井出草平の研究ノート

コンピュータ・サイエンスを専攻する女性の少なさ

大学でのコンピュータ・サイエンスのコースやプログラマーには女性が少ないのはなぜかを検討した研究である。具体的には大学のコンピュータサイエンス入門コースでの成功する要因を探っている。

2002年の論文なので、この種の論文としては少し古い部類のものである。

ui.adsabs.harvard.edu https://citeseerx.ist.psu.edu/viewdoc/download?doi=10.1.1.91.1477&rep=rep1&type=pdf

パイプライン・シュリンケージ(pipeline shrinkage)はコンピュータサイエンスにおける女性の参加率にかんしてよく使用される用語らしい。一般的に学士号取得者の女性の数が増加しているにもかかわらず、過去数年の間に計算機科学分野の女性の学士号取得率が低下している。高校から大学院に至るまで、女性の割合は高い確率で減少していく。アメリカについての論文だが、日本も同じような状況だろう。

プログラミング能力

ミネソタ教育コンピュータコンソーシアムでは、女子と男子のコンピュータリテラシーとプログラミング能力の性差はほとんど認められていない(Anderson, Klassen, Krohn & Smith-Cunnien,1982)

ジェンダー役割

女性が大学でコンピュータ科学を志望しないことは、ロールモデルや励ましの欠如、ジェンダーによるステレオタイプ化、女性の自尊心の欠如などの採用要因にも原因がある。Greening(1999)はコンピュータ科学におけるジェンダーステレオタイプ化を調査した。「パイプラインの漏洩の最大の原因は、大学入学前に発生する」と結論づけている(p.206)

これまでのコンピュータの経験

Scragg and Smith (1998)は女性は男性よりも就学前のコンピュータ経験が少ないとしている「コンピュータ・サイエンスのクラスに女性を維持するための最大の障壁は、女性がプログラムに入るずっと前に発生した状況にあるかもしれない」と結論づけている(p. 85)

敵対的な環境と文化

女性はコンピュータサイエンスの活動の環境や文化が競争的であると感じることがよくあるようだ。Moses (1993) によれば、女性は社会的な交流が奨励されている活動を好むが、学術的なコンピュータサイエンスでは共同作業は敬遠されることが多いとのことである。この分野の評価は競争ベースで行われており、これは女性が避けたがる傾向にあるらしい (Howell, 1993; Moses, 1993)。

帰属理論

Bernstein(1991)は、コンピュータを使うのが苦手な男性は、この感情を「経験不足や教え方の悪さ」に帰するが、女性はコンピュータを使うのが苦手だと感じている自分自身を批判する傾向があることを発見した(p.60)。

この論文の分析結果

数学的背景、成功/失敗の帰属、自己効力感、励まし、コースでの快適さのレベル、ワークスタイルの好み、プログラミングの経験、プログラミング以外のコンピュータの経験、性別を含んだ分析を行っている。

効果量の高い順に、コンピュータ・サイエンス・プログラムの環境にどれだけの不安があるか(快適度が高い方がプラスの影響)、数学の能力(プラスの影響)、中間試験の合否の原因が運であると考える(マイナスの影響)であった。これら3つの因子には、有意な性差は見られなかった。

過去のプログラミングコースの履修は正の相関関係があり、ゲームのプレイ経験は負の相関があった。ゲームプレイには性差があり、男性の方が多かった。ゲームプレイがコンピュータサイエンスコースで学生に「優位性」を与えるこは本研究では支持されていない。

自己効力感は有意な因子であることは認められなかったが、自己効力感の得点には男女で有意な差があり、M=56.488(男性)、M=37.211(女性)、p=0.0127であった。