井出草平の研究ノート

二次因子の信頼性係数の計算[R]

因子分析の二次因子のω係数を計測する。パッケージはsemToolsを使用する。

www.rdocumentation.org

ω係数についてはこちら。

ides.hatenablog.com

データ

lavvanに同梱されているデータHolzingerSwineford1939を使用する。HolzingerSwineford1939を使用した分析はこちらを参照のこと。

コード

まずモデルを作って、lavaanパッケージで因子分析をする。

library(lavaan)
HS1.model <- 'visual =~ x1 + x2 + x3
             textual =~ x4 + x5 + x6
             speed =~ x7 + x8 + x9
             intelligence =~ visual + textual + speed
'
HS1.fit <- cfa(HS1.model, data = HolzingerSwineford1939, std.lv=T)

モデルはややこしくないので不要かもしれないが、図にすると以下のようになる。

f:id:iDES:20200926162044p:plain

reliabilityL2()を使ってω係数を計算する。

library(semTools)
reliabilityL2(HS1.fit, "intelligence")

結果。

       omegaL1        omegaL2 partialOmegaL1 
     0.5542950      0.7559089      0.7818425 

解釈

共分散行列( \hat{\Sigma} )は、

 \hat{\Sigma} =2 次の共通性+ 2 次残差+ 1 次誤差

と表現できる。 2 次の残差とは、 2 次因子"intelligence "では説明できない一次因子の"visual "、"textual "、"speed "の独自性の共分散行列の残差のことである。1 次誤差は、観測変数に付随する測定の誤差である。

2 次因子によって 1 次因子が説明される割合は\omega_{L2}であり、

\omega_{L2}=\frac{2 次の共通性}{2 次の共通性+2 次残差}

と定義され、出力では0.76 となっていて"intelligence "という総合的な特性によって下位尺度がよく説明されていることがわかる。

得点の合計が 2 次因子によって説明される割合は\omega_{L1}である。

\omega_{L1}=\frac{2 次の共通性}{2 次の共通性+2 次残差+1次誤差}

出力では 0.55である。

一方で、2 次因子では説明できない 1次因子の残差部分を除いたものはpartialOmegaL1であり、

\omega_{pL1}=\frac{2 次の共通性}{2 次の共通性+1次誤差}

であり、出力は0.78である。

インターネット依存症の予測因子は学業成績の低さ、男性、保護的な育児スタイル

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

インターネット依存症の予測因子を探索する前方視野的研究。

  • Chen, Y.-L., Chen, S.-H., & Gau, S.-F. (2015). ADHD and autistic traits, family function, parenting style, and social adjustment for internet addiction among children and adolescents in Taiwan: A longitudinal study. Research in Developmental Disabilities,39, 20-31.

男性であること、家族のサポートが低いこと、社会的適応力が低いこと、ADHD関連症状が高いことがインターネット依存症と関連していた。自閉症の特性とインターネット中毒との間には逆の関係があったという。

自閉症との関連では、成人の標本で検証された先行研究 (Finkenauer et al., 2012; Romano et al.,2013)では自閉症とインターネット依存に関連が見られている。しかし、この研究では関連が認められず、むしろ逆の関係が見られたという。

  • Finkenauer, C.,Pollmann,M.M.,Begeer,S.,&Kerkhof,P.(2012). Brief Report: Examining the Link Between Autistic Traits and Compulsive Internet Use in a Non-Clinical Sample. Journal of Autism and Developmental Disorders 42(10):2252-6.
  • Romano, M., Osborne, L. A., Truzoli, R., & Reed, P. (2013).Differential psychological impact of Internet exposure on Internet addicts.PLOS ONE, 8, e55162.

この研究では成人の標本ではなく、児童が対象となった調査である影響が考察されているが、同じく児童を対象とした分析であるHirota et al.(2020)(参照)との整合性が気になるところである。

予測モデル(パネルデータ分析)では、インターネット依存は、学業成績の低さ、男性、保護的な育児スタイルが予測因子となっている。

この研究はクロスセクショナルな相関関係ではなく縦断研究デザインである。インターネット依存によって、学力低下になると、言われることが多いが、この研究では逆の因果関係が示唆されている。また、学力低下とインターネット依存症との間には下降スパイラルに陥る可能性も示唆されている。

論文の話から逸れるが、依存レベルの病理(カテゴリカル変数)と学力低下は関連がみられるが、ゲーム時間を連続変数として従属変数にした場合、学力低下と関連を見いだすことは難しい。これは、病理性のゲームプレイと普通のゲームプレイは分けて論じなければならないことを意味している。

データ

2013 年 3 月初旬と 2013 年 6 月下旬の 4 ヶ月間隔で、質問紙調査による反復測定を行った。調査対象は台湾北部の小学校6校の3年生と5年生、中学校1校の8年生とした。調査対象となった学生1253名とその保護者1113名。

尺度

インターネット依存症

CIAS: Chen Internet Addiction Scaleは26項目の自記式尺度で、1から4までの4点リッカート尺度を用いて、インターネットに関連した症状や問題を評価。本人記入。

  • Ko, C.-H., Yen, C.-F., Yen, C.-N., Yen, J.-Y., Chen, C.-C., & Chen, S.-H. (2005).Screening for internet addiction: An empirical study on cut-off points for the ChenInternet Addiction Scale.Kaohsiung Journal of Medical Sciences, 21, 545–551.

インターネット利用

インターネットの利用は、インターネットとコンピュータの利用について、宿題、コンピュータやオンラインゲーム、チャット(IRC)、Facebook、電子メール、その他項目について過去1ヶ月間の利用を二分法(はい/いいえ)で調査。インターネットやコンピュータの利用頻度は、「過去1ヶ月間にいつ、週に何日、コンピュータやインターネットを利用したか」という質問を用いた。

ADHD

Swanson, Nolan, and Pelham IV (SNAP-IV)。本人記入。
4点リッカート尺度を用いた26項目の尺度で、0点を「全く」、1点を「少し」、2点を「かなり」、3点を「非常に」と評価し、ADHDと反抗期障害の診断と統計マニュアル第4版(DSM-IV)に基づく中核症状に応じた18項目が含まれている。使用されたのは中国語版。

  • Swanson, J. M., Kraemer, H. C., Hinshaw, S. P., Arnold, L. E., Conners, C. K., Abikoff, H. B., et al. (2001).Clinical relevance of the primary findings of the MTA: Successrates based on severity of ADHD and ODD symptoms at the end of treatment.Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 40, 168–179.

自閉症

AQ: Autism Spectrum Quotient。本人記入。

子育て

子育てスタイルを3つの主要な次元で測定する尺度、PBI。25項目。母親記入。

  • Parker, G. (1979).Parental characteristics in relation to depressive disorders.British Journal of Psychiatry, 134, 138–147.

