井出草平の研究ノート

河村雄一ほか「豊田市における自閉性障害の発生率」

河村雄一・高橋脩・石井卓・荻原はるみ,2002,「豊田市における自閉性障害の発生率」
『第43回日本児童青年精神医学会抄録集』:160.
http://ci.nii.ac.jp/naid/50000669253/


豊田市での自閉性障害の発生率の調査。1.72%という高率を出している。

【対象と方法】あらかじめ自閉性障害の初診時年齢を調査したところ、2歳台後半から3歳台前半に大きなピークがあり、5歳過ぎに初診となるケースは少ないことがわかった。そのため対象を1994年1月生まれ(センター設立時2歳3か月)より1996年12月生まれ(現在5歳)の、出生時に豊田市在住の児童、12589名とした。該当する児童の診療録を参考にするとともに、来所時にあらためて成育歴などを聴取し、初診時の診断をDSM-IVに基づいて検討した。


【結果】児童精神科初診時にDSM-IVによる自閉性障害の診断基準を満たした症例は以下の表に示すとおりである。

患者数 発生率 男/女 高機能(IQ70≦) 重度精神遅滞
94年 71 1.65% 3.73 64.7% 7.0%
95年 56 1.38% 4.09 58.5% 10.7%
96年 90 2.13% 2.00 63.5% 3.3%
合計 217 1.72% 2.88 62.6% 6.5%


学会発表の抄録でもともと1頁の資料。調べた限りはまだ論文としては出されていないようである。
記述量が少ないこともあって、いくつかよくわからないところがある。


第1にDSM-IV精神遅滞の割合が非常に少ない点である。DSM-IVでの自閉性障害はいわゆる(狭義の)自閉症にあたる。自閉性障害がすべて知的障害を伴う訳ではないがDSMに「たいていの症例では,精神遅滞の診断を伴い」と書いてあるように知的障害を持つ割合は高い*1。この調査では6割以上が高機能群(知的障害がない)となっているので、他の研究との齟齬が著しい。


第2に発生率が非常に高いと言う点である。Chakrabarti(2001)では自閉性障害の有病率は0.168%である。「DSM-IVによる自閉性障害の診断基準を満たした」と資料には書いてあるのだが、DSM-IVを使った調査*2と比較して10倍ほどの値を出しているので、少し多すぎるように思える。ちなみにChakrabarti(2001)では広汎性発達障害全体の有病率は0.626%なので、もしこの調査が広汎性発達障害の調査だと理解しても豊田市のデータは3倍程度大きい値になっている。


DSM-IVに準拠とは書いてあるものの、やはり診断基準について詳しく知りたい。また、精神遅滞を伴う群だけをみても0.643%に上るので、自閉症スペクトラムの範囲を広げて軽度のものを含めた調査という訳ではないようである。対象は出生時に豊田市に在住とあるので、引っ越しによる数字の増加でもなさそうだ。


学会発表の抄録では限界があるので、やはり論文が読みたいところである。


追記:この調査はその後論文にされていたようです。AFCPさんに教えていただきました。ありがとうございます。

  • Kawamura Y, Takahashi O, Ishii T., Reevaluating the incidence of pervasive developmental disorders: impact of elevated rates of detection through implementation of an integrated system of screening in Toyota, Japan. Psychiatry Clin Neurosci. 2008 Apr;62(2):152-9.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18412836


この論文のアブストラクトでは自閉性障害から広汎性発達障害に変更されている。これで第一の疑問は解決されるのではないかと思われる。診断基準については、アブストラクトに記載はないので、論文を読んでからの検討か。

*1:Chakrabarti[2001]での自閉性障害における高機能群は30.8%。ICD-10にも「自閉症にはすべての水準のIQが随伴するが、約4分の3の症例では、著しい精神遅滞が認められる。」という記述がある

*2:Chakrabarti et al.[2001], Fombonne et al.[2001], Bertrand et al.[2001], Chakrabarti et al.[2005]