井出草平の研究ノート

暴力性の高いゲームを頻繁にプレイする子どもより、プレイ頻度の低い子どもの方が現実世界での暴力性が高い

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov https://www.liebertpub.com/doi/full/10.1089/cyber.2020.0049

  • Sarah M. Coyne and Laura Stockdale, 2021, Growing Up with Grand Theft Auto: A 10-Year Study of Longitudinal Growth of Violent Video Game Play in Adolescents, Cyberpsychology, Behavior, and Social. Vol. 24, No. 1.

10年間にわたる暴力的なビデオゲームのプレイの軌跡、予測因子、および結果を調べた研究。潜在曲線モデルを使用し、暴力的ゲームのプレイ頻度で3つのグループが析出された。

クラス1. 初期から暴力的ゲームのプレイ頻度の高い群 4%
クラス2. 中等度 23%
クラス3. 低増加群 73%

最終時点で波で最も高いレベルの攻撃的行動を示していたのは、クラス2。暴力的ゲームをもともと高頻度でやっていたグループの方が暴力性が高いことが予想されていたが、結果は、逆であった。
クラス1とクラス2は男性の割合が高く、当初はクラス1で抑うつ状症状が高いが、改善されていった。最終時点での向社会的行動については、3群間で差はなかった。

ゲームの暴力度合い

参加者は、好きなビデオゲームを3つ挙げ、それぞれのゲームのプレイ頻度を1(あまり頻繁ではない)から5(非常に頻繁である)の間で評価した。11波で合計789本のゲームが挙げられました。各ゲームには、データのあるところでは、0(暴力なし)から5(極度の暴力)までのリッカート尺度で暴力評価をつけた(N = 511)。評価は、メディアコンテンツコーディングサイト「Common Sense Media」のスコアリングを用いた。

子どもの攻撃性

子どもの攻撃的な行動はWeinberger, Schwartz, and Davidsonから引用した5つの項目で評価した。「私は怒ったときに物理的な力を使う」などの項目がある。

抑うつ症状

思春期のうつ症状は、20項目からなる自己申告式のCES-DC(Center for Epidemiologic Studies Depression Scale for Children)を用いて評価した。

不安症状

子どもの不安は,Spence Child Anxiety Inventoryの6項目からなる全般性不安障害サブスケールを用いて評価した。

社会的行動

見知らぬ人に対する社会的行動は「Inventory of Strengths」 に基づいた5つの項目を用いて測定。

分析

暴力的なビデオゲームのプレイ時間の成長曲線モデルを検討した。

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図2は,各クラスの成長の軌跡を示し,表3は各クラスの成長パラメータを示している。

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クラス1

4%、n=19。非常に高い切片を示していることから、当初から暴力的ゲームの頻度が高かった。その後、減少し、最終波で増加している。このクラスを "初期暴力度が高い群High Initial Violence "と呼ぶ。

クラス2

23%、n=99、中程度の切片を持ち、クラス1と同様の曲線パターンを示し、最終波ではクラス1とほぼ同じレベルで終わった。ここでは、クラス2を "中等度群Moderates "と呼ぶ。

クラス3

73%、n=316。初期のビデオゲーム・バイオレンスのレベルが低く、時間の経過とともにわずかに増加した。このクラスを "低増加群Low Increasers"と呼ぶ。

次に、Mplus(v8.3)を用いた3段階のアプローチ(three-step approach)により、暴力的なビデオゲームのプレイの変化パターンの予測因子と、パターンごとのアウトカム変数の違いを調べた。予測因子は、生物学的性別、攻撃性、向社会的行動、抑うつ、不安である。

予測因子については、「初期暴力度が高い」グループは、「中等度群」(β=1.90、p=0.05)および「低増加群」(β=2.53、p=0.007)と比較して、男児に多く見られた。さらに、「低増加群」に比べて「中等度群」には男の子が多く含まれていた(β=0.63、p=0.03)。「初期暴力度が高い」グループは、「中等度」(β=2.20、p=0.02)と「低増加群」グループ(β=1.79、p=0.04)の両方に比べて初期抑うつ度が高かったが、不安度は低かった(それぞれβ=-3.60、p=0.003、β=3.52、p=0.002)。生物学的性別以外では、「中等度群」と「低増加群」の間に有意な差はなかった。

アウトカムでは最終波での向社会的行動、抑うつ、不安には差はなかった。しかし、「中等度群」は、「初期暴力度が高い群」(χ2=22.55、p<0.001)、「初期暴力度が高い群」(χ2=24.57、p<0.001)に比べて、攻撃性が有意に高かった。

