井出草平の研究ノート

AD/HDは境界性パーソナリティー障害のリスクファクターなのかもしれない


田中聡「境界性パーソナリティ障害の形成メカニズム」『精神治療学』24(8)にAD/HDと境界性パーソナリティー障害の関係についての文献障害紹介があった。両者は関係があるという報告があるとのこと。


成人のAD/HDの37%に境界性パーソナリティー障害がみられたという報告がある。下記のAnckarsäterらの研究である。相互影響についての論考はされていない。

  • Anckarsäter H, Stahlberg O, Larson T, Hakansson C, Jutblad SB, Niklasson L, Nydén A, Wentz E, Westergren S, Cloninger CR, Gillberg C, Rastam M., The impact of ADHD and autism spectrum disorders on temperament, character, and personality development. Am J Psychiatry. 2006 Jul;163(7):1239-44.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16816230


また、Philipsenらの研究では、境界性パーソナリティー障害の女性の41.5%に児童期のAD/HDの既往がみられ、16.1%は成人AD/HDの診断がつけられるという。
境界性パーソナリティー障害の診断基準のうち,第8項目(怒りの制御の困難)と第9項目(ストレス関連性の妄想様観念または重篤な解離性症状)が児童期のAD/HDの既往と相関が高いことが示されている(後方視的研究)。因果関係に関する考察はない。


因果関係の解釈がされていないということなのだが、原田(1999)「DBDマーチ」の概念が役立ちそうである。


  • 原田謙,1999「注意欠陥/多動性障害と反抗挑戦性障害が合併した病態に関する研究」『児童青年精神医学とその近接領域』40(4) pp.358-368
    http://ci.nii.ac.jp/naid/10012179560

DBDマーチという概念は「AD/HD」+「反抗挑戦性障害」(ODD)を持った児童が、「行為障害」(CD)と発展し、さらに「反社会的パーソナリティ障害」(ASPD)へと発展することを「マーチ」に喩えた表現である。DBDマーチは以前に入れたAD/HDが非行・犯罪へのコミットをするリスクがあるという研究のエントリを包括的に理解できる概念である(参照)(参照)。


反社会性パーソナリティ障害境界性パーソナリティ障害は診断基準が異なるものの、クラスターB(=陽性のパーソナリティ障害)という共通点がある。つまり、表にハデに現れる形でのパーソナリティ障害であるということだ。ものすごくざっくり言ってしまうと、反社会性パーソナリティ障害の方は暴力行為の発現に関係しているので「男性的」であるが、境界性パーソナリティ障害の方は対人関係(関係性)の問題であるため「女性的」である。Philipsenらの研究が女性のAD/HDと境界性パーソナリティ障害の間の相関の高さを示しているのも、おそらく性別による表現の違いが関係しているのだろう。


遺伝子的にAD/HDの負因を持っていたとしても、育っていく環境の中で、現れ方は異なってくる(文化的要因)。AD/HDの後々の影響は社会的な環境やジェンダーによって異なってくるのかもしれない。