井出草平の研究ノート

文科省、ゲーム、ネット、スマホで発達障害「的」な子どもが増えると主張する

問題の文章が含まれるのは以下のページと調査結果報告である。

www.mext.go.jp PDF: 通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について (令和4年12月13日)

本調査は、発達障害のある児童生徒数の割合や知的発達に遅れがある児童生徒数の割合を推定する調査ではなく、学習面や行動面で著しい困難を示すとされた児童生徒数の割合を推定している調査である。増加の理由を特定することは困難であるが、
(中略)
子供たちの生活習慣や取り巻く環境の変化により、普段から1日1時間以上テレビゲームをする児童生徒数の割合が増加傾向にあることや新聞を読んでいる児童生徒数の割合が減少傾向にあることなど言葉や文字に触れる機会が減少していること、インターネットやスマートフォンが身近になったことなど対面での会話が減少傾向にあることや体験活動の減少などの影響も可能性として考えられる。(p.18)

言い回しはややこしいが、ゲーム、ネット、スマホ発達障害「的」な子どもが増えている(可能性がある)、と書かれている。

どんな調査で誰が書いたのか

この調査は発達障害「的」な学習・行動・情緒の問題を抱える児童を教員がクラスにどの程度存在するかをまとめたものである。この調査は特別支援教育の基礎資料として使用されている。
今回の調査では前回調査より増加をしていた。
上記の文章は有識者会議の座長である宮﨑英憲さん(全国特別支援教育推進連盟理事長、東洋大学名誉教授)が書いたと思われる総括に登場する。
とはいえ、この文章そのものは「文部科学省初等中等教育特別支援教育課」のクレジットがされており、宮﨑英憲さん個人の意見という体裁では発表されていない。書いたのは宮﨑英憲さんだろうが、文章の責任は文部科学省初等中等教育特別支援教育課である。

関連するエビデンスについて

言うまでもないことだが「ゲーム、ネット、スマホ発達障害「的」な子どもが増える」といったエビデンスは存在しない。

逆に、ゲームをしている幼稚園児ほど社交性が高い(https://ides.hatenablog.com/entry/2020/03/31/222036)といった研究であったり、SNS利用頻度が高いほど成熟するという脳画像の研究(https://jamanetwork.com/journals/jamapediatrics/article-abstract/2799812)など良い影響を与えるという研究は存在している。ゲーム、ネット、スマホ発達障害的な症状を助長するといった記述は科学的エビデンスを踏まえない思い込み以外の何物でもない。

香川県ゲーム条例の立役者・大山一郎県議も「学習障害や発達性多動障害はゲームが原因」と言っていた

最近はあまり言及していないが、大山県議も同じようなことを言っていた。

ides.hatenablog.com

大山県議の発言も引用しておこう。

今、学習障害と思われる子供や発達性多動障害と思われる問題行動を起こす子供たちが、我が県でも急速にふえています。私の住んでいる地域の小学校でも、既にそのような子供によって学級崩壊寸前のクラスもあります。 この異常なふえ方は、ただ単に家庭のしつけの問題だけだとは考えられません。何か共通に子供たちに起こっていることがあるはずです。それがすべてゲームやパソコンだと言うつもりはありませんが、そのような子供たちの家庭調査くらいはすべきだと考えます。原因が先天性のものではなく、ゲームなどによる前頭前野の機能低下状態だとすれば、対処を早急に行えば治る可能性は高いからであります。

大山県議の発言も今回の文科省の文章も、似たり寄ったりの内容である。

文科省の文章に掲載される方が問題は大きい

大山県議の発言は、議会議事録に残っていたものであり、香川県の公式の書類ではない。
議員さんがデタラメなことが書かれた本を真に受けて自説を議会で開陳した、ということなので、致し方ないのかもしれない。
もちろん、このような積み重ねによって、スマホ・ゲーム条例が作られてしまったという大きな問題はある。

しかし、文科省には、自由に発言することはできず、科学的エビデンスに基づいて政策立案・運営をすることが求められている。 にもかかわらず「ゲーム、ネット、スマホ発達障害「的」な子どもが増える」といった趣旨のことを公式の文章に掲載するとなると、事態はより深刻なのではないかと思われる。