議論

クラス1 初期暴力度が高い群

4%と最も小さいグループである。
途中で暴力的ゲームが減少したのはこのパターンは、親などが介入をしたためではないか。
思春期初期に抑うつ症状が高かったが、不安は低かった。このグループは、暴力的なビデオゲームを利用して、抑うつ症状を管理したり対処したりしていた可能性がある。
これまでの研究では、メンタルヘルスの問題への対処や気晴らしとしてビデオゲームをプレイすることは効果的である可能性が示されているが28,29、これらの研究ではプレイしたビデオゲームの内容については考慮されていない。
このグループは、最初の時点で、他のグループに比べて攻撃的行動や向社会的行動のレベルが高くなく、攻撃的な青少年が特に暴力的なビデオゲームを求めることを示唆するいくつかの研究に反していた32。

  • 28.Ferguson CJ, Trigani B, Pilato S, et al. Violent video games don't increase hostility in teens, but they do stress girls out. Psychiatric Quarterly 2016: 87:49–56.

  • 29.Loton D, Borkoles E, Lubman D, et al. Video game addiction, engagement and symptoms of stress, depression and anxiety: the mediating role of coping. International Journal of Mental Health and Addiction 2016; 14:565–578.

  • 32.Breuer J, Vogelgesang J, Quandt T, et al. Violent video games and physical aggression: evidence for a selection effect among adolescents. Psychology of Popular Media Culture 2015; 4:305.

クラス2 中等度群

23%のグループ。
理論的には、「初期の暴力度が高い」グループが最も攻撃性が高いはずなので、これはやや直感に反する結果である。実際、この2つのグループは、最終波でのビデオゲームのプレイ状況は同じだったが、中程度のグループの方が攻撃性のレベルが明らかに高かった。

クラス3 低増加群

73%のグループ。
他のグループと比較して、行動および精神的健康の予測因子と結果が最も健全なパターンを示した。このグループは、最終的な時点で、初期の暴力度が高いグループよりも攻撃的な行動が高くなかったことから、暴力的なビデオゲームのプレイレベルが低く、わずかに増加しても、時間の経過とともに攻撃的な行動が増加することとは関係がないことが示唆された。

雑感

潜在クラス分析では5%以下のクラスはあまり当てにならないとする傾向がある。統計学的に根拠があるわけではないが、クラス1の割合が少なすぎる気もする。暴力的なゲームで特徴的なプレイスタイルをとる子どもが数パーセントしかいないので、このような分析にならざるを得ないのだろう。

仮に2つのクラスに分けた場合、クラス1とクラス2が合併されるため、暴力的なゲームをする子ほど暴力的行動をしがちとなる。潜在クラスが2クラスの場合には、従来の重回帰と本質的には同じ分析をしていることになるため、クラスを3つ以上作成する必要がある。そういう意味では、3つ以上のグループ作成には合理的な根拠がある。

分析ではthree-step approachを行っているところが少し気になった。潜在成長モデルにする場合には、現状はthree-step approachをすることになるのだろうが、理論的にはBCH法を拡張すれば同時分析ができるはずである。Mplusは対応してないのだろうか。

先行研究

暴力的なビデオゲームのプレイと、うつ病5や不安との関連性が指摘されている6。

  • 5.Allahverdipour H, Bazargan M, Farhadinasab A, et al. Correlates of video games playing among adolescents in an Islamic country. BMC Public Health 2010; 10:1–7.
  • 6.Baldaro B, Tuozzi G, Codispoti M, et al. Aggressive and non-violent videogames: short-term psychological and cardiovascular effects on habitual players. Stress and Health: Journal of the International Society for the Investigation of Stress 2004; 20:203–208.

実験的研究では、暴力的なビデオゲームのプレイとうつ病との間に関連性があるという証拠はほとんどないことが示唆されている15。 - 15.Ferguson CJ, Rueda SM. The hitman study: violent video game exposure effects on aggressive behavior, hostile feelings, and depression. European Psychologist 2010; 15:99–108.

暴力的なビデオゲームのプレイは、実験室内での攻撃性の増加に関連している可能性があるものの、現実の暴力7や暴力犯罪の有意な予測因子ではないことを示している8。

  • 7.Valadez JJ, Ferguson CJ. Just a game after all: violent video game exposure and time spent playing effects on hostile feelings, depression, and visuospatial cognition. Computers in Human Behavior 2012; 28:608–616.
  • 8.Ferguson CJ, Rueda SM, Cruz AM, et al. Violent video games and aggression: causal relationship or byproduct of family violence and intrinsic violence motivation? Criminal Justice and Behavior 2008; 35:311–332.

対人暴力や交際暴力を対象とした縦断的研究では、暴力的なビデオゲームのプレイと暴力の増加との間に関連性は見られなかった14。

  • 14.Ferguson CJ, Miguel CS, Garza A, et al. A longitudinal test of video game violence influences on dating and aggression: a 3-year longitudinal study of adolescents. Journal of Psychiatric Research 2012; 46:141–146.