずか1週間ほどで、息子は死にました。殴る蹴るが凄まじかったようです。足の出血がひどく、パンパンに腫れていました。火傷の痕もありました。(体罰による)外傷性ショックを起こしたのが死因です。戸塚は出所後も、私たちに詫びの一つもなかったし、もちろん焼香しにくることもありませんでした。戸塚が考えを改めない限り、また新たな犠牲者が出ると思っていました」


戸塚も戸塚だが、身体を鍛え直せば精神が治るという安直かつ無責任に戸塚に預けた親も親であるように思う。確かに、子どもを殺されて自責の念にかられたり、後悔をしてきたことは十分承知しているし、そのことに関して同情以上の感情を個人的には持っているが、そのことを差し引いても、戸塚に預けた親の責任はあると思う。また、スパルタを実践しているのは、戸塚だけではなく、今年に入ってアイ・メンタルスクールでも死者が出た。戸塚のような人に預けようと思う親がいる限り、宿泊型のスパルタ式施設で死者が出つづけるだろう。


これは親に限ったことではない。「戸塚ヨットスクールを支援する会」(会長:石原慎太郎)に象徴されるように「しごき」によって問題を解決しようという社会的風潮が、不登校や「ひきこもり」といった問題の解決を非常に難しくしている。