井出草平の研究ノート

インターネット依存症の予測因子は学業成績の低さ、男性、保護的な育児スタイル

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

インターネット依存症の予測因子を探索する前方視野的研究。

  • Chen, Y.-L., Chen, S.-H., & Gau, S.-F. (2015). ADHD and autistic traits, family function, parenting style, and social adjustment for internet addiction among children and adolescents in Taiwan: A longitudinal study. Research in Developmental Disabilities,39, 20-31.

男性であること、家族のサポートが低いこと、社会的適応力が低いこと、ADHD関連症状が高いことがインターネット依存症と関連していた。自閉症の特性とインターネット中毒との間には逆の関係があったという。

自閉症との関連では、成人の標本で検証された先行研究 (Finkenauer et al., 2012; Romano et al.,2013)では自閉症とインターネット依存に関連が見られている。しかし、この研究では関連が認められず、むしろ逆の関係が見られたという。

  • Finkenauer, C.,Pollmann,M.M.,Begeer,S.,&Kerkhof,P.(2012). Brief Report: Examining the Link Between Autistic Traits and Compulsive Internet Use in a Non-Clinical Sample. Journal of Autism and Developmental Disorders 42(10):2252-6.
  • Romano, M., Osborne, L. A., Truzoli, R., & Reed, P. (2013).Differential psychological impact of Internet exposure on Internet addicts.PLOS ONE, 8, e55162.

この研究では成人の標本ではなく、児童が対象となった調査である影響が考察されているが、同じく児童を対象とした分析であるHirota et al.(2020)(参照)との整合性が気になるところである。

予測モデル(パネルデータ分析)では、インターネット依存は、学業成績の低さ、男性、保護的な育児スタイルが予測因子となっている。

この研究はクロスセクショナルな相関関係ではなく縦断研究デザインである。インターネット依存によって、学力低下になると、言われることが多いが、この研究では逆の因果関係が示唆されている。また、学力低下とインターネット依存症との間には下降スパイラルに陥る可能性も示唆されている。

論文の話から逸れるが、依存レベルの病理(カテゴリカル変数)と学力低下は関連がみられるが、ゲーム時間を連続変数として従属変数にした場合、学力低下と関連を見いだすことは難しい。これは、病理性のゲームプレイと普通のゲームプレイは分けて論じなければならないことを意味している。

データ

2013 年 3 月初旬と 2013 年 6 月下旬の 4 ヶ月間隔で、質問紙調査による反復測定を行った。調査対象は台湾北部の小学校6校の3年生と5年生、中学校1校の8年生とした。調査対象となった学生1253名とその保護者1113名。

尺度

インターネット依存症

CIAS: Chen Internet Addiction Scaleは26項目の自記式尺度で、1から4までの4点リッカート尺度を用いて、インターネットに関連した症状や問題を評価。本人記入。

  • Ko, C.-H., Yen, C.-F., Yen, C.-N., Yen, J.-Y., Chen, C.-C., & Chen, S.-H. (2005).Screening for internet addiction: An empirical study on cut-off points for the ChenInternet Addiction Scale.Kaohsiung Journal of Medical Sciences, 21, 545–551.

インターネット利用

インターネットの利用は、インターネットとコンピュータの利用について、宿題、コンピュータやオンラインゲーム、チャット(IRC)、Facebook、電子メール、その他項目について過去1ヶ月間の利用を二分法(はい/いいえ)で調査。インターネットやコンピュータの利用頻度は、「過去1ヶ月間にいつ、週に何日、コンピュータやインターネットを利用したか」という質問を用いた。

ADHD

Swanson, Nolan, and Pelham IV (SNAP-IV)。本人記入。
4点リッカート尺度を用いた26項目の尺度で、0点を「全く」、1点を「少し」、2点を「かなり」、3点を「非常に」と評価し、ADHDと反抗期障害の診断と統計マニュアル第4版(DSM-IV)に基づく中核症状に応じた18項目が含まれている。使用されたのは中国語版。

  • Swanson, J. M., Kraemer, H. C., Hinshaw, S. P., Arnold, L. E., Conners, C. K., Abikoff, H. B., et al. (2001).Clinical relevance of the primary findings of the MTA: Successrates based on severity of ADHD and ODD symptoms at the end of treatment.Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 40, 168–179.