家族の機能

家族機能はThe Family Adaptation, Partnership, Growth, Affection, and Resolve (family APGAR)で測定。family APGARは5因子の尺度で、因子は適応、パートナーシップ、成長、愛情、解決。母親記入。

社会適応

Social Adjustment Inventory for Children and Adolescents (SAICA)を利用。SAICAは学校、余暇活動、仲間関係、家庭生活を含む4つの主要分野で6~18歳の児童・青少年の適応機能を評価する尺度。本人・母親記入。

  • John, K., Gammon, D. G., Prusoff, B. A., & Warner, V. (1987).The Social Adjustment Inventory for Children and Adolescents (SAICA): Testing of a new semistructuredinterview.Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 26, 898–911.

記述統計

CIASに基づいたインターネット依存症は第1波では131人(11.7%)、第2波では122人であり、男性が多かった。両波とも、生徒と保護者の報告では、インターネット依存症の生徒ほど、不注意、多動性・衝動性、反抗性の症状が多く、インターネットやコンピュータの使用時間が長く、家族からのサポートが少なく、親からの愛情や配慮が少なく、学業成績や学校に対する態度が悪く、仲間との交流が少なく、学校での社会的交流や仲間との交流において、深刻な問題を抱えていた。

多変量分析

f:id:iDES:20200925211515p:plain

インターネットとコンピュータの使用時間を従属変数としたLMMを用いた相関分析の結果。
保護者の報告に基づくモデルでは、インターネットとコンピュータの使用時間が長いほど、男性、学年が高く、自閉症の特性が低く、ADHDの不注意症状が高く、家族機能が低く、社会的適応に問題があった(table4)。

相関モデルの多変量解析では、男性、学業成績不良、学校での態度が、家族機能やADHD関連症状とは無関係に、インターネットやコンピュータの利用期間に有意な影響を与えていることが示された(補足資料2)

予測モデルはWave1の自閉症特性、ADHD関連症状、人口統計、子育てスタイル、家族機能、社会適応を独立変数・固定効果、各学校のクラスを独立変数・ランダム効果、第1波のインターネット依存症を共変量、Wave2のインターネット依存症を従属変数・固定効果とした線形混合モデル分析である。

先行研究

家族や社会的なサポートの欠如や孤独感は、インターネット依存症を予測する重要な要因である(Ko, Yen, Liu, Huang, &Yen, 2009; Whang, Lee, & Chang, 2003)。

  • Ko, C.-H.,Yen,J.-Y.,Liu,S.-C.,Huang,C.-F.,&Yen,C.-F.(2009). The associations between aggressive behaviors and Internet addiction and online activities in adolescents. JournalofAdolescentHealth,44, 598–605.

  • Whang, L.S.-M., Lee, S., & Chang, G. (2003). Internet over-users’ psychological profiles: A behavior sampling analysis on Internet addiction.CyberPsychology andBehavior, 6, 143–150.

機能的な家族は子どもに十分なサポートを提供することができる(Markman & Notarius, 1987)

  • Markman, H.J.,&Notarius,C.I.(1987). Coding marital and family interaction. In Family interaction and psychopathology. USA:Springer.

インターネットを利用した後、人々は社会的なサポートを受ける機会が大幅に増えたという報告もある(Shaw & Gant, 2002)

  • Shaw, L.H.,&Gant,L.M.(2002). In defense of the Internet: The relationship between Internet communication and depression, loneliness, self-esteem, and perceived social support. CyberPsychology andBehavior,5, 157–171.

ADHD自閉症スペクトラム障害の両方がある人はインターネット依存症や強迫的なインターネット使用に発展する可能性が高い(Finkenauer,Pollmann,Begeer, & Kerkhof, 2012; Yoo et al., 2004)。

  • Yoo, H.J.,Cho,S.C.,Ha,J.,Yune,S.K.,Kim,S.J.,Hwang,J.,etal.(2004).Attention deficit hyperactivity symptoms and Internet addiction. Psychiatry Clin Neurosci. 2004 Oct;58(5):487-94.

インターネット依存症になる要因はADHD、継続する要因は自閉症とADHD

弘前大学のグループの研究。

www.hirosaki-u.ac.jp

link.springer.com

インターネット依存症について潜在的移行分析(latent transition analysis)を用いて2年間の移行パターンと安定性について調べた研究。小学生を対象とした調査(9~12歳)で5483名が対象。2年間のインターネット依存症クラスの安定率は47%、インターネット依存症への移行率(非インターネット依存症からインターネット依存症へ)は11%であった。

維持、移行それぞれの要因を探るべく、回帰分析をした結果、自閉症特性はインターネット依存症の持続パターンを予測し、ADHD特性はインターネット依存症の維持と移行を予測した。

元論文のインターネット依存症はInternet Addictionである。計測した尺度はYDQ、ASSQ、ADHD-RSとすべて自記式であり、専門家による診断ではないという点は注意が必要だが、その代わりに5483名と大きな標本での分析ができているため、信頼性は比較的高いと思われる。

データ

2016年9月から2018年9月まで毎年地域密着型の調査を実施し、弘前市の国公立学校に通う児童生徒を対象に見込み調査を行った。調査開始時の年齢は小学4年生から7年生(9~12歳相当)であった。2016年、2017年、2018年の各時点をそれぞれ時点1(T1)、時点2(T2)、時点3(T3)と定義し。各時点で、各学生の保護者に研究に関する情報を記載した手紙を郵送した。

尺度

インターネット依存症

インターネット依存症の評価にはヤング診断質問票(YDQ)。

自閉スペクトラム症

自閉症スペクトラムスクリーニング質問票(ASSQ: Autism Spectrum Screening Question-naire)(Ehlers et al. 1999)。

  • Ehlers, S., Gillberg, C., & Wing, L. (1999). A screening questionnaire for asperger syndrome and other high-functioning autism spectrum dis-orders in school age children. Journal of Autism and Developmental Disorders,29(2), 129–141.

反復的で制限された興味や行動のような他のASDの特徴は、インターネット依存症の強迫的な性質を考えると、インターネット依存症でありつづけることに関連する可能性がある。自閉性を持つ人は、認知的硬直性のために、保続的であり、インターネット依存症の状態を維持したいと思っているのかもしれない(抄訳)。

議論のところで書かれている分析。

ADHD

ADHD Rating Scale(ADHD-RS)(DuPaul et al. 1998)の2つの質問票を用いて、神経発達障害の特徴を測定した。

  • DuPaul, G. J., Power, T. J., McGoey, K. E., Ikeda, M. J., & Anasto-poulos, A. D. (1998). Reliability and validity of parent and teacher ratings of attention-deficit/hyperactivity disorder symptoms. Jour-nal of Psychoeducational Assessment,16(1), 55–68. https ://doi.org/10.1177/07342 82998 01600 104.

