Suniti Chakrabarti, Eric Fombonne,2001 Pervasive Developmental Disorders in Preschool Children JAMA vol. 285 No. 24 ;285:3093-3099. http://jama.ama-assn.org/cgi/content/abstract/285/24/3093
ChakrabartiとFombonneによる自閉症スペクトラムの疫学調査。特徴はスペクトラムという考え方を持った調査である一方で、DSM-IVの診断も行っていることである。国際基準に則った形での広汎性発達障害の有病率を参照する際には、今のところこの調査を参照することが最も望ましいのではないかと思われる。
調査場所はイギリスのスタフォードシャー。対象は2.5〜6.5歳、1万5500人。ADI-R(The Autism Diagnostic Interview Revised)*1の後にDSM-IVの診断を行っている。1万5500人中97人が自閉症スペクトラムであるとしている。1万人あたりの有病率は62.6人。率にすると0.62%。男性はそのうち79.4%。
各サブタイプの診断結果は以下。
診断名 | 有病率(1万人あたり) | 人数(1万5500人のうち) |
---|---|---|
自閉性障害 | 16.8人 | 26 |
アスペルガー障害 | 8.4人 | 13 |
レット障害 | 0.6人 | 1 |
小児期崩壊性障害 | 0.6人 | 1 |
特定不能の広汎性発達障害 | 36.1人 | 56 |
サブタイプの診断をグラフにするとは以下のようになっている。
やはりアスペルガー障害の診断はあまり多くないということと、特定不能カテゴリが多いことが目立つ。自閉性障害についてはフィンランドの調査であるKielinen et al.(2000)*2がDSM-IVの診断基準で疫学調査をしていて、そこでの結果は6.1人(1万人あたり)という値であった。このChakrabartiの調査の方が2倍ほど多い値を出していることになる。DSM-IV-TRでは1万人に対して5人の有病率という記載なので3倍ほどの値が出ている。
特定不能の広汎性発達障害に関しては、Chakrabartiの調査はKielinenの調査よりも非常に高率だというのも特徴である。おそらくICDやDSMの特定不能カテゴリの考え方(運用法)が違っているのではないかと思われる。
以下はADI-Rのスコア。括弧内は標準偏差。
自閉性障害 (n=24) |
特定不能の広汎性発達障害 (n=53) |
アスペルガー障害 (n=13) |
|
---|---|---|---|
社会的相互作用 | 22.3(4.9) | 13.6(5.2) | 13.4(3.3) |
コミュニケーション(非言語) | 11.5(2.2) | 6.4(3.5) | 7.3(2.8) |
反復常同行動 | 5.3(2.1) | 5.3(2.5) | 6.0(2.3) |
ADI-Rスコア合計 | 42.1(5.8) | 30.6(8.9) | 31.9(5.6) |
特定不能の広汎性発達障害の標準偏差が大きいので、他のタイプよりも多様な状態の人たちが含まれているのだと思われる。明確な診断名がつかなかったその他カテゴリなので、そのような傾向になるのだろう。
自閉性障害 (n=26) |
特定不能の広汎性発達障害 (n=53) |
アスペルガー障害 (n=12) |
|
---|---|---|---|
通常範囲 | 8 (30.8) | 49 (92.4) | 12 (100) |
軽度・中度 | 13 (50.0) | 4 (7.6) | 0 |
重度・最重度 | 5 (1 9,2) | 0 | 0 |
この調査ではアスペルガー障害は全員精神遅滞をもっていない。ただし、アスペルガー障害の診断基準では、軽度精神遅滞は除くという書き方にはなっていない*4。このように診断基準が策定されている理由は、アスペルガー障害の中心的な問題は精神遅滞にあるのではなく、コミュニケーションの問題であるからである。従って、アスペルガー障害はいわゆる「高機能広汎性発達障害」*5と呼ばれているものと同じものを指している言葉ではない。
また、特定不能の広汎性発達障害のIQスコアを見るとほぼ通常の範囲(IQが70以上)である。状態としてはアスペルガー障害に近いものでアスペルガー障害の診断基準に満たないものがある程度以上は含まれるのではないかと思われる。
*1:http://www.umich.edu/~umacc/diagnostic_instruments/adi-r.htm
*2:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez?db=pubmed&uid=11095038&cmd=showdetailview&indexed=google
*3:DSM-IVの精神遅滞の分類は以下のようになっている。
Mild Mental Retardation: IQ level 50-55 to approximately 70
Moderate Mental Retardation: IQ level 35-40 to 50-55
Severe Mental Retardation: IQ level 20-25 to 35-40
Profound Mental Retardation: IQ level below 20 or 25
*4:DSM-IV-TRには以下のように記述されている「自閉性障害と対照的に,アスペルガ一障害では精神遅滞は一般的にみられない,しかし時々,軽度精神遅滞のある症例が認められている(例:明らかな認知・言語的遅れは生後1年間みられなかったが,精神遅滞が学齢期になって初めて明らかになる場合).」
*5:これは正確な医学用語ではない