インターネットゲーム障害の治療

アメリカ精神医学会の診断基準DSM-5に掲載されたインターネットゲーム障害の治療法に関するレビュー。

www.ncbi.nlm.nih.gov

Zajac K, Ginley MK, Chang R, Petry NM. (2017), Treatments for Internet gaming disorder and Internet addiction: A systematic review. Psychol Addict Behav, 31(8): 979-994.

投薬

インターネットゲーム障害に対する投薬は、ブプロピオン(Han et al., 2010; Han et al., 2012; Song et al., 2016)、エスシタロプラム (Song et al., 2016)、メチルフェニデート(Han et al., 2009; Park et al., 2016)、アトモキセチン(Park et al., 2016)が有効な結果を出している。

一般名 効果
ブプロピオン 抗うつ薬/ADHD治療薬
エスシタロプラム 抗うつ薬
メチルフェニデート ADHD治療薬
アトモキセチン ADHD治療薬

インターネットゲーム障害の背景にはうつ病ADHDがあることが指摘されている(Brunborg et al. 2014; Scharkow et al. 2014; Lee et al. 2016)。背景にある精神障害の症状が改善したため、インターネットゲーム障害も改善したと考えられる(参照)。

現在までの投薬ではブプロピオンが好んで選ばれている。韓国の一部研究グループの研究しかないため、この研究グループの好みや製薬会社からの資金提供等の可能性も否定はできないが、ブプロピオンの創薬時期は古く、ジェネリックも発売されているため、製薬会社への利益誘導は否定できるだろう。

ブプロピオンは抗うつ薬に分類されるが、同時にADHD治療薬でもあるという珍しい薬である。また、アルコール依存症などにも有効性を示すエビデンスがあるため、依存症への効果も示唆されている*1。このような特性からブプロピオンが選ばれていると推測される。

また、Han et al. (2012)ではインターネットゲーム障害への教育だけでは効果は十分ではなく、投薬が必要であると考えられている。この研究での対象者は大うつ病であった。うつ病ADHDが背景にある場合には、投薬を積極的に選択したほうがよいということだろう。

認知行動療法など

認知行動療法をベースとした心理療法による介入が多い。最も良い結果を出しているのは、認知行動療法とブプロピオンを併用した介入である(Kim et al., 2012)。しかし、対象者は大うつ病である。認知行動療法抗うつ剤うつ病を改善し、その結果、インターネットゲーム障害が改善したという可能性は高い。インターネットゲーム障害そのものにどの程度有効であったかは不明である。

それは、うつ病が背景にないタイプの介入、認知行動療法単体での介入をみると(Li et al., 2013)、効果が高いとは言えない状態にあることからも言えることである。

少なくとも、集団で行う集団認知行動療法は基本的なカウンセリングと有意差が出ない(Li et al., 2013)ことから、取り立ててよい治療法とは言えないようだ。また集団認知行動療法と集団バーチャルリアリティ療法という先進的な取り組みもあり、集団認知行動療法と同等の効果がみこめるようである(Park et al., 2016)。

その他の介入

家族療法は有効かもしれない(Han et al., 2012)。

日本の文科省事業であるセルフディスカバリーキャンプもエビデンスとしてあげられている。

セルフディスカバリーキャンプはこちらを参照。文科省事業である。
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/03/24/1345322_08.pdf

介入後もほぼ毎日ゲームはしているものの、1日あたりのゲーム時間は68%程度に、週当たりのゲーム時間は62%程度に減少している。悪くない結果である(Sakuma et al., 2017)。
大自然がインターネット依存を癒す的なイメージを持つ人も多いだろうが、治療効果としては転地療法の一種だと捉えるのがおそらく妥当だろう。

MMORPGの中でスピーキング、ライティングコースを行うという韓国の試みも興味深い。インターネットゲーム障害の解決にはならないようだが、学習効果が高かったことがわかった(Kim et al., 2013)。

ブプロピオン投薬(Han et al., 2010)

www.ncbi.nlm.nih.gov

国: 韓国
方法: ブプロピオン
N: 11
期間: 6週間
年齢(SD): 21.5±5.6
研究デザイン: プレ-ポスト比較
IGD包含基準の診断方法: YIAS >50 + gaming >30 hr/wk + 障害またはディストレス
結果変数:ゲーム時間とYIAS
有意な結果: ゲーム時間とYIASの短縮
注記: 健康な対照のサンプルは含まれていない。

コメント:

ディストレスのある患者を対象としているため、抗うつ剤のブプロピオンが選択されたと考えられる。

メチルフェニデート投薬(Han et al., 2009)

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国: 韓国 方法: メチルフェニデート N: 62 期間: 8週間 年齢(SD): 9.3±2.2 研究デザイン: プレ-ポスト比較 IGD包含基準の診断方法: YIAS >50 + gaming >30 hr/wk + 障害またはディストレス 結果変数:ゲーム時間とYIAS 有意な結果: ゲーム時間とYIASの短縮 注記: すべての参加者はADHD