潜在クラス分析

潜在クラス分析で発見されたのは下記の3つのクラスであったようだ。

  • pathological internet use(PIU)
  • excessive internet use (EIU)
  • normative internet use (NIU)

f:id:iDES:20200925004220p:plain

この表をみると4クラス支持の方が多い気がするが、補足資料で3クラスを選択した理由が説明されている。クラス数をどのように決めるかは、探索的因子分析と確証的因子分析の関係と同じで、研究者の判断である程度決めてよいので、まったく問題はないと思う。

唯一、気にかかるのは表の下欄の略語の記載にBLRTと書いてあるが、表にBLRTがないことである。VLMR-LRTがあるので、BLRTはなくても問題はないと言えばないのだろう。VLMR-LRTはあまりよく知らないのでまた調べてみようと思う。

潜在移行分析

f:id:iDES:20200925003959p:plain

時点1から時点3で病的使用から問題がなくなった(NIU)のは14%で、やり過ぎ(EIU)は40%である。足せば、1から維持率0.47を引いたものになる。問題がなくなったグループのほとんどは、まったく問題がなくなったわけではなく、和らいだと理解した方が良さそうだ。

時点1で問題がなかった(NIU)だったのに、時点3で病的使用(PIU)となったのは3%であり、病的使用までエスカレートすることは稀であることがわかる。なお使いすぎ(EIU)に移行するのは8%で、3%と8%を足した数が要旨などで報告されている11%になる。

インターネット依存が稀なことか、よくあることかという判断は恣意的だが、おそらく、使いすぎグループ(EIU)が臨床的にどの程度問題を抱えているのか、という点が焦点になるように思う。

ロジステック回帰分析

維持要因の分析。 f:id:iDES:20200925004016p:plain

移行要因の分析。 f:id:iDES:20200925004025p:plain

先行研究

自閉症スペクトラム障害ASD)や注意欠陥多動性障害ADHD)などの神経発達障害(NDD)を持つ一般人では、典型的な発達の人に比べてIAの有病率が高いことが報告されている(So et al.2017)。

  • So, R., Makino, K., Fujiwara, M., Hirota, T., Ohcho, K., Ikeda, S., et al. (2017). The prevalence of internet addiction among a Japanese ado-lescent psychiatric clinic sample with autism spectrum disorder and/or attention-deficit hyperactivity disorder: A cross-sectional study. Journal of Autism and Developmental Disorders,47(7), 2217–2224. https ://doi.org/10.1007/s1080 3-017-3148-7.

一般集団サンプルにおけるASDスペクトラム(Liu et al. 2017)およびADHDスペクトラム(Wang et al. 2017)とIAの関連が報告されており、これらの障害および形質がIAのリスク因子となりうることが示されている(Gwynette et al. 2018; Wang et al. 2017)。

  • Liu, S., Chengfu, Yu, Conner, B. T., Wang, S., Lai, W., & Zhang, W. (2017). Autistic traits and internet gaming addiction in Chinese chil-dren: The mediating effect of emotion regulation and school con-nectedness. Research in Developmental Disabilities,68, 122–130. https ://doi.org/10.1016/j.ridd.2017.07.011.

  • Wang, B.-Q., Yao, N.-Q., Zhou, X., Liu, J., & Lv, Z.-T. (2017). The asso-ciation between attention deficit/hyperactivity disorder and internet addiction: A systematic review and meta-analysis. BMC Psychiatry,17(1), 260. https ://doi.org/10.1186/s1288 8-017-1408-x.

  • Gwynette, M. F., Sidhu, S. S., & Ceranoglu, T. A. (2018). Electronic screen media use in youth with autism spectrum disorder. Child and Adolescent Psychiatric Clinics of North America,27(2), 203–219. https ://doi.org/10.1016/j.chc.2017.11.013.

ASD患者の電子機器の使用率、特に社会的関与をほとんど必要としない問題のあるビデオゲームの使用率が、一般的な発達障害者と比較して高いことが報告されている(So et al. 2017; Mazurek et al. 2012)

既存の横断的研究では、インターネット依存症は人間関係の課題、幸福度の低下、学業成績の低下、不安やうつ病などの精神病理と関連していることが示されている(Yücens and Üzer 2018)

  • Yücens, B., & Üzer, A. (2018). The relationship between internet addiction, social anxiety, impulsivity, self-esteem, and depres-sion in a sample of Turkish undergraduate medical students. Psy-chiatry Research,267, 313–318. https ://doi.org/10.1016/j.psychres.2018.06.033.

横断的研究では、ASDを持つ個人におけるビデオゲームの使用は、インターネット依存症の中核症状とは関連していないことが明らかになっている(Mazurek et al. 2012)。

  • Mazurek, M. O., Shattuck, P. T., Wagner, M., & Cooper, B. P. (2012). Prevalence and correlates of screen-based media use among youths with autism spectrum disorders. Journal of Autism and Develop-mental Disorders,42(8), 1757–1767. https ://doi.org/10.1007/s10803-011-1413-8.

先行研究では、問題のあるインターネット利用と家族機能や子育てスタイルとの関連性が報告されている(Chen et al. 2015)

  • Chen, Y.-L., Chen, S.-H., & Gau, S.-F. (2015). ADHD and autistic traits, family function, parenting style, and social adjustment for internet addiction among children and adolescents in Taiwan: A longitudinal study. Research in Developmental Disabilities,39, 20–31. https ://doi.org/10.1016/j.ridd.2014.12.025

『社会学評論』におけるクロス表の表現

社会学などのカテゴリカル変数を扱う分野では、クロス表での分析は良く行うが、雑誌論文にクロス表が掲載されていることは少ないように思う。分野によって何の情報を掲載するかは比較的異なるため、今回は社会学での掲載について見てみたい。『社会学評論』に掲載された論文の中でクロス表がどのように表現されているか見てみたい。ちなみに、自分で持っている『社会学評論』は2007年頃 2006年57(1),225からなので今回調べたのもその時点からである。

ci.nii.ac.jp

  • 宍戸邦章・佐々木 尚之,2011,「日本人の幸福感:階層的APC AnalysisによるJGSS累積データ2000-2010の分析」『社会学評論』62(3): 336-355.

f:id:iDES:20200924223925p:plain

年齢階級×男性×正規雇用×有配偶/離死別/未婚/nという多重クロス表になっている。込み入っているカテゴリーの記述を目的としている。一番右の列にあるnは20-34歳・男性・正規雇用の人数になっている。

ci.nii.ac.jp

  • 李珊,2006,「中国大都市における空間の再編と住民の居住意識:短期居住意識の形成を中心に」『社会学評論』57(2): 402-418.

f:id:iDES:20200924223943p:plain

こちらはシンプルなクロス表である。右端のNは定住/移住/短期居住の合計値になっている。分析対象のカテゴリーの把握ができるようになっている。

ci.nii.ac.jp

  • 打越文弥,2019,「夫婦の離婚からみる学歴結合の帰結:――NFRJ-S01・SSM2015 を用いたイベントヒストリー分析――」『社会学評論』70(1): 10-26.

f:id:iDES:20200924224001p:plain

こちらは同類婚と下降婚についての分析。記述統計でありつつ、分析的な要素も含まれるクロス表である。

まとめ

見逃しはあるかもしれないが、13年程度でクロス表はの掲載は3報35個掲載されていた。やはり少ない印象である。掲載されているものは、宍戸・佐々木(2011)のようにクロス表でなければカテゴリーの把握が難しい場合であったり、打越(2019)のように分析に必須である場合だけのようだ。

