井出草平の研究ノート

アスペルガー障害の診断率は減ってるいるのではないか?


石川元による広汎性発達障害の概念整理の論文より。DSM-IV(1994)からDSM-IV-TR(2000)へ改訂されることによって、アスペルガー障害の診断基準が厳しくなったという指摘。

 ICD−10でもDSM−IVでも、社会的障害の予後如何にかかわらず、起始段階での言語発達によって、最初にautismとアスペルガーズとに即座に篩い分けられた。そこで、診断基準にある三主要症状のうちの二つが、まったく同じ文になった。そのため、それぞれ典型的なautismとアスペルガーズでの微妙なニュアンスの差が捉えにくかった。ところが、DSMの場合は、DSM−IV−TR(二〇〇〇)の登場によって、アスペルガ一障害部分のテキストは倍増し、ICD−10に比べ曖昧さを欠き、省略・誇張を加えてあるDSM−IVと比べると、格段に項目を選びやすくなった。すなわち、同じ三主要症状でも自閉性障害とアスペルガ一障害とでは表出のされ方に差異があることが具体的に述べられ、三主要症状には含まれていない特徴(不器用さなど)についても触れられ、さらには、三主要症状のうち、アスペルガ一障害の診断基準には含まれず自閉性障害だけの診断基準になっていた、コミュニケーションの質的障害に関してもアスペルガ一障害でも何らかの問題が出現する可能性が記された。
 操作診断自体、「狭める」立場での代表的存在だが、DSM−IVからDSM−IV-TRへの変化を見ると、「狭める」方向性は一層明確になっている。先述したように筆者の印象では、過去の多くのクライテリアよりもアスペルガーによるオリジナルやvan Krevelenにむしろ近づいている。
 「拡げる」方向は現代も、その代表格は「自閉症スペクトラム」の立場である。惜しむらくは、「自閉症スペクトラム自閉症の今日的な名称で、その中には自閉性障害、アスペルガ一障害、小児崩壊性障害、レット障害、分類不能の広汎性発達障害の五つの診断を含む」と書いてある米国の成書が公刊されていることである(ExkornのAutism Source Book, 2005)。日本でも「自閉症スペクトラムは広汎性発達障害の別名」と語る専門家がおられる。なぜ、「広汎性発達障害」や「自閉性障害、アスペルガ一障害……」ではなくて 「自閉症スペクトラム」でなければならないかという、用語に込められた恣意をまったく無視している。(240-1ページ)


つまり1994年から2000年の間で診断基準が厳しくなっている。自閉症スペクトラムの概念の浸透はあったものの、国際基準でアスペルガー障害の診断は厳しくなっている。数の面で言うと、診断が厳しくなれば、診断数は減る。もちろん、発見数が上がっているので、診断数はあがっているのかもしれないので、実際の数字はわからない。しかし、自閉症スペクトラムの概念が浸透してきている昨今の状況をみると、診断基準も拡大されているのではないかと思われがちだが、実態は逆のようだ。次回のDSMの改訂は2011年なので、どのような改訂になるのは興味深い。