コメント:

インターネットゲーム依存の背景にADHDが存在するため、ADHDの治療薬であるメチルフェニデートが有効だと考えられる。

ブプロピオン投薬と教育(Han et al., 2012)

www.ncbi.nlm.nih.gov

国: 韓国 方法: ブプロピオン+教育 vs. プラセボ+教育 N: 25/25 期間: 6週間 年齢(SD): 21.2±8.0/19.1±6.2 研究デザイン: プレ-ポスト比較 IGD包含基準の診断方法: YIAS >50 + gaming >30 hr/wk + 障害またはディストレス 結果変数:ゲーム時間とYIAS 有意な結果: プラセボグループと比較してブプロピオングループにおいてゲーム時間とYIASの大幅な短縮 注記: すべての参加者は大うつ病

コメント:

うつ病とインターネットゲーム障害が併存している場合には、教育だけでは十分ではなく抗うつ剤の投与が必要。

アトモキセチンとメチルフェニデート(Park et al., 2016)

www.ncbi.nlm.nih.gov

国: 韓国 方法: アトモキセチンとメチルフェニデート N: 42/44 期間: 12週間 年齢(SD): 17.1±1.0/16.9±1.6 研究デザイン: RCT IGD包含基準の診断方法: DSM-5 結果変数:YIAS 有意な結果: YIASは両方のグループで減少。グループ間で有意差なし。 注記: すべての参加者はADHD

コメント:

ADHDの薬の種類によって効果に違いはない。

ブプロピオン vs.エスシタロプラム(Song et al., 2016)

www.ncbi.nlm.nih.gov

国: 韓国 方法: ブプロピオン/エスシタロプラム/治療なしグループ N: 44/42/33 期間: 6週間 年齢(SD): 20.0±3.6/19.8±4.2/19.6±4.0 研究デザイン: RCT IGD包含基準の診断方法: DSM-5 結果変数:YIAS 有意な結果: YIASはブプロピオン/エスシタロプラムのグループで減少。治療なしグループでは変化なし。エスシタロプラムよりもブプロピオンの方が効果が高い。 注記: 対照群は治療を拒否したグループで無作為割り付けではない。

コメント:

SSRIよりもブプロピオンの方が治療的。抗うつ薬であればよいわけではなく、ブプロピオンの薬理作用が効果的である可能性が示唆される。

認知行動療法をベースとした心理療法

渇望行動介入(Zhang et al., 2016)

www.ncbi.nlm.nih.gov

国: 中国 方法: 渇望行動介入(Craving behavioral intervention) vs. 介入のない対照群 N: 23/17 期間: 6週間 年齢(SD): 21.9±1.8/22.0±1.9 研究デザイン: 非RCT IGD包含基準の診断方法: CIAS≥67 + ゲームプレイ(1〜4の中で最も人気のあるゲームを)14時間/週以上、1年以上。 結果変数:毎週のゲーム(時間)、CIAS 有意な結果: 介入グループのCIASは低く、ゲーム時間は少なくなったが対照群と有意な差はない。

コメント:

渇望行動介入の有効性は実証されず。

集団CBT vs. 基本的なカウンセリング(Li et al., 2013)

www.sciencedirect.com

国: 中国 方法: 集団CBT vs. 基本的なカウンセリング N: 14/14 期間: 6週間 年齢(SD): 12〜19歳 研究デザイン: RCT IGD包含基準の診断方法: ゲームプレイ 30時間/週 + OGCAS >35 + YIAS >3 + CIAS≥67 + ディストレスまたは不適応行動 結果変数: YIAS 有意な結果: YIASは両グループで減少。ただし有意差なし。

コメント:

集団CBTの有効性は実証されず。

CBT + ブプロピオン vs. ブプロピオンのみ(Kim et al., 2012)

https://psycnet.apa.org/record/2012-15073-001

国:韓国 方法: CBT + ブプロピオン vs. ブプロピオンのみ N: 32/33 期間: 8週間 年齢(SD): 16.2±1.4/15.9±1.6 研究デザイン: RCT IGD包含基準の診断方法: YIAS> 50 + ゲームプレイ 30時間/週 + ディストレスまたは不適応行動 結果変数: 週あたりのゲーム時間、YIAS 有意な結果: 薬物療法のみのグループよりもCBTを併用したグループが大幅な改善。介入後の4週間のフォローアップでも差が維持された。 注記: すべての参加者は大うつ病

コメント:

CBTは薬物療法と併用すると効果的。

集団CBT vs. 集団バーチャルリアリティ療法(Park et al., 2016)

www.ncbi.nlm.nih.gov

国:韓国 方法: 集団CBT vs. 集団バーチャルリアリティ療法(Virtual Reality group therapy) N: 12/12 期間: 4週間 年齢(SD): 24.2±3.2/23.6±2.7 研究デザイン: RCT IGD包含基準の診断方法: ゲームプレイ 30時間/週 + 生活の破綻 + ディストレスまたは不適応行動 + YIAS> 50 結果変数: YIAS 有意な結果: 両群でYIASは減少。グループ差はない。 注記: 健康な対照のサンプルは含まれていない。