追記

クロス表の数え直してみた。計量論文だけの数で同じ論文中に複数のクロス表がある場合もクロス表の数だけカウントした。

号数 クロス表の数
社会学評論 225 57(1), 2006
社会学評論 226 57(2), 2006 2
社会学評論 227 57(3), 2006
社会学評論 228 57(4), 2007
社会学評論 229 58(1), 2007
社会学評論 230 58(2), 2007
社会学評論 231 58(3), 2007
社会学評論 232 58(4), 2008
社会学評論 233 59(1), 2008 3
社会学評論 234 59(2), 2008
社会学評論 235 59(3), 2008
社会学評論 236 59(4), 2009 1
社会学評論 237 60(1), 2009
社会学評論 238 60(2), 2009 3
社会学評論 239 60(3), 2009 0
社会学評論 240 60(4), 2010 7
社会学評論 241 61(1),2010
社会学評論 242 61(2), 2010
社会学評論 243 61(3), 2010
社会学評論 244 61(4), 2011
社会学評論 245 62(1), 2011
社会学評論 247 62(3), 2011 7
社会学評論 248 62(4), 2012
社会学評論 249 63(1), 2012
社会学評論 250 63(2), 2012
社会学評論 251 63(3), 2012
社会学評論 252 63(4), 2013 1
社会学評論 253 64(1), 2013
社会学評論 254 64(2), 2013 1
社会学評論 255 64(3), 2013
社会学評論 256 64(4), 2014
社会学評論 257 65(1), 2014
社会学評論 258 65(2), 2014
社会学評論 259 65(3), 2014
社会学評論 260 65(4), 2015
社会学評論 261 66(1), 2015 1
社会学評論 262 66(2), 2015
社会学評論 263 66(3), 2015
社会学評論 263 66(4), 2016 紛失
社会学評論 265 67(1), 2016
社会学評論 266 67(2), 2016
社会学評論 267 67(3), 2016
社会学評論 268 67(4), 2017
社会学評論 269 68(1), 2017
社会学評論 270 68(2), 2017
社会学評論 271 68(3), 2017
社会学評論 272 68(4), 2018
社会学評論 273 69(1), 2018 1
社会学評論 274 69(2), 2018
社会学評論 275 69(3), 2018 6
社会学評論 276 69(4), 2019
社会学評論 277 70(1), 2019 1
社会学評論 278 70(2), 2019
社会学評論 279 70(3), 2019
社会学評論 280 70(4), 2020 1
社会学評論 281 71(1), 2020
35

媒介項と調整項

www.youtube.com

簡潔な説明。

f:id:iDES:20200923133121p:plain

  • 媒介項(Mediator)は、因果関係があり、結果の先だったものでなければならない。
  • 調整項(Moderator)は、因果関係の結果であってはならない。

精神障害とは何か DSM-IVからDSM-5へ

www.ncbi.nlm.nih.gov - D. J. Stein et al., 2010, What is a mental/psychiatric disorder? From DSM-IV to DSM-V, Psychological Medicine, 40(11): 1759-1765.

精神障害を構成するものとして下記のガイドラインを提唱している。

  1. 症状または症候群のパターン
  2. 臨床的に重大な苦痛または障害につながるもの
  3. 精神生物学的機能障害に起因する可能性がある(正確な機序は不明であるが)
  4. ストレッサーに対する期待される反応や文化的に認められた反応
  5. 主に社会的対立や逸脱から生じたものであってはならない

新たな精神障害は、予後的意義、心理生物学的破壊および/または治療反応の証明により定義される診断的妥当性を有するべきであり、臨床的有用性があり、障害を類似の状態から鑑別するための診断的バリデータ(validators)を提供するへきだと述べる。

精神的または医学的な障害に正確な境界線が存在することは稀であると述べている。新たな疾患を検討する際には、ケアの改善や転帰の改善などの便益の可能性が、潜在的なの害の可能性を上回るべきである、と述べている。

DSM-IV精神障害の定義

DSM-IVは「本書は精神障害の分類を提供しているが、『精神障害』という概念の正確な境界を適切に規定する定義がないことを認めざるを得ない」と指摘している。精神障害の概念は、医学や科学における他の多くの概念と同様に、すべての状況をカバーする一貫した運用上の定義を欠いている。すべての医学的状態は、さまざまな抽象度で定義されている。例えば、構造的病理学(例:潰瘍性大腸炎)、症状発現(例:片頭痛)、生理的規範からの逸脱(例:高血圧)、および病因(例:肺炎球菌性肺炎)などである。精神障害はまた、さまざまな概念(例えば、苦痛、制御不能、不利益、障害、柔軟性のなさ、不合理性、症候群パターン、病因、統計的逸脱)によって定義されてきた。それぞれは精神障害の有用な指標であるが、どれも概念と同等ではなく、状況によって異なる定義が必要である。

しかし、DSM-IVでは「これらの注意点にもかかわらず、DSM-IIIおよびDSM-III-Rに含まれていた精神障害の定義がここに示されているのは、利用可能な他のどの定義よりも有用であり、正常と病理の境界線上のどの条件をDSM-IVに含めるべきかについての決定の指針となっているからである」と述べている。DSM-IVでは、精神障害の各々は、個人に発生し、現在の苦痛(例えば、痛みを伴う症状)または障害(例えば、1つ以上の重要な機能領域の障害)に関連しているか、または死、痛み、障害、または重要な自由の喪失を被るリスクが著しく増大している、臨床的に重要な行動または心理的症候群またはパターンとして概念化されている。さらに、この症候群またはパターンは、例えば愛する人の死などの特定の出来事に対する期待され、文化的に制裁された反応にすぎないものであってはならない。元々の原因が何であれ、それは現在のところ、個人の行動的、心理的、または生物学的な機能不全の現れであると考えられなければならない。逸脱した行動(例えば、政治的、宗教的、性的)や、主に個人と社会との間にある葛藤は、逸脱や葛藤が上記のように個人の機能不全の症状でない限り、精神障害ではない」。

表1は、DSM-IV精神障害の定義を、臨床診断の運用化に用いられる標準フォーマットで運用化したものである。

表1 DSM-IVによる精神障害の定義 特徴 A 個人に起こる、臨床的に重要な行動学的、心理学的症候群またはパターン
B 現在の苦痛(例えば、疼痛症状)または障害(すなわち、1つ以上の重要な機能領域の障害)と関連しているか、または死亡、痛み、障害、または重要な自由の喪失に苦しむ有意に増加したリスクと関連している
C 例えば、愛する1人の死など、特定の出来事に対する期待できる文化的に認められた反応であってはならない
D 個人の行動的、心理的、または生物学的機能障害の発現
E 逸脱した行動(例えば、政治的、宗教的、性的)も、主に個人と社会の間の対立も、逸脱や対立が個人の機能障害の症状でない限り、精神障害ではない
その他の考慮事項
F 「精神障害」の概念の明確な境界を適切に規定した定義はない G 精神障害(医学や科学における他の多くの概念と同様に)の概念は、すべての状況をカバーする一貫した運用上の定義を欠いている DSM-IV Definition of Mental Disorder Features
A a clinically significant behavioral or psychological syndrome or pattern that occurs in an individual
B is associated with present distress (e.g., a painful symptom) or disability (i.e., impairment in one or more important areas of functioning) or with a significantly increased risk of suffering death, pain, disability, or an important loss of freedom
C must not be merely an expectable and culturally sanctioned response to a particular event, for example, the death of a loved one
D a manifestation of a behavioral, psychological, or biological dysfunction in the individual
E neither deviant behavior (e.g., political, religious, or sexual) nor conflicts that are primarily between the individual and society are mental disorders unless the deviance or conflict is a symptom of a dysfunction in the individual
Other Considerations
F no definition adequately specifies precise boundaries for the concept of “mental disorder”
G the concept of mental disorder (like many other concepts in medicine and science) lacks a consistent operational definition that covers all situations

