献本御礼: 斎藤環『中高年ひきこもり』

斎藤環さんから頂きました。

中高年ひきこもり (幻冬舎新書)

中高年ひきこもり (幻冬舎新書)

2/3くらいまではQ&A方式で疑問に回答するという形式である。残りの部分は、ひきこもりの歴史や社会分析を通して、実践の理解を深めるという形式になっている。

タイトルは「中高年のひきこもり」であるため、本の中でも中高年問題は語られているものの、ひきこもり全体について書かれた本である。どちらかといえば、斎藤さんの2002年の著書『「ひきこもり」救出マニュアル』のアップデート版と位置付けた方がよいだろう。

「ひきこもり」救出マニュアル〈理論編〉 (ちくま文庫)

「ひきこもり」救出マニュアル〈理論編〉 (ちくま文庫)

「ひきこもり」救出マニュアル〈実践編〉 (ちくま文庫)

「ひきこもり」救出マニュアル〈実践編〉 (ちくま文庫)

アップデート版といっても救出マニュアルとの重複はほとんどない。アップデートされた分だけが書かれている。
『「ひきこもり」救出マニュアル』と『中高年ひきこもり』を読むと、斎藤環版ひきこもり支援の実践は把握できるので、ひきこもりを抱えている家族にはセットで読むことを薦めたい。

お小遣いの重要性

ひきこもり支援は家族支援だといっても過言ではない。
家族が治療主体として機能し、本人と家族が治療同盟を結ぶことができれば、ひきこもりに関係する問題のほとんどは解決していると言っていいだろう。

そういった意味で、家族や支援者にとっては第4章の「章家族のための対応のヒント」が特に有用ではないかと思う。

斎藤さんが今までの著者や講演で断片的には示されてきたことなのだが、ひきこもりに関するものだけがまとめられており、各トピックでアップデートもされている。

ここではお小遣いについてとりあげたい。

まずお金の話からしておきましょう。「小遣いを与えなければ困って働く、だろう」という発想では本人を不安にさせるだけなので、お金は与えるべきです。小遣いがないと、「仕方がないから自分で稼ごう」ではなく「仕方がないからお金を使わずに暮らそう」 となってしまうのです。その結果、毎日ただ起きて食事をして寝るだけの「欲のない人」になってしまいます。
(中略)
「欲のない人」という最悪の状態になるのを避けるには、無理やりにでもお金を渡したほうがよいと私は考えています。なぜなら、「お金は薬」だからです。(pp.114-115)

「欲のない人」というのはひきこもりに会ったことがない人にはイメージしにくいかもしれないが、ひきこもり、特に数年単位でひきこもり状態になっている人の中では珍しくない。もちろん本人には「働かないと!」といった焦りと不安はあるのだが、それは「欲」と表現するよりも、自分を苦しめる「縛り」のようなものになってしまっている。

「働かないと!」といった気持ちは社会参加に不要なわけではないが、一見関係のない物欲を持ち続けるといったことの方が重要だ、ということがひきこもり支援の肝である。わかりにくいだけに、適切とは言えない対応になっているケースは少なくない。

ここでは、お小遣いについて触れたが、他の気を付けるべき点も多くあり、『中高年ひきこもり』ではそれらに対して簡潔に説明したうえで、適切な対処が示されている。

また、最近の斎藤さんが取り組んでいるオープンダイアローグの研究を応用した、ひきこもり支援における「対話」にも言及がある。以前にエントリしたように、ひきこもりの家族支援がうまくいかないことが多い。

さきほどの述べたようにひきこもり支援では家族が治療主体となることが重要である。しかし、そのためには、状況を客観的に機能分析して、自身の感情よりも、治療効果を優先した関係づくりを優先していくことが必要である。しかし、親であるゆえに感情が噴き出すばかりで、他人であれば比較的容易にできることも、なかなか達成できないのが実態である。

ひきこもり支援の一番の難題は親子間の関係性が適切に構築できないことだと言ってよいだろう。「対話」というアプローチはこの難題の解決への糸口になるように思える。