コメント:

集団バーチャルリアリティ療法は集団CBTと同等。

その他の介入

家族療法(Han et al., 2012)

www.ncbi.nlm.nih.gov

国:韓国 方法: 家族療法 N: 15 期間: 3週間 年齢(SD): 14.2±1.5 研究デザイン: プレ-ポスト比較 IGD包含基準の診断方法: 4時間/日以上、30時間/週以上のゲームプレイ + YIAS> 50 + ディストレスまたは行動障害 結果変数: 週のゲーム(時間)、YIAS 有意な結果: ゲーム時間の減少、YIASスコアの減少 注記: 健康な対照のサンプルは含まれていない。

コメント:

家族療法は有効かもしれない。

折衷的な心理療法(Palleson et al., 2015)

www.ncbi.nlm.nih.gov

国:ノルウェー 方法: 折衷的な心理療法(認知行動療法、家族療法、動機付け面接、ソリューション・フォーカスド) N: 12 期間: 13回 年齢(SD): 15.7(1.3) 研究デザイン: プレ-ポスト比較 IGD包含基準の診断方法: 自記式GASA≥3(すべての項目)、またはPVPスコアが4または5(すべての項目・親報告)アイテム(親レポート) 結果変数: 患者報告GASAおよびPVP、親報告PVP 有意な結果: 親から報告されたPVPが減少したが、患者から報告されたGASAまたはPVPは減少せず。

コメント:

有効性の高そうな心理療法の組み合わせのように思えるが、結果からみると、そうではなかったようだ。動機付け面接が入っているのはインターネットゲーム障害である本人は治療にあまり乗り気ではない場合が多いからだろう。心理療法に持ち込むのはなかなか大変そうだ。

セルフディスカバリーキャンプ(Sakuma et al., 2017)

www.ncbi.nlm.nih.gov

国: 日本 方法: セルフディスカバリーキャンプ N: 10 期間: 9日間 年齢(SD): 16.2±2.2 研究デザイン: プレ-ポスト比較 IGD包含基準の診断方法: Griffith’s 6 components of addiction(https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/14659890500114359)を満たし、臨床面接でDSM-5の基準を満たしたもの。 結果変数: 毎日のゲーム(時間)と毎週のゲーム(時間と日) 有意な結果: 1日当たりのゲームの時間、週当たりのゲーム時間は減少したが、週当たりのゲームプレイ日は減少せず(介入後3か月までの結果)

コメント:

セルフディスカバリーキャンプは自然体験がメインになっているようだ。
併存症は5名がADHD、4名が広汎性発達障害、4名がなしの10名。

MMORPGスピーキング、ライティングコース vs. 一般教育(Kim et al., 2013)

www.sciencedirect.com

国: 韓国 方法: MMORPGスピーキング、ライティングコース vs. 一般教育 N: 27/32 期間: 8週間 年齢(SD): 17.4±0.6/17.5±0.6 研究デザイン: プレ-ポスト比較 IGD包含基準の診断方法: Dungeon & Fighterを4時間以上毎日プレイ 結果変数: 1日の平均ゲームプレイ時間 有意な結果: 両群とも減少が見られたが、グループ間で差はない。ライティングとスピーキング能力に関しては対照群よりはるかに向上した。

尺度

YIAS: Young Internet Addiction Scale

K.S. Young,(1996) “Internet addiction: The emergence of a new clinical disorder,” CyberPsychology & Behavior, vol. 1, no. 3, pp. 237-244.

OGCAS: Online Game Cognitive Addiction Scale

Li H., Wang J., Wang L. (2008a). The difference of mental health levels and personality traits between Internet social addition and Internet game addition in college students (in Chinese). Chin. J. Clin. Psychol. 16 413–416.

PVP: Problem Video Game Playing Scale

Tejeiro, R., & Moran, R. B. (2002). Measuring video game pathological playing inadolescents. Addiction, 97, 1601–1606.
http://dx.doi.org/10.1046/j.1360-0443.2002.00218.xTejeiro

CIAS: Chinese Internet Addiction Scale

Chen, S.H., Weng, L.J., Su, Y.J., Wu, H.M., & Yang, P.F. (2003). Development of a Chinese Internet Addiction Scale and Its Psychometric Study. Chinese Journal of Psychology, 45(3), 279–294. https://psycnet.apa.org/record/2004-10292-005

GASA: Gaming Addiction Scale for Adolescents

Lemmens J.S., Valkenburg P.M., Peter J. Development and validation of a game addiction scale for adolescents. Media Psychology. 2009;12:77–95.

*1:アルコール依存症に有効性があるメカニズムは、酒がまずくなる、酒を飲むという欲を押さえることができる。エタノールが分解できなくなり気分が悪くなるといったノックビンなどの抗酒薬とはメカニズムが異なる。