精神障害DSM‐V定義の提案

表2に、推奨される変更を示する。これらの各変化の理論的根拠を示す前に、「精神障害」という用語が最適であるかどうかという問題に取り組むことが重要である。「精神」 とは、心と脳が分離可能で完全に別個の領域であるという、心身問題に対するデカルト的な見解を意味し、現代の哲学的および神経科学的見解と矛盾するアプローチである(Fulford, Thornton, & Graham, 2006)。用語「精神障害」は、これらの条件が純粋に精神的なものではないこと、および「精神障害」と「他の医学的障害」との間の線が明確なものではないことを強調する限り、好ましいものであり得る。しかし、(その代わりに、過剰に還元主義的な生物医学モデルを暗示している人もいる)という言葉は、実体が実際には心理生物学的なものであることを十分に含意していないと批判されてきた。精神科医以外の精神科医も、これらの状態の診断および管理について精神科医のみが訓練を受けているという誤った示唆を与える可能性がある限り、この用語に対する批判を表明している(Spitzer & Williams, 1982)。このような批判は、「精神障害」を維持することを保証するのに十分であるかもしれず、実際、この記事の著者は、この問題について合意に達することができなかつた。可能性のある妥協の1つは、厄介で、おそらく過渡期的な用語である 「精神的/精神的(mental/psychiatric)」 を推奨することである。より保守的なアプローチとしては、DSM-IVに合わせて「精神障害」という用語を残しつつ、本文ではこれらが脳障害であることを強調することが考えられる。

表2 精神/精神障害の定義のためのDSM‐V提案 特徴
A 個人に起こる行動的、心理的症候群またはパターン
B その結果、臨床的に重大な苦痛(例えば、疼痛症状)または障害(すなわち、1つ以上の重要な機能領域の障害)が生じる
C 単に共通のストレス因子および損失(例えば、愛する1人の死)に対する期待できる反応であってはならず、または特定の事象(例えば、宗教儀式におけるトランス状態)に対する文化的に認められた反応であってはならない
D 心理生物学的機能不全を反映しています
E それは単に社会的逸脱や社会との対立の結果ではない
F 1つ以上の診断バリデーター(例えば、予後的意義、心理生物学的破壊、治療への反応)を使用して診断妥当性を持つ
G 臨床的有用性がある(例えば、診断のより良い概念化、またはより良い評価と治療に貢献する)
その他の考慮事項
H 「内科的疾患」か「精神・精神障害」のどちらかの概念の正確な境界を完全に特定している定義はない
I 診断バリデータと臨床的有用性は、疾患と診断「最も近い隣人」との鑑別に役立つはずである
J 精神医学的状態を命名法に加えるか、または命名法から精神医学的状態を削除するかを検討する場合、潜在的な有益性(例えば、より良い患者ケアを提供し、新しい研究を刺激する)が潜在的な有害性(例えば、特定の個人を傷つける、誤用される可能性がある)を上回るべきである Table 2
DSM-V Proposal for the Definition of Mental/Psychiatric Disorder
Features
A a behavioral or psychological syndrome or pattern that occurs in an individual
B the consequences of which are clinically significant distress (e.g., a painful symptom) or disability (i.e., impairment in one or more important areas of functioning)
C must not be merely an expectable response to common stressors and losses (for example, the loss of a loved one) or a culturally sanctioned response to a particular event (for example, trance states in religious rituals)
D that reflects an underlying psychobiological dysfunction
E that is not solely a result of social deviance or conflicts with society
F that has diagnostic validity using one or more sets of diagnostic validators (e.g., prognostic significance, psychobiological disruption, response to treatment)
G that has clinical utility (for example, contributes to better conceptualization of diagnoses, or to better assessment and treatment)
Other Considerations
H no definition perfectly specifies precise boundaries for the concept of either “medical disorder” or “mental/psychiatric disorder”
I diagnostic validators and clinical utility should help differentiate a disorder from diagnostic “nearest neighbors”
J when considering whether to add a psychiatric condition to the nomenclature, or delete a psychiatric condition from the nomenclature, potential benefits (for example, provide better patient care, stimulate new research) should outweigh potential harms (for example, hurt particular individuals, be subject to misuse)

基準A

DSM-IVとは、個人に発生する臨床的に重要な行動または心理学的症候群またはパターンを指す。しかし、「臨床的に重要な」というフレーズは、ここではある意味で同語反復である。その定義は、精神障害を定義する際に問題となるものである。他の定義上の基準は、臨床的意義の意味に取り組むものであり、したがって、基準Aから「臨床的に重要な」という表現を省略することを提案する。それにもかかわらず、「臨床的に重要な」という表現は精神障害を定義するのに有用であり、したがって、基準Bに目を向ける。

先に言及したように、精神障害についての(Fulford et al., 2006参照)は何かという問題が提起されてきた。この点に関して、発生する実際的な問題は、本質的により神経学的な(行動的にも心理的にも) (例えば、チック症、緊張病)として概念化され得る症状および障害のDSM-IVへの包含である。不随意運動(車の運転ができなかったり)は精神/精神障害よりもむしろ神経障害の分類に属すると主張されるかもしれない。しかし「自発的」 と 「非自発的」 の概念には境界線があいまいであることは間違いない。さらに、基準Aにおける用語「行動」は、自発的および不随意の間の境界領域に位置する運動症状を包含すると考えられ、DSM-Vにおけるチック障害のような状態の包含を支持する。

判定基準Aの「個人内で」については、人間関係の機能障害を精神・精神疾患(Heymanら、2009年)に分類すべきか否かが議論されている。現在、 Vコード(臨床的注目の的となりうる他の病態)としてのみ列挙されているが、このような現象は内容的妥当性を有するようであり、有意な苦痛および障害と関連する可能性があり、信頼性のある診断が可能である。それにもかかわらず、一般的な医学的障害は常に個人内で発生し、関係性機能不全のような新しい現象に障害の構造を拡大するいくつかの理由があるが、そのような拡大は必然的に議論を呼ぶものであり、したがって特に説得力のある裏付けデータを必要とする。したがって、この時点では「個人に起こる」という言葉を残しておくことを提案する。(特に、DSM-IV-TRには共有性精神病性障害の診断が含まれており、この疾患を有する個人が内部症候群を有することを具体的に示すものではない。したがって、DSM-Vでこの点を明確にすることが適切であろう)。