自閉症

AQ: Autism Spectrum Quotient。本人記入。

子育て

子育てスタイルを3つの主要な次元で測定する尺度、PBI。25項目。母親記入。

  • Parker, G. (1979).Parental characteristics in relation to depressive disorders.British Journal of Psychiatry, 134, 138–147.

家族の機能

家族機能はThe Family Adaptation, Partnership, Growth, Affection, and Resolve (family APGAR)で測定。family APGARは5因子の尺度で、因子は適応、パートナーシップ、成長、愛情、解決。母親記入。

社会適応

Social Adjustment Inventory for Children and Adolescents (SAICA)を利用。SAICAは学校、余暇活動、仲間関係、家庭生活を含む4つの主要分野で6~18歳の児童・青少年の適応機能を評価する尺度。本人・母親記入。

  • John, K., Gammon, D. G., Prusoff, B. A., & Warner, V. (1987).The Social Adjustment Inventory for Children and Adolescents (SAICA): Testing of a new semistructuredinterview.Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 26, 898–911.

記述統計

CIASに基づいたインターネット依存症は第1波では131人(11.7%)、第2波では122人であり、男性が多かった。両波とも、生徒と保護者の報告では、インターネット依存症の生徒ほど、不注意、多動性・衝動性、反抗性の症状が多く、インターネットやコンピュータの使用時間が長く、家族からのサポートが少なく、親からの愛情や配慮が少なく、学業成績や学校に対する態度が悪く、仲間との交流が少なく、学校での社会的交流や仲間との交流において、深刻な問題を抱えていた。

多変量分析

f:id:iDES:20200925211515p:plain

インターネットとコンピュータの使用時間を従属変数としたLMMを用いた相関分析の結果。
保護者の報告に基づくモデルでは、インターネットとコンピュータの使用時間が長いほど、男性、学年が高く、自閉症の特性が低く、ADHDの不注意症状が高く、家族機能が低く、社会的適応に問題があった(table4)。

相関モデルの多変量解析では、男性、学業成績不良、学校での態度が、家族機能やADHD関連症状とは無関係に、インターネットやコンピュータの利用期間に有意な影響を与えていることが示された(補足資料2)

予測モデルはWave1の自閉症特性、ADHD関連症状、人口統計、子育てスタイル、家族機能、社会適応を独立変数・固定効果、各学校のクラスを独立変数・ランダム効果、第1波のインターネット依存症を共変量、Wave2のインターネット依存症を従属変数・固定効果とした線形混合モデル分析である。

先行研究

家族や社会的なサポートの欠如や孤独感は、インターネット依存症を予測する重要な要因である(Ko, Yen, Liu, Huang, &Yen, 2009; Whang, Lee, & Chang, 2003)。

  • Ko, C.-H.,Yen,J.-Y.,Liu,S.-C.,Huang,C.-F.,&Yen,C.-F.(2009). The associations between aggressive behaviors and Internet addiction and online activities in adolescents. JournalofAdolescentHealth,44, 598–605.

  • Whang, L.S.-M., Lee, S., & Chang, G. (2003). Internet over-users’ psychological profiles: A behavior sampling analysis on Internet addiction.CyberPsychology andBehavior, 6, 143–150.

機能的な家族は子どもに十分なサポートを提供することができる(Markman & Notarius, 1987)

  • Markman, H.J.,&Notarius,C.I.(1987). Coding marital and family interaction. In Family interaction and psychopathology. USA:Springer.

インターネットを利用した後、人々は社会的なサポートを受ける機会が大幅に増えたという報告もある(Shaw & Gant, 2002)

  • Shaw, L.H.,&Gant,L.M.(2002). In defense of the Internet: The relationship between Internet communication and depression, loneliness, self-esteem, and perceived social support. CyberPsychology andBehavior,5, 157–171.

ADHD自閉症スペクトラム障害の両方がある人はインターネット依存症や強迫的なインターネット使用に発展する可能性が高い(Finkenauer,Pollmann,Begeer, & Kerkhof, 2012; Yoo et al., 2004)。

  • Yoo, H.J.,Cho,S.C.,Ha,J.,Yune,S.K.,Kim,S.J.,Hwang,J.,etal.(2004).Attention deficit hyperactivity symptoms and Internet addiction. Psychiatry Clin Neurosci. 2004 Oct;58(5):487-94.