山根信二さんのTwitter経由で知った情報(https://twitter.com/shinjiyamane/status/1362068833641504776)。
今回、問題になっているのは重慶南西大学の心理学者である张谦Qian Zhang氏。张氏は暴力的ゲームをすると暴力性が増加するといった研究や、暴力的な映画を観ると暴力性が増すといった論文を次々に発表しているが、データが捏造されたものだと指摘され、张氏の論文のうち2本は撤回されている。
どうやら、調査をせずに架空のデータで、分析も捏造し、論文を書いたようである。
ただ、撤回されたのは2本だけで、今年に入ってからも张氏は精力的に論文を発表している。
ざっくりと翻訳してみた。
张氏は不正行為を否定しているが、2つの論文は撤回された。他の論文は雑誌にはまだ残っており、そのデータはメタアナリシスに含まれた形になっていることが「大きな問題」になるとメディアと行動を研究するケンブリッジ大学の認知科学者、エイミー・オーベンAmy Orben氏は述べている。この不正の影響は、学術の中に留まらないという。张氏が不正をした研究は、メディアの警告ラベルであったり、親や医療専門家がゲームをどのように子ども与えるかという根拠になってしまっているのだ。
調査のきっかけとなったのは、イリノイ州立大学の心理学者ジョー・ヒルガードJoe Hilgard氏で、先月、张氏の研究についての懸念点についてブログ記事にして公開した(http://crystalprisonzone.blogspot.com/2021/01/i-tried-to-report-scientific-misconduct.html)。ヒルガードは、彼が3000人の被験者を対象とした別の研究である"Youth & Society"の2018年の論文(https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/0044118X18770309)を初めてみた時感銘を受けたという。「何てこった!」と思いましたよ、と彼は言う。この研究では、一部のティーンエイジャーが暴力的なビデオゲームをプレイした後、より攻撃的になっていると書かれていたのだ。膨大なサンプルサイズを考えると、この研究は「強力なエビデンス」になる可能性があったとヒルガード氏は言う。
しかし、ヒルガード氏はこの論文に統計的な誤り、数学的に不可能な部分があることを発見した。张氏と彼の共著者たちは、高い統計的有意差を報告しているが、実際には統計的有意差のない小さな差であった。ヒルガード氏は张氏とジャーナルに警告を発し、张氏は修正を提出し、より信憑性のある論文になったかのように見えたが、それでも数値をごまかしていた。
ヒルガード氏は、3つの異なる論文でほぼ同じ結果が報告されているなど、张氏の他の論文にも問題があることを発見した。彼は张氏に電子メールを送り、彼のデータを見るように頼んだが、Zhangは拒否したという。ヒルガード氏はその後、ノースカロライナ大学チャペルヒル校の心理学者であり、複数の論文で张氏との共著者であるドロシー・エスペラージュDorothy Espelage氏に連絡を取った。ドロシーも张氏にデータを送るように言ったが、拒否されたとのことだった。ヒルガード氏が重慶南西大学に調査を依頼した後に、张氏が映画の暴力に関する"Youth & Society"の論文(https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0044118X18775846)のデータをヒルガード氏に送ってきただけだった。
しかし、そのデータも奇妙なもので、その論文で行われた実験と同じような実験でみられる特徴が欠けていたとヒルガード氏は言う。ヒルガード氏は調査結果を张氏の大学に送ったが、张氏のデータには問題はあったが不正ではなかったとし、张氏には "統計的な知識と研究方法に欠陥がある "と結論付けた。この返答に不満を感じたヒルガード氏は、関係するすべての雑誌に自分の観察結果を送った。
ミシガン大学アナーバー校の心理学者であり、"Youth & Society"の編集者でもあるマーク・ジマーマンMarc Zimmerman氏によると、ヒルガード氏のメールは、別の情報源が张氏のデータに疑問を呈した1週間後に来たという。2カ月後の2019年12月、ジャーナルは张氏の2つの論文を撤回した。2つの告発がなければ、迅速で、かつ、撤回という形にならなかったかもしれないと言う。「間違ったデータを公表したいと思うジャーナル編集者おらず、深刻な告発だった」とジマーマン氏は言う。
张氏はScience誌へ宛ての電子メールで、不正行為を否定し、「データを見るための『正しい』方法は1つだけではない」と書いている。张氏は、ヒルガード氏が暴力的なゲームと攻撃性との関連性に懐疑的であり、彼が他の人の研究に難癖をつけることで、有名になろうとしていると書いている。しかし、ダートマス大学の心理学者であるジェイ・ハルJay Hull氏(暴力的なビデオゲームと攻撃性の間に関連があるという立場である)は、ヒルガード氏を支持すると述べている。ハル氏は科学は不正やいんちきに基づいてはならないと述べている。
张氏と共著者であったドロシー・エスペラージュは"Aggressive Behavior"に掲載された論文の撤回を支持しているが、"Aggressive Behavior"を含む他のジャーナルは、张氏の研究をいまだ撤回していない。アイオワ州立大学の心理学者であり、"Aggressive Behavior"の編集長であるクレイグ・アンダーソンCraig Anderson氏はコメントを辞退した。
张氏の最近の論文は、ヒルガード氏の指摘を避けて書かれているが、ヒルガード氏は満足していない。こういった論文の不正への対策が遅れると「不正が巧妙になり、発見できなくなる恐れがある」とヒルガード氏は述べている。
Qian Zhang, Dorothy L. Espelage, Da-Jun Zhang,(2018), The Priming Effect of Violent Game Play on Aggression Among Adolescents, Youth & Society. https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/0044118X18770309?journalCode=yasa
Qian Zhang, Dorothy L. Espelage, Detlef H. Rost, (2018), Short-Term Exposure to Movie Violence and Implicit Aggression During Adolescence, Youth & Society. https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0044118X18775846
Qian Zhang Yi Cao JingYa Gao Xiong Yang Detlef H. Rost Gang Cheng ZhaoJun Teng Dorothy L. Espelage, (2019), Effects of cartoon violence on aggressive thoughts and aggressive behaviors, Aggressive Behavior. 45(5): 489-497 https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/ab.21836
Qian Zhang, Yi Cao, and JingJin Tian, (2021), Effects of Violent Video Games on Aggressive Cognition and Aggressive Behavior, Cyberpsychology, Behavior, and Social NetworkingVol. 24(10). https://www.liebertpub.com/doi/full/10.1089/cyber.2019.0676