基準B

DSM-IVによると、精神障害は苦痛、障害、または死亡、疼痛、障害、もしくは重大な自由の喪失に苦しむリスクの有意な増加と関連している。また、苦痛の例を示し、障害を1つ以上の重要な機能領域の障害と定義している。

精神的苦痛は、多くの精神疾患、特に「内在性障害」と考えられるもの(うつ病や不安障害など)の中心である。この基準に障害を含めることは、治療を必要とするが、症状が感情的苦痛を引き起こさない個人を同定するために必要である。実際、苦痛と障害は単に障害の症状と関連しているだけではなく、障害の結果であると主張されることがあり、この因果関係を強調することを提案する(Wakefield, 1992; Spitzer et al., 1982)。

この定義では、障害(disability)とは、1つ以上の重要な機能領域における障害(impairment)であるとしている。これらの領域には、職業、学術、社会(対人関係を含む)、役割機能などの領域が含まれる。(DSM-IV-TRにおける障害(disorders)のうち、一見したところ苦痛または機能障害を特徴としないと考えられるものの1つがパラフィリアである。しかし、パラフィリアの症状は対人関係の機能障害を反映しているといえる)。機能における苦痛および障害は程度および重症度の点で異なる可能性があるため(つまり、これらは次元構造である)、疾患を示す障害を、臨床的注意または治療を必要としない軽度の苦痛または機能困難と区別するのに役立つように、これらの用語を「臨床的に重要な」という語句で修飾することを提案する。

この「臨床的意義基準」 (Spitzer & Wakefield, 1999)は、個々の疾患に対する操作基準の1つとして使用される場合、批判を受けている。一つの批判は、この基準が医学の他の領域では広く使用されていないようであり、操作可能にするのが難しい(例えば、苦痛は非常に主観的な構造である)ことである。それにもかかわらず、我々は、医学的障害は、典型的には、その状態が苦痛(例えば痛みを伴う)であるか、または何らかの方法で損なわれているという判断を暗黙のうちに必要とすると主張する。大部分の精神/精神障害を適切に定義する客観的バイオマーカーがないことを考慮すると、臨床的意義基準は障害を正常から区別するのに有用である。

「リスクの増大」については、危険因子を念頭に置き、(実際、ICD-10の完全なタイトルは「疾病及び関連保健問題の国際統計分類」であり、後者のフレーズには高血圧などの疾患の危険因子が含まれている。)を扱うことが重要である。DSM-Vはそのタイトルに類似した拡張を考慮すべきであろう。この問題の完全な考察は、この論説の範囲外である。精神障害の危険因子の診断と治療は、利点と欠点を慎重に考慮しなければならない適切な論争領域である。同時に、疾患と危険因子を混同すべきではないことに注意する。「自由の喪失」という表現は、障害の概念に由来することができる。すなわち、障害には1つ以上の自由の喪失が伴う(Wakefield, 1992)。したがって、明確にするために、リスクと自由の喪失に関する表現を省略して、この基準を単純化することを暫定的に提案する。しかしながら、障害のみを扱うよう分類を制限することは、不当に制限的である可能性があることを認識する。

基準C

DSM-IVでは、疾患は、例えば愛する人の死など、特定の出来事に対する期待できる文化的に認められた反応であってはならないと述べている。「予測可能」 という用語を定義することは難しいかもしれませんが、症状の背景を探ることに重点を置くことが重要であるため、この用語を維持することを勧める。確かに、一般的なストレッサーおよび損失に対する全ての反応が、疾患(たとえ臨床的介入がこれらの反応のいくつかに有用であったとしても)として最適に概念化されているわけではなく、この点を強調する基準を明らかにすることを提案する。

症状の背景には文化的背景がある。したがって、事象に対する文化的に認められた反応は精神障害とはみなされないという考えを維持することが重要であることに同意する。これの例は、宗教儀式における予期される文化的に認められたトランス状態であり、この例を括弧内に加えることを提案する。

DSM-IVにおける愛する人の死の例は、何が予測可能であるかについて判断を下すことが困難であることを例示している。正常な死別と病的な死別との境界は複雑であり、議論を呼ぶ(Kendler, Myers,&Zisook, 2008)。死別症状は予測可能な場合もあるが(文化的に認可され)、複数の研究から、このような症状と苦痛/障害との関連が示されており、死別症状は臨床的介入によって修正できることが示されている。Kendler et al. (2008) は、死別に関連したうつ病と他のストレスの多い生活上の出来事に関連したうつ病との類似性が、両者の差を大幅に上回ることに注目しており、この結果は、この問題に関する先行文献の詳細なレビューと一致している(Zisook & Kendler 2007)。

これらの文脈に沿って、臨床医がストレス因子および喪失に対する一般的な反応(苦痛であるが、自己限定的である可能性が高く、臨床的に有意な苦痛または障害が持続する高いリスクがない)と精神/精神疾患(ここで定義されているように)を区別することは有用であるが、一般的なストレス因子および喪失に対する一般的な苦痛反応は、精神/精神疾患の発症を含む合併症の増加リスクを伴う。さらに、このような正常反応を経験している人は評価および治療のために十分に立ち会う可能性があり、心理療法およびモニタリング(ICD-10のタイトルである「疾病・健康問題」にも利点がある。)などの短期間の介入が有用となりうる。

条件D

DSM-IVとは、行動、心理、または生物学的機能障害を指す。機能不全という用語は、統計的方法、すなわち統計的規範からの逸脱(Boorse, 1976)、または進化の枠組みの中で、選択された機能からの逸脱を意味する(Wakefield, 1992)。これらのいわゆる自然主義的なアプローチは、様々な点で議論の的となっている(Bolton, 2008)。例えば、障害を定義するための進化論的アプローチの1つの問題は、どの症候群がどのような進化論的選択された心理的または行動的メカニズムの失敗を表したか、または表しなかったかについての投機的な理論的仮定を含み、それが診断の信頼性に悪影響を及ぼすことである。

「機能不全」 を理解するための別の方法は、症候群の結果、具体的には、それが苦痛および障害につながるか、またはそれに関連しているという観点からである。関連する可能性として、機能障害をより悪い機能として定義することがあり、この提案では、症状の状況を詳細に調査し、患者の人生の価値観と目標に対して評価することを要求している (Fulford, 1999)。同様に、「機能不全」 の概念は、障害の特定のメタファーを利用すると主張されている。用語の使用を完全に規定するアルゴリズムはなく、むしろ適切な使用には慎重な判断が必要である(Stein, 2008)。確かに、他の著者も指摘しているように (Horwitz, V et al., 2007)、状況は障害の有無を判断する際の重要な問題である(例えば、いくつかの都市部における青年期のギャングの状況における反社会的行動を考えてみよう。ギャングに加わることは適応的かもしれないが、行動障害の診断基準に挙げられた一連の行動に参加することが必要な場合である。)。文脈の重要な側面は、個体の発生段階である。機能と機能障害の境界は時間の経過とともに変化し、介護者によっても異なる見方をされることがある(例えば、親対教師)。もう1つの可能性は、 「機能障害」 ではなく 「障害」 などの別の用語を使用することであり、これは、それが特定の機能理論と関連しておらず、いくつかの診断基準セットで使用されるためである。しかし、これは用語の適切な使用を特定することに伴う困難を解決するものではない。

障害が行動的、心理的、または生物学的であるという概念は、障害のレベルまたは種類が異なることを意味すると考えられる。すべての行動と心理学が脳のプロセスに依存している程度と、脳の変化が複雑な行動と心理学的影響を及ぼす程度についての認識が高まっている。「心理生物学的(psychobiological)」という用語は、これらの異なるタイプおよびレベルの機能障害が実際にどの程度絡み合っているかを強調しているため、この基準に組み込むことを推奨する。

基準E

DSM-IVでは、逸脱した行動および個人と社会との間の対立は、それらが個人における機能障害の症状であることが示されない限り、障害とみなすべきではないと要求している。この基準は厳密には必要ではなく、この基準Dはすでに機能障害があることを示している。しかしながら、この用語の完全に適切な使用を特定することは困難であり、精神医学的診断は過去に政治的目的で使用されており、将来の誤用の可能性は除外できないため、予防措置として、この基準の最初の部分を維持することを提案する。この基準を単純化するために、DSM-IV定義の第2の部分を削除することを提案する。なぜなら、個人における機能障害の概念は既に以前の基準でカバーされており、 「単独で」という言葉の追加は意図した点をより簡潔に伝えるからである。

基準FとG

個人の精神疾患(mental/psychiatric disorder)を定義するために、さらに2つの基準を追加することを提案する。第一に、DSMにおけるあらゆる障害は、1つ以上の重要なバリデータ(validators)(例えば、予後的意義、心理生物学的破壊の証拠、または治療に対する反応の予測)に基づいて、診断的妥当性(基準F)を有するべきである。我々は概念的には精神生物学的機能不全(基準D)を必要とするが、これに関する強力な経験的証拠がなければ、診断的妥当性の他の証拠が必要である。異なる条件の診断的妥当性の証拠は様々であり、各条件で行われた研究の量を一部反映している。DSM-IVには、さらなる研究を必要とする疾患についての付録があり、これは妥当性確認の証拠が弱い疾患のための場所を提供し、そのような妥当性確認を奨励する可能性がある;したがって、このような付録をDSM-Vに残し、おそらく検証が不十分なDSM-IVカテゴリーで拡張することを主張する。

第2に、DSMにおけるあらゆる疾患は臨床的有用性(基準G)を有するべきである(First et al., 2004年)。すなわち、DSM-Vの診断を受けることは、その個人について治療状況に関連する重要な何かを伝える必要があることを示唆する。著者らの診断は「世に出る(do work in the world)」べきであり、そのように分類された個人についての有用な情報を提供すべきである (Kendler, 1990)。診断は、患者の評価および治療の過程を妨げるのではなく、容易にすべきである。この点で、臨床的有用性の考慮事項は施設によって異なることが注目される。DSM-Vは、より専門化された設定およびプライマリケア設定全体で最適な有用性が達成されるように、このような考慮のバランスをとる必要がある。

基準H、I、J

DSM-IVは、精神/精神障害の概念の正確な境界を適切に特定している定義がないことを有用に指摘した。大規模な哲学的文献はこの点を支持しており(Fulford et al., 2006; Stein, 2008)、基準Hのこの部分の保持に同意する。しかし、著者らが認識しているどの定義も、非精神医学的医学的障害の概念の正確な境界を適切に特定していないことも付け加えたい。

DSM分類の最適な編成方法については、継続的な議論が行われている 基準Iでは、診断の妥当性と臨床的有用性を考慮することが、診断上の「最も近い隣接障害(nearest neighbors)」との鑑別に役立つことを指摘している。基準Iでは、診断的妥当性および臨床的有用性に関する考察が、疾患と診断的鑑別に役立つはずである。

障害を定義する価値に満ちた性質の問題は哲学的文献(Fulford, 1989; Sadler, 2005; Bolton, 2008)で多くの注目を集めている。精神疾患命名法に追加するか、または命名法から削除するかを検討する際に、価値が疾病分類学的決定に情報を与えることを判定基準Jで認め、潜在的な利益が潜在的な害を上回るべきであることを特定することを提案する。

結論

精神疾患(mental/psychiatric disorders )を正確に操作的に定義することは容易ではないというDSM‐IVの明確な立場は基本的に正しいようである。一方、我々の分類システムが科学的知識ベースの進展と共に時間と共に改善できるDSMプロセスの位置も正しいと思われる。精神医学における状況は、正常と異常の境界が変化しており、証拠に基づいた変化が時間とともに行われている他の医療分野を思い起こさせる。また、生物学の多くの分野でも、構成概念間にあいまいな境界(例:種species)が存在する可能性があり、ここでもまた、証拠に基づく分類の進歩が時間をかけてなされている(Stein, 2008; Kendler, 2009)。

哲学的スタンスと多くの疾病学的問題との対比は、以前に確認されている。例えば、客観主義者と評価主義者の対比、内部主義者と外部主義者、実体と主体、そして分類と次元の観点(Zachar & Kendler, 2007)である。ここで採用されたアプローチは、おそらく、これらの議論のいくつかを介して中間のコースを取る。例えば、現在の科学におけるギャップは、記述主義的立場が重要であることを意味している(単に基礎にあるメカニズムに焦点を合わせるのではなく、病気の症状と経過に焦点を合わせる)が、心理生物学の現在の理解は、ある種の疾病学的決定に有益な情報を与えるかもしれない。疾患は必要かつ十分な用語で完全に定義することはできず、より非定型的なカテゴリーについては特に確固とした意見の相違がある可能性が高い。同時に、疾患は単なる「標識」以上のものであり、より科学的に妥当で臨床的に有用な命名法への進展が可能である。同様に、ここでの我々の提案は、精神/精神疾患の絶対的な定義を提供していないが、より科学的に妥当で臨床的に有用な定義に向けて議論を進めるのに役立つことを期待する。

SPSSでPROCESSマクロを使用しModel4を分析する[PROCESS][SPSS]

PROCESSはAndrew F. Hayesによって開発された媒介分析のマクロである。日本語情報は少ししか無く、英語では多く出てくるので、海外ではよく知られた分析ツールなのだと思う。PROCESSを使う媒介分析についても日本語の資料は数少ないが、海外では既に一般化しているように見える。

www.processmacro.org

用意するもの

こちらからダウンロードできる。

www.processmacro.org

f:id:iDES:20200922130609p:plain

ダウンロードした後、解凍し、SPSSからインストールする。

教科書になるのはこちらの本。

本格的に使うのであれば入手すべき本。
この本で使われているサンプルデータはこちらから落とすことができる。

www.afhayes.com

f:id:iDES:20200922130728p:plain

SPSSへのインストール

[ユーティリティ]→[カスタムタイアログ]に行く。 f:id:iDES:20200922130738p:plain

ダウンロードしたPROCESSの本体を解凍し、その中に[PROCESS v3.5 for SPSS]というフォルダの中にprocess.spsというファイルを選択し、インストール。

分析

一度インストールすると、その後はメニューに追加される。

f:id:iDES:20200922130750p:plain

[分析]→[PROCESS]をクリック。

今回はサンプルデータの中からpmi.savの分析を行う。

データ

この研究の参加者(イスラエルの大学で政治学またはコミュニケーションを勉強している43人の男子学生と80人の女子学生)は、イスラエルの砂糖の価格と供給に影響を与えるかもしれない経済危機について書かれた2つの新聞記事のうちの1つを読んだ。参加者の約半数 (n=58) は、イスラエルの主要な新聞の一面に掲載されたと言われる記事を与えられた。残りの参加者 (n=65) にも同じ記事が渡されたが、この記事は本紙の経済特集記事の途中に掲載されると言われた。参加者が読んだ2つの記事のうち、どちらがランダム割り当てによって決定されたか。他のすべての点で、試験参加者は同等に扱われ、指示は同じであり、すべての測定手順は両実験条件で同一であった。
参加者は記事を読んだ後、記事への反応について多くの質問を受けた。一部の質問では、参加者らに対し、砂糖をどのくらいの時期に購入する予定か、また、どの程度購入するつもりか、と尋ねた。これらの回答を集計したところ、砂糖の購入意向が高いほど(データファイルのREACTION)、砂糖の購入意向が高い(より早く、より大量に)ことが示された。彼らはまた、この記事を読んだ結果、地域社会の他の人々が砂糖の購入を促されるのではないかとどの程度信じているかを定量化するための質問も受けた。これは、メディアの影響があると推定される尺度である(データファイルのPMI)。

モデル

Hayes本の3.3節の例を分析する。パス図は以下のようなものだ。

f:id:iDES:20200922130802p:plain

COND: 新聞の表(1)または裏(0)ページ
PMI:推定されるメディアの影響力が REACTION:砂糖の購入

分析

f:id:iDES:20200922130812p:plain

アウトカムであるREACTIONをYに入れる。
暴露であるCONDをXに入れる。
媒介変数であるPMIをMediator Mにいれる。

このモデルはModel4であるので、Model Numberを4とする。初期設定は、信頼区間は95%。ブートストラップの回数は5000回である。

次に[Options]で設定。

f:id:iDES:20200922130823p:plain

総合効果を示すためにShow total effect modelにチェックを入れる。Effect sizeはこの場合はどちらでも良さそうだ。

GUIでsobel検定をチェックするところがこのバージョンではないようだ。sobel検定が有用か否かは議論があるところだろうし、95%信頼区間が出力できるので、必ず必要ということでもないのだろう。sobel検定はシンタックスで書くと走るようだ。

あと乱数のシードの指定の箇所もないみたいだ。最終的にはシンタックスでやれ、ということなのだろうか。

シンタックス

シンタックスで記述すると下記のようになる。

process y=reaction/x=cond/m=pmi/total=1/normal=1/model=4/seed=31216.

sobel検定を追加する際にはnormal=1を追加しておく。

結果

Run MATRIX procedure: 
 
***************** PROCESS Procedure for SPSS Version 3.5 ***************** 
 
          Written by Andrew F. Hayes, Ph.D.       www.afhayes.com 
    Documentation available in Hayes (2018). www.guilford.com/p/hayes3 
 
************************************************************************** 
Model  : 4 
    Y  : reaction 
    X  : cond 
    M  : pmi 
 
Sample 
Size:  123 
 
************************************************************************** 
OUTCOME VARIABLE: 
 pmi 
 
Model Summary 
          R       R-sq        MSE          F        df1        df2          p 
      .1808      .0327     1.7026     4.0878     1.0000   121.0000      .0454 
 
Model 
              coeff         se          t          p       LLCI       ULCI 
constant     5.3769      .1618    33.2222      .0000     5.0565     5.6973 
cond          .4765      .2357     2.0218      .0454      .0099      .9431 
 
************************************************************************** 
OUTCOME VARIABLE: 
 reaction 
 
Model Summary 
          R       R-sq        MSE          F        df1        df2          p 
      .4538      .2059     1.9404    15.5571     2.0000   120.0000      .0000 
 
Model 
              coeff         se          t          p       LLCI       ULCI 
constant      .5269      .5497      .9585      .3397     -.5615     1.6152 
cond          .2544      .2558      .9943      .3221     -.2522      .7609 
pmi           .5064      .0970     5.2185      .0000      .3143      .6986 
 
************************** TOTAL EFFECT MODEL **************************** 
OUTCOME VARIABLE: 
 reaction 
 
Model Summary 
          R       R-sq        MSE          F        df1        df2          p 
      .1603      .0257     2.3610     3.1897     1.0000   121.0000      .0766 
 
Model 
              coeff         se          t          p       LLCI       ULCI 
constant     3.2500      .1906    17.0525      .0000     2.8727     3.6273 
cond          .4957      .2775     1.7860      .0766     -.0538     1.0452 
 
************** TOTAL, DIRECT, AND INDIRECT EFFECTS OF X ON Y ************** 
 
Total effect of X on Y 
     Effect         se          t          p       LLCI       ULCI       c_ps 
      .4957      .2775     1.7860      .0766     -.0538     1.0452      .3197 
 
Direct effect of X on Y 
     Effect         se          t          p       LLCI       ULCI      c'_ps 
      .2544      .2558      .9943      .3221     -.2522      .7609      .1641 
 
Indirect effect(s) of X on Y: 
        Effect     BootSE   BootLLCI   BootULCI 
pmi      .2413      .1311      .0074      .5201 
 
    Normal theory test for indirect effect(s): 
        Effect         se          Z          p 
pmi      .2413      .1300     1.8559      .0635
 
*********************** ANALYSIS NOTES AND ERRORS ************************ 
 
Level of confidence for all confidence intervals in output: 
  95.0000 
 
Number of bootstrap samples for percentile bootstrap confidence intervals: 
  5000 
 
------ END MATRIX -----

解釈

総合効果はTotal effect of X on Yの値である.4957である。X→Yの直接効果はDirect effect of X on Yの.2544である。P値は.3221であり、有意ではない。

Indirect effect(s) of X on Y:は間接効果でX→M→Yの効果を示している。値は.2413である。直接効果.2544と間接効果.2413を足すと、総合効果.4957となる。

Indirect effect(s) of X on Y:のBootLLCIとBootULCIに注目する。これは間接効果の95%ブートストラップ信頼区間の値でLLCIは下限値でULCIは上限値である。それぞれ.0067と.5258であり、0を挟んでいない。

Normal theory test for indirect effect(s)はSobel検定の結果を示している。Sobel検定は媒介変数を通してが暴露変数からアウトカム変数へ影響を伝えるか否かを検査するものである。P値は.0635であり、α=0.05であれば、棄却、α=0.10であれば有意な関係が認められる、つまり、媒介効果が見られると判断できる。

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